婚約破棄になったのは貴方が最愛を選んだからです。

cyaru

文字の大きさ
20 / 32

VOL.20  ルーベス侯爵夫人

しおりを挟む
ルーベス侯爵家の従者達が劇場で侯爵夫人を探す。
多くの人でごった返す劇場内でやっと夫人を見つける事は出来たが、夫人は席を立たなかった。

と、いうのも今回の集まりで一番格上がルーベス侯爵夫人。
マウントを取るのにこの上ない機会をふいにする事を侯爵夫人は良しとしなかった。


「奥様、旦那様が大至急と。屋敷にお戻りください」
「あなたね。私にこの場を中座しろと言うの?」
「いえ、私ではなく旦那様がお呼びなのです」
「放っておいても時間が来れば戻るわよ。そう伝えなさい」
「でっですが――」
「しつこいッ!」


ベシっと従者の額に侯爵夫人の手にした扇が小気味よい音を立てて打たれた。扇に取りついていた金具の跡が額に形を残しじんわりと赤い血が滲む。


「下がりなさい!屋敷に帰って荷物を纏めて良いわ」
「畏まりました」


ていよくクビを言い渡されたが従者は頭を下げつつも顔がにやける。
何時でも辞められるように屋敷に私物などは置いていない。
急ぎ戻って侯爵に伝えてそのまま帰宅すればいい。

そう考えると来た時よりも屋敷までの道のりが短く思えた。


侯爵夫人としては、この集まりは自分の立ち位置を誇示するための大事な場。
中座をする事など出来ない理由もあった。

半年前までは侯爵夫人が茶会を催すと言えば我先にと格下貴族の夫人たちが媚びを売ってきた。格上の公爵家の夫人たちからも必ず声を掛けられていたし、先王が健在の時は王太子妃殿下主催の茶会にも呼ばれた。

だが、ここ2、3か月は様子がおかしい。単に先王が崩御し喪に服している期間だと思ってもそれでもおかしい。特にここ1か月は侯爵夫人を苛立たせる事ばかり。

公爵家からは茶会に呼ばれなくなり、開催をしていないのかと思えば呼ばれてないのは自分だけで、それまで自分のいたポストには事もあろうか新興貴族で子爵家の夫人が笑顔を振りまいている。

取り巻き連中だった夫人を呼んでも「慶事ごとがある」「親がとこに臥せった」「足を怪我して外出できない」など無礼にも格下貴族の癖に断りをしてくる者が増えてきた。

今日の観劇も3か月に1回定期的に行っていたものだが、呼びかけをしたのは20人なのに参加をしたのは8人。やってきた8人のうち3人は当主夫人ではなく妹だったり、家を継がない子息の嫁だったり。

それでも結束を高めるために人数が少ないから中止にする事は出来なかったし、途中で自分が抜けてしまうなどもっての外だった。


「では、次の観劇は定例ですので3か月後。ですが来月は王太子殿下が即位される前の最後の茶会となります。今回、不本意ながら参加出来なかった方にも欠席となった事で心苦しく思わないようにと、お声がけ頂きますように。では来月の茶会まで皆さま、ごきげんよう」


音頭を取り、締めの挨拶をすると侯爵夫人はドレスを翻し劇場に併設されたサロンを立ち去った。
しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

あなた方の愛が「真実の愛」だと、証明してください

こじまき
恋愛
【全3話】公爵令嬢ツェツィーリアは、婚約者である公爵令息レオポルドから「真実の愛を見つけたから婚約破棄してほしい」と言われてしまう。「そう言われては、私は身を引くしかありませんわね。ただし最低限の礼儀として、あなた方の愛が本当に真実の愛だと証明していただけますか?」

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...