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第09話 レッスン開始のゴングが鳴る
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茶会の翌日、既に起床はしていたスカッドの部屋にまたスナーチェがやってきた。
「もう、聞いてよぉ~」
スナーチェは不機嫌なまま部屋に入ってくると、スカッドが【ヘリン専用】としていたテーブルセットの椅子に腰を掛けた。
「ナチェ、その椅子はリン専用なんだ。隣の椅子に移ってくれ」
「はぁ?専用?年寄りじゃあるまいし。誰かが座ったと言わなきゃ判らないでしょう?黙ってればいいのよ」
「そう言う問題じゃなく、僕が嫌なんだ。コレとその椅子は誰の為にあるのかを決めているんだ。隣に移ってくれよ」
「ケチねぇ。減るものじゃないのに」
ぶつぶつと文句を言うスナーチェ。
4脚あるうちの2脚はスカッドとヘリンの背の高さと座った時に体にぴったりとあう高さに調整をしている。
剣も嗜むスカッドは騎士団には所属していないものの次期公爵。公爵家の私兵を纏め、パレードなどがあれば先頭に立って指揮をとる。
その時は腰に帯剣をしているので座った時に剣が当たらないように切り欠きをしているし、ヘリンの椅子はスカッドの母である公爵夫人と茶会などに出向く時に、スカッドの部屋に寄って時々一緒の時間を過ごす。
その時はドレスの下にパニエなどがあるため、少しドレスを持ち上げて腰を下ろすのだが、ドレスが邪魔にならないよう座面と背凭れの角になる部分は背凭れが少し湾曲していて、座面も指1本分他の3脚より広め。
椅子を調節する時、ヘリンはまだデヴュタント前。
スカッドとしては「嫁いできたつもりで良いから」と言ってもヘリンは遠慮をする。
スカッドが不器用だった事もあるが「いずれは白紙になる婚約」と気持ちはスカッドに向いているのにヘリンの心の中では、どこか一線を引いていた部分があった。
椅子はかなりスカッドがヘリンに無理を言って調整をさせたもの。
独占欲が強いと言われても譲る事の出来ないものだった。
渋々とスナーチェは隣の椅子に移ると、また愚痴を溢す。
今、スナーチェは王都に帰ってきて2か月少し。
ゼスト公爵夫人に挨拶に来たのは王都に帰って来て1か月過ぎた頃。
直ぐに来なかったのは、親戚であろうと先ずは先触れを出して相手の予定と調整をしてからとなる。公爵夫人ともなれば暇そうに見えて暇ではない。
挨拶に来た日は、ゼスト公爵夫人の時間が取れた日だった。
挨拶の日から先日の茶会までが1カ月。
スナーチェは10歳になる少し前に領地に行ったので、王都に友人はおらず茶会に呼んでもらおうにも伝手がない。最初の1カ月は公爵夫人に挨拶に行くまでの期間、母や姉の友人から年齢の合う令嬢を紹介してもらった。
スナーチェは侯爵令嬢であるので、呼ばれた令嬢は伯爵家の令嬢ばかりだったのだが日が経つに連れて、段々と誘いのお断りが届くようになった。
中には1回だけ茶を飲んだだけで、2回目以降は何度誘っても「月のもの」や「先客がある」と断る者もいた。無理強いは出来ないので、ならばと他の令嬢を誘うのだか回を重ねるごとに断られてしまう。
「お姉様の紹介だというから誘ったのに1回目でね?もう野暮ったいったらないの。改善するように注意をしてあげたら2回目は床に臥せったとか。2回目来なかったら改善されてるかも判らないのに逃げたのよ?だから直接屋敷に行ったら、信じられる?修道院に逃げたのよ?神様に祈ってセンスの悪さが治るならみんなそうしてるわ」
そしてスナーチェはさらに多くの令嬢を集めようとビルボ侯爵家自慢の庭で茶会を開く事にし50人ほどに招待状を送った。開催するのは公爵家の茶会の2週間後。
ホストとなるスナーチェはネックレスを受け取ろうにも準備で屋敷を出たり入ったり。
家人に受け取られるとスカッドに半分払わせた事がバレるのを避けたかったのでスカッドがヘリンとデートをするレストランに届けて貰う事にしたのだ。
しかし…。
「王都って何か流行ってるモノでもあるわけぇ?お茶会の出欠が今朝37通届いたんだけど全員欠席よ?信じられる?伯爵令嬢如きが!天下のビルボ侯爵家の庭での茶会に誘われたっていうのによ?信じられないわ。価値観疑う~どうりで美的感覚が皆無なはずだわっ!」
「みんな忙しいんじゃないか?時期的に収穫の時期でもあるんだし、ウチも公爵家だとは言え内情は一家総出で事業経理してるからさ。そろそろ夜会もシーズンオフだし、仕方ないんじゃないのか」
「だぁとしてもぉ!!だったら猶更締めくくりにビルボ侯爵家の庭を見ておいて損はないでしょうに!だいたいよ?王都の令嬢ってどうぉ~してあんなにセンスがないの?みんな同じようなデザインのドレスだし、話も歌劇の俳優だったり王太子妃殿下の視察だったり。なんとかの一つ覚えばっかり」
「まさか、それを直接言ったりしたんじゃないのか?」
「ストレートには言ってないわよ?胸ばかり強調しているから、「一昔前の娼婦が真似しそうね」って言っただけだし、痩せてるように見える風に装いに気を配るのも大事だけど、座った後の座面が凹んでない?って。お洒落はね、そういう細かい所も注意しないと!なのよ‥‥ってそうそう!カディの婚約者!そうよ!忘れてた!」
突然矛先がスカッドを通しヘリンに向けられた。
スカッドは「そうなのか?」と不思議がっているが、部屋にいた使用人はこの場にへリンがいなくて良かったと胸を撫でおろした。
スナーチェの物言いは酷かったのだ。
「公爵家の茶会にあのドレスはないわ」
「そうかな。可愛いと思ったけど。母上も何も言ってなかっただろう?」
「言えないでしょ?今すぐ着替えてこいなんて!」
それまでもヘリンがスカッドの母親と茶会に出向く事は何度もあったし、「もうすぐデヴュタントなの」と早めに切り上げて帰っては来るが夫人が夜会に連れて行った事もある。
収支が上向いて返済も始まったゼスト公爵家と言ってもドレスが何着も仕立てられるほどではないので、ヘリンは公爵夫人の未婚時代に1回だけ着用したドレスを一旦解いて華美な宝飾品を外し、シンプルに縫製し直したドレスを着ていた。
シンプルだが、王家御用達、公爵家御用達の店が仕立てたもので、布地も母親が未婚時代のものとは思えないほと良い状態の上質なもの。
ギラギラと飾り立てるよりも、公爵夫人はスカッドの思いを早くから知っているのでヘリンを「次期公爵夫人」と紹介をしていた。
その際にヘリンは年齢は確かに若い。
だからこそ分不相応な宝飾品や流行りに乗ったデザインであれば年配の重鎮たちは良い顔をしない。社交場は戦場であり、飾り立てて目立ってしまっては知らぬところで遺恨を残す結果になる事もある。
若い令嬢は「義母のお古」と嫌がるものだが、嫁ぐ前から仲は良好と見せるパフォーマンスでもある。実際にヘリンが嫁いできて夫人に従うかどうかは関係がない。
もう婚約も7年目。この婚約の事実を知るにも十分な時間が経過している。
大事なのは「夫人との仲」を重鎮たちに見せること。
予定通りなら3年もすれば婚約は白紙になる。
スカッドと結婚する、しないに関わらず公爵家との仲が良いと見せる事でボーン子爵家にも旨味が出る。その上でまだこれからのヘリンを荒れ狂う高波に晒さないようにするには、シンプルに見えて上質なもの。それが一番無難の選択肢。
スカッドはヘリンしか見えていないまま10歳から17歳という年齢になった。
色々と学んだけれど「女性の装い」というカテゴリーは処々で理解の範疇を超えていた。
「仕方ないわね。私が直々に教えてあげる」
「いいよ。装いなんかは母上の意向もあるし、ヘリンにもこうしたい――」
「なに甘えた事言ってんの。彼女もだけどカディ!アナタも最悪よ」
「えぇっ?僕も?」
「だいたいあんなドレスを贈るって趣味悪すぎ!」
「い、いや、あのドレスは違うよ。贈ったドレスはまた別のドレスだよ」
ヘリンの小さな疑問は当たっていた。
スカッドは茶会でヘリンが身に纏っていたドレスは贈ったものではないと思っていた。
「本っ当どうしようもないわね。いいわ!私も婚約者を呼ぶから一緒にお茶会しましょう」
「お茶会?!また?」
「勉強の場なんて言ったら聞こえが悪いでしょう?ちゃんと伝えるのよ?贈ったドレスを着て来るようにと!査定してあげる。お茶会は2週間後!決まりね。レッスン開始よ」
いうだけ言うとスナーチェは来た時の不機嫌さは何処かに飛んで行ったようで、足取り軽く部屋を出て行った。
「何をしに来たんだ?」
話のついでに茶会は決まったようなもの。
スカッドは鼻歌だけが余韻のように聞こえてくる廊下を見て呟いた。
「もう、聞いてよぉ~」
スナーチェは不機嫌なまま部屋に入ってくると、スカッドが【ヘリン専用】としていたテーブルセットの椅子に腰を掛けた。
「ナチェ、その椅子はリン専用なんだ。隣の椅子に移ってくれ」
「はぁ?専用?年寄りじゃあるまいし。誰かが座ったと言わなきゃ判らないでしょう?黙ってればいいのよ」
「そう言う問題じゃなく、僕が嫌なんだ。コレとその椅子は誰の為にあるのかを決めているんだ。隣に移ってくれよ」
「ケチねぇ。減るものじゃないのに」
ぶつぶつと文句を言うスナーチェ。
4脚あるうちの2脚はスカッドとヘリンの背の高さと座った時に体にぴったりとあう高さに調整をしている。
剣も嗜むスカッドは騎士団には所属していないものの次期公爵。公爵家の私兵を纏め、パレードなどがあれば先頭に立って指揮をとる。
その時は腰に帯剣をしているので座った時に剣が当たらないように切り欠きをしているし、ヘリンの椅子はスカッドの母である公爵夫人と茶会などに出向く時に、スカッドの部屋に寄って時々一緒の時間を過ごす。
その時はドレスの下にパニエなどがあるため、少しドレスを持ち上げて腰を下ろすのだが、ドレスが邪魔にならないよう座面と背凭れの角になる部分は背凭れが少し湾曲していて、座面も指1本分他の3脚より広め。
椅子を調節する時、ヘリンはまだデヴュタント前。
スカッドとしては「嫁いできたつもりで良いから」と言ってもヘリンは遠慮をする。
スカッドが不器用だった事もあるが「いずれは白紙になる婚約」と気持ちはスカッドに向いているのにヘリンの心の中では、どこか一線を引いていた部分があった。
椅子はかなりスカッドがヘリンに無理を言って調整をさせたもの。
独占欲が強いと言われても譲る事の出来ないものだった。
渋々とスナーチェは隣の椅子に移ると、また愚痴を溢す。
今、スナーチェは王都に帰ってきて2か月少し。
ゼスト公爵夫人に挨拶に来たのは王都に帰って来て1か月過ぎた頃。
直ぐに来なかったのは、親戚であろうと先ずは先触れを出して相手の予定と調整をしてからとなる。公爵夫人ともなれば暇そうに見えて暇ではない。
挨拶に来た日は、ゼスト公爵夫人の時間が取れた日だった。
挨拶の日から先日の茶会までが1カ月。
スナーチェは10歳になる少し前に領地に行ったので、王都に友人はおらず茶会に呼んでもらおうにも伝手がない。最初の1カ月は公爵夫人に挨拶に行くまでの期間、母や姉の友人から年齢の合う令嬢を紹介してもらった。
スナーチェは侯爵令嬢であるので、呼ばれた令嬢は伯爵家の令嬢ばかりだったのだが日が経つに連れて、段々と誘いのお断りが届くようになった。
中には1回だけ茶を飲んだだけで、2回目以降は何度誘っても「月のもの」や「先客がある」と断る者もいた。無理強いは出来ないので、ならばと他の令嬢を誘うのだか回を重ねるごとに断られてしまう。
「お姉様の紹介だというから誘ったのに1回目でね?もう野暮ったいったらないの。改善するように注意をしてあげたら2回目は床に臥せったとか。2回目来なかったら改善されてるかも判らないのに逃げたのよ?だから直接屋敷に行ったら、信じられる?修道院に逃げたのよ?神様に祈ってセンスの悪さが治るならみんなそうしてるわ」
そしてスナーチェはさらに多くの令嬢を集めようとビルボ侯爵家自慢の庭で茶会を開く事にし50人ほどに招待状を送った。開催するのは公爵家の茶会の2週間後。
ホストとなるスナーチェはネックレスを受け取ろうにも準備で屋敷を出たり入ったり。
家人に受け取られるとスカッドに半分払わせた事がバレるのを避けたかったのでスカッドがヘリンとデートをするレストランに届けて貰う事にしたのだ。
しかし…。
「王都って何か流行ってるモノでもあるわけぇ?お茶会の出欠が今朝37通届いたんだけど全員欠席よ?信じられる?伯爵令嬢如きが!天下のビルボ侯爵家の庭での茶会に誘われたっていうのによ?信じられないわ。価値観疑う~どうりで美的感覚が皆無なはずだわっ!」
「みんな忙しいんじゃないか?時期的に収穫の時期でもあるんだし、ウチも公爵家だとは言え内情は一家総出で事業経理してるからさ。そろそろ夜会もシーズンオフだし、仕方ないんじゃないのか」
「だぁとしてもぉ!!だったら猶更締めくくりにビルボ侯爵家の庭を見ておいて損はないでしょうに!だいたいよ?王都の令嬢ってどうぉ~してあんなにセンスがないの?みんな同じようなデザインのドレスだし、話も歌劇の俳優だったり王太子妃殿下の視察だったり。なんとかの一つ覚えばっかり」
「まさか、それを直接言ったりしたんじゃないのか?」
「ストレートには言ってないわよ?胸ばかり強調しているから、「一昔前の娼婦が真似しそうね」って言っただけだし、痩せてるように見える風に装いに気を配るのも大事だけど、座った後の座面が凹んでない?って。お洒落はね、そういう細かい所も注意しないと!なのよ‥‥ってそうそう!カディの婚約者!そうよ!忘れてた!」
突然矛先がスカッドを通しヘリンに向けられた。
スカッドは「そうなのか?」と不思議がっているが、部屋にいた使用人はこの場にへリンがいなくて良かったと胸を撫でおろした。
スナーチェの物言いは酷かったのだ。
「公爵家の茶会にあのドレスはないわ」
「そうかな。可愛いと思ったけど。母上も何も言ってなかっただろう?」
「言えないでしょ?今すぐ着替えてこいなんて!」
それまでもヘリンがスカッドの母親と茶会に出向く事は何度もあったし、「もうすぐデヴュタントなの」と早めに切り上げて帰っては来るが夫人が夜会に連れて行った事もある。
収支が上向いて返済も始まったゼスト公爵家と言ってもドレスが何着も仕立てられるほどではないので、ヘリンは公爵夫人の未婚時代に1回だけ着用したドレスを一旦解いて華美な宝飾品を外し、シンプルに縫製し直したドレスを着ていた。
シンプルだが、王家御用達、公爵家御用達の店が仕立てたもので、布地も母親が未婚時代のものとは思えないほと良い状態の上質なもの。
ギラギラと飾り立てるよりも、公爵夫人はスカッドの思いを早くから知っているのでヘリンを「次期公爵夫人」と紹介をしていた。
その際にヘリンは年齢は確かに若い。
だからこそ分不相応な宝飾品や流行りに乗ったデザインであれば年配の重鎮たちは良い顔をしない。社交場は戦場であり、飾り立てて目立ってしまっては知らぬところで遺恨を残す結果になる事もある。
若い令嬢は「義母のお古」と嫌がるものだが、嫁ぐ前から仲は良好と見せるパフォーマンスでもある。実際にヘリンが嫁いできて夫人に従うかどうかは関係がない。
もう婚約も7年目。この婚約の事実を知るにも十分な時間が経過している。
大事なのは「夫人との仲」を重鎮たちに見せること。
予定通りなら3年もすれば婚約は白紙になる。
スカッドと結婚する、しないに関わらず公爵家との仲が良いと見せる事でボーン子爵家にも旨味が出る。その上でまだこれからのヘリンを荒れ狂う高波に晒さないようにするには、シンプルに見えて上質なもの。それが一番無難の選択肢。
スカッドはヘリンしか見えていないまま10歳から17歳という年齢になった。
色々と学んだけれど「女性の装い」というカテゴリーは処々で理解の範疇を超えていた。
「仕方ないわね。私が直々に教えてあげる」
「いいよ。装いなんかは母上の意向もあるし、ヘリンにもこうしたい――」
「なに甘えた事言ってんの。彼女もだけどカディ!アナタも最悪よ」
「えぇっ?僕も?」
「だいたいあんなドレスを贈るって趣味悪すぎ!」
「い、いや、あのドレスは違うよ。贈ったドレスはまた別のドレスだよ」
ヘリンの小さな疑問は当たっていた。
スカッドは茶会でヘリンが身に纏っていたドレスは贈ったものではないと思っていた。
「本っ当どうしようもないわね。いいわ!私も婚約者を呼ぶから一緒にお茶会しましょう」
「お茶会?!また?」
「勉強の場なんて言ったら聞こえが悪いでしょう?ちゃんと伝えるのよ?贈ったドレスを着て来るようにと!査定してあげる。お茶会は2週間後!決まりね。レッスン開始よ」
いうだけ言うとスナーチェは来た時の不機嫌さは何処かに飛んで行ったようで、足取り軽く部屋を出て行った。
「何をしに来たんだ?」
話のついでに茶会は決まったようなもの。
スカッドは鼻歌だけが余韻のように聞こえてくる廊下を見て呟いた。
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