伯爵様の恋はウール100%

cyaru

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第10話   モヤモヤ胸モヤ

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胸にモヤモヤを抱えたヘリン。

しかし、その胸の中に黒く渦巻き始めた思いは誰にも打ち明けられなかった。

スカッドは従妹のスナーチェを紹介しただけであり、紹介する行為そのものは褒められこそすれ咎められるものではない。スナーチェをフォローするように「物言いはキツイ」とは言っていたし、人間の性格などがらりと変わるものでもないので、良く言えば言い難い事もオブラートに包まず「はっきりとした物言い」をする人なのだと言える。

お互いの呼び名も、はと考えればヘリンにもボーン子爵領には男女問わず友人がいてヘリンの事は「リン」と呼び捨てだし、一番仲の良いマーシャはヘリンの事を「リー」と呼ぶ。

この国でミドルネームがあるのは伯爵家以上。
伯爵家でも男爵、子爵から成り上がった家は元々ミドルネームは持っていないので教会でわざわざミドルネームをりもしている。

――呼び方のこと、気にし過ぎなのかも――

初対面で「苦手」だと感じた相手も、何度か会って話をするうちに最初と見方が変わる事もある。勿論良い方から悪い方へと転じる事もあるが、昨日だけの感想で決めつけてはいけない。

そう思い込もうとしているヘリンの元にゼスト公爵家から使いが来ていると侍女が知らせに来た。


ゼスト公爵家からの使いはスカッドからの手紙を預かって来ていた。

「お嬢様、どうぞ」

侍女がヘリンにペーパーナイフを手渡す。
ヘリンは丁寧に封を切ると中から便箋を取り出した。

「どうされましたか?」
「うん…お茶会の誘い・・・かな」

昨日はスカッドの家であるゼスト公爵家がホストとなった茶会だったが、便箋に書かれてあったのも茶会。但し参加をするのはスカッドとヘリン、そしてスナーチェとスナーチェの婚約者の2組。

それはいいのだ。ヘリンが言葉を濁したのはスカッドが続いて書いてあった文字。

【可能なら贈ったドレスを着て来て欲しい】

更に文字が続く。

【やっとドレスのお披露目できるね】だった。

――やっぱり気が付いてなかったんだ――

襟元にレースを付け加えただけなのに別物に見えてしまったのだろうか。
だが、既製品故に色違いの同じ型も多かった。似た色から「これだ!」と選んだのはスカッド。見間違う事があるのかとも考えたが、選んだのは屋敷の中で時間も午後。
日当たりの良いサロンだとより明るく見えたのかも知れない。

スッキリとしないままヘリンは断る理由もないことから、「正確な日時が決まったら連絡ください」と従者に言伝を頼んだ。


「どうされたんですか?」

侍女が茶をヘリンの前に置きながら聞いた。

「うーん…スカッドらしくないと思って」
「らしくない・・・と申しますと?」
「見てくれる?さっき届いた手紙なんだけど」


出掛ける時には侍女もヘリンの供をする。尤も侍女が供をする時は「屋敷から屋敷」で、移動も馬車と限られたもの。それでも御者は2人で剣の腕に覚えがある者が就く。

子爵領ならいざ知らず王都のような「他人」が多い場所で貴族の子女が単独で動く事は先ずない。最低2人で出掛けていても、その周囲に護衛がいるのが常。護衛はいないようでいるものなのだ。

誘拐をされて生きて帰って来る確率は2割も無い。
生きて帰ってきた方が貴族としては地獄かも知れない。理由など言わずもがな。

ヘリンは出掛ける際には必ず供をさせる侍女なので、時間の錯誤がないように招待状などは必ず侍女にも確認をしてもらうため、文末に私信があっても侍女に見せている。

「あ、ホントだ。珍しいですね…2週間後ってこれまた急な・・・前後3日は見ておかないといけないですね。それにしても何時からとか時間も指定がないし…こちらから出向くのか迎えに来るのかも判らないって‥ゼスト公爵子息様とすると・・・慌ててたんでしょうか」


侍女の言う通りである。

茶会も夜会も貴族は頻繁に開催するがおおよそで「第2週の〇曜日は〇〇家」とほぼ固定をされている上に2,3か月前には招待状が届き出欠を確認するのが当たり前。2週間後と言われたら「火急の案件」があるのだろうかと考えるレベルだ。

スカッドは昨日の茶会はホストであるため迎えには来なかったが、毎回茶会の1カ月前には「10時15分~20分の間に護衛の兵士を向かわせる」と連絡してきて当日は連絡通り馬車の周りを護衛する兵士を寄越した。

観劇などで迎えに来る時も「14時開演の歌劇なので12時丁度に出られるように迎えに行く。11時半は過ぎるが11時50分を超える事は無い」とピンポイントで時間を伝えてくるのだ。

スカッドが几帳面なのではなく、予定の時間から遅れれば「何かがあった」となるので、万が一を考えて捜索もしやすくなるので貴族としては当たり前のこと。


いつもとは違うスカッドの手紙にヘリンはまた新たなモヤモヤを胸に抱えた。
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