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最終話 あなたの愛はいつだって真実
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記憶が戻れば、王都の風景も見慣れた景色。3年ぶりとなる王都は何も変わっていないように見えた。
――私が変わっちゃったんだ――
懐かしいと思うよりも、気持ちの中には早く辺境に帰りたいという思いがあった。
未練があるとすればゲルハ伯爵の墓参が途中で終わってしまった事だけ。
ヴィルフレードは本隊は先に常駐宿としている宿屋に向かわせたがレティツィアを相乗りさせてゲルハ伯爵の眠る墓地に向かった。
途中であの花屋に立ち寄った。
「あ!お客さん!久しぶりですね」
「本当に。お花を買いたいの。白いダリヤはあるかしら」
「ありますよ~。入ったばかりです」
しかし、花を買い、墓地に行ってみて愕然とした。
「酷いわ・・・誰も来てないなんて」
「全くだな。よし、草を抜くぞ」
「え?・・・いいの?」
ゲルハ伯爵の墓標は草に覆われてしまって寝かせた墓石は見えなくなっていた。
ヴィルフレードはしゃがみ込んで草を抜き始める。レティツィアも一緒になって草を抜いた。
花屋は約束通り預けた金で花を供えてくれていた。
ただ、花屋も商売。預かり金が無くなったあとは来ていなかったらしい。
3,4時間かかって草を抜き終わると一旦この場を離れ、花屋に行くと桶とブラシを貸してもらいもう一度墓地に行き、綺麗に磨き上げた。
「これでゲルハ伯爵も守った街並みが良く見えるようになったな」
「えぇ・・フレッド様、ありがとう」
「礼を言うのは俺だ。本当は・・・何もかも。なんて事をしてくれるんだとツィアに呆れられると思っていたんだ。ここは心の拠り所でもあっただろうし、俺には踏み入れられたくない場所かも知れないと思ったんだ」
「そんなことないわよ」
「アハハ。もうツィアに愛想つかされないように毎日がドキドキなんだ。毎日が背水の陣だよ」
2人はゲルハ伯爵に「結婚をします」と報告を済ませた。
「ゲルハ伯爵のツィアへの想いは愛だな。父親の愛に近かったのかと思ったけど…ここに来て判った気がする。きっと年はかなり離れていても夫として愛してたんだ」
「夫になる前だったけど…」
「線引きするねぇ‥そんなツィアも好きだけど。なんか・・・ホント年の差なんて関係ないんだってここに来てやっと解った気がするんだ」
「年の差‥気にしてたの?私はフレッド様の年齢を気にした事はなかったけど」
「そりゃ気にするさ。寿命とか言われる年まであと5年くらいしかないんだぞ?俺が死んだあとツィアはどうなるんだろうと思ったら死にきれないよ」
死にきれない。ヴィルフレードの言葉にレティツィアも記憶を消していたのはもしかすると本当にゲルハ伯爵なのかも?とあり得ない事を考えてしまった。
ヴィルフレードは花屋に桶を返した後、ロッソ家のお抱えとするので月に一度、ゲルハ伯爵の墓標も掃除し、花を供えてくれるようにと頼んだのだった。
★~★
迎えた国王への報告の日。
王都に辺境伯の一行が来ている事は民衆の間でも噂になっていて、一目国を守る部隊を見ようと宿屋の前は人だかりが出来ていた。
宿屋の前に騎士が取り囲む馬車が停車した。真っ白い軍服に金の飾緒が右肩から胸に垂れるヴィルフレードは馬から降りるとレティツィアをエスコートし馬車に載せた。
「見えた?」
「見えた!!すっごい美人!」
「見えなかったぁ!!」
「辺境伯って…オーラが半端ないッ」
ほんの僅かな姿でも拝めればと詰め掛けた民衆も隊列が動き始める合図に道を開けた。
その民衆に遮られてハーベル公爵家のバークレイとフローラの乗った馬車は足止めをされて馬車の中ではフローラがバークレイを毒吐いていた。
「何よ。滅多に見ない田舎の女でしょ!猿か熊じゃないの?こっちは公爵家なのに!道を開けろっての。ねぇ。レイっ!」
「あぁ、そうだな。でもこの道を通るって言ったのお前だ。文句言うな」
爵位としては辺境伯家よりも公爵家の方が上だがもうハーベル公爵家は何時まで持つかと言われているほどに傾いていた。国王の目論見通りフローラが公爵夫人となった事で事業の手を広げようとしたボッラク伯爵家も今は借金だらけで頼みの綱は海路交易の収益のみ。それも入金が海の向こうの国の通貨で支払われるので為替が影響しこちらの通貨が安くなっている今更に負債を増やしていた。
ボッラク伯爵家が全てを失うのが先か、ハーベル公爵家が先か。
オッズバーでは「どちらも同時」が一番人気だった。
★~★
王宮に到着をした馬車は異例の国王と王妃が出迎えに立った。
その隣にはアルマンドがいる。
そして、遅れて来た事が災いしたのかバークレイとフローラは一番端に並んでいた。
馬車の進む方向から先に見えたバークレイとフローラ。レティツィアは「真実の愛ね」と呟いた。自分が死んだことで本懐を遂げられたのなら幸せの絶頂。しかしレティツィアも幸せの中にいる。
――これが世で言うWINWINね――
次に馬車の中からアルマンドの姿を視界に捉えたレティツィアはつい睨んでしまった。
ゲルハ伯爵から貰ったものはもう心の中にある無形な思い出しかない。唯一であるぬいぐるみを火の中に放り込み新しいものを買うと告げたアルマンド。
知らなかった事を加味しても、レティツィアには許せる行為ではなかった。
がヴィルフレードから貰ったぬいぐるみも馬車に同乗している。「同じ物はもう無かった」とヴィルフレードが言った通り違うウサギである事は一目瞭然。それでもレティツィアは「これでいいんだ」と思えた。
――許すとか許さないんじゃないわ。胸の中にあのウサギはいるんだもの――
レティツィアが馬車から一歩を踏み出すとアルマンドが駆け寄ってきた。
アルマンドから遅れる事数歩でバークレイが「信じられない!」と驚きの表情で駆け寄ってくる。
しかし「ご遠慮ください」と兵士に制止をされた。
「レティ!」
アルマンドの声にレティツィアはヴィルフレードを見た。小さくヴィルフレードが頷くのを見てレティツィアはカーテシーを取った。
「我が王国の光、アルマンド王太子殿下にご挨拶申し上げます」
「レティ!覚えててくれたんだね!よかった・・・会いたかったよ」
スッと顔をあげたレティツィアは薄く微笑んだ。
「わたくし、王太子殿下にお目にかかるのは初めてで御座いますが、お会いできたこと、大変光栄に感じております」
ここまでだと国王が兵士に命じ、アルマンドを下げさせた。この場で「失踪宣告」の事を叫ばれては迷惑なだけ。目の前にいるのはただのレティツィアであり、アルマンドの知るレティツィアではないのだ。
それに嘘は言っていない。
王太子であるアルマンドに会うのはこの日が初めてなのだ。
が、面倒な男はもう1人いた。
喜びなのか驚きなのか。顔をクシャっとっ歪め、両手を広げてバークレイが近寄って来た。アルマンドと同じく兵士に制止をされるが、アルマンドと違いこちらは叫び出した。
「探したんだ!どうしてあの日消えたんだ!」
――変な男が乱入してきたからよ!大変だったんだから!――
まだ髪はあの当時と同じ長さではない。3年経ってもまだ腰までは届いていないのだ。
が、ヴィルフレードからバークレイが再婚した事は聞いていた。先程も夫婦で並んで待っていたではないか。それに「探してた」「何処に消えた」と気遣うような言葉もレティツィアにすればどの口が言う。である。
またチラリとヴィルフレードを見ればかなり苛立っている。
――そりゃそうよねぇ…私もイラっとしてるもの――
レティツィアがアルマンドへの言葉と同じく、バークレイにも挨拶をしようとした時、フローラの声が響いた。
「あら?先妻様じゃない。必死になっちゃって…貴女も大変ね?」
公爵家と辺境伯家。その立ち位置が上だからと高慢な物言いをするが居並んだものが冷ややかな視線を向けている事が解らないのだろうか。
可哀想にもなるが挨拶はして欲しいようなのでレティツィアはフローラにもカーテシーを取った。
「ハーベル公爵家、ご夫妻に置かれましては王都の民ならず全土の民の憧れ真実の愛を貫かれたとのこと。若輩者ゆえにまだ真実の愛を見出すには至っておりませんが、参考にはさせて頂きたく存じます」
「なんですって!」
フローラにも「よく恥ずかしげもなくこの場に顔を出せるわね?」と解ったようで何より。
「違うんだよ。僕はレティツィアとやり直そうとしたんだ。今ならまだやり直せる。そうだろう?」
兵士に腕を掴まれながらもバークレイはじりじりと前により泣きそうな声で懇願した。国王に報告するまでが勝負だと思っているのだろうか。だとすればとんでもない花畑だ。
その報告ありきで国王が時間と場を割いているのだ。覆らない決定事項だと何故わからないのか。
ややこしい事に場から離されたアルマンドまで制止を振り切って駆け寄ってきた。
そして2人が口を揃えて「愛しているのはレティツィアだけ」「真実の愛はレティツィアにある」という。
記憶はもう全部戻っているのに、戻りかけた時よりも頭が痛い。
「貴方の愛はいつだって真実でしょう。でも、私は貴方の真実に付き合うつもりはありません」
「行きましょう」とヴィルフレードに手を差し出すとヴィルフレードは指先にキスを落とす。そしてヴィルフレードのエスコートで2人は歩き始めた。
兵士に連れられて、アルマンドはおそらく控室へ。フローラとバークレイはまた別の控室に連行されていく。背を向けたレティツィアが振り返る事はなかった。
★~★
「愚息が申し訳ない。ハーベル家にも然るべき罰を与える。あんな場で何とみっともない」
詫びる国王だったがレティツィアはアルマンドには次期国王として再度立場を見直して貰えればと要求し、バークレイ達は‥‥どうでも良かった。
こんな場での失態など公爵家としてはあるまじき行為。
浮上する事はないだろう。
そしてそのハーベル公爵家が無くなればクラン侯爵家も連座で倒れる。
融資した金の回収は永遠に叶わなくなり、貸付先を見誤ったと貴族からは笑われるだけ。むしろ良く3年も持ったとそこだけは父の侯爵を褒めてもいいかも知れない。
もう生きている間には来る事も見る事ない王宮。
レティツィアは辺境伯夫人として生きていく。
国を守る防壁がヴィルフレードなら、ヴィルフレードの居場所を守る事がレティツィアの仕事であり、そこが居場所だ。
憂いだったゲルハ伯爵の事もヴィルフレードが片付けてくれた。
見納めとなる王都の街に感慨もなかった。
「帰ろうか」
「えぇ」
手を取り合い、これからは辺境でレティツィアはヴィルフレードと2人だけの愛を育む。
「俺は真実の愛とか、そんな事は言わないよ」
「ふふっ。そうね。貴方の愛はいつだって私にはかけがえのない事実だもの」
Fin
★~★
長い話にお付き合いいただきありがとうございました。
――私が変わっちゃったんだ――
懐かしいと思うよりも、気持ちの中には早く辺境に帰りたいという思いがあった。
未練があるとすればゲルハ伯爵の墓参が途中で終わってしまった事だけ。
ヴィルフレードは本隊は先に常駐宿としている宿屋に向かわせたがレティツィアを相乗りさせてゲルハ伯爵の眠る墓地に向かった。
途中であの花屋に立ち寄った。
「あ!お客さん!久しぶりですね」
「本当に。お花を買いたいの。白いダリヤはあるかしら」
「ありますよ~。入ったばかりです」
しかし、花を買い、墓地に行ってみて愕然とした。
「酷いわ・・・誰も来てないなんて」
「全くだな。よし、草を抜くぞ」
「え?・・・いいの?」
ゲルハ伯爵の墓標は草に覆われてしまって寝かせた墓石は見えなくなっていた。
ヴィルフレードはしゃがみ込んで草を抜き始める。レティツィアも一緒になって草を抜いた。
花屋は約束通り預けた金で花を供えてくれていた。
ただ、花屋も商売。預かり金が無くなったあとは来ていなかったらしい。
3,4時間かかって草を抜き終わると一旦この場を離れ、花屋に行くと桶とブラシを貸してもらいもう一度墓地に行き、綺麗に磨き上げた。
「これでゲルハ伯爵も守った街並みが良く見えるようになったな」
「えぇ・・フレッド様、ありがとう」
「礼を言うのは俺だ。本当は・・・何もかも。なんて事をしてくれるんだとツィアに呆れられると思っていたんだ。ここは心の拠り所でもあっただろうし、俺には踏み入れられたくない場所かも知れないと思ったんだ」
「そんなことないわよ」
「アハハ。もうツィアに愛想つかされないように毎日がドキドキなんだ。毎日が背水の陣だよ」
2人はゲルハ伯爵に「結婚をします」と報告を済ませた。
「ゲルハ伯爵のツィアへの想いは愛だな。父親の愛に近かったのかと思ったけど…ここに来て判った気がする。きっと年はかなり離れていても夫として愛してたんだ」
「夫になる前だったけど…」
「線引きするねぇ‥そんなツィアも好きだけど。なんか・・・ホント年の差なんて関係ないんだってここに来てやっと解った気がするんだ」
「年の差‥気にしてたの?私はフレッド様の年齢を気にした事はなかったけど」
「そりゃ気にするさ。寿命とか言われる年まであと5年くらいしかないんだぞ?俺が死んだあとツィアはどうなるんだろうと思ったら死にきれないよ」
死にきれない。ヴィルフレードの言葉にレティツィアも記憶を消していたのはもしかすると本当にゲルハ伯爵なのかも?とあり得ない事を考えてしまった。
ヴィルフレードは花屋に桶を返した後、ロッソ家のお抱えとするので月に一度、ゲルハ伯爵の墓標も掃除し、花を供えてくれるようにと頼んだのだった。
★~★
迎えた国王への報告の日。
王都に辺境伯の一行が来ている事は民衆の間でも噂になっていて、一目国を守る部隊を見ようと宿屋の前は人だかりが出来ていた。
宿屋の前に騎士が取り囲む馬車が停車した。真っ白い軍服に金の飾緒が右肩から胸に垂れるヴィルフレードは馬から降りるとレティツィアをエスコートし馬車に載せた。
「見えた?」
「見えた!!すっごい美人!」
「見えなかったぁ!!」
「辺境伯って…オーラが半端ないッ」
ほんの僅かな姿でも拝めればと詰め掛けた民衆も隊列が動き始める合図に道を開けた。
その民衆に遮られてハーベル公爵家のバークレイとフローラの乗った馬車は足止めをされて馬車の中ではフローラがバークレイを毒吐いていた。
「何よ。滅多に見ない田舎の女でしょ!猿か熊じゃないの?こっちは公爵家なのに!道を開けろっての。ねぇ。レイっ!」
「あぁ、そうだな。でもこの道を通るって言ったのお前だ。文句言うな」
爵位としては辺境伯家よりも公爵家の方が上だがもうハーベル公爵家は何時まで持つかと言われているほどに傾いていた。国王の目論見通りフローラが公爵夫人となった事で事業の手を広げようとしたボッラク伯爵家も今は借金だらけで頼みの綱は海路交易の収益のみ。それも入金が海の向こうの国の通貨で支払われるので為替が影響しこちらの通貨が安くなっている今更に負債を増やしていた。
ボッラク伯爵家が全てを失うのが先か、ハーベル公爵家が先か。
オッズバーでは「どちらも同時」が一番人気だった。
★~★
王宮に到着をした馬車は異例の国王と王妃が出迎えに立った。
その隣にはアルマンドがいる。
そして、遅れて来た事が災いしたのかバークレイとフローラは一番端に並んでいた。
馬車の進む方向から先に見えたバークレイとフローラ。レティツィアは「真実の愛ね」と呟いた。自分が死んだことで本懐を遂げられたのなら幸せの絶頂。しかしレティツィアも幸せの中にいる。
――これが世で言うWINWINね――
次に馬車の中からアルマンドの姿を視界に捉えたレティツィアはつい睨んでしまった。
ゲルハ伯爵から貰ったものはもう心の中にある無形な思い出しかない。唯一であるぬいぐるみを火の中に放り込み新しいものを買うと告げたアルマンド。
知らなかった事を加味しても、レティツィアには許せる行為ではなかった。
がヴィルフレードから貰ったぬいぐるみも馬車に同乗している。「同じ物はもう無かった」とヴィルフレードが言った通り違うウサギである事は一目瞭然。それでもレティツィアは「これでいいんだ」と思えた。
――許すとか許さないんじゃないわ。胸の中にあのウサギはいるんだもの――
レティツィアが馬車から一歩を踏み出すとアルマンドが駆け寄ってきた。
アルマンドから遅れる事数歩でバークレイが「信じられない!」と驚きの表情で駆け寄ってくる。
しかし「ご遠慮ください」と兵士に制止をされた。
「レティ!」
アルマンドの声にレティツィアはヴィルフレードを見た。小さくヴィルフレードが頷くのを見てレティツィアはカーテシーを取った。
「我が王国の光、アルマンド王太子殿下にご挨拶申し上げます」
「レティ!覚えててくれたんだね!よかった・・・会いたかったよ」
スッと顔をあげたレティツィアは薄く微笑んだ。
「わたくし、王太子殿下にお目にかかるのは初めてで御座いますが、お会いできたこと、大変光栄に感じております」
ここまでだと国王が兵士に命じ、アルマンドを下げさせた。この場で「失踪宣告」の事を叫ばれては迷惑なだけ。目の前にいるのはただのレティツィアであり、アルマンドの知るレティツィアではないのだ。
それに嘘は言っていない。
王太子であるアルマンドに会うのはこの日が初めてなのだ。
が、面倒な男はもう1人いた。
喜びなのか驚きなのか。顔をクシャっとっ歪め、両手を広げてバークレイが近寄って来た。アルマンドと同じく兵士に制止をされるが、アルマンドと違いこちらは叫び出した。
「探したんだ!どうしてあの日消えたんだ!」
――変な男が乱入してきたからよ!大変だったんだから!――
まだ髪はあの当時と同じ長さではない。3年経ってもまだ腰までは届いていないのだ。
が、ヴィルフレードからバークレイが再婚した事は聞いていた。先程も夫婦で並んで待っていたではないか。それに「探してた」「何処に消えた」と気遣うような言葉もレティツィアにすればどの口が言う。である。
またチラリとヴィルフレードを見ればかなり苛立っている。
――そりゃそうよねぇ…私もイラっとしてるもの――
レティツィアがアルマンドへの言葉と同じく、バークレイにも挨拶をしようとした時、フローラの声が響いた。
「あら?先妻様じゃない。必死になっちゃって…貴女も大変ね?」
公爵家と辺境伯家。その立ち位置が上だからと高慢な物言いをするが居並んだものが冷ややかな視線を向けている事が解らないのだろうか。
可哀想にもなるが挨拶はして欲しいようなのでレティツィアはフローラにもカーテシーを取った。
「ハーベル公爵家、ご夫妻に置かれましては王都の民ならず全土の民の憧れ真実の愛を貫かれたとのこと。若輩者ゆえにまだ真実の愛を見出すには至っておりませんが、参考にはさせて頂きたく存じます」
「なんですって!」
フローラにも「よく恥ずかしげもなくこの場に顔を出せるわね?」と解ったようで何より。
「違うんだよ。僕はレティツィアとやり直そうとしたんだ。今ならまだやり直せる。そうだろう?」
兵士に腕を掴まれながらもバークレイはじりじりと前により泣きそうな声で懇願した。国王に報告するまでが勝負だと思っているのだろうか。だとすればとんでもない花畑だ。
その報告ありきで国王が時間と場を割いているのだ。覆らない決定事項だと何故わからないのか。
ややこしい事に場から離されたアルマンドまで制止を振り切って駆け寄ってきた。
そして2人が口を揃えて「愛しているのはレティツィアだけ」「真実の愛はレティツィアにある」という。
記憶はもう全部戻っているのに、戻りかけた時よりも頭が痛い。
「貴方の愛はいつだって真実でしょう。でも、私は貴方の真実に付き合うつもりはありません」
「行きましょう」とヴィルフレードに手を差し出すとヴィルフレードは指先にキスを落とす。そしてヴィルフレードのエスコートで2人は歩き始めた。
兵士に連れられて、アルマンドはおそらく控室へ。フローラとバークレイはまた別の控室に連行されていく。背を向けたレティツィアが振り返る事はなかった。
★~★
「愚息が申し訳ない。ハーベル家にも然るべき罰を与える。あんな場で何とみっともない」
詫びる国王だったがレティツィアはアルマンドには次期国王として再度立場を見直して貰えればと要求し、バークレイ達は‥‥どうでも良かった。
こんな場での失態など公爵家としてはあるまじき行為。
浮上する事はないだろう。
そしてそのハーベル公爵家が無くなればクラン侯爵家も連座で倒れる。
融資した金の回収は永遠に叶わなくなり、貸付先を見誤ったと貴族からは笑われるだけ。むしろ良く3年も持ったとそこだけは父の侯爵を褒めてもいいかも知れない。
もう生きている間には来る事も見る事ない王宮。
レティツィアは辺境伯夫人として生きていく。
国を守る防壁がヴィルフレードなら、ヴィルフレードの居場所を守る事がレティツィアの仕事であり、そこが居場所だ。
憂いだったゲルハ伯爵の事もヴィルフレードが片付けてくれた。
見納めとなる王都の街に感慨もなかった。
「帰ろうか」
「えぇ」
手を取り合い、これからは辺境でレティツィアはヴィルフレードと2人だけの愛を育む。
「俺は真実の愛とか、そんな事は言わないよ」
「ふふっ。そうね。貴方の愛はいつだって私にはかけがえのない事実だもの」
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★~★
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わぁ❤️
サビネコさんがここでも大活躍❤️
わたくし、猿の軍○だけ知らなかったです😭
思わずグーグル先生に教えて頂きました❤️これで今夜も爆睡です🙆
結局、レティとフレッドのイチャコラ回ということね😁
ゴォ~ット○ァ~ズ‼️
わたくしも叫んでおきます。
ウフウフ( *´艸`)面白かったです。
では、明日も早いのでここらで寝ます。
おやすみなさい(ΘдΘ)
コメントありがとうございます。<(_ _)>
サビネコ便、久しぶりの登場で御座いますよ(*^-^*)
この頃はキリ番が出ていないので副賞をお届けするお宅も出ておりませんので是非とも!狙ってサビネコに仕事をさせていただきたいと思っておりますよ(*^-^*)
猿の軍●ご存じなかったですか???
ぐるぐる先生は物知りでございますからね♡
ワシも教えて頂く事が多いですよ~。
「ぐるぐる先生、ワシの年齢は幾つ?」「製造は昭和の32歳!」とかね(笑)
ヴィルフレードの筋肉増強お買い物・・・落ち着くところはアナログな腹筋運動で御座いましたが、魅惑がいっぱい!1回目のご褒美で毎回挫折するので愛妻レティツィアに疑われておりますよ(;^_^A
さぁ、ワシも叫んでおこうかな「デ●ラー放、発射!」 あれ?アニメがちゃうぞ??
楽しんで頂けて良かったです(*^-^*)
ラストまでお付き合いいただきありがとうございました<(_ _)>
いい夢を見てくだされ(-_-)zzz
一気読みしましたーーー!! おもろかったヽ(*´▽)ノ♪
そして 王さまの腹黒にクスリ(笑
アルマンド……… まだまだだな…(*´Д`)=зフッ
でもまぁ 海の向こうの王女様とうまく行く事を祈る… ←がっつり漢前とかすげー癒し系とか? なんかわからんが 幸せになるといいなぁ………とは思う ←国王が監視しろ!! と言ったんで《なんかするか》と思ったんだが 完結しちゃったね(笑
閑話は2/3くらいですかねー 好き嫌いのジャンルもあるのでw
コメントありがとうございます。<(_ _)>
今回は国王が国王らしいと言いますか、ハーベル公爵もクラン侯爵もボッラク伯爵も利益重視で人権度外視のクズだったんですけども、個人の利益ではなく国益を考えてアルマンドも「ま、これで成長するでしょ」っとレティツィアに見切りをつけさせるためもありますけども利用します。
国王も私情がないかと言えばあるんですけども、全てを丸く収めるにはこのくらいの腹黒さでいいかな~っとか(*^-^*)
実は今回、国王の出番って少ないんですけども、影のキューピッドの役目でもあり逆キューピッドもさせているのです(*^-^*)
コメントでこの国王!お声を寄せて頂けてとても嬉しいです(*^-^*)
閑話は既に消えている・・・(ΦωΦ)フフフ…
滑り込みでしたかね(*^-^*)
年代によってはもう放送も終わっていて伝説回?くらいになってたり、一時のブームだったりもありますので・・・ちなみにワシはハードルにした●めこと●びとは好きではなかった(笑)
ハードルと言いながら「あー、あった!あった!」と思って頂ければいいかな~なぁんて(;^_^A
楽しんで頂けて良かったです(*^-^*)
ラストまでお付き合いいただきありがとうございました<(_ _)>
昭和ワールド読んでから感想書こう……と思っていたのですが、最終話に追記されていたのに気付きませんでしたorz
前半の登場人物、ゲルハ伯爵以外全員クズでレティツィア不憫でなりませんでした。
尚、アルマンドはウサギのぬいぐるみ燃やした時点でクズ側入りしました。
ボッラク伯爵家は見た瞬間笑いました。そしてどのタイミングで没落するのだろうと……( ゚д゚)ハッ!ゲルハ伯爵の髪型ってもしかして……?
ヴィルフレッドは勝手に美丈夫なイケオジ(当然イケボ)で再現されました。
脱線しますが、砂嵐でテレビ埼玉(現・テレ玉)が朝8時か9時から放送開始で、砂嵐からカラー表示、放送開始前に昭和歌謡が流れるのを見るのが楽しみだった小学校低学年の夏休みを思い出しました。
コメントありがとうございます。<(_ _)>
閑話の登場は真夜中も真夜中で御座いましたよ~(;^_^A
消えていくイリュージョンとかミスって公開してしまった話回を使う時もあるんですけども、今回は気がつけば使える回が無い?!_| ̄|○
完結をした後に、気が付いた人だけ!っとなっておりますよ(*^-^*)
このタイプは実はそろそろ消えちゃうのです(笑)
色んなタイプの閑話で楽しんで頂こうかと思いまして(;^_^A
アルマンドはね、あの行為さえなければ、結婚は無理だったとしてもここまで嫌われる事はなかったんですけどね。
大切なものと言うのは有形、無形で色々。どうして伯爵の所にこんなものが?と考えなくちゃいけなかったんですけどね。「代わりを」なんて・・・レティツィアにすればその行為と言葉で遺産に群がる親族のヤカラと一緒になっちゃった。
ボッラク伯爵の名前はもうまんまなのです(笑)あぁ、これは落ちるなと思って頂ければいいかなーっと説明も省ける?なぁんて思っちゃった(;^_^A
ヴィルフレードはイケオジなのですよ(*^-^*)
掘りの深い顔で目はしゅっと切れ長。野山もかけずり回るので無駄な筋肉もないし鍛え上げられた体幹もバッチリな体をしております(笑)
それでも奥様のレティツィアは若いので閑話では体力作りをしようと色々買っちゃうという(笑)
勿論イケボで御座いますよ。囁かれるとそれだけでゾクゾク♡
砂の嵐。やはり全国放送(そうなの?!)で御座いましたか。
切り替わる時はトランペットの哀愁漂う音楽だったり、昭和歌謡の後にカラフルな模様になって「砂の嵐!!」っと放送が始まるのですけども、切り替わる時は逆だったか!!
これは良い情報をありがとうございます♡
夜更かしも「え?こんな時間?」っていう早起きも夏休みならではで御座いますよ♡
子供が小学生の時はもう夏休みの中間にある「登校日」って無くなってたんですけどね。
ワシの時代はまだその日を「終戦記念日」とカレンダーにも書かれておりました。今は「終戦の日」なんですよねぇ‥。ここも名前が変わっちゃってまぁ(笑)
ラストまでお付き合いいただきありがとうございました<(_ _)>