一なつの恋

環流 虹向

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俺は永海の寂しさを半分こしながらあのBARに向かう。

俺は1番寂しさを分け合いたい姐さんに会えるかなと淡い期待を持ちながら、俺が唯一知ってる姐さんの店に行くとバーカウンターの中には俺の一番星がいた。

「…おかえり、一。」

と、姐さんは小さく俺に笑顔を見せてくれた。

けど、その目はすぐに俺の手元に行き、一瞬悲しそうな顔をさせてしまう。

さき「彼女、紹介しに来てくれたの?」

そう言って姐さんは俺に背を向けて拭きあげたグラスを片付けていく。

俺はそのまま永海の手を引き、姐さんと俺の間にあるバーカウンターの空いている席に座って姐さんがこっちを向いてくれるのを待つ。

一「彼女(仮)だよ。」

永海「…それしちゃダメになるかも。」

と、永海は小さく呟いたので俺はそれに驚き、思わず姐さんから目を離してしまう。

一「なんで?」

永海「多分、彼氏出来る。」

なんだそれ?
未来予知なのか知らないが、自分の意思ではない発言に俺は少し腹が煮える。

一「候補、誰?」

永海「…沙樹。」

…そうなるのか。
まあ、そうなのかもしれない。

夏の好きな人が分かっている永海はそいつから略奪を企てるほど、汚い考えは生まれない。

生まれてもやらない。

そういう永海だから今俺の手を痛いほど握りしめているんだろう。

一「おめでとう。いつ告白されるの?」

永海「多分、25日。初めて『デートしよ』って言われた。」

一「…そっか。俺はその日、花火やる予定だから永海も誘おうかなって思ってたけど余計なお世話だったな。」

永海「…花火、したい。」

一「彼氏候補とやれよ。好き同士でやる花火、楽しいと思うけど。」

永海「好きだけど、ちがうの…。」

みんななんで自分の“好き”を違うと否定するんだろう。
そんな悲しい言葉、俺は聞きたくない。

一「今、永海に俺が告白したら付き合うの?」

そう言うと永海は俯いてた顔を上げて全力で拒否する。

一「けど、沙樹とは付き合おうって思うんだ。」

永海「…いつも寂しいとき、側にいてくれた。」

一「そういうの好きになる気持ち、大きくなるよね。」

永海「うん。」

一「俺が候補にならない理由は?」

永海「えっ…と、友達だから。」

一「沙樹も今、友達じゃん。」

永海「そうだけど…」

一「けど、付き合おうって思えるなら両想いじゃん。沙樹の好きと永海の好きが違っても恋人になろうって思えたんならいいじゃん。」

俺はダメだったけど。

そう思って俺は永海から姐さんの方へ目を向けると、姐さんが永海の泣き出しそうな顔を心配そうに見つめていた。

さき「一、女の子泣かせちゃダメだよ。」

一「姐さんも、俺のこと泣かせないで。」

そう言うと姐さんは一瞬合った目を逸らし、ドリンクを用意し始める。

さき「永海ちゃんは甘いの好き?」

永海「…好きですっ。」

さき「よかった。…私は涙が出そうな時、夕暮れの空を見上げてゆっくり星を探しながら意識を空に舞わせるんだ。」

そう話しながら姐さんは丸みがあるウイスキーグラスに入った搾りたてのオレンジジュースを永海の目の前に出した。

さき「沈んで行く太陽が地平線に少し照れながらキスをするから空を赤く染めて夕焼けが出来るの。」

姐さんはそのオレンジジュースの中に細いスポイトを入れて、ラズベリーのリキュールを底に流し込みグラスの中に暮れ始めた夕日を見せてくれる。

さき「その照れた夕日が隠れた後、出てくるのは?」

永海「…月?」

さき「うん。」

そう言って姐さんはレモンの三日月をグラスの口元に差し込む。

さき「その月が照れた太陽を愛おしく感じて抱きしめようと腕を広げるから少しの間、夜が来るの。」

と、姐さんは煌々としている夕空に夜空を流し込むよう、グラスにマドラーを這わせながら優しくカシスを入れ込む。

さき「みんな、夜は寂しいって口走るけどね。本当に寂しいのは何も感じなくなっちゃった時。触れ合っても、会話しても、目を見ても、何も思わなくなっちゃったら生きてる実感がなくて寂しいの。」

そう言って姐さんは使っていたマドラーを永海に渡した。

さき「ゆっくり混ぜてみて。」

永海「…はい。」

永海が姐さんに言われた通り、ゆっくりとグラスの中にある夕暮れの空と夜空を混ぜると“Sun”が描いた夕空色が出来上がった。

さき「月は1度も太陽に振り向いてもらえず、ずっと追いかける側だけど、1度立ち止まって勇気を振り絞って振り返れば自分の後ろから太陽が追いかけてきてくれてることに気づけるんだ。」

そう言って姐さんは混ぜ終えたマドラーをグラスから抜き、流れ星が描く線のように細いストローをそのカクテルに挿した。

さき「追いかけてダメだったら少し立ち止まって振り返ってみて。永海ちゃんの後ろに、もしかしたら今好きな子がいるかもしれないよ。」

永海「…いないときは?」

さき「いないときはまた動き始めないと。止まったままだと重力がなくなって全部が宙に浮かんでいって永海ちゃんの手元には何も残らなくなる。」

永海「それは…、嫌です。」

さき「私も嫌だ。だから少し休憩出来たらまた動き始めてね。」

永海「はいっ…。」

永海は出来上がった桜色のカクテルをゆっくりと自分の体に入れる。

さき「一はハイボール?」

一「うん。」

そう言うと姐さんは手早くハイボールを作り、俺の前に置くとバックヤードに入ろうとするので俺はわざと星屑がパチパチ弾けるグラスを倒し、姐さんを引き止める。

さき「…せっかく作ったのに。」

一「ごめん。」

姐さんが腕を伸ばしてカウンターを拭き始めてくれたので俺はその腕を掴む。

一「明日、絵見にきてよ。」

さき「…離して。」

一「やるべきこと終わったから俺に会いに来て。」

さき「今…」

一「今日は偶然でしょ?会いに来た訳じゃないから。」

さき「分かったから…。手、離して。」

俺は震える腕を名残惜しく離すと姐さんはすぐにバックヤードに行ってしまった。

永海「…お姉さんのこと、好きなの?」

と、永海は驚いた様子で聞いてきた。

一「うん。けど振られたし、また逃げられた。」

俺は自分でこぼした星屑をタオルに染み込ませる。

永海「…私と一緒だね。」

一「永海は違うだろ。」

永海「今日、夏と2人で朝活するはずだったのに夏が沙樹も呼んでで、仕事だからって途中で帰っちゃった。」

…仕事?

瑠愛くんからしばらくの間休みをもらったって言ってたし、今日は夢衣の引っ越しの手伝いをしてたから絶対嘘だ。

永海「私、追いかけようとしたら沙樹に止められちゃった。」

一「…それで、デートに誘われた?」

永海「うん。」

一「まあ…、デートはデートだから付き合うとか抜きに楽しめばいいと思うよ。」

永海「そんな気持ちでしていいのかな。」

一「夏がダメって思ってるなら、違う人に気持ちを切り替えないとずっと止まったままじゃん。」

俺は姐さんの話していたことが自分のことのようで心苦しくなる。

一「すぐにって訳じゃないけど、ゆっくりと沙樹のこと知って同じ好きにしていけばいいよ。」

永海「…うん。そう…、する。」

永海はためらいを言葉に見せて、姐さんの夕空を呑み終えるとやっと笑顔になった。

永海「今日も前も、いっぱい一の時間くれてありがとう。」

一「うん。彼氏が出来ても俺は気にせず遊べるから。」

永海「私は気にするけど…。」

一「それなら遊ばなくてもいいよ。」

永海「…それはちょっと嫌かも。」

そう言って少し悲しそうな顔をする永海を抱きしめたくなった。

けど、永海は今別の人に抱きしめてほしいと思ってるから俺がするわけにはいかない。

一「まあ、時間が合えば遊ぼ。」

永海「…うん!また遊ぼうね。」

俺は永海を見送り、新しい家に戻る電車に乗り姐さんに明日きてほしい場所の住所を送って今日を終えた。





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