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第一王子の答辞
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学園の卒業式の日。
この制服に袖を通すのも今日が最後、そして制服を脱げば本格的に神殿、そして王家との対立が顕著となるのは明白だがせめて今日だけはまだ「ヴィアトリーチェ」としていられるのだと笑顔を見せた。
学年の首席はステファンであるが、慣習に従い王家の王子や王女が在籍している場合は継承権順位が上の王家の者が答辞を読む事となっていた。
ルセリックは卒業生130人の中で中ほど、70番目ほどの成績だが答辞を読む事が決まっていた。
卒業式を迎えるに辺り、ルセリックは益々追い込まれていた。
次期国王を選定する会議は卒業後2か月ほどすれば始まってしまう。
選定の前日までは王位継承権第一位という立場は余程でない限り揺らぐものではない。
だが禁書を読み解いていないルセリックは選定が始まれば【価値無し】として扱われる。
選定する候補として値しないという定義それは
神殿、王家双方の許可なく婚姻をした者
妊娠した者及び、妊娠をさせた者
禁書を読み解けていない者
この3点だったが、ルセリックは3番目に該当していた。
勿論、この3つに該当していても選ばれる場合もある。
それは王位継承者が1人となった場合である。競う者がいなければ国王になれるのだ。
ヴィアトリーチェはルセリックと婚約中であり、婚姻はしていない。
身持ちの堅い事から妊娠の可能性はゼロに等しいだろう。
そして禁書は既に読み解いている事は明らかでおそらくハッタリではない。
ルセリックは一人考え、至った結論はヴィアトリーチェの【心を折る】事だった。
王妃教育が不要だと豪語したのは第一王子であるルセリックと婚姻をしてどちらが王となっても問題ない事からルセリックを【王配】扱いするつもりなのだろうと考えた。
ならばその鼻っ柱をへし折ってやれば、泣き崩れて継承権を放棄するだろう。強がりを言ったところで、ルセリックと婚姻が出来ないとなれば描いていた未来図も破り捨てるしかない。
ごめんなさいと足元に泣いて縋れば、体つきも成熟している事から愛妾として目を掛けてやってもいいかとほくそ笑んだ。
そして卒業式に参列する面々を見てまさにこの舞台はルセリックの為に誂えられたものではないのかと気分も高揚する。父である国王、母である王妃は勿論の事、日頃から散々に自分を憐みの目で見ていた第二王子以下の同学年で側妃とその側妃を母に持つ弟妹。
おまけに3大公爵家も5つある侯爵家のうち3家も全て卒業生がいるため当主夫妻が出席。
さらにこの頃顔も見せないが未だ側近のチャールズの父である神殿の最高権力者である教皇も参列をするのだ。これ以上の面子が揃う事など滅多にある事ではない。
よくよく考えればソフィーナは聖乙女なのだ。これ以上に自分に相応しい女性などこの世に存在するのだろうか、いいや存在するのはただ一人、ソフィーナだけでそれ以外の聖乙女などあり得ない。
入場したヴィアトリーチェを見れば澄ました顔で着席している。
ソフィーナとは少し席が離れているが、ソフィーナもこの場にいる。
来賓扱いの父である国王、そして教皇の祝辞が終わり在校生代表が送辞を述べている。
ルセリックは今か今かとその時を待った。
送辞が終わり、拍手の音が小さくなると卒業生代表としてルセリックの名が呼ばれる。
席を立ったルセリックは答辞を書いた紙を握りしめ壇上に上がった。
しんと静まり返る会場を見ると全員がルセリックに注目をしていた。
カサリと音を立てて包んだ書面を広げる。
「3年前、青く晴れた日に校門をくぐったのが昨日の事に思えてなりませんが、本日旅立ちの日がやってまいりました。このように荘厳で、盛大な卒業式を挙行していただき、心より感謝申し上げます」
言葉が途切れたが、次の句を言うのだろうと誰も身動きしない中、ルセリックはバンっと演説台の天板を両手で叩き大きな音を立てた。「なんだ?」と小さな騒めきが起きる。
「この場を借りて私は第一王子、そして次の治世を統べる者として声高らかに宣言をするッ!」
来賓席で国王が身を乗り出すのが視界の隅に入る。ソフィーナにも言っていなかったからかキョロキョロと周りの様子を伺うのが壇上からよく見えた。
ヴィアトリーチェは微動だにせず、ただじっとルセリックを注視していた。
【ルクセル公爵家ヴィアトリーチェとの婚約を破棄し、私はソフィーナに愛を捧げる】
「あぁ~」と小さく呟くと国王は浮かせていた腰を椅子に下ろし額を押さえた。
教皇は側近に何やら小声で問いかけているがすぐに小さく頷いた。
「ソフィーナ・ドルテ!壇上に」
呼びかけるとソフィーナは立ち上がり、周りを見渡すと勝ち誇ったような表情で壇上に小走りで上がってくる。ソフィーナを隣に置き、その腰を抱きながらルセリックはヴィアトリーチェの名を呼んだ。
しかしヴィアトリーチェは立ち上がりもせず、椅子に座ったままで微笑んでいる。
周りの卒業生もそんなヴィアトリーチェを見てこんどは壇上のルセリックを見て、クスクスと笑ったり耳元で何かを囁くと、肩を震わせて笑いを堪えているのか俯いている。
「ヴィ、ヴィアトリーチェ!聞こえなかったか!立ち上がりここに来い!」
流石に不味いと講師や学園長たちが壇上に上がり、ルセリックに降りるように諭した。
国王も王妃もたまらず席を立ち、壇上に上がってくる。
隣にいるソフィーナが見えないのか国王はルセリックに殴りかかり頬に拳を叩きこんだ。
「ち、父上、何をするのです。乱暴な!」
「ばっバカ者が…何をしたか判っているのか!」
「えぇ。判っていますとも。次期国王として不穏分子であるルクセル公爵家のヴィアトリーチェとの婚約を破棄し、ここにいるソフィーナとの愛を皆の前に知らしめたのです」
もう一度その頬に拳を叩きこまねば判らないのかと言わんばかりに国王の固く握った拳が震えている。ヴィアトリーチェは側近であるアリオン、ステファン、フレイザーを伴って壇上に上がり、床に転がったルセリックを見下ろし冷たい視線を浴びせた。
「ドルテ様、お聞きいたします」
「えっ?えっ?わたくし?どうして?」
ルセリックではなくソフィーナに聞きたい事があるとヴィアトリーチェは言った。
何故だ?とルセリックは頭が混乱するが、その混乱は更に大きくなる予兆に過ぎなかった。
「ドルテ様、もしも貴女が愛せるのならば婚約者の椅子は差し上げますわ」
婚約破棄を受け入れるともとれる発言に誰もが言葉を失った。
問われたソフィーナは制服のスカートを少しつまみ片足を後ろに引いた。
この制服に袖を通すのも今日が最後、そして制服を脱げば本格的に神殿、そして王家との対立が顕著となるのは明白だがせめて今日だけはまだ「ヴィアトリーチェ」としていられるのだと笑顔を見せた。
学年の首席はステファンであるが、慣習に従い王家の王子や王女が在籍している場合は継承権順位が上の王家の者が答辞を読む事となっていた。
ルセリックは卒業生130人の中で中ほど、70番目ほどの成績だが答辞を読む事が決まっていた。
卒業式を迎えるに辺り、ルセリックは益々追い込まれていた。
次期国王を選定する会議は卒業後2か月ほどすれば始まってしまう。
選定の前日までは王位継承権第一位という立場は余程でない限り揺らぐものではない。
だが禁書を読み解いていないルセリックは選定が始まれば【価値無し】として扱われる。
選定する候補として値しないという定義それは
神殿、王家双方の許可なく婚姻をした者
妊娠した者及び、妊娠をさせた者
禁書を読み解けていない者
この3点だったが、ルセリックは3番目に該当していた。
勿論、この3つに該当していても選ばれる場合もある。
それは王位継承者が1人となった場合である。競う者がいなければ国王になれるのだ。
ヴィアトリーチェはルセリックと婚約中であり、婚姻はしていない。
身持ちの堅い事から妊娠の可能性はゼロに等しいだろう。
そして禁書は既に読み解いている事は明らかでおそらくハッタリではない。
ルセリックは一人考え、至った結論はヴィアトリーチェの【心を折る】事だった。
王妃教育が不要だと豪語したのは第一王子であるルセリックと婚姻をしてどちらが王となっても問題ない事からルセリックを【王配】扱いするつもりなのだろうと考えた。
ならばその鼻っ柱をへし折ってやれば、泣き崩れて継承権を放棄するだろう。強がりを言ったところで、ルセリックと婚姻が出来ないとなれば描いていた未来図も破り捨てるしかない。
ごめんなさいと足元に泣いて縋れば、体つきも成熟している事から愛妾として目を掛けてやってもいいかとほくそ笑んだ。
そして卒業式に参列する面々を見てまさにこの舞台はルセリックの為に誂えられたものではないのかと気分も高揚する。父である国王、母である王妃は勿論の事、日頃から散々に自分を憐みの目で見ていた第二王子以下の同学年で側妃とその側妃を母に持つ弟妹。
おまけに3大公爵家も5つある侯爵家のうち3家も全て卒業生がいるため当主夫妻が出席。
さらにこの頃顔も見せないが未だ側近のチャールズの父である神殿の最高権力者である教皇も参列をするのだ。これ以上の面子が揃う事など滅多にある事ではない。
よくよく考えればソフィーナは聖乙女なのだ。これ以上に自分に相応しい女性などこの世に存在するのだろうか、いいや存在するのはただ一人、ソフィーナだけでそれ以外の聖乙女などあり得ない。
入場したヴィアトリーチェを見れば澄ました顔で着席している。
ソフィーナとは少し席が離れているが、ソフィーナもこの場にいる。
来賓扱いの父である国王、そして教皇の祝辞が終わり在校生代表が送辞を述べている。
ルセリックは今か今かとその時を待った。
送辞が終わり、拍手の音が小さくなると卒業生代表としてルセリックの名が呼ばれる。
席を立ったルセリックは答辞を書いた紙を握りしめ壇上に上がった。
しんと静まり返る会場を見ると全員がルセリックに注目をしていた。
カサリと音を立てて包んだ書面を広げる。
「3年前、青く晴れた日に校門をくぐったのが昨日の事に思えてなりませんが、本日旅立ちの日がやってまいりました。このように荘厳で、盛大な卒業式を挙行していただき、心より感謝申し上げます」
言葉が途切れたが、次の句を言うのだろうと誰も身動きしない中、ルセリックはバンっと演説台の天板を両手で叩き大きな音を立てた。「なんだ?」と小さな騒めきが起きる。
「この場を借りて私は第一王子、そして次の治世を統べる者として声高らかに宣言をするッ!」
来賓席で国王が身を乗り出すのが視界の隅に入る。ソフィーナにも言っていなかったからかキョロキョロと周りの様子を伺うのが壇上からよく見えた。
ヴィアトリーチェは微動だにせず、ただじっとルセリックを注視していた。
【ルクセル公爵家ヴィアトリーチェとの婚約を破棄し、私はソフィーナに愛を捧げる】
「あぁ~」と小さく呟くと国王は浮かせていた腰を椅子に下ろし額を押さえた。
教皇は側近に何やら小声で問いかけているがすぐに小さく頷いた。
「ソフィーナ・ドルテ!壇上に」
呼びかけるとソフィーナは立ち上がり、周りを見渡すと勝ち誇ったような表情で壇上に小走りで上がってくる。ソフィーナを隣に置き、その腰を抱きながらルセリックはヴィアトリーチェの名を呼んだ。
しかしヴィアトリーチェは立ち上がりもせず、椅子に座ったままで微笑んでいる。
周りの卒業生もそんなヴィアトリーチェを見てこんどは壇上のルセリックを見て、クスクスと笑ったり耳元で何かを囁くと、肩を震わせて笑いを堪えているのか俯いている。
「ヴィ、ヴィアトリーチェ!聞こえなかったか!立ち上がりここに来い!」
流石に不味いと講師や学園長たちが壇上に上がり、ルセリックに降りるように諭した。
国王も王妃もたまらず席を立ち、壇上に上がってくる。
隣にいるソフィーナが見えないのか国王はルセリックに殴りかかり頬に拳を叩きこんだ。
「ち、父上、何をするのです。乱暴な!」
「ばっバカ者が…何をしたか判っているのか!」
「えぇ。判っていますとも。次期国王として不穏分子であるルクセル公爵家のヴィアトリーチェとの婚約を破棄し、ここにいるソフィーナとの愛を皆の前に知らしめたのです」
もう一度その頬に拳を叩きこまねば判らないのかと言わんばかりに国王の固く握った拳が震えている。ヴィアトリーチェは側近であるアリオン、ステファン、フレイザーを伴って壇上に上がり、床に転がったルセリックを見下ろし冷たい視線を浴びせた。
「ドルテ様、お聞きいたします」
「えっ?えっ?わたくし?どうして?」
ルセリックではなくソフィーナに聞きたい事があるとヴィアトリーチェは言った。
何故だ?とルセリックは頭が混乱するが、その混乱は更に大きくなる予兆に過ぎなかった。
「ドルテ様、もしも貴女が愛せるのならば婚約者の椅子は差し上げますわ」
婚約破棄を受け入れるともとれる発言に誰もが言葉を失った。
問われたソフィーナは制服のスカートを少しつまみ片足を後ろに引いた。
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