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VOL:11 セルジオの向かう先
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昨日の事をまだ怒っているのか。それともジャニスとの関係を…いや違う。
リシェルの言葉を思い出してみると1つ覚えがあった。
兄のヨハネスから毎月貰っている金である。
――まさか兄上はミケネ侯爵家と何か仕事をしているのか?――
そうだとすれば、リシェルが兄のヨハネスから金の事を聞いたかもしれないと思い当たった。
――素直に言えば良かったかな。くそっ!――
1人でまた舌打ちをしたセルジオに暢気なアメリーが「そう言えば」とテーブルに何かを置いた。
「玄関に落ちてたわよ。全く不用心ね。外じゃなくて良かったわよ」
セルジオはギョっとした。
それはリシェルが持っているはずの玄関の鍵だった。
鍵は入居した時に3本渡され、1つはセルジオ、1つはリシェル、そしてもう1つ、今は両親が持っているがマザーキーとなる鍵はリシェルが持っていて持ち手の形が違う。
――リシェ…本気で俺と別れるつもりなのか?――
もう一緒にやっていけないと決めた時は家の鍵を置いて出ていく約束をした。
リシェルの事だからうっかり玄関に落としてしまったのではなく、外から施錠をした後に格子の付いた窓から投げ込んだ。そう考えると合点がいく。
突然立ち上がったセルジオに驚いたアメリーは尻もちをついたが、セルジオはそんなアメリーを起こしもせず玄関を飛び出していった。
仕事を終えている時間なのは間違いないため、ミケネ侯爵家は出たはず。
リシェルが立ち寄りそうな場所と言って思い当たるのは1つしかない。
――実家のマルセ男爵家に戻ったのか?――
セルジオはマルセ男爵家に向かって夜道を走った。
マルセ男爵家についたセルジオはドンドンと扉を何度も叩いた。
家の中に明かりが点いて、リシェルの兄が扉を開けた。
「誰だ、こんな真夜中に」
「す、すみません。セルジオです。リシェが来ていませんか?」
「リシェル?なんで?ウチに行くと言ってたのか?すまないが連絡があっても子供が水痘なんだ。感染するといけないから連絡があっても断ってるよ」
「じゃぁ来てないんですか」
「さっきも言っただろう?用事があっても今は断るよ。3人の子供が順に感染してるんだ。特に下の子は熱も高いんだ。リシェルどころじゃないんだよ」
けんもほろろに玄関の扉が閉まると、中から子供の泣き声が聞こえてくる。
「水枕を替えないと」と兄嫁の声がしてランプの灯りが窓から薄くなっていく。
その様子にリシェルの兄の言葉を疑った訳ではないが、セルジオはここにリシェルはいないと確信し、ならばどこにと、トボトボ歩きながら考えた。
が、リシェルが他に行きそうな場所の見当もつかない。
友人はいただろうけども、付き合っている期間や結婚しての2年間で「全員結婚した」とリシェルはセルジオに話をした事があった。
『母親になるの、私が最後になっちゃったなぁ』と出産祝いに何を贈ろうかと考えていたリシェルが思い浮かぶ。既に結婚し、子供もいる家にリシェルが転がり込むだろうかと考えて首を横に振る。
「よっぽど怒っちゃったのかなぁ」
溜息と一緒に言葉を吐き出し、昨日の事で相当に立腹したから今日は何処かに宿を取って戻らないのかも知れないとセルジオは結論付けて、両親の待つ家に戻った。
しかし、翌日も、その翌日もリシェルが家に帰ってくることはなかった。
セルジオは毎日仕事には行くのだが、帰宅する度に家の中がどんどん乱雑に散らかっていくだけで両親はリシェルが帰らない事に関心もない。
リシェルの顔を見ない日が1日1日増えていく。リシェルの声が聞こえない時間だけが長くなっていく。セルジオは気が狂いそうだった。
リシェルに求めていたのは無条件に愛し、包んでくれる愛。突然吹曝しの荒野に捨ておかれた子供のような心境になり、日を追うごとに気持ちが追い詰められていく。
仕事も手につかなくなり、今日にいたっては仕事もずる休みしてしまった。
食べても飲んでも体の中に入っていく気がしないどころか吐いてしまう。
リシェルの影を家の中で探し、9日目でチェストの中にリシェルの衣類が一切ない事に気が付いた。今一度部屋の中を見回してみればリシェルと2人暮らすために借りた部屋なのにリシェルが何処にもいない。
存在がないだけでなく、リシェルを思わせるものが何一つない。
深夜繕い物をしていた椅子は母親のアメリーが使い、持ち主であるリシェルは「借りて」いる状態だった。2人で選んだお揃いの食器も数日前に両親のした食事の残骸がこびりついたままテーブルにあり、リシェルが化粧をする為に思い切って買った小さな化粧台は中身の化粧品ですらアメリーが私物化していた。
――どこにもリシェがいない――
両親は料理を作ってくれるリシェルがいないので外食の金を気落ちしたセルジオにせがむ。
面倒になって財布にある札を全部渡せばその日に使い切ってしまい、翌日には「明日の食事代をくれ」と両親が揃って手を出してくる。
「今日は金は持ってないんだよ」
「じゃぁ何を食えばいいんだ?」
「仕方ないわ。ヨハネスに食費だけでも貰いに行きましょうよ」
アメリーの言葉にセルジオは久しぶりに現実に引き戻された。
全身から冷や汗がふき出す。
「ま、待ってくれ。金はとって来る。職場の机に忘れてきただけなんだ」
母親のアメリーの事だ。本当に兄のヨハネスに食費をせがみに行くに決まっている。そんな事をされたらヨハネスから既に受け取っている金が全く両親に使われていない事がバレてしまう。
金を取ってくると家を出たものの、庶務課のデスクに金など置いているはずが無い。
考えた挙句。セルジオが向かった先はジャニスの家だった。
数日ぶりのジャニスは相変わらずだったが、セルジオを見ると笑顔で出迎えてくれた。
「珍しいわね。家にまで来てくれるなんて」
「まぁな。それはそうと…」
セルジオは口では「まだダメ」と言いながらも自分で下着を脱ぎ去るジャニスに深く口付けをすると寝台に押し倒した。目的は性欲を発散させる事ではなく、ジャニスを抱き潰し、今まで買ってやった宝飾品を戻して貰うこと。
長い付き合いでジャニスが金目のものを何処に仕舞ってあるかなどはお見通し。
ジャニスが体の何処をどうすれば果てるのかもセルジオにしてみれば初歩の算術よりも簡単な図式。
そしていつもと同じようにジャニスを抱いた。
セルジオの頭の中は「早く宝飾品を金に変えねば」とそれだけで、万が一を考えての避妊など頭の片隅にもなかった。
リシェルの言葉を思い出してみると1つ覚えがあった。
兄のヨハネスから毎月貰っている金である。
――まさか兄上はミケネ侯爵家と何か仕事をしているのか?――
そうだとすれば、リシェルが兄のヨハネスから金の事を聞いたかもしれないと思い当たった。
――素直に言えば良かったかな。くそっ!――
1人でまた舌打ちをしたセルジオに暢気なアメリーが「そう言えば」とテーブルに何かを置いた。
「玄関に落ちてたわよ。全く不用心ね。外じゃなくて良かったわよ」
セルジオはギョっとした。
それはリシェルが持っているはずの玄関の鍵だった。
鍵は入居した時に3本渡され、1つはセルジオ、1つはリシェル、そしてもう1つ、今は両親が持っているがマザーキーとなる鍵はリシェルが持っていて持ち手の形が違う。
――リシェ…本気で俺と別れるつもりなのか?――
もう一緒にやっていけないと決めた時は家の鍵を置いて出ていく約束をした。
リシェルの事だからうっかり玄関に落としてしまったのではなく、外から施錠をした後に格子の付いた窓から投げ込んだ。そう考えると合点がいく。
突然立ち上がったセルジオに驚いたアメリーは尻もちをついたが、セルジオはそんなアメリーを起こしもせず玄関を飛び出していった。
仕事を終えている時間なのは間違いないため、ミケネ侯爵家は出たはず。
リシェルが立ち寄りそうな場所と言って思い当たるのは1つしかない。
――実家のマルセ男爵家に戻ったのか?――
セルジオはマルセ男爵家に向かって夜道を走った。
マルセ男爵家についたセルジオはドンドンと扉を何度も叩いた。
家の中に明かりが点いて、リシェルの兄が扉を開けた。
「誰だ、こんな真夜中に」
「す、すみません。セルジオです。リシェが来ていませんか?」
「リシェル?なんで?ウチに行くと言ってたのか?すまないが連絡があっても子供が水痘なんだ。感染するといけないから連絡があっても断ってるよ」
「じゃぁ来てないんですか」
「さっきも言っただろう?用事があっても今は断るよ。3人の子供が順に感染してるんだ。特に下の子は熱も高いんだ。リシェルどころじゃないんだよ」
けんもほろろに玄関の扉が閉まると、中から子供の泣き声が聞こえてくる。
「水枕を替えないと」と兄嫁の声がしてランプの灯りが窓から薄くなっていく。
その様子にリシェルの兄の言葉を疑った訳ではないが、セルジオはここにリシェルはいないと確信し、ならばどこにと、トボトボ歩きながら考えた。
が、リシェルが他に行きそうな場所の見当もつかない。
友人はいただろうけども、付き合っている期間や結婚しての2年間で「全員結婚した」とリシェルはセルジオに話をした事があった。
『母親になるの、私が最後になっちゃったなぁ』と出産祝いに何を贈ろうかと考えていたリシェルが思い浮かぶ。既に結婚し、子供もいる家にリシェルが転がり込むだろうかと考えて首を横に振る。
「よっぽど怒っちゃったのかなぁ」
溜息と一緒に言葉を吐き出し、昨日の事で相当に立腹したから今日は何処かに宿を取って戻らないのかも知れないとセルジオは結論付けて、両親の待つ家に戻った。
しかし、翌日も、その翌日もリシェルが家に帰ってくることはなかった。
セルジオは毎日仕事には行くのだが、帰宅する度に家の中がどんどん乱雑に散らかっていくだけで両親はリシェルが帰らない事に関心もない。
リシェルの顔を見ない日が1日1日増えていく。リシェルの声が聞こえない時間だけが長くなっていく。セルジオは気が狂いそうだった。
リシェルに求めていたのは無条件に愛し、包んでくれる愛。突然吹曝しの荒野に捨ておかれた子供のような心境になり、日を追うごとに気持ちが追い詰められていく。
仕事も手につかなくなり、今日にいたっては仕事もずる休みしてしまった。
食べても飲んでも体の中に入っていく気がしないどころか吐いてしまう。
リシェルの影を家の中で探し、9日目でチェストの中にリシェルの衣類が一切ない事に気が付いた。今一度部屋の中を見回してみればリシェルと2人暮らすために借りた部屋なのにリシェルが何処にもいない。
存在がないだけでなく、リシェルを思わせるものが何一つない。
深夜繕い物をしていた椅子は母親のアメリーが使い、持ち主であるリシェルは「借りて」いる状態だった。2人で選んだお揃いの食器も数日前に両親のした食事の残骸がこびりついたままテーブルにあり、リシェルが化粧をする為に思い切って買った小さな化粧台は中身の化粧品ですらアメリーが私物化していた。
――どこにもリシェがいない――
両親は料理を作ってくれるリシェルがいないので外食の金を気落ちしたセルジオにせがむ。
面倒になって財布にある札を全部渡せばその日に使い切ってしまい、翌日には「明日の食事代をくれ」と両親が揃って手を出してくる。
「今日は金は持ってないんだよ」
「じゃぁ何を食えばいいんだ?」
「仕方ないわ。ヨハネスに食費だけでも貰いに行きましょうよ」
アメリーの言葉にセルジオは久しぶりに現実に引き戻された。
全身から冷や汗がふき出す。
「ま、待ってくれ。金はとって来る。職場の机に忘れてきただけなんだ」
母親のアメリーの事だ。本当に兄のヨハネスに食費をせがみに行くに決まっている。そんな事をされたらヨハネスから既に受け取っている金が全く両親に使われていない事がバレてしまう。
金を取ってくると家を出たものの、庶務課のデスクに金など置いているはずが無い。
考えた挙句。セルジオが向かった先はジャニスの家だった。
数日ぶりのジャニスは相変わらずだったが、セルジオを見ると笑顔で出迎えてくれた。
「珍しいわね。家にまで来てくれるなんて」
「まぁな。それはそうと…」
セルジオは口では「まだダメ」と言いながらも自分で下着を脱ぎ去るジャニスに深く口付けをすると寝台に押し倒した。目的は性欲を発散させる事ではなく、ジャニスを抱き潰し、今まで買ってやった宝飾品を戻して貰うこと。
長い付き合いでジャニスが金目のものを何処に仕舞ってあるかなどはお見通し。
ジャニスが体の何処をどうすれば果てるのかもセルジオにしてみれば初歩の算術よりも簡単な図式。
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