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第二章☆境界線(5話)
代襲相続の盲点に備えを
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架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。
◇~◇~◇
「フェオン未亡人、こちらをご覧くださいませ」
薄いパンフレットである。掛け金は年払いの掛け捨て保険。
しかし備えあれば患いなしなのである。
「これが‥‥どうかしたの?あら?掛け金も安いじゃない」
「はい。ですがこちらの商品。万が一に備えて息子さん3人にそれぞれ掛けて頂きたいと思います。掛け金は年払いのみとなっておりますが、2千ベル。5千ベル。1万ベルの3つ御座います」
「どう違うのかしら?」
「はい。もしもの時の金額が2千ベル、5千ベルはそれぞれ上限が御座います。1万ベルの場合は無制限。共通しているのは保障期間内であれば何度でもご利用頂けます。但し同じ方が何度もというのは対象外になります」
「でもこれって…なんなの?」
「個人賠償責任保険と申します」
「それはここに書いてあるから読めるわ。でもなんなの?安いから入ってもいいけど」
「フェオン未亡人。保険は安いから加入するものでは御座いません。備えるために加入するものです。お間違いなきよう」
ぱらっと2ページ目を捲って説明をするインシュア。
「こちらの保険は、買い物途中に陳列棚に並べている商品を転んで破損してしまったり、他家の鉢植えを割ってしまったり、薪割をしていて勢いよく割った薪が通行人に当たって怪我をさせた場合にご利用できます」
「そうね。そう書いてあるわ」
「たいていの場合、国宝級となれば別の保険をご案内いたしますが、今回の場合は国宝級ではないと思います。物を壊した時に同等品若しくは金銭で損害額をお支払いしますが、問題は他人様を怪我させてしまった時です。その怪我が元で働けなくなったり、亡くなってしまった時にも、この保険をご利用頂けるのです」
「え?みんな自分で死亡保険や医療保険を掛けているでしょう?」
「それは他人様の事情。自分や自分の家族の過失で怪我をさせてしまった場合は、アナタ保険掛けてるでしょう?なんて言えません」
「それはそうね。ウッカリしてたわ。私も保険掛けてるでしょ?ってごめんだけでは許せないわ」
「はい。そんな時にご利用頂く保険なので、言ってみれば自分や自分の家族に支払われるのではなく、迷惑をかけた相手に支払われる保険です。上乗せの任意馬車保険のようなものですね」
「ふーん‥‥まぁ孫たちが物を壊す事もあるだろうし…2千ベルコース?」
「いいえ。今回の場合は是非!1万ベルコースをお勧めいたします」
「珍しいわね。あなたが一点押しになるなんて」
「お話をお伺いして、これしかないと思いまして。2千ベルコースの上限は2千万、5千ベルコースの上限は5千万、1万ベルコースの上限は無制限です。もしもで与える損害、人数を考慮した時上限のあるコースは絶対にお勧めできません」
「どうして?孫はそこまで暴れないわよ?人数は多いけど2千万で足りると思うわ」
「フェオン未亡人。お孫さんのやんちゃにもお使い頂けますが今回はその代襲相続に絡んでいますので是非1万ベルコース。一択でお願いいたします」
「代襲相続?でも相続放棄の手続きをしてるわよ?今週中にも申請が通ると思うわ」
「はい。相続は放棄できます。ですが逃れられないものがあるのです」
「逃れられないって‥‥放棄するのよ?どうして逃げられないの!」
「財産管理義務があるからです」
「財産管理義務って‥‥放棄するって言ってるのに?」
「相続を放棄しても誰かがその土地、家屋を相続しない限り壊れかけた屋敷、傾いた塀、虫の沸く堀についての管理責任が問われるのです。①の土地の表記及び②の地番からして附近一帯は高級住宅地となるでしょう。ですが道路幅から考えて奥行4m、横幅28mの土地に利用価値はありません。家を建てるとなれば隣地境界から90cmは軒先を離す必要があります。道路側も目いっぱいとなれば外壁を馬車が擦るようになるので後退するでしょうから人が手を広げた幅の家しか建ちません。まさにウナギの寝床状態。馬車置場として駐馬車場にするにも奥行4mでははみ出てしまいます。縦列駐車にすれば引き受ける台数も減ります。固定資産税を考えた時に周りが高級住宅地となればペイ出来ません。角地ならまだしも中間地点。無駄に金を食うだけの土地です」
「まさにそうね…なんて事なの」
「そして問題なのは廃屋です。道路に取られる分については解体費用を官公庁が一部持ってくれるでしょう。ですが完全に敷地内になる個所については手付かず。壊すしかありませんが全額負担。そんな時に台風でも来て屋根材や壁材が飛び、人に怪我をさせたら怪我をした人の保障をするのは財産管理義務のある者です。虫の沸いた堀も蚊に刺されてというなら逃げ切れるでしょうけどその堀に人が落ちた時が問題です」
「じゃ、じゃあ解体費用も堀を潰すか柵を作るわ」
「そんな事をしたら、所有権の主張だと認定をされてしまいます」
「どうしたらいいの‥‥あぁまた寝られないわ」
「手っ取り早いのは、相続人及び代襲相続人で相続放棄をしていないものを言いくるめて相続させる事です。ですが遺恨が残るのは間違いありません。官公庁に寄付するという方法もありますがその場合は今ある工作物全てを解体し問題がないように整地をして譲渡という事になるので一旦相続をしなければなりません。少なくとも現段階で相続人はご主人の妹さんとフェオン未亡人の息子さん3人の4名いるという事で、全員の同意が必要です」
「最悪だわ‥‥主人の妹はもう亡くなってるの。子供は5人よ」
「でしたら8名全員が代襲相続ですね。一人くらいおとぼけな強欲者がいそうな気がしますが」
「それがね‥‥こちらは相続放棄をすると伝えたの。そしたら向こうも同じだと言うの」
「でしたら尚の事この個人賠償責任保険です。揉めている間も財産管理義務は背負っています。相続財産管理人つまりその土地を相続する人ですね。それが立つまでは逃れられないんです。向こうはそれを知っているのでフェオン未亡人の息子さんの誰かに相続して欲しいのでしょう」
「そう…だけど相続放棄は絶対にするわ。だって借金だって10億近くあるのよ?隣国にまで行って金を借りてるなんてホントに最悪だわ」
「まぁ…そこまで借りられるというのも凄い事で御座いますよ」
「きっと侯爵家がなんとかするって貸した方も思ってるんでしょうけど払うもんですか」
「どうされます?きっと話し合いをしても平行線。ですが財産管理義務はある状態も変わりません」
「契約するわ。掛け金も今この場で払うわ。息子本人じゃないとダメでしょ?」
「はい。息子さん本人が一番望ましいですが、離れて暮らす親の為にとお子さんが掛ける場合もあります。今回は逆のパターンですが問題はありません。フェオン未亡人に記入いただけます」
「流石ね。本当に備えは必要ね」
「いえ、そういう土地も結構多く残っていますからね。そのままになるのは心苦しいですがわたくしはご契約様が安心して過ごされれば構いませんから」
カチャカチャとカバンから書類とペンを取り出し夫人に差し出す。
夫人は執事に財布を持ってくるように伝えた。
「では、御署名をお願いいたします」
そして支店に戻って支店長に契約書と掛け金を確認してもらって処理をするとインシュアの売り上げグラフに出来高を示すシールが貼られた。
「インシュアさん、待ってたのよ!お願いっ!夕食ご馳走するから」
「いいえ、今日はす●家の牛丼と決めていますの。割引クーポンの期限が今日までなので」
「わ、判った。吉●家の牛丼(並)10枚綴り‥‥あげるわ。話を聞いて」
「聞きます」
インシュア、凄くお腹が空いているのだ。簡単なインシュアだった。
◇~◇~◇
「フェオン未亡人、こちらをご覧くださいませ」
薄いパンフレットである。掛け金は年払いの掛け捨て保険。
しかし備えあれば患いなしなのである。
「これが‥‥どうかしたの?あら?掛け金も安いじゃない」
「はい。ですがこちらの商品。万が一に備えて息子さん3人にそれぞれ掛けて頂きたいと思います。掛け金は年払いのみとなっておりますが、2千ベル。5千ベル。1万ベルの3つ御座います」
「どう違うのかしら?」
「はい。もしもの時の金額が2千ベル、5千ベルはそれぞれ上限が御座います。1万ベルの場合は無制限。共通しているのは保障期間内であれば何度でもご利用頂けます。但し同じ方が何度もというのは対象外になります」
「でもこれって…なんなの?」
「個人賠償責任保険と申します」
「それはここに書いてあるから読めるわ。でもなんなの?安いから入ってもいいけど」
「フェオン未亡人。保険は安いから加入するものでは御座いません。備えるために加入するものです。お間違いなきよう」
ぱらっと2ページ目を捲って説明をするインシュア。
「こちらの保険は、買い物途中に陳列棚に並べている商品を転んで破損してしまったり、他家の鉢植えを割ってしまったり、薪割をしていて勢いよく割った薪が通行人に当たって怪我をさせた場合にご利用できます」
「そうね。そう書いてあるわ」
「たいていの場合、国宝級となれば別の保険をご案内いたしますが、今回の場合は国宝級ではないと思います。物を壊した時に同等品若しくは金銭で損害額をお支払いしますが、問題は他人様を怪我させてしまった時です。その怪我が元で働けなくなったり、亡くなってしまった時にも、この保険をご利用頂けるのです」
「え?みんな自分で死亡保険や医療保険を掛けているでしょう?」
「それは他人様の事情。自分や自分の家族の過失で怪我をさせてしまった場合は、アナタ保険掛けてるでしょう?なんて言えません」
「それはそうね。ウッカリしてたわ。私も保険掛けてるでしょ?ってごめんだけでは許せないわ」
「はい。そんな時にご利用頂く保険なので、言ってみれば自分や自分の家族に支払われるのではなく、迷惑をかけた相手に支払われる保険です。上乗せの任意馬車保険のようなものですね」
「ふーん‥‥まぁ孫たちが物を壊す事もあるだろうし…2千ベルコース?」
「いいえ。今回の場合は是非!1万ベルコースをお勧めいたします」
「珍しいわね。あなたが一点押しになるなんて」
「お話をお伺いして、これしかないと思いまして。2千ベルコースの上限は2千万、5千ベルコースの上限は5千万、1万ベルコースの上限は無制限です。もしもで与える損害、人数を考慮した時上限のあるコースは絶対にお勧めできません」
「どうして?孫はそこまで暴れないわよ?人数は多いけど2千万で足りると思うわ」
「フェオン未亡人。お孫さんのやんちゃにもお使い頂けますが今回はその代襲相続に絡んでいますので是非1万ベルコース。一択でお願いいたします」
「代襲相続?でも相続放棄の手続きをしてるわよ?今週中にも申請が通ると思うわ」
「はい。相続は放棄できます。ですが逃れられないものがあるのです」
「逃れられないって‥‥放棄するのよ?どうして逃げられないの!」
「財産管理義務があるからです」
「財産管理義務って‥‥放棄するって言ってるのに?」
「相続を放棄しても誰かがその土地、家屋を相続しない限り壊れかけた屋敷、傾いた塀、虫の沸く堀についての管理責任が問われるのです。①の土地の表記及び②の地番からして附近一帯は高級住宅地となるでしょう。ですが道路幅から考えて奥行4m、横幅28mの土地に利用価値はありません。家を建てるとなれば隣地境界から90cmは軒先を離す必要があります。道路側も目いっぱいとなれば外壁を馬車が擦るようになるので後退するでしょうから人が手を広げた幅の家しか建ちません。まさにウナギの寝床状態。馬車置場として駐馬車場にするにも奥行4mでははみ出てしまいます。縦列駐車にすれば引き受ける台数も減ります。固定資産税を考えた時に周りが高級住宅地となればペイ出来ません。角地ならまだしも中間地点。無駄に金を食うだけの土地です」
「まさにそうね…なんて事なの」
「そして問題なのは廃屋です。道路に取られる分については解体費用を官公庁が一部持ってくれるでしょう。ですが完全に敷地内になる個所については手付かず。壊すしかありませんが全額負担。そんな時に台風でも来て屋根材や壁材が飛び、人に怪我をさせたら怪我をした人の保障をするのは財産管理義務のある者です。虫の沸いた堀も蚊に刺されてというなら逃げ切れるでしょうけどその堀に人が落ちた時が問題です」
「じゃ、じゃあ解体費用も堀を潰すか柵を作るわ」
「そんな事をしたら、所有権の主張だと認定をされてしまいます」
「どうしたらいいの‥‥あぁまた寝られないわ」
「手っ取り早いのは、相続人及び代襲相続人で相続放棄をしていないものを言いくるめて相続させる事です。ですが遺恨が残るのは間違いありません。官公庁に寄付するという方法もありますがその場合は今ある工作物全てを解体し問題がないように整地をして譲渡という事になるので一旦相続をしなければなりません。少なくとも現段階で相続人はご主人の妹さんとフェオン未亡人の息子さん3人の4名いるという事で、全員の同意が必要です」
「最悪だわ‥‥主人の妹はもう亡くなってるの。子供は5人よ」
「でしたら8名全員が代襲相続ですね。一人くらいおとぼけな強欲者がいそうな気がしますが」
「それがね‥‥こちらは相続放棄をすると伝えたの。そしたら向こうも同じだと言うの」
「でしたら尚の事この個人賠償責任保険です。揉めている間も財産管理義務は背負っています。相続財産管理人つまりその土地を相続する人ですね。それが立つまでは逃れられないんです。向こうはそれを知っているのでフェオン未亡人の息子さんの誰かに相続して欲しいのでしょう」
「そう…だけど相続放棄は絶対にするわ。だって借金だって10億近くあるのよ?隣国にまで行って金を借りてるなんてホントに最悪だわ」
「まぁ…そこまで借りられるというのも凄い事で御座いますよ」
「きっと侯爵家がなんとかするって貸した方も思ってるんでしょうけど払うもんですか」
「どうされます?きっと話し合いをしても平行線。ですが財産管理義務はある状態も変わりません」
「契約するわ。掛け金も今この場で払うわ。息子本人じゃないとダメでしょ?」
「はい。息子さん本人が一番望ましいですが、離れて暮らす親の為にとお子さんが掛ける場合もあります。今回は逆のパターンですが問題はありません。フェオン未亡人に記入いただけます」
「流石ね。本当に備えは必要ね」
「いえ、そういう土地も結構多く残っていますからね。そのままになるのは心苦しいですがわたくしはご契約様が安心して過ごされれば構いませんから」
カチャカチャとカバンから書類とペンを取り出し夫人に差し出す。
夫人は執事に財布を持ってくるように伝えた。
「では、御署名をお願いいたします」
そして支店に戻って支店長に契約書と掛け金を確認してもらって処理をするとインシュアの売り上げグラフに出来高を示すシールが貼られた。
「インシュアさん、待ってたのよ!お願いっ!夕食ご馳走するから」
「いいえ、今日はす●家の牛丼と決めていますの。割引クーポンの期限が今日までなので」
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