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第06話 カトゥル侯爵、地団太を踏む
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ディック伯爵家では誰も執務をしない。いや出来ないのだ。
学問は苦手だからと講義の時間だけを蓄積するだけだったルーシュ。
婦女子は本が読めて刺繍が出来ればいいという時代に育ったエレナ夫人。
自己都合で屋敷に数年戻らず、家令や執事にも今はもう居所すら不明のディック伯爵。
誰も執務をしなければディック伯爵家の執務が滞ってしまう。
放ってしまえばディック伯爵家で働く使用人達も領民も生活が成り立たない。
そこで白羽の矢が立ったのがアナベル。
どうせ数年の内には嫁いでくるのだからとエレナ夫人はアナベルに執務を丸投げした。
「これは如何なものか」とカトゥル侯爵家は貴族院に訴え出たが、婚約関係にあることが災いしてアナベルが執務を手伝うのは妥当だと結論が出てしまった。
「手伝うレベルではない」と再度申し立てをしたが各家の執務の量はそれぞれに異なり、アナベルの分担が多いからと言って、それが本当に多いかどうかは個人の主観で審理しかねると却下。
「分担ではない。丸投げだ!」そう訴えても執務を理由の訴えは再再の審理となるので却下された。
婚約を破棄しようにも執務の多さは理由にはならない。
解消するには肝心な人間が足らないので貴族院も審理すらしない「不受理」である。
その為、カトゥル侯爵はなんとかアナベルの肩の荷を少なくしようと働きかけるのだが徒労に終わる日々。
祖父母や親世代の時代では夫人が執務をするなど変わり者としか見られなかったが今は違う。女伯爵に女子爵の誕生を皮切りに国を守る東西南北に配置された辺境伯ですら東の辺境伯の当主は女性。
女だから出来ません。
もう通用はしない時代となっていた。
当主夫人となれば大なり小なり執務を行うのは当たり前で、それを放棄するような訴えは「何もしません」と己を穀潰しですと言っていると同じ。
結婚をすれば、自転車操業もとうに終えた家にカトゥル侯爵家は大規模なテコ入れをせねばならなくなる。かと言って婚約破棄をするにもディック伯爵が見つからない。
吸収するにしても負債が大きく下手をすればカトゥル侯爵家の屋台骨がぐら付く。
エレナ夫人の実兄が負担をしたのは投資詐欺を発端とした低位貴族への補償だけ。
ディック伯爵領はあるものの担保に入れて金を借りていて利息の支払いで年間の収益が飛ぶ。金貸しは年払いは認めてくれないので毎月カトゥル侯爵家が利息に見合う額を「生活費」として融資をしている。
借金の利息に見合う額だが、名目を利息として融資すれば債権がカトゥル侯爵家に移ってしまうためである。
せめて溜め池の水利権でも保有していてくれれば、無理をしてでも家ごと買い取りもしたのにと今更「たられば」を考えても意味がない。
アナベルは父に懇願した。
水利権もとうに手放したのだから縁が切れても事業には影響がない。
アナベルは「穀潰し」の汚名などどうということはないから婚約を何とかできないかと。
口で言うほど世間は甘くはない。
それでもアナベルはただ、馬車馬のようにこき使われる日々に限界も感じていた。
嫁いだところで負債しかないディック伯爵家。
肝心のルーシュはアテになるどころか手間と面倒が更に増幅するのは想像に容易い。
苦労をするのは構わないが、犠牲になるのはごめん。
実家でも二女なのだから家督を継ぐ兄も、何処かに嫁ぐ姉もいるし家の恥になるのなら修道院に入る事になっても、市井に放逐されるとしても、今よりは格段に状況は改善されると思っての言葉だった。
何度もエレナ夫人に当主代行となって婚約解消をしてくれないかと直談判も試みた。
しかし、エレナ夫人は【当主は荷が重い】とのらりくらり。
金を積んでも首を縦には振ってくれなかった。
――口約束だったのが口惜しい!せめて有責になるような行為があれば――
そうは思っても、ルーシュに暴力癖があるわけではなく無理矢理貞操を奪われた訳でもない。
ルーシュは執務を一切行わないが、当主ではないので義務もない。
問題点と言えば裕福だった頃と同じく散財をしてしまうことだが、カトゥル侯爵は金遣いが荒いからと言うのも理由としたが、解消や破棄に至るかと言えば理由としては弱く、逆に「姻戚関係になるのだから指導してみては?」と言われる始末。
――それが出来るほどの頭ならとっくにそうしてる!――
カトゥル侯爵はにべもなく今日も貴族院から不受理とされた書類を手に地団太を踏んだ。
婚約を解消も破棄も白紙にするにも現状ではもう打つ手が無かった。
学問は苦手だからと講義の時間だけを蓄積するだけだったルーシュ。
婦女子は本が読めて刺繍が出来ればいいという時代に育ったエレナ夫人。
自己都合で屋敷に数年戻らず、家令や執事にも今はもう居所すら不明のディック伯爵。
誰も執務をしなければディック伯爵家の執務が滞ってしまう。
放ってしまえばディック伯爵家で働く使用人達も領民も生活が成り立たない。
そこで白羽の矢が立ったのがアナベル。
どうせ数年の内には嫁いでくるのだからとエレナ夫人はアナベルに執務を丸投げした。
「これは如何なものか」とカトゥル侯爵家は貴族院に訴え出たが、婚約関係にあることが災いしてアナベルが執務を手伝うのは妥当だと結論が出てしまった。
「手伝うレベルではない」と再度申し立てをしたが各家の執務の量はそれぞれに異なり、アナベルの分担が多いからと言って、それが本当に多いかどうかは個人の主観で審理しかねると却下。
「分担ではない。丸投げだ!」そう訴えても執務を理由の訴えは再再の審理となるので却下された。
婚約を破棄しようにも執務の多さは理由にはならない。
解消するには肝心な人間が足らないので貴族院も審理すらしない「不受理」である。
その為、カトゥル侯爵はなんとかアナベルの肩の荷を少なくしようと働きかけるのだが徒労に終わる日々。
祖父母や親世代の時代では夫人が執務をするなど変わり者としか見られなかったが今は違う。女伯爵に女子爵の誕生を皮切りに国を守る東西南北に配置された辺境伯ですら東の辺境伯の当主は女性。
女だから出来ません。
もう通用はしない時代となっていた。
当主夫人となれば大なり小なり執務を行うのは当たり前で、それを放棄するような訴えは「何もしません」と己を穀潰しですと言っていると同じ。
結婚をすれば、自転車操業もとうに終えた家にカトゥル侯爵家は大規模なテコ入れをせねばならなくなる。かと言って婚約破棄をするにもディック伯爵が見つからない。
吸収するにしても負債が大きく下手をすればカトゥル侯爵家の屋台骨がぐら付く。
エレナ夫人の実兄が負担をしたのは投資詐欺を発端とした低位貴族への補償だけ。
ディック伯爵領はあるものの担保に入れて金を借りていて利息の支払いで年間の収益が飛ぶ。金貸しは年払いは認めてくれないので毎月カトゥル侯爵家が利息に見合う額を「生活費」として融資をしている。
借金の利息に見合う額だが、名目を利息として融資すれば債権がカトゥル侯爵家に移ってしまうためである。
せめて溜め池の水利権でも保有していてくれれば、無理をしてでも家ごと買い取りもしたのにと今更「たられば」を考えても意味がない。
アナベルは父に懇願した。
水利権もとうに手放したのだから縁が切れても事業には影響がない。
アナベルは「穀潰し」の汚名などどうということはないから婚約を何とかできないかと。
口で言うほど世間は甘くはない。
それでもアナベルはただ、馬車馬のようにこき使われる日々に限界も感じていた。
嫁いだところで負債しかないディック伯爵家。
肝心のルーシュはアテになるどころか手間と面倒が更に増幅するのは想像に容易い。
苦労をするのは構わないが、犠牲になるのはごめん。
実家でも二女なのだから家督を継ぐ兄も、何処かに嫁ぐ姉もいるし家の恥になるのなら修道院に入る事になっても、市井に放逐されるとしても、今よりは格段に状況は改善されると思っての言葉だった。
何度もエレナ夫人に当主代行となって婚約解消をしてくれないかと直談判も試みた。
しかし、エレナ夫人は【当主は荷が重い】とのらりくらり。
金を積んでも首を縦には振ってくれなかった。
――口約束だったのが口惜しい!せめて有責になるような行為があれば――
そうは思っても、ルーシュに暴力癖があるわけではなく無理矢理貞操を奪われた訳でもない。
ルーシュは執務を一切行わないが、当主ではないので義務もない。
問題点と言えば裕福だった頃と同じく散財をしてしまうことだが、カトゥル侯爵は金遣いが荒いからと言うのも理由としたが、解消や破棄に至るかと言えば理由としては弱く、逆に「姻戚関係になるのだから指導してみては?」と言われる始末。
――それが出来るほどの頭ならとっくにそうしてる!――
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