貴方は好きになさればよろしいのです。

cyaru

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本編

第24話   秘匿された事実

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【北の国の魔女の心臓。時を戻す呪い。信仰か?】

大きく読めたのはその文字だけだが、前回、今回と学びをする上で私も幾つかの書物を読んだ。文献に残る最初の異世界人がやって来たのは570年前となっていたが、周辺を他国に囲まれたこの国。
その中で北の国には「魔女信仰」という今ではカルト教扱いの信仰文化があった。

死者を蘇らせたり、腕や足がない者に元通りの体を与えたり、光を失った者に光を戻したり。摩訶不思議な現象が幾つも記されていたが、御伽噺の題材にしかならない気がして私も半信半疑‥いやほぼ記述の全てを疑っていた。

魔女と呼ばれた女性達はそれぞれに違った力があり、その中で時間を巻き戻す魔女もいた。

「ラザール侯爵家は200年前にその魔女の心臓を手に入れた」
「まさか!」
「しかし使う機会も無い。どうやって使うかも判らない。リシャール殿が私に相談にやって来たのは8年前だった」

8年前となれば私がもう一度人生を歩き始める3年前。
叔父様もリシャール様も14歳という事だ。

「怪しげな研究をしている私にしか相談出来なかったのだろう。聞いた時は私も嘘だと思った」

――叔父様、私も嘘だと思いたいです――

叔父様のペンは驚きを遥かに通り越した事実を文字にした。


エドゥアールによって命を絶たれた私は残念なことにその死は無かった事にされてしまいそうになった。

エドゥアールとカサエルはその場から逃げ出し、エリカを伴って逃亡。
罪の呵責に問われたリシャールは王弟の元に駆けこんだ。

しかし、現場となった場所に既に私の体はなく父とその従者によって運び出されて庭に埋められそうになっているところを間一髪。国葬とはならなかったが丁寧に葬られた。

その後、両親は子殺しの罪で絞首刑。家は子爵家に落とされ兄が継いだ。
国王と王妃はエドゥアールの責任を追及される中であの売上税と雇用税の真相が明かされ、蟄居という名の流刑。何も持たされず民衆から石礫が飛んでくる中、自分の足で流刑地に向かったが到着したという記録はない。
足には私がかつて牢から出る時に外された鉄球付きの足枷があったとの事なので、行きて辿りつく事は出来なかったという事だろう。

問題はその後だ。

くしくも悪税の根源となった湖を捜索していたリシャールの兵士たちは溺死した3人の亡骸を発見した。

1人だけ生き残ってしまったリシャールは結果的に国王を引きずり下ろす功績が恩赦となり辺境への警備という軽い罰が与えられた。
何年も死ぬために敵と対峙したが死ぬことが出来ず、30歳になった時に王都への帰還が許された。

リシャール自身も眉唾物と疑ってかかっていた「魔女の心臓」
家宝としてラザール侯爵家の倉庫で厳重に管理していた「魔女の心臓」を盗み出し、驚く事に削った一部を齧ったのだと言う。

すると翌朝、目が覚めると14歳に時間が戻っていた。
慌てて倉庫に行き、確かめると「魔女の心臓」はリシャールが盗み出す前の状態だった。

「もしかすればベルセル嬢を生き返らせる事が出来るかも知れない」

そう思ったのだが、私は実在していた。生き返らせる以前に2歳で教育を受け始めるかどうかの時期。リシャールは混乱したが、理解出来たのは剣術を習い始めたばかりの頃に傷つけてしまった壁の傷を見た時。

「傷がついてる・・・という事は時間だけが戻った?!」

そう考えれば辻褄が合う。
合わないのは自分の中に既に経験した記憶がある事だけだった。

何人かの学者や研究者を訪ねたが、頭がおかしいと追い払われる。
そんな中、投げやりに叔父の存在を教えられた。文字の読み書きができるかどうかと言う頃からおかしな研究に没頭している変わり者。年齢も同じでその年頃は夢も見るのだろうと笑われたが、リシャールは叔父を訪ねた。

「時間を戻す?あぁ‥そう言えば北の国の文献にそんな記述があったかも」
「本当か?!頼む!時間を戻して欲しいんだ。私は・・・彼女を救えなかった」
「彼女?」
「君の姪だ」
「いやいや、冗談はやめてくれよ。姪と言うと数人いるが皆健在だ」
「そうじゃない!時間が戻る前、私はベルセル嬢を・・・あんな場になっても矜持を貫く彼女を死なせてしまった。私が殺してしまったと同じだ。彼女にはもう何も束縛されず生きて欲しい。時間が巻き戻るならもう一度‥頼む!」


しかし問題があった。
リシャールは既に時間が巻き戻っていて、リシャールの言葉に出てくる人物は存命だし、エリカという異世界人は存在しないのだ。
削ってどうにか食べさせることが出来ても今の年齢からさらに時間が戻るだけなのでそこに意味があるのか。リシャールの願う通りになるかどうか。

叔父は可能な限り調べた。金はリシャールが私財をなげうち叔父はその金で北の国に直接出向いて魔女信仰を調べた。

その結果、時間を戻すことは出来るかも知れないという結論に辿り着いた。
古い教会数件にその文献は残っていたが全てが思い通りになるわけではない。

時間が戻って欲しいという当事者の死に関係がある者も時間が戻ること。
全員の記憶が「2度目」を感じさせる状態になれば願った者には対価として死が訪れること。その死は死というよりも次の「魔女の心臓」に変化をしてしまう。

リシャールは「それでもいい」と持ち出した魔女の心臓を使い4人の時間を巻き戻した。

半信半疑だったラザール侯爵夫妻もリシャールの不思議な告白と自死しかねない精神状態に実験を試みることを許可した。対外的に公表する事は出来ないため、リシャールは西国で兵士となったと偽ったのだ。

叔父が「リシャール殿に会いに来た」と言ったのは石にしか見えない塊になったリシャール様を見に来たという事だ。


ペンを置いた叔父様は私に言った。

「悲しんではいけない。彼はティナに望む人生を生きて欲しいと願った。古いこんな出来事を引き起こす謎も今は何も判っていない。帝国に行き学びなさい。もしかすれば今の状態になった彼を元に戻すきっかけもあるかも知れない。勿論ないかも知れないよ?だけどね、彼は彼の人生を贖罪にするしかなかった。それでもティナには幸せに生きて欲しいと願ったんだ」

「そうだったのですね」

「異世界人がどうしてこの世界にくるのか。まだ謎だらけだが、少しだけ判った事がある。異世界からやって来るのは人に限らないんだ」

「えっ?」

「ウサギが発見されたよ。小さな檻に入ったままで給餌の道具と思わしきものも一緒にね。どうやら異世界からやってくる時、淡い光を放つようだ。その光が何だろうと行ってみたら檻に入ったウサギがいた。しかもこの世界にはいない耳が垂れたウサギだよ。不思議な事に井戸から汲んだ水には変化が無くても見つけた場所にある水をウサギに飲ませるとウサギが光るんだ。今の私の最大の課題だが謎が少し解けそうな気もしてる。こんな発見は今までなかったからね」

叔父との筆談の痕跡を全て暖炉にくべて灰にする。
1枚1枚が燃え尽きる度に私は帝国に限らず各国の文献からその手段を探そう。そう心に誓った。


★~★
カサエルがリシャールに出会ったのは3人より遅かったティナベルが思い出すまでの差。2年の間です(*^-^*)
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