17 / 52
第三章☆手続きは計画的に(5話)
言葉は難しい
しおりを挟む
架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。
◇~◇~◇
「では今日も一日をお客様の為に!」
ユズリッハ保険商会の王都西南支店長の大きなゲキが部屋の隅まで行きわたると「はいっ」と返事をする販売員たち。売り上げの独走状態を続けるインシュアの元にユズリッハ保険商会の王都西支部長がやってきた。
支部長となるとユズリッハ保険商会には5人しかいない。
王都東支部長、王都西支部長、王都南支部長、王都北支部長そして隣国のミール国支部長である。
「インシュア・ランス君。少し話があるのだが良いだろうか」
「申し訳ございません。本日は11時よりご契約者様とのお約束があります」
「大事なことなのだ。少しで良いんだ。時間をくれないだろうか」
支部長は焦っていた。正直なところ、事業部や役員から先日突き上げを食らったばかり。
他の支部でも類を見ない3年以上売り上げトップを独走する販売員。
数件の契約以外は平民相手だが、解約率がゼロというのもインシュアだけである。
そんなインシュアは未だに一介の販売員。肩書は一切ない所謂【平】である。
何故昇進させない、班長にしない、教育係にしないんだと上層部から支部長が叱られたのだ。
他の保険商会もインシュアの引き抜きを虎視眈々と狙っている。
そんな状況なのにくどい様だがインシュアは未だに一介の販売員。肩書は一切ない所謂【平】である。勿論基本給も5万ベルの据え置きである。歩合だけで現在毎月100万ベルは乗っている状態である。
「あのクレームが入っているんだよね」
「クレーム?!」
インシュアは考える。どこでご契約者様の意思に反した契約を?いや強引に結ばせてしまったのか?冷や汗がダラダラと流れ、一気に顔色が悪くなった。
「だ、大丈夫かい?」
「え、えぇ‥‥申し訳ございません。ご契約者様の心中を察すると眩暈が…」
「そんなに約束の時間に遅れる事を気にしなくても…」
――話は直ぐに終わる@但し直ぐに昇進に合意してくれれば――
支部長の心はグラグラに動いている。こんなに契約者の事を考える販売員がいたなんて!
「教えてくださいませ。ご契約者様でクレームは何方が?」
「えっ?クレーム??いやいやそんなの入ってないよ。お客様カードだって毎月君を褒めて、君となら他の契約もしたいが他の販売員は嫌だとか、君を保険に入りたいって友人に紹介したいから時間の都合をつけてくれとかそういうのばかりだし」
「ですが、先程クレームが入っていると仰いましたよね」
「あ、あぁそれは…その…」
「やっぱりお客様ですのね?!どなたです?!直ぐに伺ってお話を聞かねば!」
「違うから、違う、違う!クレームって言うのは上層部からだよ」
ハッと顔色が変わるインシュア。
――アレがバレたの?!――
そう、インシュアはご契約者様第一の販売員なのだ。ご契約者様の為にと保険を売るのだがその保険はユズリッハ保険商会の商品だけではない。
共済保険も売るし、互助会の会員斡旋もする。それだけではなくユズリッハ保険商会では扱っていない損害保険もご契約者様の為に売っているのだ。
当然、無償奉仕というのは相手の商会も都合が悪いので【予備費】という項目でインシュアに歩合相応分を支払ってくれている。
インシュアはケチである。ユズリッハ保険商会だけでも100万ベルを超える給料があるが、実は他の商会からの歩合の売り上げも纏めれば同額くらいが月額で支払われている。
年末の年末調整時には「確定申告を自分で致しますわ」と事務には任せていない。
そんなもの任せればここの営業所得の他に事業所得がある事がバレてしまうからだ。
「いいんですよ。保険控除は判りますし…配偶者控除なんかは不要でしょうし…インシュアさんも忙しいと思うのでこちらでやっておきますよ」
優しく声をかけてくれる事務員さんには非常~に申し訳ないと思っているのだが、上記のような理由があるので平である事は非常に都合がいい。
役職がつくと当然役職給が付いてくる。そんなものがつくと歩合以外の支給額が13万ベルを超えるため健康保険、年金などが天引きされようは…「正社員」扱いになるのだ。
源泉徴収票の種目の欄が「報酬」である事と「給与」である違いは大きい。
つ・ま・り。平と言うのは白色申告または青色申告をする自営業のような物なのだ。
なので住民税も天引きをされないように役所に行き、当座預金口座を作って引き落としをしている。
姑息な事にも知恵が回るケチなインシュアなのだ。
正社員になりたくて頑張る人もいる。福利厚生がしっかりしていれば尚よし。
しかし、インシュアは【安泰】を求めていない。【やればやるだけ】【腕一本で稼ぐ】タイプなので7、8万ベル上乗せされて、正社員となれば他社商品を売る事は出来なくなる。
【ご契約者様に納得して頂けないっ!】
そう、どこの保険商会でも良いものの、そうじゃないものがあるのだ。
と、言いつつも今の立場を【現状維持】したい気持ちも半分くらいある。
――バレた…バレたのね…どこか雇ってくれるかしら――
「くっ‥‥判りました。退職願で時間を稼ぐような事は致しません。直ぐに退職届を出しこの1か月はご契約者様にユズリッハ保険商会を辞める事を報告して参ります」
「わぁぁ!待ってくれっ。そんな事っお願いだからやめてくれ!」
「はい‥‥お願いされるほどでしたのに気が付かず申し訳御座いません。辞めます」
言葉は難しいものである。
ちなみにユズリッハ保険商会は申告さえすれば同じ「生保」でなければ兼業も可としている。
その辺りはインシュアも心得ている。だから共済、損保、互助会にしか手を出していないのだ。
しかしユズリッハ保険商会も商会なのだ。
共済を売られるより自社商品、損保を売るより自社商品。そこにご契約者様の姿はない。
商売だから仕方のない事でもある。
その後、支店長と支部長が床に額を付けて「辞めないでくださいっ」とお願いをして一件落着だったのだが、結局支部長は昇進の話が出来ないまま、インシュアはご契約者様の元に向かったのだった。
◇~◇~◇
「こんにちは。ユズリッハ保険商会のインシュアです」
「あっ!待ってたわ。どうぞ入って」
「本日は転換をご希望なのですよね?どのような点を見直し致しましょう」
「これよ!これにしたいの!」
ご契約者様が出してきたのはライバルのマッツノキ保険商会のパンフレットだった。
◇~◇~◇
「では今日も一日をお客様の為に!」
ユズリッハ保険商会の王都西南支店長の大きなゲキが部屋の隅まで行きわたると「はいっ」と返事をする販売員たち。売り上げの独走状態を続けるインシュアの元にユズリッハ保険商会の王都西支部長がやってきた。
支部長となるとユズリッハ保険商会には5人しかいない。
王都東支部長、王都西支部長、王都南支部長、王都北支部長そして隣国のミール国支部長である。
「インシュア・ランス君。少し話があるのだが良いだろうか」
「申し訳ございません。本日は11時よりご契約者様とのお約束があります」
「大事なことなのだ。少しで良いんだ。時間をくれないだろうか」
支部長は焦っていた。正直なところ、事業部や役員から先日突き上げを食らったばかり。
他の支部でも類を見ない3年以上売り上げトップを独走する販売員。
数件の契約以外は平民相手だが、解約率がゼロというのもインシュアだけである。
そんなインシュアは未だに一介の販売員。肩書は一切ない所謂【平】である。
何故昇進させない、班長にしない、教育係にしないんだと上層部から支部長が叱られたのだ。
他の保険商会もインシュアの引き抜きを虎視眈々と狙っている。
そんな状況なのにくどい様だがインシュアは未だに一介の販売員。肩書は一切ない所謂【平】である。勿論基本給も5万ベルの据え置きである。歩合だけで現在毎月100万ベルは乗っている状態である。
「あのクレームが入っているんだよね」
「クレーム?!」
インシュアは考える。どこでご契約者様の意思に反した契約を?いや強引に結ばせてしまったのか?冷や汗がダラダラと流れ、一気に顔色が悪くなった。
「だ、大丈夫かい?」
「え、えぇ‥‥申し訳ございません。ご契約者様の心中を察すると眩暈が…」
「そんなに約束の時間に遅れる事を気にしなくても…」
――話は直ぐに終わる@但し直ぐに昇進に合意してくれれば――
支部長の心はグラグラに動いている。こんなに契約者の事を考える販売員がいたなんて!
「教えてくださいませ。ご契約者様でクレームは何方が?」
「えっ?クレーム??いやいやそんなの入ってないよ。お客様カードだって毎月君を褒めて、君となら他の契約もしたいが他の販売員は嫌だとか、君を保険に入りたいって友人に紹介したいから時間の都合をつけてくれとかそういうのばかりだし」
「ですが、先程クレームが入っていると仰いましたよね」
「あ、あぁそれは…その…」
「やっぱりお客様ですのね?!どなたです?!直ぐに伺ってお話を聞かねば!」
「違うから、違う、違う!クレームって言うのは上層部からだよ」
ハッと顔色が変わるインシュア。
――アレがバレたの?!――
そう、インシュアはご契約者様第一の販売員なのだ。ご契約者様の為にと保険を売るのだがその保険はユズリッハ保険商会の商品だけではない。
共済保険も売るし、互助会の会員斡旋もする。それだけではなくユズリッハ保険商会では扱っていない損害保険もご契約者様の為に売っているのだ。
当然、無償奉仕というのは相手の商会も都合が悪いので【予備費】という項目でインシュアに歩合相応分を支払ってくれている。
インシュアはケチである。ユズリッハ保険商会だけでも100万ベルを超える給料があるが、実は他の商会からの歩合の売り上げも纏めれば同額くらいが月額で支払われている。
年末の年末調整時には「確定申告を自分で致しますわ」と事務には任せていない。
そんなもの任せればここの営業所得の他に事業所得がある事がバレてしまうからだ。
「いいんですよ。保険控除は判りますし…配偶者控除なんかは不要でしょうし…インシュアさんも忙しいと思うのでこちらでやっておきますよ」
優しく声をかけてくれる事務員さんには非常~に申し訳ないと思っているのだが、上記のような理由があるので平である事は非常に都合がいい。
役職がつくと当然役職給が付いてくる。そんなものがつくと歩合以外の支給額が13万ベルを超えるため健康保険、年金などが天引きされようは…「正社員」扱いになるのだ。
源泉徴収票の種目の欄が「報酬」である事と「給与」である違いは大きい。
つ・ま・り。平と言うのは白色申告または青色申告をする自営業のような物なのだ。
なので住民税も天引きをされないように役所に行き、当座預金口座を作って引き落としをしている。
姑息な事にも知恵が回るケチなインシュアなのだ。
正社員になりたくて頑張る人もいる。福利厚生がしっかりしていれば尚よし。
しかし、インシュアは【安泰】を求めていない。【やればやるだけ】【腕一本で稼ぐ】タイプなので7、8万ベル上乗せされて、正社員となれば他社商品を売る事は出来なくなる。
【ご契約者様に納得して頂けないっ!】
そう、どこの保険商会でも良いものの、そうじゃないものがあるのだ。
と、言いつつも今の立場を【現状維持】したい気持ちも半分くらいある。
――バレた…バレたのね…どこか雇ってくれるかしら――
「くっ‥‥判りました。退職願で時間を稼ぐような事は致しません。直ぐに退職届を出しこの1か月はご契約者様にユズリッハ保険商会を辞める事を報告して参ります」
「わぁぁ!待ってくれっ。そんな事っお願いだからやめてくれ!」
「はい‥‥お願いされるほどでしたのに気が付かず申し訳御座いません。辞めます」
言葉は難しいものである。
ちなみにユズリッハ保険商会は申告さえすれば同じ「生保」でなければ兼業も可としている。
その辺りはインシュアも心得ている。だから共済、損保、互助会にしか手を出していないのだ。
しかしユズリッハ保険商会も商会なのだ。
共済を売られるより自社商品、損保を売るより自社商品。そこにご契約者様の姿はない。
商売だから仕方のない事でもある。
その後、支店長と支部長が床に額を付けて「辞めないでくださいっ」とお願いをして一件落着だったのだが、結局支部長は昇進の話が出来ないまま、インシュアはご契約者様の元に向かったのだった。
◇~◇~◇
「こんにちは。ユズリッハ保険商会のインシュアです」
「あっ!待ってたわ。どうぞ入って」
「本日は転換をご希望なのですよね?どのような点を見直し致しましょう」
「これよ!これにしたいの!」
ご契約者様が出してきたのはライバルのマッツノキ保険商会のパンフレットだった。
45
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。
ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」
夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。
元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。
"カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない"
「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」
白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます!
☆恋愛→ファンタジーに変更しました
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる