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禁書が明かされるとき
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胸に手を当てて、軸足を少し後ろに引いて軽く頭を垂れているのはチャールズだった。
「皆さま。お待ちしていましたよ」
バタンと扉が閉じられると神官たちは国王、王妃そしてルクセル公爵とヴィアトリーチェを拘束した。
「何の真似だ!」
叫ぶ国王と驚きと恐怖で声も出ない王妃。
ルクセル公爵とヴィアトリーチェは声には出さずとも「なるほど」と神殿がソフィーナ、そしてルセリックを連れ去った理由に合点がいった。
「ヴィアトリーチェ。ここへ」
教皇が声を出すとヴィアトリーチェを拘束している神官は有無を言わせずに数歩前にヴィアトリーチェを突き出した。ヴィアトリーチェの顎を掴み、含み笑いを浮かべると神官はグラスにワインを注ぎ始めた。
「何をするのです。拘束を解きなさい」
「そうして差し上げたいのはやまやまだが、これから神聖な戴冠式なのだ。いや、神国の誕生と言った方がいいかな?その前に用済みの老害には眠って頂こうか」
「貴様っ。国王である私に―――」
「五月蠅い豚には浴びるほどワインを飲んで頂こうか」
顎を掴まれ無理やり開かされた口に溢れるほどのワインを流し込まれ、咳きこみ、ヒューヒューと息をする事すら苦しい程に悶える国王をチャールズはまるで虫を弄るかのように指で押し、声をあげて笑う。
「狂ってるわ…誰も彼も…」
ヴィアトリーチェの呟きにチャールズは少年のように微笑み、ゆっくりと近づいてきた。
「王に向かって何という言い草かな?お仕置きが必要だね」
「王ですって?誰が貴方を認めるものですか!」
「強がりを言うのも今のうちだ。さぁ儀式を始めよう。父上っ!」
ヴィアトリーチェの頬を撫でるように首筋から目元に手のひらで撫でるとチャールズは立ち上がり、神官に指で合図を送った。神官がゆっくりと部屋の奥にある扉に向かい、ノックをする。
ヴィアトリーチェとルクセル公爵が扉に視線を向けた時、扉が開き出てきたのはルセリックとソフィーナだった。
――まさか…2人をここで――
ヴィアトリーチェは背筋にゾクリと冷たいものが流れ込んだ。
カチャカチャとソフィーナは歩くたびに金属の音がする。足枷を付けられているのだと直ぐに判った。
「何をするの?わたくしは聖乙女なのよ…こんな事許されないわ。チャールズっ!」
「五月蠅いメスブタだな。いやブタの方がもっと可愛い顔をしているか」
「なっ!そ、そうね…そうだったわ。チャールズっわたくしまだ貴方を癒してなかったわ。ごめんなさい。後回しにしたつもりはないの!言ってくれれば何時だって貴方を――」
パンッ
チャールズの手がソフィーナの頬を打った。
頬を張られた事に驚くソフィーナだったが、その手足についた枷は祭壇にある石の十字架に嵌められていく。ゴゴゴと何かを巻き上げるような音がするとソフィーナが悲鳴をあげた。
大きく広げた両手の枷が横一文字になった十字架に巻きあげられ体がつま先立ちをしても床には届かない高さに吊り上げられた。腕だけで自身の体を支えるソフィーナは泣いて下ろしてくれと懇願をするが、チャールズは祭壇にあったのであろう短剣を手にすると、躊躇することなく鞘から抜いた。
ソフィーナを見上げながら、ウエストからドレスにナイフの刃を当て引裂いていく。
2カ月の手入れですっかり肉付も良くなり、肌の荒れもなくなった白い肌が露わになるとその胸に短剣の刃を研ぐかのようにピタリと添わせた。
「ヒィィッ…やめて…やめてよ。チャールズっ!どうしちゃったの!」
「洗礼の儀式…汚れた乙女はこうやって穢れを落とすのさ」
ルセリックを見れば腰を抜かしたのか、足に力が入らないのか自身を連れ立ってきた神官が後ろに引っ張られるように倒れそうになっていた。
そんなルセリックを見てチャールズは勝ち誇ったようにナイフの刃をベロリと舐めるとルセリックの頭を鷲掴みにして顔を床にねじ伏せた。
「禁書を読み解けなかった元第一王子。どうせすぐにその命で罪をあがなうのだから教えてやろう。禁書に書かれているのはね。こうやって神殿が用意した純潔の乙女を国王が生きたまま楔を打ち付けるんだ。女王の時は女を知らない男を神殿が用意する。だから神殿の神官は男も女も性行為に興味がない。そういう風に教育をしているからね。だけど誰だって生きながら楔を打ち込まれるのは怖いよね?人って勝手だよねぇ。自分の身代わりになってくれるものが与えられると皆喜んで奉仕をするんだ。
だけどね、時々いるんだよ。聖乙女だと言いながら何人もの男とまぐわった薄汚れた者がね、そう言う時は浄化が必要なんだ。王族の青い血で浄化をするんだよ。君は愚かだけど賢かった。君に子供でも出来ていたら僕は神国の王になれなかった。ヴィアトリーチェという純潔の女王も失う所だったよ」
「嘘だろ…チャールズ。そんな…そんな事…ただの人殺しじゃないか」
「これだから愚鈍な人間は困るんだ。国を統べるというのはね簡単な事じゃないんだよ。愛だの恋だのでどうにかなるなら王族も貴族もいらないし、死への恐怖を信仰で誤魔化す必要もない。誰だって依り代が欲しいんだよ。でも大丈夫だ。君は僕の為にその血を捧げる。愚かな第一王子から崇高な存在になれるんだよ。さぁ、その血をこのナイフに吸わせよう。そしてあの聖乙女の心臓に突き刺せば全てがここから始まるんだ」
チャールズはルセリックに向かって手にしたナイフを振り上げた。
「お止めなさいっ!」
今にも振り下ろそうとした手がピタリと止まった。
ゆっくりとヴィアトリーチェを振り返ったチャールズは「困った子だ」と呟き首を傾げた。
「貴方は王には成れないし、させない。神国?笑わせないで。この国はわたくしが統べる国。このような悪しき慣習も終わりよ。ナイフを棄てなさいっ」
ヴィアトリーチェの言葉に気を取られたチャールズにルセリックは思い切り飛び掛かるとその手に噛みついた。後ろ手に縛られたまま転がるようにヴィアトリーチェの元にたどり着く。
噛み切られるかと思うほどの力で噛みつかれたチャールズは手から血を流しながら蹲って動かない。ルセリックはその間にと考えたのかヴィアトリーチェに頼んだ。
「すまない。縄を解いてくれないか」
しばしルクセル公爵と目を合わせたヴィアトリーチェはルセリックの縛られている結び目を解いた。ルセリックは手首にまだ縄がついてはいるものの両手が動かせる事に、腕を回した。
「なっ‥何を‥されるのですっ」
ヴィアトリーチェの首を腕で締め上げながら、チャールズが落とした短剣を拾い上げた。
「ヴィアッ!ここまでだ!」
ルセリックが錯乱したと感じたアリオンは神官に扮した時に手にした杖を思い切り窓に向かって放り投げた。ステンドガラスに当たった杖は突き破り、大きな音を立てながらガラスが割れていく。
細い繋ぎ目だけで支えられていたステンドガラスは要石が外れた橋のように順番に崩壊していく。
「うわぁっ!」
「教皇様っ危険です!こちらへっ」
「逃がすか!」
ちらりとヴィアトリーチェを見るが、まだ落ち着いていると判断しアリオンは逃げ出そうとした教皇に向かって走り出した。中から何かしら大きな音を立てる合図をすれば第一、第二騎士団が突入してくる事になっている。その時に教皇に逃げられていては元の木阿弥である。
ステンドガラスの桟になっていた木切れを拾い上げるとヴィアトリーチェの声がした。
「絶対に殺してはいけませんっ!生きて罪を償わせるのですっ」
その声に反応したのはアリオンだけではなかった。ルセリックもまたその声に体をびくりと震わせた。そして事も在ろうかヴィアトリーチェを締め上げていた腕を弛めると拾った短剣でヴィアトリーチェを斬りつけた。
咄嗟に手首を掴んだヴィアトリーチェだったが、力ではやはり敵わない。
ギリギリと締め付けても、ナイフを落とさせるまでには力が及ばない。
「お前が死ねば…王になれる…神殿の人間は全員首を刎ねてやるッ」
「そんな事を‥‥すれば貴方も人殺し…ですわ…うぐっ…」
「俺が王だ…王は絶対なんだ」
ガっと掴んだ手首を掴んだ手を振り払われる。ルセリックは短剣を振り下ろした。
ガチャっと鈍い音と共にヴィアトリーチェは肩に冷たさと重さを感じた。
「この痴れ者がッ!ヴィアトリーチェは神国の贄となるんだ。手出しはさせない」
燭台で振り下ろした剣を受け、その重みがヴィアトリーチェの肩に触れたのだった。
同時に扉の向こうから騒がしい音がする。騎士団が突入したための音だと気が付くとヴィアトリーチェはドレスのウェスト部分のホックを外した。
バッと外れたドレスの膨らみはマントのようになりルセリックを覆った。
「ヤァッ!!」
背後にいたチャールズに回転しながらの回し蹴りを叩きこむ。
ドレスのパニエを取り払ったヴィアトリーチェは女騎士のようにズボンを穿いていた。
まさか脚が飛んでくると思わなかったチャールズはその場に失神してしまった。
「ヴィアっ!大丈夫か!」
「大丈夫ですわ。ちょっと肩が脱臼してしまっただけですわ」
「脱臼って…勘弁してくれ‥」
「アリオンは心配し過ぎなのよ。これくらい想定の範囲内でしょうに」
「とにかく、医者だ。先に治療をするぞ」
「何を言ってますの。先に民に挨拶ですわ」
神殿には礼拝に来ていた信者もいる。人里離れた場所にあるわけでもなく騎士団が突入し騒ぎになっている事は一般の民衆も知るところとなり、建物の外には大勢の民衆が押しかけてきていた。
大半は野次馬ではあるものの、ヴィアトリーチェは即位を知らしめる絶好のチャンスだと表玄関が一望できるバルコニーに向かって歩いた。
「皆さま。お待ちしていましたよ」
バタンと扉が閉じられると神官たちは国王、王妃そしてルクセル公爵とヴィアトリーチェを拘束した。
「何の真似だ!」
叫ぶ国王と驚きと恐怖で声も出ない王妃。
ルクセル公爵とヴィアトリーチェは声には出さずとも「なるほど」と神殿がソフィーナ、そしてルセリックを連れ去った理由に合点がいった。
「ヴィアトリーチェ。ここへ」
教皇が声を出すとヴィアトリーチェを拘束している神官は有無を言わせずに数歩前にヴィアトリーチェを突き出した。ヴィアトリーチェの顎を掴み、含み笑いを浮かべると神官はグラスにワインを注ぎ始めた。
「何をするのです。拘束を解きなさい」
「そうして差し上げたいのはやまやまだが、これから神聖な戴冠式なのだ。いや、神国の誕生と言った方がいいかな?その前に用済みの老害には眠って頂こうか」
「貴様っ。国王である私に―――」
「五月蠅い豚には浴びるほどワインを飲んで頂こうか」
顎を掴まれ無理やり開かされた口に溢れるほどのワインを流し込まれ、咳きこみ、ヒューヒューと息をする事すら苦しい程に悶える国王をチャールズはまるで虫を弄るかのように指で押し、声をあげて笑う。
「狂ってるわ…誰も彼も…」
ヴィアトリーチェの呟きにチャールズは少年のように微笑み、ゆっくりと近づいてきた。
「王に向かって何という言い草かな?お仕置きが必要だね」
「王ですって?誰が貴方を認めるものですか!」
「強がりを言うのも今のうちだ。さぁ儀式を始めよう。父上っ!」
ヴィアトリーチェの頬を撫でるように首筋から目元に手のひらで撫でるとチャールズは立ち上がり、神官に指で合図を送った。神官がゆっくりと部屋の奥にある扉に向かい、ノックをする。
ヴィアトリーチェとルクセル公爵が扉に視線を向けた時、扉が開き出てきたのはルセリックとソフィーナだった。
――まさか…2人をここで――
ヴィアトリーチェは背筋にゾクリと冷たいものが流れ込んだ。
カチャカチャとソフィーナは歩くたびに金属の音がする。足枷を付けられているのだと直ぐに判った。
「何をするの?わたくしは聖乙女なのよ…こんな事許されないわ。チャールズっ!」
「五月蠅いメスブタだな。いやブタの方がもっと可愛い顔をしているか」
「なっ!そ、そうね…そうだったわ。チャールズっわたくしまだ貴方を癒してなかったわ。ごめんなさい。後回しにしたつもりはないの!言ってくれれば何時だって貴方を――」
パンッ
チャールズの手がソフィーナの頬を打った。
頬を張られた事に驚くソフィーナだったが、その手足についた枷は祭壇にある石の十字架に嵌められていく。ゴゴゴと何かを巻き上げるような音がするとソフィーナが悲鳴をあげた。
大きく広げた両手の枷が横一文字になった十字架に巻きあげられ体がつま先立ちをしても床には届かない高さに吊り上げられた。腕だけで自身の体を支えるソフィーナは泣いて下ろしてくれと懇願をするが、チャールズは祭壇にあったのであろう短剣を手にすると、躊躇することなく鞘から抜いた。
ソフィーナを見上げながら、ウエストからドレスにナイフの刃を当て引裂いていく。
2カ月の手入れですっかり肉付も良くなり、肌の荒れもなくなった白い肌が露わになるとその胸に短剣の刃を研ぐかのようにピタリと添わせた。
「ヒィィッ…やめて…やめてよ。チャールズっ!どうしちゃったの!」
「洗礼の儀式…汚れた乙女はこうやって穢れを落とすのさ」
ルセリックを見れば腰を抜かしたのか、足に力が入らないのか自身を連れ立ってきた神官が後ろに引っ張られるように倒れそうになっていた。
そんなルセリックを見てチャールズは勝ち誇ったようにナイフの刃をベロリと舐めるとルセリックの頭を鷲掴みにして顔を床にねじ伏せた。
「禁書を読み解けなかった元第一王子。どうせすぐにその命で罪をあがなうのだから教えてやろう。禁書に書かれているのはね。こうやって神殿が用意した純潔の乙女を国王が生きたまま楔を打ち付けるんだ。女王の時は女を知らない男を神殿が用意する。だから神殿の神官は男も女も性行為に興味がない。そういう風に教育をしているからね。だけど誰だって生きながら楔を打ち込まれるのは怖いよね?人って勝手だよねぇ。自分の身代わりになってくれるものが与えられると皆喜んで奉仕をするんだ。
だけどね、時々いるんだよ。聖乙女だと言いながら何人もの男とまぐわった薄汚れた者がね、そう言う時は浄化が必要なんだ。王族の青い血で浄化をするんだよ。君は愚かだけど賢かった。君に子供でも出来ていたら僕は神国の王になれなかった。ヴィアトリーチェという純潔の女王も失う所だったよ」
「嘘だろ…チャールズ。そんな…そんな事…ただの人殺しじゃないか」
「これだから愚鈍な人間は困るんだ。国を統べるというのはね簡単な事じゃないんだよ。愛だの恋だのでどうにかなるなら王族も貴族もいらないし、死への恐怖を信仰で誤魔化す必要もない。誰だって依り代が欲しいんだよ。でも大丈夫だ。君は僕の為にその血を捧げる。愚かな第一王子から崇高な存在になれるんだよ。さぁ、その血をこのナイフに吸わせよう。そしてあの聖乙女の心臓に突き刺せば全てがここから始まるんだ」
チャールズはルセリックに向かって手にしたナイフを振り上げた。
「お止めなさいっ!」
今にも振り下ろそうとした手がピタリと止まった。
ゆっくりとヴィアトリーチェを振り返ったチャールズは「困った子だ」と呟き首を傾げた。
「貴方は王には成れないし、させない。神国?笑わせないで。この国はわたくしが統べる国。このような悪しき慣習も終わりよ。ナイフを棄てなさいっ」
ヴィアトリーチェの言葉に気を取られたチャールズにルセリックは思い切り飛び掛かるとその手に噛みついた。後ろ手に縛られたまま転がるようにヴィアトリーチェの元にたどり着く。
噛み切られるかと思うほどの力で噛みつかれたチャールズは手から血を流しながら蹲って動かない。ルセリックはその間にと考えたのかヴィアトリーチェに頼んだ。
「すまない。縄を解いてくれないか」
しばしルクセル公爵と目を合わせたヴィアトリーチェはルセリックの縛られている結び目を解いた。ルセリックは手首にまだ縄がついてはいるものの両手が動かせる事に、腕を回した。
「なっ‥何を‥されるのですっ」
ヴィアトリーチェの首を腕で締め上げながら、チャールズが落とした短剣を拾い上げた。
「ヴィアッ!ここまでだ!」
ルセリックが錯乱したと感じたアリオンは神官に扮した時に手にした杖を思い切り窓に向かって放り投げた。ステンドガラスに当たった杖は突き破り、大きな音を立てながらガラスが割れていく。
細い繋ぎ目だけで支えられていたステンドガラスは要石が外れた橋のように順番に崩壊していく。
「うわぁっ!」
「教皇様っ危険です!こちらへっ」
「逃がすか!」
ちらりとヴィアトリーチェを見るが、まだ落ち着いていると判断しアリオンは逃げ出そうとした教皇に向かって走り出した。中から何かしら大きな音を立てる合図をすれば第一、第二騎士団が突入してくる事になっている。その時に教皇に逃げられていては元の木阿弥である。
ステンドガラスの桟になっていた木切れを拾い上げるとヴィアトリーチェの声がした。
「絶対に殺してはいけませんっ!生きて罪を償わせるのですっ」
その声に反応したのはアリオンだけではなかった。ルセリックもまたその声に体をびくりと震わせた。そして事も在ろうかヴィアトリーチェを締め上げていた腕を弛めると拾った短剣でヴィアトリーチェを斬りつけた。
咄嗟に手首を掴んだヴィアトリーチェだったが、力ではやはり敵わない。
ギリギリと締め付けても、ナイフを落とさせるまでには力が及ばない。
「お前が死ねば…王になれる…神殿の人間は全員首を刎ねてやるッ」
「そんな事を‥‥すれば貴方も人殺し…ですわ…うぐっ…」
「俺が王だ…王は絶対なんだ」
ガっと掴んだ手首を掴んだ手を振り払われる。ルセリックは短剣を振り下ろした。
ガチャっと鈍い音と共にヴィアトリーチェは肩に冷たさと重さを感じた。
「この痴れ者がッ!ヴィアトリーチェは神国の贄となるんだ。手出しはさせない」
燭台で振り下ろした剣を受け、その重みがヴィアトリーチェの肩に触れたのだった。
同時に扉の向こうから騒がしい音がする。騎士団が突入したための音だと気が付くとヴィアトリーチェはドレスのウェスト部分のホックを外した。
バッと外れたドレスの膨らみはマントのようになりルセリックを覆った。
「ヤァッ!!」
背後にいたチャールズに回転しながらの回し蹴りを叩きこむ。
ドレスのパニエを取り払ったヴィアトリーチェは女騎士のようにズボンを穿いていた。
まさか脚が飛んでくると思わなかったチャールズはその場に失神してしまった。
「ヴィアっ!大丈夫か!」
「大丈夫ですわ。ちょっと肩が脱臼してしまっただけですわ」
「脱臼って…勘弁してくれ‥」
「アリオンは心配し過ぎなのよ。これくらい想定の範囲内でしょうに」
「とにかく、医者だ。先に治療をするぞ」
「何を言ってますの。先に民に挨拶ですわ」
神殿には礼拝に来ていた信者もいる。人里離れた場所にあるわけでもなく騎士団が突入し騒ぎになっている事は一般の民衆も知るところとなり、建物の外には大勢の民衆が押しかけてきていた。
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