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本編

【都市へ】52−下.ラフィ、焼きもちを焼く

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「フン、今回はこのくらいで勘弁してやる。そのかわり、大金を紙切れに変える方法を教えろ」
 
 紙切れに変えるとは、そういうことか。
「証券です」
 キョトンとしているゼラ・パムにわかりやすく訳した。
 ラフィが言っているのは、商船への投資だ。船が帰って来なければ、確かにただの紙切れ、言葉通り、大金を紙切れに変えたことになる。
「構わないけど船への投資となると、数年掛かりになる。君たちは旅人では?」
「山の町に定住する。ヤガ――キギ・コナ商会の拠点の町だ」
「さっき、話した商人だ。だけど、それだと遠くないかい?」
「お前に全て任せる」
 ゼラ・パムが目を見開く。
「あはっ! 今し方会ったばかりで、殴った男を、いきなり信じて託そうというのか。おかしな男だ、疑いを知らないのか? 滅多にいないよ! 面白いね、ラフィは! あはは……痛っ……あはは」
 殴られた腹を抱えて痛がりながら目元に涙を浮かべて大笑いする。
 あまり金に執着しないラフィだ、元々無いものだったし、投資については何も知らないに等しいのだから、専門としている者に預けようということ。
 腹芸ばかりの貴族社会に身を置くゼラ・パムから見れば、ラフィはさぞ珍獣に見えるだろう。
 しかし、ムッとして高慢な言い方をするラフィのそれは、人にものを頼む態度じゃない。ゼラ・パムが、不敬も面白がる変わった男でよかった。


「ミラがお前を信用した。俺はミラを信じている。それのどこが面白いんだ」
「いや、うん、そうだね。その通りだ。僕の友人のミラの為なら、力になろう」
「そんな簡単に引き受けていいのですか」
「面白そうだし、是非やらせて貰おう」
「利益の半分はやる」
「いや、三割でいいよ。自分の投資のついでに、人の金で賭けをするのだからね。そのかわり、本当にただの紙切れにしてしまう可能性もあるってことを忘れないで欲しい」
 それから、色々話し合った。投資するにしても、無事に山へ帰る為に寄付団体四件へそれぞれ金貨一〇〇〇枚、キギ・コナ商会へ残った金の運搬と絵画をここまで運んで貰った費用やら世話になった礼と帰りも世話になるということで金貨一〇〇〇枚を渡すことにして、金貨五〇〇〇枚をゼラ・パムに預けて投資に回す。
 定期的に手紙のやり取りをする約束をし、ゼラ・パムとは円滑に話が纏まった。

 なのに、ラフィはふくれっ面で恨めしそうに見てくる。
「どうかされました?」
「「どうかされました?」じゃない。ミラに言いたい事がある」
「僕は居ない方がいいね」
 不穏な雰囲気を醸し出すラフィに、ゼラ・パムが演技掛かって肩をすくめ、中庭からそそくさと退散した。
「なんで、何も言わずアイツと二人きりになっている」
「金の話なので。人に聞かれたくありませんでした」
「俺に一言あってもいいだろう」
 先のことでラフィが一方的に因縁を持っている相手だ、ラフィに声を掛け、パーティー会場のド真ん中で騒ぎにしたくなかった。
「今度から気をつける」
「ミラのそれはアテにならん」
 態度にツンツンと棘がある。
「何が不満だ。ゼラとは何もありません」
「それはもう、わかった」
「じゃあ、なんだ?」
「ミラは俺が他のヤツと話していても何も思わないのか」
「趣味の話ができる方と知り合えて良かっですね」
「そうじゃない。もっと、こう、あるだろう。俺がミラ意外のヤツと話していると、いい気がしないとか」
「特には。寧ろ、ラフィも人並みに人と交流が出来るようになり、その成長が喜ばしいく思います」
「なんでだ。ミラは俺が他のヤツの所へ行っていいっていうのか」
「ふふ……」
 自分が俺に嫉妬するから、俺にも嫉妬して欲しいのか。考えが幼稚でわかりやすい。投資の話をしていたときは、しっかり議論していたのに、俺のことだとどうして、こうも幼児じみた独占欲を発揮するのか。面白くて笑わずにはいられない。
「なに笑っている」
「いいえ、何も。そんなにマド・キリュを気に入ったのですか」
「ちがっ……そ、そうだ」
 ツンと顔を背けるも、チラチラとこっちの様子を窺う視線を向けてくる。
「彼の元へ行きたいと」
「そんなこと一言も言っていない!」
「気に入ったのだろう?」
「違う、あれは嘘だ。本気じゃない」
 変わり身が早い。さっきの強がりはどこへ行った。
「では、どうする? アンタが他の者と一緒に居ても、俺が何とも思わないと知って、俺から離れて行くのか? 仕方がない、俺一人で山の町へ帰ります」
「嫌だ! 置いて行くな! なんで、すぐそういこと言う。なんで、離れるなんて言うんだ。一人にするな。嫌だ! ミラぁ! ミラと一緒に行く!」
「ふふ……おいで」
 腕を広げて誘うと、半べそのラフィがそっと抱きついて顔を胸にうずめてきた。
 ラフィの首回りを指でなぞり、耳元で囁く。
「離す訳がない。ここに鎖を巻いて、繋いでやろうか?」
「……ミラがしたいなら、いい」
「冗談です」
「すぐ意地悪する」
「繫がれたいのですか?」
「別に、そういう、わけじゃ……」
「なら、やりません」
「ミラぁ!」
 背中に回るラフィの腕が、縋り付くかのようにギュッと力が入った。
「ミラ」
「なんだ?」
「好きだ」
「知ってます」
「ミラ」
「ん?」
「好き。ミラ、好き。ミラ、す、……んっ」
 延々と好きだと繰り返しそうな口を、唇で塞いで終わらせる。
「宿へ帰ったら可愛がってやる。それまで、おあずけ出来ますよね?」
「あ、当たり前だ。約束だぞ」
「その前に、やるべきことをやってしまわないと。安全に山の町へ帰るために」
「二人で、な」
「二人で」
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