死神と真人

野良

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出会い1

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ーー泣かないで。どうか。
ーー僕が死んでも。

大庭おおば真人まなと……さん?」
 呼ばれて彼は顔を上げた。
「俺は…あんたの世界でいうところの『死神』だ。あんたを、天国まで連れて行く」 俺はにこりともせずに言った。俺は死神の制服である黒いスーツを着ていた。ちょうど喪服のようにネクタイも黒。長い髪は邪魔なので後ろで束ねている。口にはタバコ。上司から「仕事中はやめろ」と言われているのだが、癖になっていてやめることができない。
「僕は……いきません」彼は言った。
 大庭真人は20代前半。優男。髪はふんわりと柔らかそうで、茶色がかっている。
  俺はため息をついた。「ずっとこの世界にいると、あんたの存在は消える。天国に行って生まれ変われば、また彼女と一緒にいられるかもしれない。それでもか?」
「……それでも、僕は麻ちゃんが笑顔になるまでは、どこにも行けない」
 その返答に、俺は驚いた。今までこの話をして霊界にいかなかった奴はひとりもいなかったからだ。
 しかし、真人の意思の強い目を見て説得するのは難しいように見えた。「……わかった。好きにしろ」

 俺の職業は「死神」。死んだ奴らを霊界へ連れていくのが仕事だ。
 大抵の奴は素直に従ってくれるが、時々、逆らって「行かない」と言う奴がいる。
 しかし、そう言う奴でも、俺が「この世界に居続けたら消える」と言うと、渋々ながらも従ってきた。まあ、自分自身より他人を優先する奴なんていないよな。それが当たり前だと思っていたから、こいつのような人間と会ったのは、初めてだった。

「麻ちゃんはですね、とっても可愛いんです。動物が好きで、犬や猫を見ると、すぐ笑顔になるんです」そうやってずっと、真人は恋人の「麻ちゃん」の話をしていた。「あとは頑張り屋で、ケーキ屋さんのバイトもずっと続けているし、夜遅く帰ってきてから学校のレポートして、心配になるくらいで……」
 俺は聞き飽きてきたのであくびをした。
  ここは彼女のアパートの近くのビルの上。ふたりで座って話をしていた。ここからは彼女の姿は見えない。
「元気いっぱいで、つらいことがあって泣いても、翌日にはまた元気に笑っていたのに……」彼の目から涙がこぼれる。「……僕が死んでからは、ずっと泣いているんです」
  そこからしばらく沈黙が流れる。俺にとってはどうでもいい話。ただ、どうやってこいつを霊界につれて行こうか考えていた。
  俺には、人の愛や情が理解できない。
「……でも、僕は恵まれています」真人がまた話始める。「この一週間、ひとりで、話す相手もいなくて。今は死神さんが話を聞いてくれるから。ありがとう、死神さん」
  感謝されるのなんて初めてだった。
  俺が理解できない人の中でも、こいつは一番理解できない奴だった。
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