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第17話 公開処刑ですかぁ!!
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選定を手伝った者達が1人、2人と帰途につき始めると、すっかり頭から抜け落ちていた問題をシェイナは思い出した。
――うっわぁ…どうしよう。やっぱり行かなきゃダメよね――
ライネルのいない教会へ向かう足取りも軽くはなかったが、今は大きな鉄球がついたように足が重い。
それでも言った以上は行かないとチャールズはどんな行動に出るか判らない。両家が争っているとしても激昂したチャールズなら屋敷まで平気で押しかけてくる。
争っているからこそ遠慮がないだろうと思うと両親に対してどんな行動に出るか。危険しか感じない。
「行くって言っちゃったし、仕方ないか」
同じ方向に帰る者はもう帰ってしまっていて、教会の近所に住まう数人が神父と最後の片づけをしている。シェイナは諦めを付けてチャールズに引き込まれた露地まで行ってみる事にした。
「居なかったら速攻で帰ろっと」
チラッと見ていないとなれば家までダッシュするつもりで露地まで行けば、路地を覗き込む必要もない。手前でチャールズが満面の笑みを浮かべてシェイナに向かって手を振っていた。
――げぇぇ。いるし、いたし、待ってたよ…ちぇっ――
待ち人がいてガッカリする日がやって来るとは。
シェイナはいい加減重い足をなんとか前に進めてチャールズに「お待たせ」と心にもない声を掛けた。
「話って何?」
「シェイナ。そう急ぐなって。腹、減ってないか?」
「えぇっと…教会で軽食が出たから…空いてないわ」
「でも飲み物くらいなら大丈夫だろ?」
「ごめんなさい。実は寄り道するほどお金持ってないの。話ってここじゃダメ?」
露地に入る前の通りで立ち話。ここなら不本意な事をされそうになっても叫び声を上げれば何とかなるかも知れない。シェイナは何処かの店に入って、うっかり個室となるブースで2人きりなんてなりたくなかった。
「ここじゃちょっと…すぐ済む話だからさ」
「すぐ済むならここで良いでしょう?」
「いや。ここじゃちょっと…」
モゴモゴとするチャールズにシェイナは言うべきことは先に言っておこう。そう考えた。
「あのね、チャールズ」
「な、なんだ?えっと‥もう一度呼んでくれないか?」
「もう一度って、名前を?」
「うんっ」
――何なの…気持ち悪いんだけど――
子供の用に元気な返事を返してくるチャールズの意図が全く読めない。
仕方なくシェイナは言うべきことを言うついでに名を呼んだ。
「チャールズ」
「なんだい?」
「あのね、私達はもう婚約者じゃないの。関係は無くなったのよ?それにお互いの家はあなたの言動で争ってるの。今、ここで私達が落ちあって話をする。正直言って両家の為にはならないと思うわ」
ピクリとチャールズの眉が上がった。目をキョロキョロとさせるのはチャールズが言葉を探している仕草。シェイナは「話があるなら調停で」と言おうとしたが、大通りの一画。人通りも少なくないこの場所でチャールズは突然シェイナの前に跪いた。
――な!なにをしてるの?!――
「申し訳なかった!全部俺が悪い。何もかも俺が悪かった。シェイナが怒るのも無理はない。言い訳なんかしない。でも誓って!誓ってビヴァリーに傾倒した事はない。あれは…その…魔が差しただけなんだ。二度としない!だから…俺とやり直してくれないか?」
周囲は「なんだなんだ?」「痴話喧嘩か?」野次馬予備軍が足を止めて2人を見る。数秒もしないうちに予備軍は1軍になって周囲を取り囲んでしまうだろう。
両家が争っている事はかなり知れ渡っていても、その当事者の顔を知っている者は少ない。
この場で一番不味いのは、チャールズの応援隊が野次馬の中に出来てしまう事だ。
シェイナは慌てた。
「チャ、チャールズ止めてよ!こんなところで!」
「場所なんか関係ない!頼むよ!俺にはシェイナしかいないんだ。不誠実だったのは謝る!許してくれるまでずっと謝るし、二度とシェイナを悲しませる事なんかしない。約束するっ」
「約束とかじゃないの!こんな所でヤメテってば!」
こんな事ならカフェの個室のほうがずっとマシだった!シェイナは後悔したが遅かった。予想通りに野次馬からは「許してやれよ」とチャールズを後押しする声が上がる。
「男がここまでしてるんだぜ」
――だから何だというの?――
声の主を睨みつけるが、顔を逸らしたシェイナにチャールズは立ち上がって「やり直してくれよ」とさらに懇願を始めてしまった。
そしてポケットから箱を取り出すとシェイナに差し出してくる。
「な、なんなの…」
「今日は誕生日だろう?」
「そ、そうだけど…」
チャールズは野次馬の前で箱を開けて中のネックレスを取り出した。
一目で高価な石が施されていると判る品でシェイナは更に驚きを隠せなかった。
明らかにエスラト男爵家から融資を受けていたガネル男爵家が一部を負担したとしてもチャールズが買えるような品ではない。
盗品ではないかと頭に真っ先に浮かんだ。
「ご、ごめんなさい。そんな高価な品は受け取れないわ」
「いいんだ。シェイナの為に用意したんだ」
怖くなって1歩下がればチャールズも1歩近寄ってくる。
周囲のやじ馬は「公開プロポーズだ」と囃し立て始めた。
――こんなの公開処刑だわ。受けたら後悔しかないプロポーズよ!――
野次馬を味方につけたチャールズだったが、野次馬の中から突然あがった声に後ろを振り向いた。
「チャールズッ!!」
――今しかないわ!――
シェイナは野次馬の中に飛び込んだ。
「シェイナ!!」チャールズの声がするがシェイナはそれどころではない。一刻も早くこの場から立ち去らないと!そればかりを考えて息をするのも忘れて走った。
「やっと見つけたぞ。何をしてるんだ!」
「親父…」
野次馬の中から声を上げたのはチャールズの父、ガネル男爵だった。
「見世物じゃないぞ!失せろ!散れ!」
野次馬に向かって怒鳴り上げ、使用人に命じてチャールズを捕まえると「退けっ!」と野次馬を掻き分け、止めてあった馬車にチャールズを押し込み去って行った。
「なんだったんだ?」
「親に認めてもらえない愛ってやつじゃね?」
「でも女の方は逃げて行ったぞ?逃避行でエンディングじゃないのか?」
「宝石も結構イイもんだったが…女も目が肥えてるってことだろ」
「世知辛いなぁ」
好き勝手を言いながら野次馬たちも散って行った。
――うっわぁ…どうしよう。やっぱり行かなきゃダメよね――
ライネルのいない教会へ向かう足取りも軽くはなかったが、今は大きな鉄球がついたように足が重い。
それでも言った以上は行かないとチャールズはどんな行動に出るか判らない。両家が争っているとしても激昂したチャールズなら屋敷まで平気で押しかけてくる。
争っているからこそ遠慮がないだろうと思うと両親に対してどんな行動に出るか。危険しか感じない。
「行くって言っちゃったし、仕方ないか」
同じ方向に帰る者はもう帰ってしまっていて、教会の近所に住まう数人が神父と最後の片づけをしている。シェイナは諦めを付けてチャールズに引き込まれた露地まで行ってみる事にした。
「居なかったら速攻で帰ろっと」
チラッと見ていないとなれば家までダッシュするつもりで露地まで行けば、路地を覗き込む必要もない。手前でチャールズが満面の笑みを浮かべてシェイナに向かって手を振っていた。
――げぇぇ。いるし、いたし、待ってたよ…ちぇっ――
待ち人がいてガッカリする日がやって来るとは。
シェイナはいい加減重い足をなんとか前に進めてチャールズに「お待たせ」と心にもない声を掛けた。
「話って何?」
「シェイナ。そう急ぐなって。腹、減ってないか?」
「えぇっと…教会で軽食が出たから…空いてないわ」
「でも飲み物くらいなら大丈夫だろ?」
「ごめんなさい。実は寄り道するほどお金持ってないの。話ってここじゃダメ?」
露地に入る前の通りで立ち話。ここなら不本意な事をされそうになっても叫び声を上げれば何とかなるかも知れない。シェイナは何処かの店に入って、うっかり個室となるブースで2人きりなんてなりたくなかった。
「ここじゃちょっと…すぐ済む話だからさ」
「すぐ済むならここで良いでしょう?」
「いや。ここじゃちょっと…」
モゴモゴとするチャールズにシェイナは言うべきことは先に言っておこう。そう考えた。
「あのね、チャールズ」
「な、なんだ?えっと‥もう一度呼んでくれないか?」
「もう一度って、名前を?」
「うんっ」
――何なの…気持ち悪いんだけど――
子供の用に元気な返事を返してくるチャールズの意図が全く読めない。
仕方なくシェイナは言うべきことを言うついでに名を呼んだ。
「チャールズ」
「なんだい?」
「あのね、私達はもう婚約者じゃないの。関係は無くなったのよ?それにお互いの家はあなたの言動で争ってるの。今、ここで私達が落ちあって話をする。正直言って両家の為にはならないと思うわ」
ピクリとチャールズの眉が上がった。目をキョロキョロとさせるのはチャールズが言葉を探している仕草。シェイナは「話があるなら調停で」と言おうとしたが、大通りの一画。人通りも少なくないこの場所でチャールズは突然シェイナの前に跪いた。
――な!なにをしてるの?!――
「申し訳なかった!全部俺が悪い。何もかも俺が悪かった。シェイナが怒るのも無理はない。言い訳なんかしない。でも誓って!誓ってビヴァリーに傾倒した事はない。あれは…その…魔が差しただけなんだ。二度としない!だから…俺とやり直してくれないか?」
周囲は「なんだなんだ?」「痴話喧嘩か?」野次馬予備軍が足を止めて2人を見る。数秒もしないうちに予備軍は1軍になって周囲を取り囲んでしまうだろう。
両家が争っている事はかなり知れ渡っていても、その当事者の顔を知っている者は少ない。
この場で一番不味いのは、チャールズの応援隊が野次馬の中に出来てしまう事だ。
シェイナは慌てた。
「チャ、チャールズ止めてよ!こんなところで!」
「場所なんか関係ない!頼むよ!俺にはシェイナしかいないんだ。不誠実だったのは謝る!許してくれるまでずっと謝るし、二度とシェイナを悲しませる事なんかしない。約束するっ」
「約束とかじゃないの!こんな所でヤメテってば!」
こんな事ならカフェの個室のほうがずっとマシだった!シェイナは後悔したが遅かった。予想通りに野次馬からは「許してやれよ」とチャールズを後押しする声が上がる。
「男がここまでしてるんだぜ」
――だから何だというの?――
声の主を睨みつけるが、顔を逸らしたシェイナにチャールズは立ち上がって「やり直してくれよ」とさらに懇願を始めてしまった。
そしてポケットから箱を取り出すとシェイナに差し出してくる。
「な、なんなの…」
「今日は誕生日だろう?」
「そ、そうだけど…」
チャールズは野次馬の前で箱を開けて中のネックレスを取り出した。
一目で高価な石が施されていると判る品でシェイナは更に驚きを隠せなかった。
明らかにエスラト男爵家から融資を受けていたガネル男爵家が一部を負担したとしてもチャールズが買えるような品ではない。
盗品ではないかと頭に真っ先に浮かんだ。
「ご、ごめんなさい。そんな高価な品は受け取れないわ」
「いいんだ。シェイナの為に用意したんだ」
怖くなって1歩下がればチャールズも1歩近寄ってくる。
周囲のやじ馬は「公開プロポーズだ」と囃し立て始めた。
――こんなの公開処刑だわ。受けたら後悔しかないプロポーズよ!――
野次馬を味方につけたチャールズだったが、野次馬の中から突然あがった声に後ろを振り向いた。
「チャールズッ!!」
――今しかないわ!――
シェイナは野次馬の中に飛び込んだ。
「シェイナ!!」チャールズの声がするがシェイナはそれどころではない。一刻も早くこの場から立ち去らないと!そればかりを考えて息をするのも忘れて走った。
「やっと見つけたぞ。何をしてるんだ!」
「親父…」
野次馬の中から声を上げたのはチャールズの父、ガネル男爵だった。
「見世物じゃないぞ!失せろ!散れ!」
野次馬に向かって怒鳴り上げ、使用人に命じてチャールズを捕まえると「退けっ!」と野次馬を掻き分け、止めてあった馬車にチャールズを押し込み去って行った。
「なんだったんだ?」
「親に認めてもらえない愛ってやつじゃね?」
「でも女の方は逃げて行ったぞ?逃避行でエンディングじゃないのか?」
「宝石も結構イイもんだったが…女も目が肥えてるってことだろ」
「世知辛いなぁ」
好き勝手を言いながら野次馬たちも散って行った。
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