エンディングノート

環流 虹向

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MGR

ひらひら雲着

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オアシスさんを補給したいのに最近朝が早くて全然MGRに行けてないし、仕事が終わってもシンデレラタイムを過ぎた時間に最寄り駅に着くからスーパーさえ開いてない。

前にコンビニでばったり会ったけど、あれは本当に奇跡的だったらしくてここ2週間毎日コンビニに来てるのに全く会えない。

今日も行くけど、オアシスさんはいないだろうな…。

私は12月のハードスケジュールで会えなくなってしまったオアシスさんを人影も見えない道で探しながら、いつもの坂上にあるコンビニに入った。

…やっぱりいないか。

オアシスさんは背が高いからいたら商品棚から頭と肩が飛び出していて、いるかどうか一発で分かるけど今日もそんな人はいない。

やっぱり確実に会うならMGRに行くかスーパーしかないんだよな。

私は今日もまたオアシスがなくてカラカラ状態のまま、今日食べたいものを選ぶ。

…サバの味噌煮。

初めてオアシスさんとコンビニで会った時に取られたサバの味噌煮が今の私の栄養補給食なっているけど、今日で5日目だよ。

さすがに飽きてきた…。

私はその隣にある生姜焼きとホッケの塩焼きどちらにしようか悩んでいると、モコモコの雲みたいなアウターの袖が私の目の前を飛び出して来てその場で手を振られた。

それに驚いて腕を辿り横を見ると、MGR店員の雨瑞くんが目を輝かせて私に笑顔を振りまいていた。

雨瑞「お久しぶり!元気だった?」

と、いつでも元気な雨瑞くんは週刊漫画の雑誌を買いに来たらしく、それを抱いて私に挨拶してくれた。

明人「おひさ。仕事忙しくてもう気力で動いてるって感じ。」

私はオアシスさんじゃなかったことに少しショックを受けつつも、オアシスさんの片割れのような存在に会えてちょっと嬉しかった。

雨瑞「お疲れ様です!さっちゃんってなんの仕事してるんだっけ?」

明人「結婚式場で主に披露宴の運営してるって感じかな。」

雨瑞「ブライダルプランナーってやつ?」

明人「それとはまた別だよ。新郎新婦様の1番大切な1日を予定通り最高な日にするためのお手伝いしてる。」

雨瑞「かっけぇ…。12月で愛の月だから忙しい?」

明人「そうだねー。私の職場、イルミネーションに力入れてるから結構忙しいんだ。多分6月より忙しい。」

雨瑞「だからお店に来れなかったのか。」

明人「そうそう。MGRのモーニング恋しいよー。」

私はそう話しながらさっぱりした味のホッケの塩焼きを手に取り、カット野菜を選ぶ。

雨瑞「僕はー?」

明人「恋しいねぇ。」

雨瑞「叶さんは?」

明人「恋しいねー。」

雨瑞「かーくんは?」

明人「…会いたいね。」

私はオアシスさんの名前を出されて分かりやすい間を開けて答えてしまう。

雨瑞「MGRのじゃなくて、かーくんのモーニングが恋しいんじゃなーいっ?」

と、わざとらしく私の耳元で囁く雨瑞くんが悪魔に感じる。

明人「MGRのモーニングって大体が環酉さんが作ってくれてるじゃん。どっちも同じことだよ。」

私は雨瑞くんにバレバレな自分の気持ちを隠すために、手早くレタスとスライスタマネギのカット野菜を手に取り、重増しするためにゼリーを選びに行くと雨瑞くんもついてきた。

雨瑞「ちょっとした言葉の違いだけど、そのちょっとの違いが大きな命取りって爺さんに言われたよ。」

明人「お爺さん?」

雨瑞「そう。僕のお母さんのお父さん。だから言葉使いには気をつけてる。」

なのにお客さんにはタメ語なの?

雨瑞くんの母方のお爺様。
雨瑞くんは知恵でしかそのことを理解してないようなので、年末年始にでも改めてお言葉をかけてあげてください。

雨瑞「後悔は残しても傷は残すなって。だからピーとかピーとか言わないようにしてる。」

明人「ピーって何?」

雨瑞「言えないから“ピー”なの。自分が言われて傷つく言葉は言わないように気をつけてるよ。」

…そういうことなのか。

だから雨瑞くんって優しさと元気な言葉しか生み出さないんだなと納得した。

雨瑞「なので今から僕はさっちゃんを呑み会に誘いたいんだけど、どう?」

え?

今の会話に何か繋がりあった?

明人「今から呑み会なの?」

雨瑞「22時からしてたんだけど、お酒なくなりそうだったから買い出しにきたんだ。」

明人「そうだったんだ。」

雨瑞「うん。来週に商店街のお祭りがあるから景気付けの呑み会。叶さんも、かーくんもいるよ。」

…え?オアシスさんお酒呑むの?

いや…、そりゃ呑むだろうけど、今?

明人「行きたいけど…、明日も早いんだよね…。」

雨瑞「何時から?」

明人「仕事場に6時。余裕持って着きたいから始発2、3本目くらいで行かないと。」

雨瑞「そっかぁ…。そんなに忙しいんだね。」

明人「うん。せっかく誘ってくれたのにごめんね。」

雨瑞「ううん。仕事だからしょうがないよ。」

そう言うと雨瑞くんは私のアウターを掴み、お菓子コーナーに私を連れてきた。

雨瑞「好きなの3つ選んで。ちょっと早いクリスマスプレゼント。」

明人「…え?いいの?」

雨瑞「うん。ここで仕事にお疲れなさっちゃんに会ったのって縁だと思うし、しばらくMGR来れなさそうだから元気パワーもあげる。」

と言って雨瑞くんが私の背中に手を当てて円を描き始めた。

明人「ありがとう…。じゃあ、これと…、これとこれ。」

私は自分が好きなチョコとスナック菓子、飴玉をピックアップした。

雨瑞「はーい。僕、パパッと酒持ってくるからちょっと待っててね。」

明人「うん。私、あっちの方いるね。」

雨瑞「分かった。」

私は紙パックのオレンジジュースもふと飲みたくなり、3種類ある中でどれにするか選んでいるとカゴいっぱいにお酒を入れた雨瑞くんがすぐにやってきた。

明人「みんなお酒強いんだ?」

雨瑞「特にかーくんが強いんだよね。まだ酔ってないのか、ワイン1本頼まれちゃった。」

と、雨瑞くんは軽くカゴを上げて1本の白ワインを見せた。

明人「そうなんだ…。飲み過ぎて運ばれないように気をつけてね。」

私は1番安いオレンジジュースを手に取り、雨瑞くんとレジ清算を終えて外に出る。

雨瑞「さっちゃんはどっち?」

明人「私はこの道右にまっすぐ行くよ。」

雨瑞「そっか。僕、この横断歩道渡ってあっちの路地の方なんだ。ここでバイバイだね。」

明人「うん。お菓子ありがとう。しばらく頑張れる。」

雨瑞「うん!時間あるときまた来てね。みんなで待ってるから。」

明人「分かった。多分月曜には行けるはずなんだ。」

雨瑞「今、火曜だけど…。」

明人「うん…。忙しいからね…。」

雨瑞「無理せずにゆっくり休んでから来て。僕たちはあそこからいなくならないから。」

明人「ありがとう。そうする。」

私は目の前の横断歩道で雨瑞くんを見送ったあと、自分の家に帰った。

ああやって雨瑞くんも私に優しくしてくれたのに、オアシスさんとは違うと思ってしまうのはなんでなんだろう。

私は少ししょっぱいホッケを食べながらMGRのモーニングを思い出し、ピカイチサンドを来週に食べに行くことを未来の私のご褒美にして今週の仕事に集中することにした。


…………
朝・レタスサンド たまごサンド
昼・カップ味噌汁
夜・ホッケの塩焼き カット野菜 ミックスゼリー オレンジジュース

雨瑞くんに会えた。
しかも早めのクリスマスプレゼントと元気パワー送ってもらった。感謝。
おやすみ、明人
…………


環流 虹向/エンディングノート
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