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第20話 王都への手紙
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エメリーは何時だったか、どこで読んだのか忘れてしまったが綿花を肥料として使う記述を読んだ記憶があった。
まだ実験段階だったのか。よく覚えてはいないがその中に「溶ける」とあったのだ。
但し、それにはただフワフワの綿花の状態ではダメだった。
「確か…」
エメリーはクズクズになった綿花をトランクから取り出しテーブルに広げた。
厚さを均等になるように固めてそれを叩いて押しつぶそうとしたが、その辺に舞ってしまって掃除が大変な状況を作り出してしまった。
「あぁっ。ごめんなさい」
「いいんですよ。これを潰せばいいんですか?」
「多分。そう書いてた気がするだけなんだけど」
「いいですよ。やってみましょう。でも均一の厚さにするなら叩くと厚い部分と薄い部分が出来るので本を錘にしてみましょうか」
「そうね。クレインさん、流石だわ」
「いえいえ。押し花の要領ですよね」
「え?押し花作った事があるとか?」
「作ろうとしたわけじゃないですけど、本を読んでて栞代わりに挟んでたら押し花になってました」
上手くいくかどうか判らない。
しかし何もしなければ失敗したかも判らない。エメリーはやってみる事にした。
本で綿花をプレスする。1週間もすると薄い向こうが透けて見える布状になったがこれが破れ難い事が判明した。
次の1週間でもう時期もとうに終わったオシロイバナに黒い種が残っていたので土に埋め、布で覆う。
放置していると1週間で発芽したのだ。
この時期、何もしなければ気温が低いので発芽しない。発芽した芽は弱弱しい芽ではなくしっかりとしていた。
「クレインさん。いけるかも知れない。お兄様に手紙を書くわ」
「どういう事です?」
「ずっと前に綿花を肥料に出来ないかって実験の記述を読んだことがあるの。板状にした綿花を被せるようにすると綿花が溶けてた、それが肥料代わりにもなったし、確か…土が周囲より少しだけ温かかったと合った覚えがあるから保温もするんだと思うの。衣類の布には出来なくても植物を育てる服には出来るかも知れないわ」
僅かでも手ごたえを感じたエメリーは兄のシュライクに手紙を書いた。
シュライクは経営という算術は不得手だが、見た人が「頭、大丈夫?」と思うような実験を良く行っていた。
例えば割れてしまった卵を牧草で覆い、温めたらひよこになるか。
とか
割れてしまった茶器や食器を元の形にノリなど接着剤でくっつけて置いて、もう一度高温で焼いたら元通りになるか?
抜け落ちた鳥の羽で翼を形成すれば空を飛べるか?
など。
99%は無駄な労力で終わっていたけれど、唯一と言っていい成功が蒸留水である。
古着を回収してきて、リメイクをした後に蒸留水で洗うとムクロジなど洗剤を使うよりきれいに洗えたし、家具でガラスの附属するものは蒸留水でガラスを拭くとそこにガラスがあったかどうか?と思えるくらい綺麗になったし、窓ガラスの拭き掃除に使うと水垢が付き難くなることも判った。
ロッカス伯爵家のリサイクル品が良く売れる要因は蒸留水を使って清掃をするので、中古と判っていても使用頻度の低いものと思って貰えるくらい良い仕上がりになるからである。
「お嬢様の名前で手紙を出すのは危険です。俺の名前を使ってください。ご両親や兄上に判るような暗号みたいなのはありますか?」
「暗号…ないわね」
手紙に魔力を込めてしまうと勘付いた魔導師に魔力を辿られる危険性もあるので使えない。
御者は領地に居て王都にはクレインの事までまだ知らせていない可能性もある。
考えた末にエメリーは差出人はクレインに名前を借りて、名前の後ろにどこかの商会の看板にあるキャラクターのように鶴の絵を描いた。
「出してきますね。お嬢様は家に居てください」
「配送料がかかっちゃうわ。お金…待って。取って来る」
「要りませんよ。配送料は無料です」
「そんなわけないわ。国も違うし高額よ?」
「タダなんです。俺を信じてください」
半信半疑だったが、手紙はクレインがもう手にしていて返してくれそうにないし「返しません」とクレインは言う。
エメリーはクレインに任せるしかなかった。
クレインが向かったのは獣や魔獣の肉を買い取ってくれる仲介商会。
そこで肉ではなく、魔獣の核と呼ばれる宝飾品の原料を提示した。
「急いで届けて欲しいんだ。そして必ず届けて欲しいんだが出来るだろうか」
滅多に手に入らない魔獣の核。無造作に転がされた核の中にはブラッドウルフの核もある。専門に扱う商人でも数年に1回拝めるかどうかのシロモノに目をぱちくりとさせた商人は二つ返事で引き受けた。
★~★
エメリーからの手紙がロッカス伯爵家に届いたのは発送してから3週間目のこと。
シュライクは手紙からヒントを得て、10年後「不織布」を売り出すことになるが、それよりも先に抱えていた在庫は一旦空になる事件が起きる。
その事件をきっかけにロッカス伯爵家は綿花栽培の面積を広げ、収穫量も倍増した。
事件が片付くとまたも在庫を抱える事になるのかと思われたが、不織布は大当たりで日常では水の濾過、紅茶を飲む際の1回分を個別包装、そして農業用に苗を生育させる保温兼肥料に化けていくことになる。
水には溶ける性質があるが元は綿花なので自然に返る肥料で環境にも優しい。
水に溶けるには何日もかかるので紅茶のティーバッグなどに使っても溶け出すことはない。
ロッカス伯爵家が頭を抱えていたランクが低く布にするだけ赤字を叩き出していた綿花が稼ぎ頭になるのは10年後の話である。
次の話回はその事件が勃発するところから始まるのである。
まだ実験段階だったのか。よく覚えてはいないがその中に「溶ける」とあったのだ。
但し、それにはただフワフワの綿花の状態ではダメだった。
「確か…」
エメリーはクズクズになった綿花をトランクから取り出しテーブルに広げた。
厚さを均等になるように固めてそれを叩いて押しつぶそうとしたが、その辺に舞ってしまって掃除が大変な状況を作り出してしまった。
「あぁっ。ごめんなさい」
「いいんですよ。これを潰せばいいんですか?」
「多分。そう書いてた気がするだけなんだけど」
「いいですよ。やってみましょう。でも均一の厚さにするなら叩くと厚い部分と薄い部分が出来るので本を錘にしてみましょうか」
「そうね。クレインさん、流石だわ」
「いえいえ。押し花の要領ですよね」
「え?押し花作った事があるとか?」
「作ろうとしたわけじゃないですけど、本を読んでて栞代わりに挟んでたら押し花になってました」
上手くいくかどうか判らない。
しかし何もしなければ失敗したかも判らない。エメリーはやってみる事にした。
本で綿花をプレスする。1週間もすると薄い向こうが透けて見える布状になったがこれが破れ難い事が判明した。
次の1週間でもう時期もとうに終わったオシロイバナに黒い種が残っていたので土に埋め、布で覆う。
放置していると1週間で発芽したのだ。
この時期、何もしなければ気温が低いので発芽しない。発芽した芽は弱弱しい芽ではなくしっかりとしていた。
「クレインさん。いけるかも知れない。お兄様に手紙を書くわ」
「どういう事です?」
「ずっと前に綿花を肥料に出来ないかって実験の記述を読んだことがあるの。板状にした綿花を被せるようにすると綿花が溶けてた、それが肥料代わりにもなったし、確か…土が周囲より少しだけ温かかったと合った覚えがあるから保温もするんだと思うの。衣類の布には出来なくても植物を育てる服には出来るかも知れないわ」
僅かでも手ごたえを感じたエメリーは兄のシュライクに手紙を書いた。
シュライクは経営という算術は不得手だが、見た人が「頭、大丈夫?」と思うような実験を良く行っていた。
例えば割れてしまった卵を牧草で覆い、温めたらひよこになるか。
とか
割れてしまった茶器や食器を元の形にノリなど接着剤でくっつけて置いて、もう一度高温で焼いたら元通りになるか?
抜け落ちた鳥の羽で翼を形成すれば空を飛べるか?
など。
99%は無駄な労力で終わっていたけれど、唯一と言っていい成功が蒸留水である。
古着を回収してきて、リメイクをした後に蒸留水で洗うとムクロジなど洗剤を使うよりきれいに洗えたし、家具でガラスの附属するものは蒸留水でガラスを拭くとそこにガラスがあったかどうか?と思えるくらい綺麗になったし、窓ガラスの拭き掃除に使うと水垢が付き難くなることも判った。
ロッカス伯爵家のリサイクル品が良く売れる要因は蒸留水を使って清掃をするので、中古と判っていても使用頻度の低いものと思って貰えるくらい良い仕上がりになるからである。
「お嬢様の名前で手紙を出すのは危険です。俺の名前を使ってください。ご両親や兄上に判るような暗号みたいなのはありますか?」
「暗号…ないわね」
手紙に魔力を込めてしまうと勘付いた魔導師に魔力を辿られる危険性もあるので使えない。
御者は領地に居て王都にはクレインの事までまだ知らせていない可能性もある。
考えた末にエメリーは差出人はクレインに名前を借りて、名前の後ろにどこかの商会の看板にあるキャラクターのように鶴の絵を描いた。
「出してきますね。お嬢様は家に居てください」
「配送料がかかっちゃうわ。お金…待って。取って来る」
「要りませんよ。配送料は無料です」
「そんなわけないわ。国も違うし高額よ?」
「タダなんです。俺を信じてください」
半信半疑だったが、手紙はクレインがもう手にしていて返してくれそうにないし「返しません」とクレインは言う。
エメリーはクレインに任せるしかなかった。
クレインが向かったのは獣や魔獣の肉を買い取ってくれる仲介商会。
そこで肉ではなく、魔獣の核と呼ばれる宝飾品の原料を提示した。
「急いで届けて欲しいんだ。そして必ず届けて欲しいんだが出来るだろうか」
滅多に手に入らない魔獣の核。無造作に転がされた核の中にはブラッドウルフの核もある。専門に扱う商人でも数年に1回拝めるかどうかのシロモノに目をぱちくりとさせた商人は二つ返事で引き受けた。
★~★
エメリーからの手紙がロッカス伯爵家に届いたのは発送してから3週間目のこと。
シュライクは手紙からヒントを得て、10年後「不織布」を売り出すことになるが、それよりも先に抱えていた在庫は一旦空になる事件が起きる。
その事件をきっかけにロッカス伯爵家は綿花栽培の面積を広げ、収穫量も倍増した。
事件が片付くとまたも在庫を抱える事になるのかと思われたが、不織布は大当たりで日常では水の濾過、紅茶を飲む際の1回分を個別包装、そして農業用に苗を生育させる保温兼肥料に化けていくことになる。
水には溶ける性質があるが元は綿花なので自然に返る肥料で環境にも優しい。
水に溶けるには何日もかかるので紅茶のティーバッグなどに使っても溶け出すことはない。
ロッカス伯爵家が頭を抱えていたランクが低く布にするだけ赤字を叩き出していた綿花が稼ぎ頭になるのは10年後の話である。
次の話回はその事件が勃発するところから始まるのである。
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