18 / 34
第16話 もういいんじゃない?
しおりを挟む
ヘリンにスナーチェが紹介をされて1年と少し。
スナーチェの噂も時折耳に入って来る。
頻繁に開かれる「2組の茶会」の原因も薄々判った。
いろんな令嬢に声掛けをするものの、スナーチェの「苦言」が原因で段々と距離を取られていたのだ。暇を持て余しているから暇つぶしにと「2組の茶会」を開く。
「貴女ね、嫌味なの?なんでハイネックなのよ。そりゃ肌を見せないのは良い事よ?前回のドレスからすればそうね30点かしら。でも間違っちゃダメよ?前回はマイナスだったんだから差し引きで5点なの。カディがいるのに男性の気を引く必要性が貴女に必要?」
「あの…前回のドレスは公爵夫人が以前に着ていたものをデザインしてくださったので――」
「そう言う所!直しなさいって言ってるじゃない。もっと・・・なんていうか…自分を押し出して自分の特色を売りにすればいいの。男に媚びるような性的なアピールは必要ないのよ。叔母様がどうとかじゃないの。あ~もう。どうして判らないのか理解に苦しむわ。ほら!これも!年齢にそぐわないのよ。何時の時代のブローチなの?」
「このブローチは曾祖母のもので母が譲り受け、今日のドレスの色合――」
「違ぁう!違う違う!貴女の家族なんて所詮低俗な人間なんだから、脱却しなさい?何時までも凝り固まった古い慣習にしがみ付いてはダメよ。もっと自由に!私のように持ち物1つでも自分を表現しないとこれからの社交界で恥をかくのは貴女なのよ?私は未然に防止してあげたいから言ってるのに・・・どうしてこの気持ちが判らないのかしら」
スナーチェは「眩暈がしそう」とスカッドの肩に頬を寄せた。
スカッドは「はいはい」と面倒臭そうな返事をしながらもスナーチェの頭を抱くように優しく撫でる。
「善意は判るけどさ、押しつけがましいと思うものだっているって事だよ」
「いい?カディ。これはね忠告、注意喚起っていうの。お判り?私くらいサバサバしてて奔放に生きる女はいないわよ?」
「確かにナチェくらいあっさりと付き合える異性がいれば、男は苦労しないよ」
「でしょ?!でしょ?!私もそう思うの。今時、男に媚びる女なんて流行らないのよ。これからの時代は自分の意思で生きる私のような女の時代なの。あ~あ、私も子供、子供とか産めハラするような男じゃなくカディみたいに物分りのいい人と婚約出来てたら良かったのに」
「ハハハ。全くだな。だけど何もかも手に入らないのが人生ってやつだろ?」
「そうなの~。神様って意地悪よね」
スナーチェは向かいのベンチにヘリンと並んで腰かけるフェルメルに蔑んだ視線を向けながら、スカッドの腕に縋りつき、泣き真似まで披露する。
フェルメルは何も言わずに茶を飲み、反論をしても今は無意味とばかりに時間が過ぎるのを待つだけ。
ヘリンはスカッドに失望し続けていた。
徐々に薄れていくスカッドへの思い。こんな気持ちを抱いてはいけないと自分を叱りつけて来た。
スナーチェの言動をスカッドに『ちょっとキツイわ』と溢した事もあった。
が、スカッドの返事は簡単なモノだった。
『キツく聞こえるけど善意からだと思えばいいよ。実際善意だし』
==そうか、善意なんだ==
そう思い込もうとするけれど、ずっと心にモヤモヤがあったが、先程のスカッドの言葉でそのモヤモヤが晴れた。
【何もかも手に入らないのが人生】
確かにそうなのだ。何もかも思い通りに手に入る人生などない。
――なんだ、じゃぁもういいじゃない――
スカッドがそこまでスナーチェの言い分を支持するのならそれでいい。
この茶会だってスカッドとスナーチェだけの方が遥かに有意義な時間になる事だろう。
ヘリンはそう思うと隣のフェルメルにそっと視線を向けた。
羊毛フェルトをフェルメルに勧められて始めた事で、判らない所を聞き、上手く製作出来た時の喜びはひとしお。出来上がりの良いものを売り物ではなく飾りで小物店に置かせてもらうと、お忍びでやってきた王女殿下の目に留まり、昼間に行われる狩猟会などで夫人達が成果を待つ会場では自慢大会が行われるようになった。
王女殿下を真似て貴族の間では色々な動物を羊毛フェルトで作り、帽子のツバで物語を演出するのが流行始めた。
1つ2つではなく、帽子のツバを全周使って表現するため、領民の小遣い稼ぎだった人形作りはもはや事業と言って良い。
しかしフェルメルは「一時的な事だから」と専用の工房は作らなかったので、ムウトン伯爵領の領民達が羊毛の布地も扱っているボーン子爵に話をしてくれないかとヘリンに頼んできた。
ボーン子爵家では兄嫁のカミシアが代表となって期間限定のアンテナショップを「売れる時に売る」と出店した。店員や奥の部屋で人形を作っているのはボーン子爵領とムウトン伯爵領の領民たち。
帰り道にアンテナショップに寄り道をして色々な新作を見せ合うのが楽しみになっていた。
「あら、お嬢さん。今日は若旦那様は来てないんですよ」
「え?ち、違うわ。蹄の部分をどう取りつけるか聞こうと思っただけです」
「そうだったんですか?よく来られるのは若旦那様に会うためかと」
「違います。そう言うの誤解されるとムウトン様が困りますし…まだ判らない所もあるので教えてもらおうと思って来てたんですけど…」
「あ、そっか。なんだかねぇ。お嬢さんが来ると若旦那様も機嫌がいいんだよ~。お嬢さんがお嫁さんに来てくれるんなら良かったのに。でもねぇあの娘さんじゃぁねぇ…」
気さくなムウトン伯爵領の領民達との時間はあっという間に過ぎてしまう。気が付けば明け方まで没頭してしまう羊毛フェルト人形作りはへリンには楽しくて仕方なかった。
――会えなくなるの・・・寂しいな――
まだ恋にもならない気持ちだが、フェルメルと人形作りの事で意見を交わす場はヘリンには癒しだった。
スナーチェの噂も時折耳に入って来る。
頻繁に開かれる「2組の茶会」の原因も薄々判った。
いろんな令嬢に声掛けをするものの、スナーチェの「苦言」が原因で段々と距離を取られていたのだ。暇を持て余しているから暇つぶしにと「2組の茶会」を開く。
「貴女ね、嫌味なの?なんでハイネックなのよ。そりゃ肌を見せないのは良い事よ?前回のドレスからすればそうね30点かしら。でも間違っちゃダメよ?前回はマイナスだったんだから差し引きで5点なの。カディがいるのに男性の気を引く必要性が貴女に必要?」
「あの…前回のドレスは公爵夫人が以前に着ていたものをデザインしてくださったので――」
「そう言う所!直しなさいって言ってるじゃない。もっと・・・なんていうか…自分を押し出して自分の特色を売りにすればいいの。男に媚びるような性的なアピールは必要ないのよ。叔母様がどうとかじゃないの。あ~もう。どうして判らないのか理解に苦しむわ。ほら!これも!年齢にそぐわないのよ。何時の時代のブローチなの?」
「このブローチは曾祖母のもので母が譲り受け、今日のドレスの色合――」
「違ぁう!違う違う!貴女の家族なんて所詮低俗な人間なんだから、脱却しなさい?何時までも凝り固まった古い慣習にしがみ付いてはダメよ。もっと自由に!私のように持ち物1つでも自分を表現しないとこれからの社交界で恥をかくのは貴女なのよ?私は未然に防止してあげたいから言ってるのに・・・どうしてこの気持ちが判らないのかしら」
スナーチェは「眩暈がしそう」とスカッドの肩に頬を寄せた。
スカッドは「はいはい」と面倒臭そうな返事をしながらもスナーチェの頭を抱くように優しく撫でる。
「善意は判るけどさ、押しつけがましいと思うものだっているって事だよ」
「いい?カディ。これはね忠告、注意喚起っていうの。お判り?私くらいサバサバしてて奔放に生きる女はいないわよ?」
「確かにナチェくらいあっさりと付き合える異性がいれば、男は苦労しないよ」
「でしょ?!でしょ?!私もそう思うの。今時、男に媚びる女なんて流行らないのよ。これからの時代は自分の意思で生きる私のような女の時代なの。あ~あ、私も子供、子供とか産めハラするような男じゃなくカディみたいに物分りのいい人と婚約出来てたら良かったのに」
「ハハハ。全くだな。だけど何もかも手に入らないのが人生ってやつだろ?」
「そうなの~。神様って意地悪よね」
スナーチェは向かいのベンチにヘリンと並んで腰かけるフェルメルに蔑んだ視線を向けながら、スカッドの腕に縋りつき、泣き真似まで披露する。
フェルメルは何も言わずに茶を飲み、反論をしても今は無意味とばかりに時間が過ぎるのを待つだけ。
ヘリンはスカッドに失望し続けていた。
徐々に薄れていくスカッドへの思い。こんな気持ちを抱いてはいけないと自分を叱りつけて来た。
スナーチェの言動をスカッドに『ちょっとキツイわ』と溢した事もあった。
が、スカッドの返事は簡単なモノだった。
『キツく聞こえるけど善意からだと思えばいいよ。実際善意だし』
==そうか、善意なんだ==
そう思い込もうとするけれど、ずっと心にモヤモヤがあったが、先程のスカッドの言葉でそのモヤモヤが晴れた。
【何もかも手に入らないのが人生】
確かにそうなのだ。何もかも思い通りに手に入る人生などない。
――なんだ、じゃぁもういいじゃない――
スカッドがそこまでスナーチェの言い分を支持するのならそれでいい。
この茶会だってスカッドとスナーチェだけの方が遥かに有意義な時間になる事だろう。
ヘリンはそう思うと隣のフェルメルにそっと視線を向けた。
羊毛フェルトをフェルメルに勧められて始めた事で、判らない所を聞き、上手く製作出来た時の喜びはひとしお。出来上がりの良いものを売り物ではなく飾りで小物店に置かせてもらうと、お忍びでやってきた王女殿下の目に留まり、昼間に行われる狩猟会などで夫人達が成果を待つ会場では自慢大会が行われるようになった。
王女殿下を真似て貴族の間では色々な動物を羊毛フェルトで作り、帽子のツバで物語を演出するのが流行始めた。
1つ2つではなく、帽子のツバを全周使って表現するため、領民の小遣い稼ぎだった人形作りはもはや事業と言って良い。
しかしフェルメルは「一時的な事だから」と専用の工房は作らなかったので、ムウトン伯爵領の領民達が羊毛の布地も扱っているボーン子爵に話をしてくれないかとヘリンに頼んできた。
ボーン子爵家では兄嫁のカミシアが代表となって期間限定のアンテナショップを「売れる時に売る」と出店した。店員や奥の部屋で人形を作っているのはボーン子爵領とムウトン伯爵領の領民たち。
帰り道にアンテナショップに寄り道をして色々な新作を見せ合うのが楽しみになっていた。
「あら、お嬢さん。今日は若旦那様は来てないんですよ」
「え?ち、違うわ。蹄の部分をどう取りつけるか聞こうと思っただけです」
「そうだったんですか?よく来られるのは若旦那様に会うためかと」
「違います。そう言うの誤解されるとムウトン様が困りますし…まだ判らない所もあるので教えてもらおうと思って来てたんですけど…」
「あ、そっか。なんだかねぇ。お嬢さんが来ると若旦那様も機嫌がいいんだよ~。お嬢さんがお嫁さんに来てくれるんなら良かったのに。でもねぇあの娘さんじゃぁねぇ…」
気さくなムウトン伯爵領の領民達との時間はあっという間に過ぎてしまう。気が付けば明け方まで没頭してしまう羊毛フェルト人形作りはへリンには楽しくて仕方なかった。
――会えなくなるの・・・寂しいな――
まだ恋にもならない気持ちだが、フェルメルと人形作りの事で意見を交わす場はヘリンには癒しだった。
84
あなたにおすすめの小説
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
「やはり鍛えることは、大切だな」
イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」
その日、一つのお見合いがあった。
ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。
クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。
そして互いに挨拶を交わすその場にて。
ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。
けれども……――。
「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
別れたいようなので、別れることにします
天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリザは、両親が優秀な魔法使いという理由でルグド王子の婚約者になる。
魔法学園の入学前、ルグド王子は自分より優秀なアリザが嫌で「力を抑えろ」と命令していた。
命令のせいでアリザの成績は悪く、ルグドはクラスメイトに「アリザと別れたい」と何度も話している。
王子が婚約者でも別れてしまった方がいいと、アリザは考えるようになっていた。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―
柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。
しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。
「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」
屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え――
「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。
「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」
愛なき結婚、冷遇される王妃。
それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。
――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる