嘘つきのままで結構です

cyaru

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第21話  臆病者と小心者

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エメリーが姿を消してもう半年。一向にエメリーの行方も消息も掴めていなかった王家、そして公爵家はいい加減ウンザリしていた。

国を揺るがしかねない危機に国内に3家ある公爵家のうちオーブルストン公爵家と王家は残り2家の公爵家と5家ある侯爵家から突き上げを食らっていたのだがまるで他人事。


エメリーが住まう隣国とは逆の国から持ち込まれたと思われる流行病が王都で蔓延の兆しがあった。国境を超えて最初の患者が確認をされたのは1か月前のこと。

知らせがあったのに未だに何の対応策も取らない王家、そしてそんな王家に追随するオーブルストン公爵家に注意喚起を促し、事前に対策を講じるようにと何度も申し出て来る高位貴族に「またか」と言いたい事だけ言わせて会議を切り上げようとしていた。


「どうされるのです?隣国では特効薬もない事から解熱剤を買い占めしているんですよ?」

「慌てるな。王都に入って来てもすぐに終息する」

「どうしてそんな事が言えるんです?効果のある薬はないのに!」

「今までの流感だってそうだっただろう。山を越えて来る間に病原菌も弱まっているに決まっている。山越えは人も馬も疲れるだろうに。病原菌も同じことだ」

「何をバカな事を!悠長な事を言って文献にある300年前の麻疹のような事態になったらどうするんです?」

「麻疹はもう薬があるではないか。隣国は性に奔放な国だ。どうせ性行為でもし過ぎて梅毒のような広まり方をしたんだろう。秩序ある我が国には無縁の話だ」


国王の言葉にオーブルストン公爵夫人は元王女であることをチラつかせて集まった当主たちを小馬鹿にした。

「そうよ?いったい何を喚いているかと思えば起こってもいないパンデミックを憂いて居られるなんて。病は気からとも申しますわ。そんなに怯えていては病に来てくれと言っているようなものですわよ?」

「ふん。魔力持ちをみすみす手放したお方は心構えが我々とは違うようですな」

「なんですって?あの子に魔力などありません。騙されたのです。半年でやっと心の傷が癒えてきたのにまた傷口を抉るような事を言わないでくださる?」

「では15年前の件は間違いだったとでも?死人まで蘇ったのに?」

「死んだと思ったんでしょう。田舎者だもの。よく言うじゃない。クマに出会ったら死んだふりをすると。オホホ」

話にならないと集まった当主たちは心の中で盛大な溜息を吐く。
隣国からの街道沿いにある村と街で起こった出来事で、その時の負傷者も証言をしているし、なんなら誰がどう見ても死んだと思われて埋葬を待つ段階だった者まで生き返っているのだ。しかも傷一つない状態で。

ただ噂は誇張されたので生き返らなかった者もいる。光の届かなかった範囲ではエメリーの魔力の恩恵は受けていなかった。

古の大聖女ではないのだから国をすっぽりと覆うほどではなかったにしろ、半径200m圏内に届いたと思われる光は民衆を救った事は事実なのだ。

その噂に踊らされてエメリーを愚息カイルの婚約者にしたまでは良かったが、エメリーは幼かった。
どうせ無理やり魔力を引き出そうと幼子に手を挙げたりしたのだろう。

それでも魔力は発現しなかった。当然だ。聖なる力と呼ばれる力を邪道な暴力などで引き出そうとするのが間違いなのだと全員は思っている。

己の過ちを認めず、エメリーは魔力無しだったと言い切り、傷が癒えただのとのたまう口で茶会や夜会では「嘘つき娘だ」と吹聴するオーブルストン公爵夫人には全員が辟易していた。


「解りました。では小心者の我々は独自で対応策を練ります。えぇ。勿論費用は自腹で。国から何かを援助してくれ、人を回してくれと頭を下げることは御座いませんので、ご安心を」

「私もだ。陛下やオーブルストン公爵夫人のようにどーんと構える事の出来ない臆病者ですのでね。せめて自身の管轄する区域には対応を取らせて頂きます」

「ちょっと。そんな事をされたら領地から荷が運べないじゃないの!街道を封鎖する気?!」

2番目に言い出した当主は侯爵家の当主。オーブルストン公爵領は侯爵領を通らないと領地で生産した各種の品が運べなくなる。いい加減経営が傾いているのにこれでは倒れろと言うに等しいとオーブルストン公爵夫人は手にしていた扇を放り投げて怒りを表した。

「侯爵領の街道を通らずとも山越えをすれば王都には抜けられますよ」

「山越えなんかしていたら日数はかかるし、人も必要になるじゃない!補償してくれるっていうの?」

「何故当家が?侯爵領を通らないのに補償もなにも必要ないでしょうに。大丈夫ですよ。疲弊するのは病原菌だけなんでしょう?山越えをしてもオーブルストン公爵領の人間は疲弊する事もないでしょうから」

「では、我々は小心者で臆病者故、早々に対応を取りますのでこれにて」


2家の公爵家当主が席を立つと侯爵家の当主たちも後を追う。

「痴れ者が!」

オーブルストン公爵夫人の声が背中に浴びせられようと誰も振り返らずに部屋を出て行ったのだった。
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