一なつの恋

環流 虹向

文字の大きさ
12 / 188
7/4

12:00

しおりを挟む
風呂場から漏れ出るシャワーの音がうるさくて目を覚ますと、扉を少し開けているのかシャンプーのいい匂いがしてくる。

将がいたベッドを見るともぬけの殻だった。
どうやら将がシャワーを浴びてるらしい。

俺は体を起こして体を伸ばし、若干残っている眠気を飛ばす。

するとちょうどシャワーを浴び終わった将がタオル1枚で出てきた。

一「おはよー。」

将「一も入れば?酒臭いし。」

一「ありがと。入るー。」

俺はそのままシャワーを借りてこびりついた酒とタバコの匂いを取る。

るあくんがタバコ吸わなくても、呑み屋にいた周りの客がタバコ吸っていてテラス席に避難したけれどそれでもついてしまった。

本当、粘着質で不快で嫌いだ。

俺は将に借りた服を着て部屋に戻ると将が外に出かける準備をしていた。

一「どっか行くの?」

将「夏休みバイトでまあまあ忙しいそうだから、今から画材買いに行こうかなって。」

一「そうなんだ。俺も行く。」

将「別にゆっくりしてもいいんだぞ。」

一「1人じゃやることないし。画材買ったらプール行かない?」

将「あー…、あり。水着は?」

一「レンタルあるところ知ってる。」

将「OK。じゃあ行こう。」

俺はカバンに自分の物をまとめて、将と一緒に電車に乗り画材屋に向かう。

将「毎日呑んで疲れないのか?」

俺が将の家に行くと聞かれるいつも質問。
きっと俺の体を気を使ってのことなんだろう。

一「寝れば元気100倍。」

将「少しは内臓休めないと長生き出来ないぞ。」

一「若いのは今この時しかない。今を生きて俺は死ぬ!」

俺は適当に返してその話から逃れる。

長生きしたってあの家の呪縛からは逃れられない。
俺の将来を捨てたなら俺の身も捨ててくればいいのに。

…まあ、世間体を気にするあいつらには出来ないか。

あいつらの苗字、家系、血全てが俺の体と住民票に刻まれてる訳で、俺がまともだった5年間は近所の人に見せびらかしてたからな。

世間体を気にする親だから金には困ってない。
犯罪さえ起こさなければ住んでる家と食費分の金は父親が毎月出してくれている。
通帳を管理してる母親は俺が金を使いすぎると連絡をしてくるが、放っておくと2、3日して金を振り込んでくれる。

金で俺を飼っているみたいなもんだ。
金を出すから自分たちの手の中で生きろと言われてるもの。

俺はそれを利用して行きたい専門学校に行って遊んでいる。

けれど、それもあと少しで終わる。
この後の未来は全く未定で何をするかも考えられない。

あの学内専用アプリで学校から就職のスカウトが来たと連絡が数回あったけど保留にしてもらってる。

別に金がほしくてあの作品たちを作ってる訳じゃない。
俺の存在がその場にいなくても残るから作ってるだけ。

もちろん、作品を売れば金になって飯が食えるのは分かってる。
けど、またスカウトしてもらった会社に飼われるってことが嫌で俺にはまだその一歩が出ない。

出来るなら金のない世界に行きたいけどそんなの無人島くらいしかないし、生き続けられる保証もないんだよな。

…俺って今後なにしたいんだろ。

俺は将と画材屋で道具を見ながらそんなことを考えた。



→少年少女モラトリアムサヴァイヴ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...