所詮、愛を教えられない女ですから

cyaru

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第14話   違うのは行き先だけじゃなく荷物の量も

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オコット公爵家の広い玄関ホールには荷物が所せましと置かれていた。

成婚の儀まであと1カ月。アビゲイルは既にアルバートの宮に生活拠点を移しているが所謂物持ちでもあるため、公爵家の私室に入りきらない品を持っている。

殆どは「可愛い♡」っと流行に乗って買った家具などだが、流行が終われば用無しと納戸や納屋に押し込められていた。使わないので捨てようとすれば自分の持ち物である認識はあるようで、アビゲイルが怒り出す。
捨てるに捨てられず、使わない品が増えていくだけ。

今回はアルバートの宮にも使わない部屋あると言う事なので運び込む事になっていた。

「お嬢様の輿入れ道具・・・結局旦那様は買いませんでしたね」
「いいのよ。輸送費もかかるし。ウォレス様には手紙でほぼ身一つだと知らせてるわ」
「それはですね、社交辞令と言うものです。本当にほぼ身一つなんて・・・」
「いいの。いいの。それより私の荷物はもう纏まってるなら道中で使うもの以外はもう送っておいて欲しいわ」

アビゲイルの荷物は荷馬車に軽く20台以上だが、ジャクリーンの荷物は荷馬車を使うほどでもない。

行き先が皇都ではなくウォレスの住まう辺境だと聞いたブライアンはこれ幸いとジャクリーンの品を買う事をしなくなった。

品を買う金は支度金として渡されているので他に流用することは出来ずジャクリーンが持参する事になるが、輸送費はオコット公爵家が自腹を切らねばならないため、荷物は少なければ少ないほどブライアンの機嫌も良い。

――別にいいわ。出国すればもう帰るつもりはないし――

アビゲイルの成婚の儀が終わり、翌日にジャクリーンが出立をすれば既に公爵家に住まいを移したエヴァンが本宅を使用するようになり、1、2週間のうちに家督はエヴァンに移される。
ブライアンとオデリーはその後郊外の屋敷に引っ越しをするのだが、エヴァンがその後も生活の面倒を見てくれると思ったら大間違いだ。

「物乞い公爵って呼ばれる日も近いわね」

薄情だと言われても両親に対しては「情」も浮かばない。
王家に対しても、ウォレスとの手紙をやり取りしていると考える事さえ億劫になってしまい、アビゲイルの成婚の儀も出席しなければならないがジャクリーンの感覚としては遠い親戚の結婚式に参列しなきゃいけない程度。

――こんなに気持ちが軽くなるなんて。魔法の手紙だわ――


クスっと笑ったのはほんの一瞬だった。
折角の楽しい気持ちが従者の言葉でかき消されてしまった。

「お嬢様。お客様が・・・」
「客?わたくしに?」

はて?と首を傾げる。アルバートの婚約者だった事もあって同年代の令嬢達がお洒落だ、歌劇だ、恋愛だと騒いでいる時ジャクリーンは妃教育をしていて、話が合う令嬢は数人しかいない。

その令嬢達とはウォレスとの婚約が正式に決まった時に挨拶を済ませている。
令嬢達も暇ではなく、もうこの年齢になれば誰かと結婚をしていて家の采配や夫の家族との関係に奔走していて次に会うのは成婚の儀の時。

出立は翌日だが、平民のようにただ手を振って見送りという訳にはいかず、持て成しをせねばならないので出立の時間がある以上前日に本当の最後の別れを済ませることになっていた。

エヴァンの妻かと思ったが、エヴァンの妻は今朝の報告で王都にある商会への挨拶回り。ジャクリーンの元に来る時間があるとすれば夕食以降だろう。

尋ねますという先触れもなく、誰だろうと名を問うてジャクリーンは昼食を戻しそうになった。

「それが…アルバート殿下が火急の要件だと」
「火急の?でもそんな用件があるなら殿下じゃなく従者が来るんじゃないかしら」
「だと思うのですが、アルバート殿下が直々に」
「はぁーーーーッ!!なんて面倒なの。アビーと遊んでればいいのにっ」


侍女がセットしてくれた髪を思いっきり搔きむしって不快感を露わにしたい気分になる。
しかし、王太子が直々に来ているとなれば追い返す事も出来ない。せいぜい2、3時間待たせるのが関の山だが、待たせていればそのうち両親が戻ってくるので余計にややこしいことに成り兼ねない。


「判ったわ。応接室にお通しして」
「畏まりました」

ここにクッションがあったら思いっきり顔を埋めて叫んでいただろう。
ジャクリーンは苛立つ気持ちを押さえて応接室に向かったのだった。
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