一なつの恋

環流 虹向

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22:00

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「けんくん、お疲れー。」

俺が30分の休憩でスタッフルームに行くと、ちょうど研修をしてくれた先輩のレオさんがいた。

一「お疲れ様です。」

俺は冷蔵庫に入ったフリードリンクのお茶を貰ってレオさんの向かい側にあるソファーに座る。

レオ「ロングで顔がブスになってるぞ。大丈夫か?」

俺の腫れた目を見て言ってるのか、冗談交じりに笑いながらレオさんは言った。

一「…ちょっと寝不足だったので。」

冗談で見た目をいじってくる奴って苦手なんだよなと思いつつ、愛想笑いで会話を濁す。

レオ「寝不足はこの仕事で大敵だぞ。暇があれば寝たほうがいい。」

一「はい。」

俺はソファーに横になり、言われた通り仮眠をしようと目を瞑る。

レオ「あ、そうだ。客でポニテのぼいん来たか?」

と、寝ようとしたのにレオさんは俺に話を振る。

一「あー…、確かいたかもしれないです。胸の中央に花咲いてました。」

レオ「その女、ツツミさんの彼女らしいから気をつけとけ。」

果てる時、すごい耳障りな金切り声だったからよく覚えてる。

男持ちで、しかも経営者の女なのにこんなとこくるのか…。

まあ、妻子持ちでも風俗に行く男もいるしその一定数いる中の1人なんだろう。

一「ツツミさんは知ってるんですか?」

レオ「秘密で来てるらしい。だから気をつけるんだよ。」

レオさんは禁煙室なのに電子タバコを吸いはじめる。
けれどその匂いはハチミツを煮た匂い。

甘ったるい匂いで姐さんのハチミツ石鹸にあった爽やかさは無かった。

レオ「ツツミさんの女と寝た同業がいるんだけど、パッと消えたんだ。」

一「…え?」

俺はタバコの匂いに気を取られててしっかり話を聞いていなかった。

レオ「メッセージ送っても、電話しても、もう使われてないって言われて連絡取れなくなった。」

レオさんは少し悩んでいる顔をして電子タバコを指の上で回す。

一「…仲良かったんですか?」

レオ「まあ、飯行く程度にはな。」

まさか、ドラマみたいな展開が現実に起こってるわけじゃないよなと俺は内心ビクつく。

レオ「客はどんなにいい顔してようが、俺たちのことを道具にしか思ってない。人間の皮を被った殺人鬼と思ってた方がいい。」

一「そんなこと考えてたら出るもんも出ないです。」

レオ「出す時は1番タイプの顔を思い出しとけ。それが自分のスイッチになる。客で欲情してたらフルは保たない。」

先輩だし、浴場のブースで働いてる人からの教えだ。
しっかり覚えておこう。

若干、鳥肌が立った俺はそれを頭に叩き込む。

レオ「プライベートは勝手だが、ここで出会った客とは客の関係のまま終わらせないと後が面倒だ。気をつけておけよ。」

一「分かりました。」

レオさんは深く息を吸いながらタバコを吸い、ため息をつくように吐くと立ち上がった。

レオ「お互い、ささっと稼いで早くやめような。」

そう言って、レオさんは自分の持ち場に戻っていった。

俺はまた目を瞑って、いかに早く稼いで辞める作戦を練りながら30分の休憩を終え、終電まで仕事をした。




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