最強の奴隷

よっちゃん

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似た者同士

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奴隷になることが正式に決定し、その日のうちに、彼女は皇室に通された。

彼女は左側半分を、陛下は右側半分を自分の領域とし、生活を送ることになった。


その日の夜、彼女はバスタオルを巻き、プールの1番奥側にある、滝の内側に入り、寛いでいると、後から陛下も境界線の右側から滝を魔法で一瞬止めて、現れた。


滝の真ん中にある細い一本の境界線は、滝の水流に打たれながら、ユラユラと揺れていた。

「こんなに広いプールなのに、このひっそりとした滝の裏側に来るなんて、あなたも私も趣向が似てるのかしら。」


陛下は、腰から下にバスタオルを巻き、彼女の方を見ずに、肘をプールサイドに載せる。

「この滝の裏側に回り込んだのは、これが始めてだ。俺は隠れるのは嫌いだ。お前とは、全くの正反対だ。」

陛下は滝の裏側を真っ直ぐ見ながら、冷たい声で話す。

「ふーん。それは、それは。国王気質でいいことね。」

「お前、いつまでこの宮殿に居座るつもりだ?」

彼女の返答から、少し間を置いて、質問を投げかける。

「今日来たばかりなのに、もうそんな話をして。あなたって面白いのね。」

彼女は滝の裏側から、滝の水圧を止めて、歩き出す。

「そうねぇ。気分次第かしら。」

そう言って、滝の表側に向かってくぐり抜けた。
陛下も彼女の後を追うようにして、滝の水圧を止めて滝の正面に出た。


「お前、名前はなんという?」

ゆっくり歩く彼女の横を、境界線のギリギリを歩きながら後を追う陛下。

「さぁ、それは秘密。」

「お前は、今まで、この国の山奥にある別荘に住んでいたそうだな。俺はお前の噂は10年ほど前から耳にはしていた。何度も使いの者に、その山奥の別荘に向かわせたが、別荘は見えているのに、そこに辿り着くことは出来なかった。俺はずっとお前の存在を、死霊魔法の何かと思っていた。」

「ふふっ。死霊ねぇ…。」

「お前の素性を話せ。」

陛下は魔法で、歩き進める彼女の前に壁を作り、彼女の歩行を止めさせる。

「なぜ?」

彼女もまた、陛下と同じ冷たい目をしており、陛下の顔をじっと見つめ上げるその瞳に、陛下は冷徹さを感じとる。

今まで、女性は全て自分の言いなりで、奴隷として女性を見てきた陛下にとって、彼女は女性とは別の存在に感じていた。


「もういい。勝手にしろ!」


陛下は、返す言葉を一瞬考えてから、不服そうな顔をして、彼女の前の壁を消してから、先に歩き出していった。


それから、1週間ほど口を聞かずに、同室で過ごしていた、ある日の昼間頃。


陛下は、実務に出ていて、彼女の許可をとり部屋に雑用係の使用人(男性)が入ってきた。

プールサイドの掃除を微力魔法を使いながら掃除をしている時。

プールで大型のフラミンゴの形をした、浮き輪で寛いでいる水着姿の彼女に向かって話しかけてきた。


「あなた様は、奴隷の魔法使いであられますよね。」

使用人は彼女が真横に浮き輪で流れてきたタイミングを見計らって、話しかけた。

「えぇ。そうよ。何か?」

彼女は久しぶりの会話に、少し嬉しそうな様子であった。

雑務係の40歳のその使用人は住み込み職をしており、質素な黒一色の上下の服に髪はボサボサであった。

魔法で年齢を止めることは、上級魔法師のみしかできず、国の9割以上は年齢と共に身体も成熟を遂げていた。

「あなた様は、この宮殿で使える者のランクでは、1番下位にある奴隷なのに、なぜそのような優雅な暮らしをお認めになられておられるのです?」

使用人は、皮肉を交えながらも、自分よりも強い魔力を持つ彼女に対して下手の喋り方を続けた。

「奴隷は普通、何をするのかしら?」

彼女は退屈そうに、皇室の天井を見上げながら、そう聞き返す。

「奴隷は男性に対し、敬意を持って接し、男性に決して叛いてはなりません。奴隷部屋がこの宮殿には、10室ほどございますが、1部屋6畳もないほどの窮屈な部屋です。奴隷は、主に日中は家政婦のような掃除、洗濯、農作業など、私達と似たような仕事をし、夜はVIPルームにて陛下をみんなで喜ばせると言ったようなことをされています。決して身体が休まる時は、ございません。しかしながら、奴隷の方々は皆様、陛下に酷い扱いをされているのにも関わらず、陛下に恋心を抱いております。」


「ふーん。VIPルームねぇ。面白そうね。その部屋では、具体的にどんなことをしているのかしら?」

そう彼女が、尋ねた所に、皇室に陛下が帰ってきた。

彼は、遠くの扉から2人を見つめて、ゆっくりとこちら側に近づいてくる。


「あっ、あの、わたくしは掃除に戻らせていただきます。」

「ちょっと待って。私はもっと宮殿のことを…」

そう言っている間に陛下はテレポートで、彼女と使用人のいる所まで来て、プールサイドに腰掛けた。

「何を話していた?」

陛下の威嚇魔力が、使用人の背筋を凍らせる。

「境界線、入ってきてるわよ。」

彼女は、空気を乱すかのように横やりをいれる。

「はっ、はい。この奴隷の者に、奴隷はどんなことをするのかと聞かれまして、お応え致しておりました。職務中に、たっ、、大変申し訳ありませんでした。」

使用人は、深々と額が地面に着くくらいまで土下座をして、謝罪する。

「もう掃除はいい!出て行け!」

「はっ、はい!」


使用人は慌てて、部屋を出て行く。
陛下は、彼女の方を見るが、彼女は相変わらず天井を見たままだった。

「お前、何を詮索している?」

彼は魔力でプールサイド側に、浮き輪を寄せて、彼女に問いかける。

「別に。奴隷が何をしているのか、少し興味を持っただけ。」


「それを聞いてどうするつもりだ?」


陛下は更に威嚇魔力を上げてきたが、彼女は全く気にしていない様子であった。

「どうするって、、どうもしないわよ。ただ…。」

「ただ?」

陛下は彼女の言葉を復唱し、返答を急かす。

「ただ、少しあなたのことが気になっただけ。そこに深い意味はないわ。」

2人の間に、少し間が空き、陛下は威嚇魔力を解く。

「だったら、俺に直接聞け。この宮殿の奴は、俺のことを恐れていても良く思っている奴はいない。」

「あなたも、はぐれ者ってわけね。まぁ、力を持つ者、権力を握る者はそれ相応の威厳を持たないと、示しがつかないものね。私は、ずっと1人で生きて来たから、相手との距離感やコミニケーションの取り方が、いまいちズレているのかもしれないけど、あなたとこのまま同じ空間で犬猿の仲でいるのは居心地が悪いわ。だから、少しずつお互いを受容していきましょう。」

「あぁ。だが、俺が上でお前が奴隷という立場にあるということだけは忘れるな。」

そう言って立ち上がり、魔法で出したバスタオルを彼女の浮き輪で浮いている腹部にかける。

「おい。これから一緒に外の空気を吸いに行かないか?」

「えぇ。いいわよ。」


彼女はプールから上がり、自分の領域である左側部分で魔法により一瞬で着替えを済ませ、右側部分のベット傍の、大理石の書斎で寛いでいる陛下に向かって、境界線ギリギリのところから、「準備ができたわ。行きましょう。」と声をかけた。


彼は境界線ところまで歩いていき、左手を差し出す。


「手を握れ。外を2人で歩いている所を見られたら、国民が動揺する。俺がいつも1人で行く、この国の1番北にある誰もいないスポットまでテレポートでお前を連れて行く。」


「魔法ばっかりに頼っていたら、運度不足になるわよ。」


そう屁理屈を言いながらも、彼女は陛下の左手の上に手を載せる。


最初の時とは違う、彼女の手の感覚に少し驚きつつも、彼女に一言一括してからその場所へとテレポートする。


「本当に生意気な女だ。」


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