では、こちらに署名を。☆伯爵夫人はもう騙されない☆

cyaru

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第三章☆手続きは計画的に(5話)

☆第三章の最終話☆知覚過敏は対象外です

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架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。


◇~◇~◇

「どうされますか?って、そりゃなかった事にしたいわ。でも契約しちゃったし‥」

「ルルージェさん。保険にはクーリングオフ制度が適用される場合があります。毎月の掛け金はリーズナブルな金額でも言ってみれば使わなければ捨てるような物も含まれています。おまけに数日、数か月単位ではなく10年、20年という長期にわたりますので莫大な金額になります。なので、契約をしてしまったけれど日を改めて考えてみたらやっぱりやめたいという方もいらっしゃいます。それは契約者様の責任ではありません。わたくし達販売員の説明不足によるものです。しっかり納得頂ければやめたいと思う事もないのですから」


「出来るの?クーリングオフ」

「出来るか、出来ないかはまだお話を伺っていないので答えようがありません。ここまで来たら恥ずかしい事など何もありません。フンドシ一丁でドジョウすくいをするのではないので正直にお答えください」

「インシュアさんの前ならしてもいいわ」

「いえ、結構です。例えです。例え。では幾つかありますのでお答えください。少々重要な項目は後にお聞きしますね」

「何でも聞いて」

「先ず1つ目です。契約をされたのは何時ですか。それは旦那様の分だけですか?」

「一昨日よ。全員の分を一昨日したの、その時――」

「ストップ。確認をする時に次々に色んな事を言うと判らなくなります。伸るか反るかの瀬戸際だと思って質問にだけお願いいたします」

「わかった。契約をしたのは一昨日。家族全員の分よ」

「2つ目です。書面を取り寄せての契約でしたか?」

「違うわ」

「3つ目です。保険期間は判りますか」

「待ってて。控えがあるの。持ってくる」

パタパタと奥の部屋に行くとバッサバッサと引き出しの中のものを放り出している音がする。慌てなくていいのにと思いつつインシュアは出されていたお茶をもう半分飲んだ。

「あったわ!これよ」

「拝見いたします。構いませんか?」

「構わないわ。持って帰って貰っても構わない」

「いえ、目を通せば充分ですから‥‥ふむふむ‥‥ふむふむ…」

控えの書類に目を通し、夫の分、自分の分、子供の分と確認していくインシュア。
お茶のお代わりを用意するルルージェさん。

「拝見いたしました。ありがとうございます。短いもので10年。長いもので25年。確認を致しました。片付けて頂いて結構です」

ポイっ!!バサッ!!

ルルージェさんは控えの書類を掴むと床に放り投げてしまった。
余程に腹立たしいのだろう。

「4つ目です。契約はどちらでされましたか?」

「ここよ!このテーブルで向かいあってしたわ」

「この場所で、このテーブルでという事ではなくルルージェさんの自宅でと指示をしたのはルルージェさんですか?」

「うーん‥‥なんて言ったらいいんだろう。上の子を預かり保育に迎えに行った時に丁度いたのよ。旦那の会社にも行ってるって販売員がいたの。旦那からもこんな保険があるんだってって少し前に聞いてたから……。そしたら話だけ聞いてあげてってママ友に言われて、最初はマッツノキ保険商会に来てほしいって言われたけど下の子がいるからそれは無理だしって言ったら、ここに来るっていうから…まぁ仕方ないかなって」

「そうですか。微妙な所ですね。そのママ友さんはその会話を聞かれてました?」

「聞いてたわよ?じゃぁ家に来てもらうしかないって事よね?って販売員に言ったのはそのママ友だもの」

「わかりました。では最後に。この控えを頂いた時に、クーリングオフの書面を受け取りましたか?」

「えっ?わかんない。でも…あ、待ってちょ、ちょ、ちょっと待ってて」

またもやパタパタと奥の部屋に行くとバサバサと乱暴な音がする。
そして何かにガンガンと当たる音をさせ乍らルルージェさんが戻ってきた。
手には洗濯カゴいっぱいに書類のたぐいが詰め込まれていた。


「全部持ってきちゃった。書類関係は全部入ってる。多分パンフレットとかある筈」

――ある筈って‥‥旦那さんが誕生日にくれたのかな‥ラブレターも見えてるわ――


見る方が恥ずかしい文面のものは敢えてルルージェさんのほうにかき分けながら書類を確認していく。どうやらマッツノキ保険商会から渡されたのは控えとパンフレット、簡単な見積書だけだった。

「ありませんね。ではまだ渡されていないという事でしょう。もし渡されていても問題ありません」

「ホントに?チビたちが悪戯して引っ張り出してたらどうしようと思った!」


「クーリングオフに関する書面を受け取った日か、契約をした日のどちらか遅い方から8日を超えてなければクーリングオフは可能です。あと一点、旦那様を診察するのが明後日との事なのでそちらもクリアしています。ルルージェさん、今夜一晩旦那様と話し合いを頂いて構いません。クーリングオフをするかどうかを決めてください。明後日になると旦那様はお休みで販売員と医院に行ってしまいます。そうなるとクーリングオフは出来なくなります。期限は明日いっぱい。是非お話し合いをして―――」


「しないっ!必要ないわ」


「いえ、ダメです。旦那様はこちらの保険については納得を――」


「してないっ。してないわ。これも本当。旦那はこの契約をした事知らないの。こんなにもらえるの凄いなって言ってたから、話を聞いてるうちにいいかなって思って。保険料は1万ベルくらい高くなるけどインシュアさんと契約した時より5年経ってるし仕方ないかって思って勝手にしたの。病院に行くのも今夜言おうと思ってたんだもの。旦那は全然知らないの!」



っと、その時‥‥ガチャっ

「誰が知らないって?」

ルルージェさんの旦那様のご帰宅である。あぅあぅとなっているルルージェさんだが、テーブルにある洗濯カゴに詰められた書類、床に散らばる書類、広げられた書類。察しはついたようである。

「はぁ…お前なぁ。まさかと思うけど保険の契約したんじゃないだろうな」

「ごめん‥‥しちゃった…」

「はぁ~。そうだろうと思った。寝室にこのパンフあるしソワソワしてるし…。で?インシュアさん。今日はどうして?確かあのパンフレットは違ってたと思うけど…」

「はい、御契約を――」

「しないっ!今のまま続ける!だからこっちをやめるっ!」

「お前なぁ…インシュアさん、すんませんね。でも俺の血圧でよく入れたよな…」

「その件ですが、旦那様もお座りになってください」


バサバサと書類を洗濯カゴに詰め込んで、ルルージェさんが夫の分のお茶も用意するため竈の前に立つ。「手間かけてすみませんね」と旦那さんはインシュアにぺこりと頭を下げた。




「結果から申しますと、わたくしとしてはお勧めできません。特に旦那様についてはルルージェさんが考えていた物と契約した内容に相違がありますので契約はしないほうが良いと断言できます」

「それはどうしてです?」

「血圧の状態もですが…ハッキリ申し上げます。お太りになられてますよね。身長は早々変わらないと思いますから170cmとして体重が100kgは超えておられませんか?」

「そうなんだ。110kgになった」

「これはあまり口外は出来ないのですが身長と体重は大きく影響します。170cmの方で割り増しの掛け金でなく引き受け出来るのは99kgまでです。こちらは明後日医院に行っての診察を受ければ誤魔化しようがありません。血圧と体重で契約をした書面の内容ではお引き受けできず、こちら…控えに認印を押した形跡がありますので掛け金は向こうがこちらの了解なしに引き上げる事が可能です。なので思っている金額以上の掛け金で半年ないし1年の縛りがついた契約になります。なると思うのではなく、なります」

「ごめんなさい‥‥そんなのも言ってなくて…判らなくて・・」

「やっちまったものは仕方ないだろう。メソメソすんな」



仲が良いんだなぁ…と思いつつ、インシュアは出された茶を飲んだ。

「クーリングオフは出来ます。どうしますか?お子さんの分だけ連絡をすれば少し手を入れるのも間に合うかと思いますが」

「契約はしない。隠し事をするようなところは信用できないからな」

「ルルージェさんはどうされます?お子さんの分とルルージェさんの分を何処に手を入れるかアドバイスはできると思います。旦那様の契約だけになっても、わたくしの大切なご契約者様である事は変わりません。出来るお手伝いはさせて頂きます」

「契約しない。やめる事ができるんならやめる。やめる事について手を貸してください!」

「わかりました。ではクーリングオフについての書面を作成しましょう。お子さんがいらっしゃるのでどちらか一緒に郵便営業所で発送をするのに行って頂きます」

「俺が行く。お前は家にいろ。いいな」

「うん」

「では、こちらにまず マッツノキ保険商会 御中とお書きください」

サラサラとペンを走らせていくルルージェさんと旦那さん。
控えの書類にある契約番号もしっかりと確認をしながら記入していく。

「ここは俺の名前で良いのか」

「はい、署名をお願いいたします」




書類が出来上がると不備がないかを確認していく。
カバンからマッツノキ保険商会の規約を取り出し、書き方に間違いがないか2人にも指で規約と書類を交互に示して確認をさせていく。

封筒に入れて封印をするとルルージェさんの旦那さんは上着を取りに奥の部屋に行った。

「ありがとう。助かったわ。今度はちゃんと色々と聞いてからにする」

「フフフ。大丈夫ですルルージェさんご一家の契約を次にどうにかするとすればお子さんが働きだした時に持たせてあげる様に少し手を加えるだけですから」

「これ良かったら飲んで。流行の冷たいスムージーなの」

「ありがとうございます。頂きますね」

ルルージェさんと一緒に冷たいスムージーをストローで吸い上げる。
こめかみがキィンと痛くなるがルルージェさんは頬を押さえていた。

「冷たすぎてしみる~‥‥病院行ったら保険使えるかしら」

「申し訳ございません。知覚過敏は対象外です」


インシュアは販売員をはじめて、初めての解約案件を回避したのだった。
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