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VOL.20  ルーベス侯爵夫人

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ルーベス侯爵家の従者達が劇場で侯爵夫人を探す。
多くの人でごった返す劇場内でやっと夫人を見つける事は出来たが、夫人は席を立たなかった。

と、いうのも今回の集まりで一番格上がルーベス侯爵夫人。
マウントを取るのにこの上ない機会をふいにする事を侯爵夫人は良しとしなかった。


「奥様、旦那様が大至急と。屋敷にお戻りください」
「あなたね。私にこの場を中座しろと言うの?」
「いえ、私ではなく旦那様がお呼びなのです」
「放っておいても時間が来れば戻るわよ。そう伝えなさい」
「でっですが――」
「しつこいッ!」


ベシっと従者の額に侯爵夫人の手にした扇が小気味よい音を立てて打たれた。扇に取りついていた金具の跡が額に形を残しじんわりと赤い血が滲む。


「下がりなさい!屋敷に帰って荷物を纏めて良いわ」
「畏まりました」


ていよくクビを言い渡されたが従者は頭を下げつつも顔がにやける。
何時でも辞められるように屋敷に私物などは置いていない。
急ぎ戻って侯爵に伝えてそのまま帰宅すればいい。

そう考えると来た時よりも屋敷までの道のりが短く思えた。


侯爵夫人としては、この集まりは自分の立ち位置を誇示するための大事な場。
中座をする事など出来ない理由もあった。

半年前までは侯爵夫人が茶会を催すと言えば我先にと格下貴族の夫人たちが媚びを売ってきた。格上の公爵家の夫人たちからも必ず声を掛けられていたし、先王が健在の時は王太子妃殿下主催の茶会にも呼ばれた。

だが、ここ2、3か月は様子がおかしい。単に先王が崩御し喪に服している期間だと思ってもそれでもおかしい。特にここ1か月は侯爵夫人を苛立たせる事ばかり。

公爵家からは茶会に呼ばれなくなり、開催をしていないのかと思えば呼ばれてないのは自分だけで、それまで自分のいたポストには事もあろうか新興貴族で子爵家の夫人が笑顔を振りまいている。

取り巻き連中だった夫人を呼んでも「慶事ごとがある」「親がとこに臥せった」「足を怪我して外出できない」など無礼にも格下貴族の癖に断りをしてくる者が増えてきた。

今日の観劇も3か月に1回定期的に行っていたものだが、呼びかけをしたのは20人なのに参加をしたのは8人。やってきた8人のうち3人は当主夫人ではなく妹だったり、家を継がない子息の嫁だったり。

それでも結束を高めるために人数が少ないから中止にする事は出来なかったし、途中で自分が抜けてしまうなどもっての外だった。


「では、次の観劇は定例ですので3か月後。ですが来月は王太子殿下が即位される前の最後の茶会となります。今回、不本意ながら参加出来なかった方にも欠席となった事で心苦しく思わないようにと、お声がけ頂きますように。では来月の茶会まで皆さま、ごきげんよう」


音頭を取り、締めの挨拶をすると侯爵夫人はドレスを翻し劇場に併設されたサロンを立ち去った。
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