では、こちらに署名を。☆伯爵夫人はもう騙されない☆

cyaru

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第二章☆境界線(5話)

☆第二章の最終話☆契約者様が優先ですから

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人類の開発した食事で最高級なのは【温かい食事】である。

値段が高い、安いは関係ないのだ。温かいものを温かいうちに食べる。
これが贅沢の極みなのだ。奢ってくれるという事でしっかりと吉●家牛丼(並)10枚綴りを手に入れて、自分の分は支払うと言ったが【ここは奢らせて!】というジェーンに【味噌汁をトン汁にして大盛で】と言ってしまった。

気前よく支払ってくれたジェーン。話を聞くだけは聞くインシュアである。
そう、間違ってはいけない。話を聞くだけである。
それで牛丼が食べられるのだ。なんて良い同僚を持ったのだろう。

ジェーンは平民で夫の家族と生活をしている。
上昇志向だけは強いのだが如何せん財布の中身は有限である。
ただその上昇志向が自分ではなく子供に向いているのは幸か不幸か。
貴族でもかなり負担となる学院の入学金や授業料。平民でも金があれば行けなくもない。

自宅からは距離があるので子供だけアパートメントを借りると言うのが平民はなかなか家を借りるのにハードルが高いのだ。敷金、礼金の他に家賃は年払いしかも前払いと決められていて、契約時に記載のない同居人は認められていない。うっかり男でも引き込んでバレてしまったり、学生ならつい友人と騒ぐ事もあるだろう。しかしそれらをすると即追い出される。
追い出されるのがイヤなら、迷惑料として年間家賃分に匹敵する額を支払わねばならない。

凄く厳しいようにも思うのだが、家主にしてみれば契約を守れないものは不要である。
ひとつ許せば部屋のリフォームという名で勝手に壁紙を目が痛くなるような水玉模様にしたり細いストライプ柄にしたりやりたい放題になってしまう。
家主の自衛策でもあるのだがこれも1軒が始めればウチもウチもと伝わっていく。
今ではそれがスタンダードプランとなっている。

なので家族も養っているジェーンは子供の入学金や授業料、アパートメントを借りる金、支度金ととにかく金が幾らあっても足りない状態なのである。


「あのね、朝の話なんだけど聞いてくれる」

「聞きますよ」

「良かったぁ。もう夫にも相談出来ないし、夫の親は絶対意味判らないだろうし困っちゃってたの。この契約が取れたらこれだけで12万ベルが5件分の歩合だもの。お出かけ着が買ってあげられるわ」

「お出かけ用の服の前に制服を買われたら如何です?」

「えっとそれはさ、夫の親が買ってくれるかなって」

「買ってくれるではなく、買ってくれるかな?ですか…裸で通学にならないように祈っております」


ジェーンは色々と詰めが甘いのだ。そして他力本願でもある。
顧客から要望を色々と聞いて来て纏めるには纏めるがそれをプラン表にする時には必ず新人を拝み倒してプラン表の作成を手伝ってもらう。
ジェーンに付いている新人はバイト感覚なので歩合がなくていいのだ。
月に5万ベルの基本給のみなので所得税が引かれる事もない。年間でも60万ベル。
親の扶養に入っていられるのだ。

詰めが甘いのは頼めばやって貰えるという他力本願から起こるのだが確認をしない。
なので新規のお客様の家まで行って、全く違うお客様のプラン表で説明をするのだが、お客さんに指摘されるまで気が付かない。これでよく成績がと思うが、誰にでも1つは取り柄があるもの。

ジェーンは年金保険を売り込むのが兎に角上手い。
夫婦の手取り15万ベルという夫婦にそれぞれ1万ベルの掛け金になる年金保険を契約させる。
直ぐに掛け金払えないだろうなと思うような者には見向きもしない。
なので1年半ほどで消滅してしまう契約が多いのだがペナルティもなく歩合もしっかり懐に入る。

何故年金保険かと言えば、他の保険は亡くなるのは1度キリだしその時は契約が亡くなる。死亡保険金を支払うからだ。しかし、医療特約があるとこちらは何度でも請求される可能性がある。
あちこち動くのが面倒なジェーンは年金保険に特化しているのだ。
これなら動くのは契約する時と満期の時くらい。消滅するのは放っておけばいいし、極稀に掛けている途中で亡くなる場合があるがその時に手続きすれば良いだけだからだ。


「それでね、契約をくれるっていうんだけど最近、そのご主人の奥さんの大伯父さんが危篤だって知らせを受けたそうなんだけど、兄弟の1人をいかせたらそこで息を引き取ったそうなの」

――どこかで聞いた気が…あ、あれは旦那さんの大伯父さんだったわ――

「面倒なことにその大伯父さんが滅茶苦茶借金があるらしくて…」

――やっぱり聞いた事がある気がするわ。あ、この沢庵美味しい――

「駆け付けた時に問題が起きたそうの」

――ふぅ~豚汁最高!この具沢山が最高なのよね。ずずっずずっ――

「兄弟の真ん中がね、その借金の取り立て屋に凄まれてちょっとだけって払ったのよ」

「ブフォォッ。ゴフっグフッ…キョホッキョホッ…フゥーゥフー」

「だ、大丈夫?気管に入っちゃったの?誤嚥性肺炎になっちゃうわ」

「だ、大丈夫‥ヘぇ~ヘぇ~…うぅっ…ハグゥ~‥」

「お、お水飲んで!」

――殺す気?!まだ呼吸が正常じゃないのよ!――


インシュアの背を優しく撫でてくれるジェーン。
恩には恩で返さねばならない。インシュアも鬼ではないのだ。

「ありがとう‥‥助かりました」

「いいのよ。大丈夫。お水飲む?」

「いいえ結構です。その借金ですけども判る範囲で結構です。幾つかの借金取りのうちの1つ、2つだけに払ったんですか?それとも全員に少しづつ?」

「20人くらい来てたそうだけどその中の1人だけだそうよ。お金がそれしかなくて。でもそれ以降毎日借金取りが来るそうなの。使用人達が家には入れずに帰れって追い返してるんだけど、1社だけ債権回収管理会社から通知が来たそうなの」

「そうなるでしょうね。借金と知っていて一部でも支払ったんですからその債務はその人に移ったんです。破産をするか払うしかないでしょうね」

「そうかぁ…でもね他の借金取りも凄いそうなのよ」

「払ったのが1人だけならその1人の会社が債権を債権回収管理会社に売ったのよ。もうそこについては払うしかないわ。でも他の借金取りについては関係ないで突っぱねてもいいわ。良かったわねその兄弟の人、大伯父さんが生きてる時で」

「どういう事?」

「亡くなってたら借金も含めて相続する事になるからよ。亡くなっていれば1社だけなんて事にならずに全部ひっくるめて払わないといけないけど、生きてる時だからその1社に限定されたって事。生きてるか死んでるか。大きな境界線ね」


相続の件ではなく、借金の事か…なぁんだと思い、やっと落ち着いたインシュアは水の入ったグラスを手に取ってコクリと飲み込んだ。


「はぁ~最悪だぁ」

「どうして(こくこく)」

「だってその1社が一番多くて10億の借金のうち8億あるんだもの」

「ブフォッ!!ゲボッ!!ギョホッ‥‥ゲェゲェ…」

「だ、大丈夫?ホントに病院行った方がいいんじゃない?!」


もうそこまでなら、その人が全部相続して破産宣告すればいいんじゃないか?と思ったけれどそれどころではない。引き込んだ水はインシュアの呼吸を阻害する。


やっと落ち着いたインシュアはガックリと肩を落とすジェーンと別れて帰途についた。

「あ、破産宣告になるって事はそのNEW借金王が相続って他の兄弟姉妹に押し付けられるわね…そうなったら個人賠償責任保険要らないじゃん…黙っててよかった♪」


そう、インシュアはケチなのだ。
それに万が一の備えなのだからその兄弟が相続は放棄するかも知れない。
フェオン未亡人はご契約者様なのだ。それは何を置いても優先されなければならない。

「えっと…23時56分ですけどこれ、使えます?」

「あ、50ベル割引券ですね、大丈夫使えますよ」


夜食用にとす●屋でしっかり割引クーポン券を使うのだった。
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