嘘つきのままで結構です

cyaru

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第23話  誰か庭に穴を掘って下さい

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母国の危機が知らされる事もなく今日もクレインにお世話をされているエメリーは一念発起した。

――これじゃダメ、本当に快楽に溺れちゃう!――

至れり尽くせりは何も考えなくていいし、気持ちは楽になる。
今更だが一念発起しようとしたのは目の前のクレインの行動を見たからである。

しゃがみ込み、ムクロジの実を泡立ててせっせと洗濯をするクレインだが、洗いが終わり濯ぎを待つ桶にあってはならないものをエメリーは見てしまった。


「お嬢様、どうしました?お茶にしましょうか」

「ううん。お茶は良いの。念のためなんだけど…何を洗ってるの?」

「洗濯ものですよ?」

「それは解ってるんですけどね?今、洗ってるのは…」

「これですか?お嬢様のブラジャーですが?」

クレインは肩ひもを指で抓んでエメリーにブラジャーだと確認させるように見せる。
決して悪気はない。

――手にして見せないで――

そして濯ぎを待つ桶にあるのはショーツ。
確かにロッカス伯爵家にも使用人がいて、洗濯は使用人に任せきり。エメリーが洗った事は一度もない。

だとしてもだ!

――下着まで毎日洗って貰ってるなんて!!――

現場を見てしまった以上、気が付いてしまった以上、消えてしまいたい気持ちでいっぱいになる。
かと言って、下着をつけないという選択肢もなく下着をつければ誰かに洗って貰わねばならない。

日常の事なので失念していたが今はクレインと2人で暮らしている。

エメリーがしなければ誰がするか。
クレインだ。

「あ、あの…自分の下着は洗い方を教えてもらったら自分で洗うから」

「何故です?」

「何故って…」

「気にしなくていいですよ」

――気にするんだってば!――

もっと気になるのは王都を出てここに住まうようになって月のものだって数回やってきた。
顔から火が出るほど恥ずかしいのは布ナプキンまでクレインに洗って貰っていたという事実だ。

旅の途中では使い捨てだ。こっそりと焚火の中に放り込んで証拠は隠滅してきたがあまりにも堕落を常とする生活にすっかり注意を怠ってしまっていた。

「あ。もしかして洗いあがりに何かありましたか?」

――ありましぇーん!横漏れした痕跡すらありましぇーん!――

「おかしいな。直接肌に触れるものだから洗った後、濯いで絞って干しただけだとゴワゴワするんですよ。だからお嬢様の分はフワラーっていう花の花弁を摩り下ろして水で溶いたのに浸け置きしてたんです。水洗いもしっかりしたつもりだったんですが」

――はい~。もうめっちゃフワフワでしたよぅ――

だめだめ。ここで流されちゃダメとエメリーは自身を鼓舞し、遂に言った。

「あのっ!本当に自分で洗うので!」

「お嬢様。ダメです。お嬢様の手が水で冷えてしまいます。ほら今もそこに立ったままで7分ですよ?足は痛くないですか?椅子を持ってきましょうか?」

――7分やそこらで痛くならないってば!どこまで過保護なの?――

エメリーの為なら文字通りの滅私奉公なクレイン。
あと半年で30歳になる男性にこんなことをさせている自分。

――誰か庭に穴を掘って!クレインさん以外で!――


「お願い。自分で洗いたいの」

「お嬢様はしなくていいんですよ」

「ダメ。恥ずかしいの。下着を洗って貰ってるなんて…自分が恥ずかしいの」

「お嬢様…」

――ん?解ってくれたかな?――

淡い期待を抱いたエメリーだったが甘かった。
クレインの恩返しはそんなユルいものではなかったのだ。

「こんなことをお嬢様に言うのは…俺には出来ませんが」

――でも、言うんだよね?――

「俺、お嬢様の足だって舐めて綺麗にしろと言われたら喜んで舐めます」

――え?なんのカミングアウト?――

「出来れば爪も切って、丁寧にやすりを掛けたいですし、耳掃除もしたいんです。先日聞いたんですが若い女の子の間ではマニキュア、ペディキュアと爪に色を塗って、何だったかな…ネルネル…」

――ねるねる●るね?魔女になるわよ?――

「あ~。ネイルだ。そう、ネイル!小さい石とかでデコレートしたり色を変えて模様を描いたりとかもしたいんです。でも俺が触れたら…きっとお嬢様は無事ではいられないっ」

――は?私、そんなに柔くないけど、どんな怪力でやろうとしてるの?――

「それにマツエクもしたいし…兎に角!お嬢様に尽くしたいんです。なんでも言いつけてください。なんでもしますから洗濯をするなんて言わないでくださいっ!」


クレインは折れてくれそうにない。
そこまで恩を感じてくれなくてもいいし、恩返しならもう十分にしてもらった感でいっぱいだ。

エメリーもここで引くことは出来ない。

「お願い。洗濯がしたいの!」

「ダメです。手が冷えて冷え性を悪化させたら俺は…俺は…一度死んだのに二度目は死ねません」

――冷え性じゃないし!それにいつか皆死んじゃうんだよ?――

年齢から考えればクレインの方が先に神に召される筈だ。
クレインはそこのところを判っているんだろうか。


「じゃ、じゃぁこうしましょう。一緒に洗濯をします」

「お嬢様がしゃがむんですか?」

「よくしゃがんでますよ?気にしないでくださいませ」

「む、無理です。教えるって…ダメです。近くに来たら…お嬢様が壊れたらどうするんですか」

「クレインさんはそんな乱暴に私を扱うの?」

「まさか!全力で接します」

――じゃぁ壊れるんじゃないの?――

押し問答の末、エメリーは下着限定で洗濯を手伝う事を許された。

のだが…。

ごしごし、ごしごし。ジャッジャー。

「はい。お嬢様、お願いします」

「あのぅクレインさん?」

「なんです?」

「クレインさんが洗ってギュッと絞ったのを桶に入れるだけって…洗った事にならない気がするんですけど」

「十分です。お嬢様の手を介する事で下着も喜んでいます」

――持ち主の私、羞恥で泣きそうなんだけど――

やっぱり穴を誰かに掘って貰って入るしかなさそうだとエメリーは感じたのだった。
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