伯爵様の恋はウール100%

cyaru

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第14話   手のひらに羊

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ヘリンもスカッドも親の手伝いではあるが仕事はしている。
なので好きな時間に会うことは出来ない。

ボーン子爵家当主ロムニーは侍女の報告を聞いて、ヘリンに頼む仕事を少し増やした。

父として娘を応援してあげたい気持ちは家族になった日から変わらない。
力関係が逆転したかのような制約付きの婚約としたのも、仕方がなかったとは言え大人の事情にヘリンを振り回す事になるので、結果的にヘリンにダメージが少ないようにと考えての事。

「そんなに酷いのか?」
「酷いと言いますか…ゼスト公爵子息様もお嬢様を庇っているのか傍観しているのか…ただ私はこの状況はお嬢様には良くないと思います」


月に1、2回。繁忙期になれば会う事がない月もある。
だからこそ2人が思い合っている事を知ったボーン子爵夫妻とゼスト公爵夫妻は出来るだけ時間を取るようにして2人で過ごす時間を工面してきた。

扉は開放したままで従者も部屋に入るが、お互いの私室に出入りする事も認めている。

公爵家に嫁ぐ事になればへリンの負担も大きいと早いうちからゼスト公爵夫人はヘリンに年齢に応じた講師も付けてゆっくりとヘリンのペースで学業も履修させてきた。
予定通り婚約が白紙となっても身についた知識はヘリンを助ける。

結婚については2人がどうするか決めればいい。
婚約の立会人となったのが王弟殿下と言う事もありヘリンとスカッドの婚約の形は王家も注目していた。ただでさえ仮面夫婦の多い貴族。

制約をつける事で政略で結ばれたにしても、解消する時に家の事業とは切り離して本人の意思を尊重する。今までにはない婚約の形に今後、国としてどうあるべきかも話し合いが始まろうともしていた。

仲睦まじかったヘリンとスカッド。
侍女からの報告にボーン子爵は何度も聞き返し、聞こえてくる言葉に耳を疑った。



そして報告に来た侍女と一緒に帰宅し、着替えを済ませたヘリンがロムニーの部屋にやってきた。ヘリンは侍女の顔を見て「お父様に言っちゃったのか」と溜息を吐きだした。





★~★

今日もスナーチェの号令で「突然」の茶会だった。
使用人達にも大きく聞こえるような声でスナーチェはフェルメルにダメ出しをする。

「時間をやり繰りしてきてくれてるんだし、ナチェも言い方を考えろよ」

今回はスカッドも言葉が過ぎると口を挟んだ。

回を重ねるごとにフェルメルに対してスナーチェの当たりはきつくなる。
スナーチェは【結婚するんだから大事なことよ!】と譲らない。

「もう、カディはだから甘いのよ。見てみなさいよ。汚らしく日に焼けた肌。誰かに会わないといけないとか考えたことがないからこうなってるのよ。金のある伯爵家なんだからケアくらいしないとダメなのよ」

「気をつけるよ。どうしても毛刈りのシーズンは84万頭もいるから時間との勝負で・・・自分の事は後回しになっちゃって…いえ、言い訳でした。気をつけます」

「ほぉら!殊勝な事をいって反省したフリ!そういうのも良くないわ。苦言って言うのは言い難い事なの。敢えて言ってあげているのに全然なんだもの。成果が見えない反省は反省とは言えないの。改善ゼロ!やる気なし!!最初からそう言えばいいのにカッコつけちゃって」


反論をすれば激昂、大人しく認めればさらに「苦言」は続く。
「正しい方向に導く」と自身の言動に揺るぎがないスナーチェには終わりがないのだ。

そして矛先はヘリンにも向けられる。

「また!ソーサーにお茶を注いだりして!綺麗なドレスばかりに目が向いてると思っちゃダメ。こういう細かい部分を他人は見てるのよ?これだから低位貴族って嫌いなの」

「あの…この飲み方はゼスト公爵夫人に習って、王妃殿下にもお褒めの言葉――」

「社交辞令ッ!真に受けちゃダメよ。いい?時代は変わってるの。古き良き~なんて要らないの。どうして判ってくれないのかしら。私、疲れちゃったわ。もうお開きにしましょう。カディちょっと来て」


奥に向かったスナーチェはスカッドとでお茶会のやり直し。
その名目は「反省会」である。

スカッドがヘリンを見送って来ると言えば「甘やかし過ぎ。つけあがるだけ」と一蹴。

スカッドがヘリンに贈る品もスナーチェが「最終チェック」と言って勝手に品を変更し、ヘリンが手に取った時には「私の見立て、最高でしょ?」と事も忘れない。

段々とスカッドから贈られれば嬉しいはずなのに受け取る度にへリンは苦痛になっていた。


「2組の茶会」がお開きになり、屋敷に帰るための馬車に乗り込む時、フェルメルが話しかけてきた。

「不快だったよね。ごめん。色々あって父とも話をしているけど今はまだハッキリ態度を示す事が出来ないんだ」

頭を下げるフェルメル。ヘリンはその言葉に「婚約解消」を話し合っているのだと勘づいた。ヘリンとスカッドの婚約が特殊なだけでフェルメルとスナーチェの婚約はよくある貴族の婚約。
個人の意思でどうなるものでもない。

改めて自分の婚約に父親のボーン子爵が色々と制約をつけた事に感謝をした。




「あの、良かったら貰ってくれないだろうか」


フェルメルから差し出されたのは紙袋。中を覗くと綺麗に洗われてクリーム色をした羊毛がモコモコ。「これをどうしろと?」とヘリンが考えていると、フェルメルがポケットから何かを取り出した。

大きな手のひらにチョコンと小さな羊のぬいぐるみ??が現れた。


「領地の子供達と余って捨てる羊毛を使って作った人形なんだ。羊毛フェルト人形って言うんだけど…作り方は手順を書いた紙を入れてる。犬とか猫とか作ると良いよ」

「わぁ!可愛いですねぇ。お嬢様、作ってみましょうよ。この羊はサンプルで貰えるんですか?」


侍女がフェルメルの手の平の羊を指差して聞く。
ボーン子爵領にも羊はいて、侍女も幼少期は羊を放牧するバイトもした経験がある。


「あ、これは・・・ポケットに入れてて‥ほら、ここ。少し毛羽立っているだろう?サンプルが欲しいならちゃんとしたものを届けるようにするが」

「無理を言ってはダメよ」

「でも~。この羊可愛いじゃないですかぁ。ねぇ?ご子息様っ!」

「これでいいのなら・・・俺が作って不格好なんだけど」

<< えぇっ?! >>


まさかフェルメルがこの大きな手で、チョコンとした人形を作っていたとは思わなかった。
が、改めて手のひらの羊を見ると愛らしい顔をしている。

ヘリンは「頂けるのならこの子で」と申し出た。

「だったら、もうちょっと上手に作るんだった。アハハ」

照れ気味に笑うフェルメルから紙袋と羊の人形を受け取り、帰路につく。


馬車の中でヘリンは羊の人形を手のひらに乗せた。

「ふふっ、可愛い」

久しぶりに「笑おう」「笑顔、笑顔」と意識せずに笑えた気がした。



★~★

そしてロムニーの部屋。

「リン。さっき聞いたんだが・・・無理をして婚約を続けなくてもいいんだよ?」

そっと羊が入ったポケットに手を当てたヘリン。

「ううん。もうちょっと・・・」

【頑張ってみる】と言いかけて、ヘリンはふと思った。

――頑張るって何?――

スカッドとの関係を【頑張って続ける】なんて感情がわいた事にヘリンは指先が震えた。
震えは唇にも伝播する。

へリンにはスカッドの事を抜きにしてもあと少しだけ関係を続けようと考えた理由があった。
両親にも言えないその思いを飲み込んで返事を返す。

「お父様、どうせ・・・完済まであと2年も無いんだし、結婚とか‥早くてもそこから2年あるし‥もう少しこのままで。どうしてもの時は・・・お願いすると思います」

「リン、それは構わないが家の為に、皆の為にと自分以外の事を考える必要はないよ?そういう取り決めもしてるんだから、あれこれと周りに気を使う事無く自分がどうしたいかを決めればいいんだよ」

「はい…」

父ロムニーの部屋を出ると兄アゴランと兄嫁カミシアの子供がパタパタと音を立ててヘリンに駆け寄って来る。

「へぇたんっ!お話終わったぁ?!」
「終わったよ?あ、そうだ‥‥」

ごそごそとポケットに手を入れて、フェルメルから貰った羊を見せた。

「おわぁ!メェータだ!メェェー!欲しい!」
「じゃぁ一緒に作ろうか?」
「うんっ!」

カミシアが嫁いできた時、ヘリンが「ねえ様、遊んで」とつき回ったように今は甥っ子や姪っ子にヘリンがつき纏われている。

部屋に戻って甥っ子、姪っ子、そして侍女と羊毛フェルト人形の製作を始めたヘリンだった。



★~★お知らせ★~★

本日の本編はここまでです(*^-^*)

明日はいよいよ婚約破棄!!
どうなるスカッド!!走れフェルメル!!

続きは9月24日10時10分スタート!!

え~それでですね(*´σー`)エヘヘ

夕方から「身近に1人はいそうなエンガチョしたいアイドル」のスナーチェにイラっとされた方もおられるかも知れません。

かくいう作者がこのままではイラついてビール飲んでしまいそうなので・・・。

このあと、全てを無にするが飛んできます。
今夜良い夢を見るため!健やかなお肌に睡眠不足は大敵!
作者の「飲酒防止措置」なので30分後はスルーを強く推奨いたします<(_ _)>
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