エンディングノート

環流 虹向

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MGR

へいたく帰宅

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もう…、泣きそう。

私は終電近い時間になりながら明日から始まる土日のために会場の確認をしていく。

けれど、今日朝ごはんを食べて家に帰った後に気づいた耳裏の首にあったキスマークが頭にちらつき、いつもよりも作業に時間がかかってしまう。

「明人!電車の時間迫ってるけど大丈夫か?」

と、3年先輩で私の先生として仕事を教えてくれる月出 一季つきだ いつきさんがわざわざ事務所から私の様子を見に来てくれた。

明人「すみません!あと5分で終わらせます。」

一季「俺もやるから指示出せ。」

明人「ありがとうございます…!」

私は一季さんと一緒に今日中までにしてないといけない確認を終え、事務所に戻り退勤を押す。

一季「2人で走るぞ。」

明人「はい!」

私たちは急いで最寄りの駅に走ったけれど、走って6分の駅に3分で着けるわけもなく電車を逃した。

…今日もタクシー?

さすがにこれ以上お金をかけたくない私は付近のカプセルホテルに泊まろうかなと考えていると、一季さんは私の腕を掴み車道に近づく。

一季「明人は三毛茶屋の方だったよな?」

明人「…そこからもう少し行った梅坂下ってとこです。」

一季「ああ、あそこか。俺は桜陽神社の方だから近いな。送ってくよ。」

明人「いいんですか…!」

一季「明後日は大事なチーフデビューだからな。なるべく疲れを溜め込まないためのプレゼント。」

そう言って一季さんはタクシーを呼び止めて私と一緒に家に向かう。

明人「ありがとうございます。近くのホテル行こうって思ってました。」

一季「慣れない布団だと返って疲れるからな。今日はすぐ寝ろよ?」

明人「寝ます!即寝です!」

一季「あと、ここ。明日は1日だから落ちないようにしろ。」

と、一季さんは自分の耳下の首を指して私に注意した。

明人「…え、落ちてますか?」

一季「お客様がいる時は見えてなかったけど、汗で落ちたのかもな。」

そういえば、暖房がきつくて少し首回りの汗が気になった時、夏に余らせた汗拭きシートを使って気が抜けたまま拭き取っちゃったんだ…。

一季「するなとは言わないけど、場所は指定した方がいいな。」

明人「すみません…。」

一季「明人に恋人がようやく出来たなら、俺が呑みに付き合うこともなくなるな。」

と、一季さんは付き物が取れたかのような笑顔をして私の肩を1度叩く。

明人「んー…、出来ても一季さんとは呑み行きたいです。」

私は恋人のことは認めることも否定もせずに、ただ憧れで尊敬する一季さんとの交流の場が少なくなることが嫌でそう伝えた。

一季「まあ惚気ぐらいなら聞いてやるよ。相談はされてもまともな答えを返せる自信はないからユキたちによろしく。」

と、めんどくさいことや愚痴関連は全て同期ユキたちに丸投げする一季さんは疲れていてもいつも通りだ。

明人「はい。これからもよろしくお願いします。」

私はそういうマイペースでも仕事はちゃっかりしっかりこなしてしまう一季さんを就活中の合同説明会の時に知り、この専門式場で働きたいと思えた。

あの時はただただ仕事が出来そうな人と思っていたけど、こうやって一緒に仕事をしていく中で一季さんの人間味を知ってもっと人として好きになった。

一季「じゃあ、明日からまたよろしく。」

明人「はい!家まで送っていただきありがとうございます。おやすみなさい。」

一季「おやすみ。」

一季さんはタクシーの窓から私に手を振り、Uターンをして桜陽神社近くにある自分の家に帰っていった。

ああいう先輩になれるように私も頑張らないとな。

ちゃんと恩返しも恩渡しも出来る人になろう。

私はまた一季さんに尊敬の念を強めて、家に帰りお風呂に入ってすぐにベッドに寝転がりアラームをセットする。

MGRにいる時は髪の毛を下ろしてたけど、キスマークなんて気づかなかったからなにも気にせずに首回りをさらけ出してた気がする。

しかも、オアシスさんに接客された側にキスマークあったし…。

本気で成くん嫌いになりそう。

…この気持ち、本当に誰にも知られず言わず終わっちゃいそう。

私はオアシスさんにまた嫌な女の見せ方をしてしまったことに体が倦怠感に襲われそうになったのでそのまま眠りにつくことにした。


…………
昼・しゃけおにぎり カップ味噌汁
夜・なし

一季さんがタクシーで送ってくれた!感謝!
おやすみ、明人
…………


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