では、こちらに署名を。☆伯爵夫人はもう騙されない☆

cyaru

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第三章☆手続きは計画的に(5話)

言葉は難しい

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架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。


◇~◇~◇

「では今日も一日をお客様の為に!」

ユズリッハ保険商会の王都西南支店長の大きなゲキが部屋の隅まで行きわたると「はいっ」と返事をする販売員たち。売り上げの独走状態を続けるインシュアの元にユズリッハ保険商会の王都西支部長がやってきた。

支部長となるとユズリッハ保険商会には5人しかいない。
王都東支部長、王都西支部長、王都南支部長、王都北支部長そして隣国のミール国支部長である。


「インシュア・ランス君。少し話があるのだが良いだろうか」

「申し訳ございません。本日は11時よりご契約者様とのお約束があります」

「大事なことなのだ。少しで良いんだ。時間をくれないだろうか」


支部長は焦っていた。正直なところ、事業部や役員から先日突き上げを食らったばかり。
他の支部でも類を見ない3年以上売り上げトップを独走する販売員。
数件の契約以外は平民相手だが、解約率がゼロというのもインシュアだけである。

そんなインシュアは未だに一介の販売員。肩書は一切ない所謂【平】である。
何故昇進させない、班長にしない、教育係にしないんだと上層部から支部長が叱られたのだ。
他の保険商会もインシュアの引き抜きを虎視眈々と狙っている。

そんな状況なのにくどい様だがインシュアは未だに一介の販売員。肩書は一切ない所謂【平】である。勿論基本給も5万ベルの据え置きである。歩合だけで現在毎月100万ベルは乗っている状態である。

「あのクレームが入っているんだよね」

「クレーム?!」

インシュアは考える。どこでご契約者様の意思に反した契約を?いや強引に結ばせてしまったのか?冷や汗がダラダラと流れ、一気に顔色が悪くなった。

「だ、大丈夫かい?」

「え、えぇ‥‥申し訳ございません。ご契約者様の心中を察すると眩暈が…」

「そんなに約束の時間に遅れる事を気にしなくても…」

――話は直ぐに終わる@但し直ぐに昇進に合意してくれれば――

支部長の心はグラグラに動いている。こんなに契約者の事を考える販売員がいたなんて!



「教えてくださいませ。ご契約者様でクレームは何方が?」

「えっ?クレーム??いやいやそんなの入ってないよ。お客様カードだって毎月君を褒めて、君となら他の契約もしたいが他の販売員は嫌だとか、君を保険に入りたいって友人に紹介したいから時間の都合をつけてくれとかそういうのばかりだし」

「ですが、先程クレームが入っていると仰いましたよね」

「あ、あぁそれは…その…」

「やっぱりお客様ですのね?!どなたです?!直ぐに伺ってお話を聞かねば!」

「違うから、違う、違う!クレームって言うのは上層部からだよ」

ハッと顔色が変わるインシュア。


――アレがバレたの?!――

そう、インシュアはご契約者様第一の販売員なのだ。ご契約者様の為にと保険を売るのだがその保険はユズリッハ保険商会の商品だけではない。
共済保険も売るし、互助会の会員斡旋もする。それだけではなくユズリッハ保険商会では扱っていない損害保険もご契約者様の為に売っているのだ。

当然、無償奉仕というのは相手の商会も都合が悪いので【予備費】という項目でインシュアに歩合相応分を支払ってくれている。
インシュアはケチである。ユズリッハ保険商会だけでも100万ベルを超える給料があるが、実は他の商会からの歩合の売り上げも纏めれば同額くらいが月額で支払われている。

年末の年末調整時には「確定申告を自分で致しますわ」と事務には任せていない。
そんなもの任せればここの営業所得の他に事業所得がある事がバレてしまうからだ。

「いいんですよ。保険控除は判りますし…配偶者控除なんかは不要でしょうし…インシュアさんも忙しいと思うのでこちらでやっておきますよ」

優しく声をかけてくれる事務員さんには非常~に申し訳ないと思っているのだが、上記のような理由があるので平である事は非常に都合がいい。

役職がつくと当然役職給が付いてくる。そんなものがつくと歩合以外の支給額が13万ベルを超えるため健康保険、年金などが天引きされようは…「正社員」扱いになるのだ。
源泉徴収票の種目の欄が「報酬」である事と「給与」である違いは大きい。

つ・ま・り。平と言うのは白色申告または青色申告をする自営業のような物なのだ。
なので住民税も天引きをされないように役所に行き、当座預金口座を作って引き落としをしている。
姑息な事にも知恵が回るケチなインシュアなのだ。


正社員になりたくて頑張る人もいる。福利厚生がしっかりしていれば尚よし。
しかし、インシュアは【安泰】を求めていない。【やればやるだけ】【腕一本で稼ぐ】タイプなので7、8万ベル上乗せされて、正社員となれば他社商品を売る事は出来なくなる。

【ご契約者様に納得して頂けないっ!】

そう、どこの保険商会でも良いものの、そうじゃないものがあるのだ。

と、言いつつも今の立場を【現状維持】したい気持ちも半分くらいある。

――バレた…バレたのね…どこか雇ってくれるかしら――


「くっ‥‥判りました。退職願で時間を稼ぐような事は致しません。直ぐに退職届を出しこの1か月はご契約者様にユズリッハ保険商会を辞める事を報告して参ります」

「わぁぁ!待ってくれっ。そんな事っ!」

「はい‥‥お願いされるほどでしたのに気が付かず申し訳御座いません。辞めます」

言葉は難しいものである。
ちなみにユズリッハ保険商会は申告さえすれば同じ「生保」でなければ兼業も可としている。
その辺りはインシュアも心得ている。だから共済、損保、互助会にしか手を出していないのだ。

しかしユズリッハ保険商会も商会なのだ。
共済を売られるより自社商品、損保を売るより自社商品。そこにご契約者様の姿はない。
商売だから仕方のない事でもある。




その後、支店長と支部長が床に額を付けて「辞めないでくださいっ」とお願いをして一件落着だったのだが、結局支部長は昇進の話が出来ないまま、インシュアはご契約者様の元に向かったのだった。




◇~◇~◇

「こんにちは。ユズリッハ保険商会のインシュアです」

「あっ!待ってたわ。どうぞ入って」

「本日は転換をご希望なのですよね?どのような点を見直し致しましょう」

「これよ!これにしたいの!」

ご契約者様が出してきたのはライバルのマッツノキ保険商会のパンフレットだった。
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