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第20話 記録更新中の皇子様
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順調に進む馬車の列。
徹底して道中の大掃除を指示し、時に本人であるウォレスも赴いていたため心配なのは空の機嫌くらい。それも王都を出れば雨が降るのは夜間だけで、馬車の車輪がぬかるみに嵌る程でもなく程よく大地を湿らせる程度。
「盗賊など全くいないのですね」
「いない訳じゃないのです。今は・・・まぁ出て来られないと言いますか」
「昼間ですものね」
――時間は関係ないんですけど――
余りにも快適すぎる。
王都と違って郊外は土が剥き出しで叩いて固めた地。王都と違って舗装もされていないのに小石を弾く事もない。
国境を2つ超えてウォレスのいる辺境はその2つ目の国境を越えればすぐそこにある。
かつては帝国とサジェス王国に挟まれた国は荒れていたが帝国の属国になる事で帝国が金と人、そして技術を投入して整備をした結果、今では大陸でも1、2を争う穀倉地帯に生まれ変わった。
ジャクリーンは暇もあって従者にウォレスとは従者から見てどうなのかと問いかけた。
「良い人ですよ。噂が先行して色々と誤解を生んでますけど」
「誤解と言いますと戦好きとか?」
「正直に言って武力で制圧する事もあるんですが、ウォレス殿下はどっちかというと技術提供してどやぁ!!って相手を落とすタイプですね。ただ野盗とか荒くれ者もいますので‥帝国では人を殺めた時はその理由如何では処刑されるんです。でも執行官は心を止むので殿下が代わりにと言ってくださることもあります」
「じゃぁ戦好きというのは嘘?」
「好きではないと思います。必要に迫られるだけですし、先陣を切るのも誰かがやらなければ後続の兵士はついてきません」
従者の話を聞いていると手紙の中のウォレスがより色を帯びてくる。
そしてちょっとだけ心配もしていたが手紙では聞けなかった事も聞いてみた。
「あの殿下には女性はいないのですか?」
「いますよ」
従者は手のひらを上に向けて「貴女です!」とそれはもう満面の笑みでジャクリーンを指す。
――そうじゃ無くて!――
ジャクリーンの心が読まれたのか、従者は手を卸すと指を折り始め両手の指で足らなくなると呪文のように数字を数えだす。連続している事から素数ではなさそうだ。
「えぇっと…98人ですかね」
「きゅ!98人っ?!」
――まさかの100人斬り目指してたド変態だったの?――
ここに来て過去の女性の数を知らされたジャクリーンは眩暈さえ覚えたが違った。
「殿下の寝所に忍び込んだり、抱いてくれ!とか言って来た女性の数です。ここだけの話ですけど…殿下は24歳になりますが…筋金入りの・・・」
――(ドキドキ)絶倫とか言わないでよ?――
「Dの堅者ですッ。帝国皇子の中では記録更新中。色んな意味で保持者です(キリッ!)」
――まさかのDを鉄壁の守りで保持?――
「って、言っても殿下も興味はあるんです。だけどおいそれとは・・・ね。子種をどう使われるかも解りませんから」
ジャクリーンもアルバートがそれなりに記録を保持していたのも知っている。アビゲイルによってそれは途絶えてしまったが、王族や皇族となると高級娼館ですら危険地帯。
娼婦となる目的は結局のところ金なので、男性としては出してしまうとその後が問題になる。過去には閨教育の実技で体内の種を掻きだして妊娠可能な女性の体内に筒を使って流し込んだ強者もいたと文献で読んだ。
高級娼館でも同じ事がされないとは限らない。
なので遠征の多い王子や皇子になると男娼がつけられる事があった時代もある。それでも文献には「王子がまるで王女のように」とあるので立場が逆になると問題もあったのだろう。
――ブルル・・・なんて恐ろしい――
どうやらウォレスは領民にも部下にも慕われているというのは何となく判ったが、もう1つ問題がある。
「あの、血を浴びるのが好きっていうのも嘘ですわよね?」
「あぁ、それですか。どっちだろう?って説が2つあるんです」
「2つ?」
「はい。1つは ”殿下に会うまで帰りません!” って使命を帯びてやってきた令嬢に野獣の盗伐後、湯を浴びずそのままの姿で面会した事が何度もあります」
「何度も…それはお気の毒に」
令嬢は自身の経血ですら見て卒倒する者もいるくらい血とは無縁な生き物。
野獣の血とは言え、血塗れだとそんな噂をされる事もあるだろう。令嬢からすれば恐怖でしかなかった筈だ。
「もう1つはですね、辺境の隣町でお祭りがあるんです」
「お祭り?おどろおどろしい噂とは無縁のような・・・」
「そうなんですけども、その祭りが傷んでしまって食べられないブラッドグレープっていう果肉がまるで血液のように赤いブドウがあるんですけど、傷んでしまうと粘り気を帯びるんです。でもその果汁を体に付けると無病息災とも言われていてお祭りでは傷んだブラッドグレープを大きな木桶に入れて皆がそこに飛び込むんですよ」
――あぁ、なるほど。だから血塗れに見えるのね――
「殿下ってほら黒髪なんで、そりゃもうあの時は歓声が悲鳴になって皆が逃げ惑いました。アッハッハ」
――アッハッハじゃないですからね?――
「でね、飛び込んだ時に口の中にまだ粒だったのが幾つも入ったらしくて、桶から顔を出した時にブシャーっと嚙み潰してッヒャーハッハ。ウケるっ!今思い出してもウケるっ!!種も鼻に入って・・・フンって!飛ばしっヒギャーハッハ」
思いだした事でツボに入った従者が正常になるまでジャクリーンは馬車の中で笑い声だけを聞いてやり過ごす。
――取り敢えずは・・・彼らから見ても気さくな人なのね――
土の路面なのにカラカラと馬車は軽快な音をさせて目的地まで進んだのだった。
徹底して道中の大掃除を指示し、時に本人であるウォレスも赴いていたため心配なのは空の機嫌くらい。それも王都を出れば雨が降るのは夜間だけで、馬車の車輪がぬかるみに嵌る程でもなく程よく大地を湿らせる程度。
「盗賊など全くいないのですね」
「いない訳じゃないのです。今は・・・まぁ出て来られないと言いますか」
「昼間ですものね」
――時間は関係ないんですけど――
余りにも快適すぎる。
王都と違って郊外は土が剥き出しで叩いて固めた地。王都と違って舗装もされていないのに小石を弾く事もない。
国境を2つ超えてウォレスのいる辺境はその2つ目の国境を越えればすぐそこにある。
かつては帝国とサジェス王国に挟まれた国は荒れていたが帝国の属国になる事で帝国が金と人、そして技術を投入して整備をした結果、今では大陸でも1、2を争う穀倉地帯に生まれ変わった。
ジャクリーンは暇もあって従者にウォレスとは従者から見てどうなのかと問いかけた。
「良い人ですよ。噂が先行して色々と誤解を生んでますけど」
「誤解と言いますと戦好きとか?」
「正直に言って武力で制圧する事もあるんですが、ウォレス殿下はどっちかというと技術提供してどやぁ!!って相手を落とすタイプですね。ただ野盗とか荒くれ者もいますので‥帝国では人を殺めた時はその理由如何では処刑されるんです。でも執行官は心を止むので殿下が代わりにと言ってくださることもあります」
「じゃぁ戦好きというのは嘘?」
「好きではないと思います。必要に迫られるだけですし、先陣を切るのも誰かがやらなければ後続の兵士はついてきません」
従者の話を聞いていると手紙の中のウォレスがより色を帯びてくる。
そしてちょっとだけ心配もしていたが手紙では聞けなかった事も聞いてみた。
「あの殿下には女性はいないのですか?」
「いますよ」
従者は手のひらを上に向けて「貴女です!」とそれはもう満面の笑みでジャクリーンを指す。
――そうじゃ無くて!――
ジャクリーンの心が読まれたのか、従者は手を卸すと指を折り始め両手の指で足らなくなると呪文のように数字を数えだす。連続している事から素数ではなさそうだ。
「えぇっと…98人ですかね」
「きゅ!98人っ?!」
――まさかの100人斬り目指してたド変態だったの?――
ここに来て過去の女性の数を知らされたジャクリーンは眩暈さえ覚えたが違った。
「殿下の寝所に忍び込んだり、抱いてくれ!とか言って来た女性の数です。ここだけの話ですけど…殿下は24歳になりますが…筋金入りの・・・」
――(ドキドキ)絶倫とか言わないでよ?――
「Dの堅者ですッ。帝国皇子の中では記録更新中。色んな意味で保持者です(キリッ!)」
――まさかのDを鉄壁の守りで保持?――
「って、言っても殿下も興味はあるんです。だけどおいそれとは・・・ね。子種をどう使われるかも解りませんから」
ジャクリーンもアルバートがそれなりに記録を保持していたのも知っている。アビゲイルによってそれは途絶えてしまったが、王族や皇族となると高級娼館ですら危険地帯。
娼婦となる目的は結局のところ金なので、男性としては出してしまうとその後が問題になる。過去には閨教育の実技で体内の種を掻きだして妊娠可能な女性の体内に筒を使って流し込んだ強者もいたと文献で読んだ。
高級娼館でも同じ事がされないとは限らない。
なので遠征の多い王子や皇子になると男娼がつけられる事があった時代もある。それでも文献には「王子がまるで王女のように」とあるので立場が逆になると問題もあったのだろう。
――ブルル・・・なんて恐ろしい――
どうやらウォレスは領民にも部下にも慕われているというのは何となく判ったが、もう1つ問題がある。
「あの、血を浴びるのが好きっていうのも嘘ですわよね?」
「あぁ、それですか。どっちだろう?って説が2つあるんです」
「2つ?」
「はい。1つは ”殿下に会うまで帰りません!” って使命を帯びてやってきた令嬢に野獣の盗伐後、湯を浴びずそのままの姿で面会した事が何度もあります」
「何度も…それはお気の毒に」
令嬢は自身の経血ですら見て卒倒する者もいるくらい血とは無縁な生き物。
野獣の血とは言え、血塗れだとそんな噂をされる事もあるだろう。令嬢からすれば恐怖でしかなかった筈だ。
「もう1つはですね、辺境の隣町でお祭りがあるんです」
「お祭り?おどろおどろしい噂とは無縁のような・・・」
「そうなんですけども、その祭りが傷んでしまって食べられないブラッドグレープっていう果肉がまるで血液のように赤いブドウがあるんですけど、傷んでしまうと粘り気を帯びるんです。でもその果汁を体に付けると無病息災とも言われていてお祭りでは傷んだブラッドグレープを大きな木桶に入れて皆がそこに飛び込むんですよ」
――あぁ、なるほど。だから血塗れに見えるのね――
「殿下ってほら黒髪なんで、そりゃもうあの時は歓声が悲鳴になって皆が逃げ惑いました。アッハッハ」
――アッハッハじゃないですからね?――
「でね、飛び込んだ時に口の中にまだ粒だったのが幾つも入ったらしくて、桶から顔を出した時にブシャーっと嚙み潰してッヒャーハッハ。ウケるっ!今思い出してもウケるっ!!種も鼻に入って・・・フンって!飛ばしっヒギャーハッハ」
思いだした事でツボに入った従者が正常になるまでジャクリーンは馬車の中で笑い声だけを聞いてやり過ごす。
――取り敢えずは・・・彼らから見ても気さくな人なのね――
土の路面なのにカラカラと馬車は軽快な音をさせて目的地まで進んだのだった。
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