あなたの愛はいつだって真実

cyaru

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第27話  煩わしさ

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レティツィアがいなくなって半年も経つとハーベル公爵家には以前の日常が戻っていた。

使用人の顔触れは変わったものの、フローラが自由に出入りするようになり以前と同じようにバークレイの妻が使用する部屋を我が物顔で使用する。

「ここは君の部屋じゃない」
「そうよね~趣味悪っ。壁紙とか最悪よね。でも解るわ。私がいなくなって寂しかったんでしょう?」

以前は膝の上に座り、頬を撫でるフローラの手が心地良かったが今は違う。
ネットリとして嫌な汗が腋に噴き出してしまう。

クラン侯爵家からの融資が止まり、返済を求められたがハーベル公爵は訴えを起こし返済の停止を求めた。

バークレイは再婚をしておらず、レティツィアがいなくなったのもハーベル公爵家としては不可抗力。貴族院は申し立てを保留していて、クラン侯爵家は融資をする必要はないが、返済もない状況に置かれた。

しかしハーベル公爵家としてはどこかから金を工面しなければたちまち倒れてしまう。
失踪宣告が受理され次第出戻りのフローラを迎える約束をボッラク伯爵に取り付けて凌いでいる。

なので、失踪宣告を早く受理してもらわねば困ると各種法の見直しを検討する貴族議員に働きかけていた。


ボッラク伯爵家から金を受け取るためにはフローラを無碍には出来ない。
バークレイが渋ってはいるが、元々フローラはバークレイが望んだ女性。ハーベル公爵夫妻はフローラの出入りを認めたため、毎日のようにやって来る。それも以前の通りに。

「父上、フローラに何故出入りを認めたんですか!」
「何か困る事でもあるのか?侯爵家の娘がいた時はもっと派手だっただろう」
「それは・・・でも今は違います」
「何が違うんだ?あぁ…正妻とされる女がいないからな。良かったじゃないか。煩わしさもないだろう」

当主である父親が認めたのならバークレイは何も言えない。
心の中で「当主に成ったら追い出してやる」と毒吐くのが精いっぱいだった。



「可哀想なレイ。慰めてあげる」
「いいよ。やめてくれ。そんな気分じゃない」

そう言って抵抗しても夜に寝ていれば寝所を挟んだ2人の部屋には鍵もない。
寝込みを襲われ「仕方ない」と思いつつもバークレイはフローラと体の関係も復活させていた。

「子供は出来ないから安心していいわよ?」
「どう言う意味だ?」
「避妊薬を飲んでるの。失踪宣告が受理される前に子供が出来たら大変でしょう?」

ニヤリと笑うフローラにバークレイは戦慄を覚えたが体は正直に反応してしまう。
アルマンドの間者が盗み見をしているとも知らずに快楽に耽ったのだった。


★~★


辺境は王都から離れた位置にあり、領界は国境でもある。
気候は王都とはかなり違い、南東に位置している事もあって冬よりも夏が長い。

しかし短い冬は山間部とあって厳しくその時期は外界と遮断されてしまう。

2度目の雪解けを超えて、ヴィルフレードの元には冬季に王都で目だった動きが無い事に胸を撫でおろした。

レティツィアは未だに思い出す事が無いようだが、今日はメイドが部屋にある花瓶に生けた白い花を見て何か考え込んでしまった。


「どうしたんだ?」
「この白いダリヤなんだけど…大事なことを忘れてる気がするの」
「ダリヤ?オレンジとかじゃなく白?」
「そうなの。メイドさんが持って来てくれたんだけど」


ヴィルフレードは調べたので知っていた。
ハーベル公爵家にも常識を知る使用人はいたようで、レティツィアの捜索を完全に打ち切った、しかもいなくなって3カ月も経っていないのにもう捜索を打ち切り、バークレイに新しい妻を見繕っている事を知って退職した者がいた。

その元使用人から「昔の婚約者が亡くなったが、月命日には墓参に行き白いダリヤなど感謝の意味を持つ花を供えていた」と聞きだしていた。

亡くなった婚約者には勝てない。
勝った負けたではないが、もう張り合う事など出来ないのでレティツィアが月命日には必ず墓参していた事に軽く嫉妬はしたが、同時に不安になった。

元婚約者もかなり年が離れていた。年齢差は実に40を超えていた。
貴族の婚約や婚姻にはありがちだが、もしかするとレティツィアは「父親」を求めているのではないかと思ったのだ。

クラン侯爵は父親としてレティツィアに接する事はなかったようだと報告は受けているが年の差がある場合に相手には父性を強く求めてしまう者がいるのも事実だった。


「ツィアは・・・父親についてどう思う?」

発作のようになるのも最近はなりを潜めている。
酷だと思ったがつい聞いてしまった。

「ん?そうねぇ…フレッド様は子供が欲しいの?」
「え?そういう…まぁそうだな」

ヴィルフレードは「クラン侯爵をどう思うか」と言う意味で問うたが、レティツィアは「子供にとってどんな父親になって欲しいか」と問うたのだと思った。

「そうねぇ…フレッド様は甘い父親になりそう」
「そうかな?」
「だって、私にも凄く甘いでしょう?全然叱らないし」
「ツィアには叱る所が無いからさ。俺だって叱る時は叱るよ」
「私は・・・叱られた事が無いの。今も思うの。お父様はなんであんなに怒ってたんだろうって」

両親の事はよく思い出す。その記憶は幼少期のものだが、叱られたのではなく怒られた記憶だ。それも早口でとても人には聞かせられない汚い言葉で延々と罵られた記憶。

「ツィア。おいで」

ヴィルフレードはレティツィアの表情が少し曇ると胡坐をかいて、座らせて後ろから抱きしめる。

最初の頃は「いい子だよ」と慰めていたがこの頃は「愛しているよ」と囁く。
すると擽ったそうな顔をしてレティツィアが微笑んでくれる。

紙切れでどうこうと左右される煩わしさがない平民のようになりたい・・・そんな事も思ってしまった。
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