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交渉
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「お前はなんて事をしてくれたんだ!」
容赦なく男爵が娘に鉄槌を振り下ろす。数発目で学園でも3本の指に入ると言われていたエリザベスの顔は血まみれになり、床に転がっているのは歯であろうか。
鈍い音の向こうで鼻も折れたと想像するのはたやすい程だった。
「男爵様、そうお怒りにならずとも…公爵様はお話をお聞きせねばなりませんが、我が侯爵家としましては慰謝料という示談金で結構ですよ」
シャルロッテの父である侯爵はゆっくりと茶器をテーブルに戻しながら男爵に優しく助言をする。金で許して貰えればそれに越したことはないと思ったのか男爵夫人は先ほどまで俯いて涙を流していたが顔をあげる。
「ゲーテ侯爵。このような事になり…申し訳ない」
ルフザ公爵が頭を下げるが、シャルロッテも含めゲーテ侯爵側は至って涼しい顔である。
「ルフザ公爵、貴家との婚約、結婚は継続すると言ってもこのまま…というのは少々そちらも借りを作る様で飲めないでしょうから、2つだけ条件を付けさせて頂きます。
男爵家には示談と言う事で、これで手を打ちましょう。
この3つが揃わないのなら。ルフザ公爵、この縁はなかったとの事で」
そう言ってゲーテ侯爵は片手の手のひらを広げる。
ゲーテ侯爵の出した破格の条件にルフザ公爵は一も二にもなく飛びつく。
涙を流し、熱く感謝の言葉を何度も繰り返した。
「条件とはなんでしょうか」
「難しくありませんよ。ご子息には今後このような事がないように監視を付けさせて頂く」
「それは勿論だ!厳しく監視をしよう。約束する」
「2つ目は娘を幸せにして頂く事、決して泣かせたり嫌がる事をしないようにして頂く」
「そ、そんな当たり前のことでいいんだろうか!」
「えぇ。我がゲーテ侯爵家としましてはその2点を守って頂けるならルフザ公爵家には慰謝料の請求も致しませんし、シャルロッテは嫁がせましょう。勿論、この一件は他言無用という事で」
「ありがたいっ!良かったな…」
ルフザ公爵は、妻である公爵夫人の手を握り良かったと何度も繰り返す。
公爵夫妻はシャルロッテの顔を見ると、シャルロッテは夫人に微笑を返す。
「ゲーテ侯爵、侯爵夫人。わたくしが責任をもって約束を遂行致しますわ」
「も、勿論私もだ!ありがとう。ありがとうゲーテ侯爵っ!」
「あの‥‥わたくし共の慰謝料は‥‥500万でよろしいのですか?」
エリザベスに手をあげる事を止めた男爵と男爵夫人が会話に入ってくる。
にべもなくルフザ公爵夫人が冷たい声でゲーテ侯爵を代弁する。
「桁が違いますわよ?500万?子供の使いじゃ御座いませんわ」
「えっ…では‥」
「5億。それ以上なら幾らでもそちらの誠意で加算してもよろしくてよ」
「ごっ…5億?!そんな‥‥無茶な…」
「無茶も何も‥‥そこの娘がどこの誰に手を出したかお判りなのかしら?この婚約、婚姻には両陛下だけでなくパルメーラ夫人、王太后様、王太后様の妹君リクセラ様も祝福くださっているのよ?
あぁ、そうね。男爵家からは皆さまにこのルフザ公爵家が犯した失態を一緒になって詫びる行脚をお手伝い頂きましょうか。慰謝料すら出せないのならそうして頂いてもまだ足りませんが減額は可能かも知れませんわ。
如何でしょうか。ゲーテ侯爵」
「話になりませんな。では全て決裂との事でよろしいかな?手続きがあるので失礼をする」
「ま、待ってくれ。男爵!払え!全てを売り払ってでも払うんだ!」
ルフザ公爵は両手を大きく広げて帰ろうとソファを立ち上がるゲーテ侯爵一家を必死になって止める。同時に男爵にツバを飛ばしながら罵声を浴びせる。
男爵夫人は真っ青になってもう息もしているかどうか定かではない。
しかし男爵は算盤を弾いたのだろう。
「わかり‥‥ました。5億お支払いを致します。しかしっ!少し待って頂けませんか?」
「なにを待てと?あぁそうね今日は持ち合わせがありませんものね」
「いえ、あの…屋敷と土地を売ればおそらく2億ほどは用意できます。買って頂く方次第ではもう少し上乗せになるでしょう」
「あらいやだ。それでは半分か半分にも満たぬではありませんか」
「ですから!残りは…残りは領の通行税を毎年5千万つづ納めると言う事で…」
「困ったわね。娘は直ぐに股を広げたと言うのに親は出し渋り。娘を見習っては如何?」
夫のルフザ公爵とは対極に静かに落ち着いた声でルフザ公爵夫人は男爵に言葉をかける。勿論口元は扇で隠し、見えるのは蛇が獲物を狙うような目である。
実のところ、男爵領の通行税はかなりの額になる。隣国からの輸出入には男爵領を通る必要があるのである。エリザベスが男爵令嬢という身分であるにも関わらずエドワードに近づけたのは資産があるからである。
他の令嬢と違って宝飾品の類や予約の必要な会員制レストランなど誘わなくても自前で用意が出来る。貢物など一切不要なのである。そこに来て美人で豊満な肉体の持ち主。
エドワードは【自分】に惚れていると言い寄ってきたエリザベスに落ちた。
シャルロッテに問題があったわけではない。シャルロッテは申し分ない令嬢で何処に連れ立って行っても恥ずかしくない振舞で妻にするならシャルロッテ以外はあり得ない。
ただ、エリザベスも捨てがたい。父の後を継ぐまでは秘密の関係になるが当主となれば第二夫人や愛人を持つ者は少なくない。エドワードには愚かな思惑があった。
エリザベスには野心があった。実家には豊富な資産があるが手に入らないものは爵位である。
伯爵以上の爵位は金では買えない。エドワードに言い寄り第二夫人となる事で公的にも公爵家の者となる。金で買えないものをエドワードで補えるのだ。公爵夫人の座などはなから狙ってはいない。何が嬉しくて行きたくもない茶会やらで年上の夫人らに愛想を振りまかねばならないのか。
欲しいのは【公爵家の人間】という立場であり、なんなら子でも産まれれば尚良しである。
ゲーテ侯爵はエドワートとエリザベスの思惑などどうでもいい。5億と言う破格の示談金を提示したのはまさにその男爵領がメインデッシュなのである。
手形は1円でも足りなければ落ちない。足りなければ例えそれ以上の価値が継続的にあるものでも手放さねばならない。そこを狙ったのである。
ただ、聊か棚から牡丹餅であったのは間違いない。
今日、この場に呼ばれるまでは何の問題もなく順風満帆な娘の婚約関係だったのだから。
不意にゲーテ侯爵が先ずはエリザベス、次にエドワードに話しかける。
「報いという言葉を知っているかね?」
「は、はい‥‥申し訳ありませんでした」
「謝罪はいらないよ。もうすぐ彼も手に入りそうだね。示談金を払えない父上に感謝するんだね」
「えっ?…エドワードが?」
「良かったね。公爵家から婿入りになれば男爵家も安泰だ。その前に両陛下を含む皆々様に説明をしなければならないだろうけどね?」
「嘘っ‥」
死亡宣告にも近い助言。この縁談を壊した説明をする面々を想像すればその場で首が胴体と離れてもなんら不思議ではない。エリザベスは床に突っ伏して叫ぶだけになった。
「エドワード君。君を息子と呼ぶ日は楽しみだったのだがね」
「も‥‥申し訳…ありません。でもっ…ですがっ!」
「なんだろう?不快になる事はさけてほしいが聞くだけは聞こうか?」
「ぼっ‥僕は…シャルロッテを愛しているんですっ。これは本当ですっ」
その言葉にずっと沈黙をしていたラファエルが声を荒げる。
「どの口がそんな事を!恥を知れ!」
やれやれ…と両手の平を軽く上にあげるゲーテ侯爵。シャルロッテは何も言わない。
「で?男爵家としては我がゲーテ侯爵家に何を!どうしてくださると?」
「お支払い…します…」
「分割は困るよ?君の娘のように泣けばどうでもなると思われると困るし、こんな事は早々に仕舞うのが一番傷が浅くて治りも早いからね」
「領の‥‥権利も含めて…支払いに充当致します」
「あの僻地の領か…まぁ隣国に旅行に行くには便利そうだね。仕方ない。旅行好きな家内と娘の為に僕がポケットマネーで買い取ろう。5億から屋敷と土地を売った残りの金額でね」
ゲーテ侯爵は男爵の肩を一つ叩き、1人拍手をしながらルフザ公爵に向き合い握手をした。
「では、善は急げです。王宮に書記官をやってください。譲渡契約書を今から結びましょう」
「今から?夜中になってしまいますよ」
「大丈夫です。日が昇るまでには終わるでしょうし、明るくならないと男爵家の使用人達が給料や退職金などの支払いもあるでしょう?銀行が営業を始めないと払えないでしょうからね」
にこやかに笑うゲーテ侯爵だが目は笑っていない。男爵家の金融資産など知れたものである。
屋敷を押えて、貴金属などの動産は【家屋に付随する】とすれば持ち出しは出来ない。
残りは銀行にある現金だが、本人が行けば問題はない。
そこに使用人達を連れて行ってあげれば良いだけなのである。
使用人に給与と退職金を払えばその日暮らしも出来なくなる程度しか残らないが知った事ではない。
「お父様、目が極悪になっておりますわ」
「あぁ、可愛いシャル。ごめんよ?本当は夜中に放り出してやりたいんだが使用人に罪はないからね」
「それは慈善事業ではなく、偽善事業。悪趣味ですわよ?」
日付が変わった頃に、男爵領の譲渡、土地と屋敷の譲渡の書類が完了する。
手続きの間に王宮の文官、公爵家、侯爵家から男爵家に人間が向かう。
何も知らない使用人達は騒然となったが、翌日ゲーテ侯爵はシャルロッテに言った通り、銀行で待つ使用人達の元に男爵夫妻と娘を送り届ける。
「男爵家の使用人は血の気が多いね。足らなければ娘と奥方は働き口を紹介するのに」
「あなた、ご夫人には酷なんじゃありませんか?」
「大丈夫だよ。親子なんだから」
「それもそうね」
侯爵夫妻を乗せた馬車は遠ざかっていく。
そして2か月後、シャルロッテはエドワードと結婚をした。
容赦なく男爵が娘に鉄槌を振り下ろす。数発目で学園でも3本の指に入ると言われていたエリザベスの顔は血まみれになり、床に転がっているのは歯であろうか。
鈍い音の向こうで鼻も折れたと想像するのはたやすい程だった。
「男爵様、そうお怒りにならずとも…公爵様はお話をお聞きせねばなりませんが、我が侯爵家としましては慰謝料という示談金で結構ですよ」
シャルロッテの父である侯爵はゆっくりと茶器をテーブルに戻しながら男爵に優しく助言をする。金で許して貰えればそれに越したことはないと思ったのか男爵夫人は先ほどまで俯いて涙を流していたが顔をあげる。
「ゲーテ侯爵。このような事になり…申し訳ない」
ルフザ公爵が頭を下げるが、シャルロッテも含めゲーテ侯爵側は至って涼しい顔である。
「ルフザ公爵、貴家との婚約、結婚は継続すると言ってもこのまま…というのは少々そちらも借りを作る様で飲めないでしょうから、2つだけ条件を付けさせて頂きます。
男爵家には示談と言う事で、これで手を打ちましょう。
この3つが揃わないのなら。ルフザ公爵、この縁はなかったとの事で」
そう言ってゲーテ侯爵は片手の手のひらを広げる。
ゲーテ侯爵の出した破格の条件にルフザ公爵は一も二にもなく飛びつく。
涙を流し、熱く感謝の言葉を何度も繰り返した。
「条件とはなんでしょうか」
「難しくありませんよ。ご子息には今後このような事がないように監視を付けさせて頂く」
「それは勿論だ!厳しく監視をしよう。約束する」
「2つ目は娘を幸せにして頂く事、決して泣かせたり嫌がる事をしないようにして頂く」
「そ、そんな当たり前のことでいいんだろうか!」
「えぇ。我がゲーテ侯爵家としましてはその2点を守って頂けるならルフザ公爵家には慰謝料の請求も致しませんし、シャルロッテは嫁がせましょう。勿論、この一件は他言無用という事で」
「ありがたいっ!良かったな…」
ルフザ公爵は、妻である公爵夫人の手を握り良かったと何度も繰り返す。
公爵夫妻はシャルロッテの顔を見ると、シャルロッテは夫人に微笑を返す。
「ゲーテ侯爵、侯爵夫人。わたくしが責任をもって約束を遂行致しますわ」
「も、勿論私もだ!ありがとう。ありがとうゲーテ侯爵っ!」
「あの‥‥わたくし共の慰謝料は‥‥500万でよろしいのですか?」
エリザベスに手をあげる事を止めた男爵と男爵夫人が会話に入ってくる。
にべもなくルフザ公爵夫人が冷たい声でゲーテ侯爵を代弁する。
「桁が違いますわよ?500万?子供の使いじゃ御座いませんわ」
「えっ…では‥」
「5億。それ以上なら幾らでもそちらの誠意で加算してもよろしくてよ」
「ごっ…5億?!そんな‥‥無茶な…」
「無茶も何も‥‥そこの娘がどこの誰に手を出したかお判りなのかしら?この婚約、婚姻には両陛下だけでなくパルメーラ夫人、王太后様、王太后様の妹君リクセラ様も祝福くださっているのよ?
あぁ、そうね。男爵家からは皆さまにこのルフザ公爵家が犯した失態を一緒になって詫びる行脚をお手伝い頂きましょうか。慰謝料すら出せないのならそうして頂いてもまだ足りませんが減額は可能かも知れませんわ。
如何でしょうか。ゲーテ侯爵」
「話になりませんな。では全て決裂との事でよろしいかな?手続きがあるので失礼をする」
「ま、待ってくれ。男爵!払え!全てを売り払ってでも払うんだ!」
ルフザ公爵は両手を大きく広げて帰ろうとソファを立ち上がるゲーテ侯爵一家を必死になって止める。同時に男爵にツバを飛ばしながら罵声を浴びせる。
男爵夫人は真っ青になってもう息もしているかどうか定かではない。
しかし男爵は算盤を弾いたのだろう。
「わかり‥‥ました。5億お支払いを致します。しかしっ!少し待って頂けませんか?」
「なにを待てと?あぁそうね今日は持ち合わせがありませんものね」
「いえ、あの…屋敷と土地を売ればおそらく2億ほどは用意できます。買って頂く方次第ではもう少し上乗せになるでしょう」
「あらいやだ。それでは半分か半分にも満たぬではありませんか」
「ですから!残りは…残りは領の通行税を毎年5千万つづ納めると言う事で…」
「困ったわね。娘は直ぐに股を広げたと言うのに親は出し渋り。娘を見習っては如何?」
夫のルフザ公爵とは対極に静かに落ち着いた声でルフザ公爵夫人は男爵に言葉をかける。勿論口元は扇で隠し、見えるのは蛇が獲物を狙うような目である。
実のところ、男爵領の通行税はかなりの額になる。隣国からの輸出入には男爵領を通る必要があるのである。エリザベスが男爵令嬢という身分であるにも関わらずエドワードに近づけたのは資産があるからである。
他の令嬢と違って宝飾品の類や予約の必要な会員制レストランなど誘わなくても自前で用意が出来る。貢物など一切不要なのである。そこに来て美人で豊満な肉体の持ち主。
エドワードは【自分】に惚れていると言い寄ってきたエリザベスに落ちた。
シャルロッテに問題があったわけではない。シャルロッテは申し分ない令嬢で何処に連れ立って行っても恥ずかしくない振舞で妻にするならシャルロッテ以外はあり得ない。
ただ、エリザベスも捨てがたい。父の後を継ぐまでは秘密の関係になるが当主となれば第二夫人や愛人を持つ者は少なくない。エドワードには愚かな思惑があった。
エリザベスには野心があった。実家には豊富な資産があるが手に入らないものは爵位である。
伯爵以上の爵位は金では買えない。エドワードに言い寄り第二夫人となる事で公的にも公爵家の者となる。金で買えないものをエドワードで補えるのだ。公爵夫人の座などはなから狙ってはいない。何が嬉しくて行きたくもない茶会やらで年上の夫人らに愛想を振りまかねばならないのか。
欲しいのは【公爵家の人間】という立場であり、なんなら子でも産まれれば尚良しである。
ゲーテ侯爵はエドワートとエリザベスの思惑などどうでもいい。5億と言う破格の示談金を提示したのはまさにその男爵領がメインデッシュなのである。
手形は1円でも足りなければ落ちない。足りなければ例えそれ以上の価値が継続的にあるものでも手放さねばならない。そこを狙ったのである。
ただ、聊か棚から牡丹餅であったのは間違いない。
今日、この場に呼ばれるまでは何の問題もなく順風満帆な娘の婚約関係だったのだから。
不意にゲーテ侯爵が先ずはエリザベス、次にエドワードに話しかける。
「報いという言葉を知っているかね?」
「は、はい‥‥申し訳ありませんでした」
「謝罪はいらないよ。もうすぐ彼も手に入りそうだね。示談金を払えない父上に感謝するんだね」
「えっ?…エドワードが?」
「良かったね。公爵家から婿入りになれば男爵家も安泰だ。その前に両陛下を含む皆々様に説明をしなければならないだろうけどね?」
「嘘っ‥」
死亡宣告にも近い助言。この縁談を壊した説明をする面々を想像すればその場で首が胴体と離れてもなんら不思議ではない。エリザベスは床に突っ伏して叫ぶだけになった。
「エドワード君。君を息子と呼ぶ日は楽しみだったのだがね」
「も‥‥申し訳…ありません。でもっ…ですがっ!」
「なんだろう?不快になる事はさけてほしいが聞くだけは聞こうか?」
「ぼっ‥僕は…シャルロッテを愛しているんですっ。これは本当ですっ」
その言葉にずっと沈黙をしていたラファエルが声を荒げる。
「どの口がそんな事を!恥を知れ!」
やれやれ…と両手の平を軽く上にあげるゲーテ侯爵。シャルロッテは何も言わない。
「で?男爵家としては我がゲーテ侯爵家に何を!どうしてくださると?」
「お支払い…します…」
「分割は困るよ?君の娘のように泣けばどうでもなると思われると困るし、こんな事は早々に仕舞うのが一番傷が浅くて治りも早いからね」
「領の‥‥権利も含めて…支払いに充当致します」
「あの僻地の領か…まぁ隣国に旅行に行くには便利そうだね。仕方ない。旅行好きな家内と娘の為に僕がポケットマネーで買い取ろう。5億から屋敷と土地を売った残りの金額でね」
ゲーテ侯爵は男爵の肩を一つ叩き、1人拍手をしながらルフザ公爵に向き合い握手をした。
「では、善は急げです。王宮に書記官をやってください。譲渡契約書を今から結びましょう」
「今から?夜中になってしまいますよ」
「大丈夫です。日が昇るまでには終わるでしょうし、明るくならないと男爵家の使用人達が給料や退職金などの支払いもあるでしょう?銀行が営業を始めないと払えないでしょうからね」
にこやかに笑うゲーテ侯爵だが目は笑っていない。男爵家の金融資産など知れたものである。
屋敷を押えて、貴金属などの動産は【家屋に付随する】とすれば持ち出しは出来ない。
残りは銀行にある現金だが、本人が行けば問題はない。
そこに使用人達を連れて行ってあげれば良いだけなのである。
使用人に給与と退職金を払えばその日暮らしも出来なくなる程度しか残らないが知った事ではない。
「お父様、目が極悪になっておりますわ」
「あぁ、可愛いシャル。ごめんよ?本当は夜中に放り出してやりたいんだが使用人に罪はないからね」
「それは慈善事業ではなく、偽善事業。悪趣味ですわよ?」
日付が変わった頃に、男爵領の譲渡、土地と屋敷の譲渡の書類が完了する。
手続きの間に王宮の文官、公爵家、侯爵家から男爵家に人間が向かう。
何も知らない使用人達は騒然となったが、翌日ゲーテ侯爵はシャルロッテに言った通り、銀行で待つ使用人達の元に男爵夫妻と娘を送り届ける。
「男爵家の使用人は血の気が多いね。足らなければ娘と奥方は働き口を紹介するのに」
「あなた、ご夫人には酷なんじゃありませんか?」
「大丈夫だよ。親子なんだから」
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