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Chapter1

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***


目が覚めた時、まだ外は真っ暗だった。

それもそのはず。時刻はまだ夜中の二時。

ほとんど時間は経っていなかった。


「……やってしまった」


隣で気持ちよさそうな寝息を立てて夢の中にいる隼也。

お互い何も身につけていない姿で、薄い布団だけが掛かっていた。


……幸せだった。とても、幸せな時間だった。


隼也に愛されていると錯覚してしまうほどに、愛おしい時間だったと思う。

でもきっと隼也は起きた時、数時間前の情事のことはもう覚えていないだろう。

あれだけ飲んだ後だ。いつもの感じだと絶対に記憶が曖昧なはず。酔い潰れるとかなりの頻度で記憶を無くすタイプの隼也だから、まず間違いない。

それなら、私を抱いたと分かれば隼也は困るだろう。

ずっと友達として接してきた。

この関係を壊したくなくて、私の気持ちをひた隠しにしてきた。

隼也にもバレていない自信があった。

それなのに、そんな友達と身体の関係を持ってしまったとなれば、隼也はどう思うだろう。

私に対する罪悪感。本当は汐音ちゃんが好きなはずなのに、私と重ねてしまったことに対する絶望もあるかもしれない。

それに、きっとこのベッドの上は、今まで何度も汐音ちゃんと共に夜を迎え、幾度となく甘い時を過ごしたはずだ。たくさんの思い出が詰まっている場所だろう。

そんなところで他の女を、まして私を抱いたなんてことを知ったら。


……想像するのも怖かった。


覚えていて良いことなんて、何もないんだ。

涙がじわりと滲み、こぼれ落ちそうになる。

それに抗うように、そっと天井を見上げた。

……馬鹿みたいだ。一人で舞い上がって、一人で幸せを感じて。今だけは私を見て?
私を感じて?思い上がりもいいところ。本当、馬鹿みたい。

帰ろう。今すぐに、帰ろう。そして私も忘れるんだ。

グッと涙を拭き、ベッドの下に散らばった服を集めて急いで身につける。

ここに来てすぐに勝手に開けたペットボトルのミネラルウォーターで喉を潤して、残った分は鞄に入れた。

そしてベットサイドのテーブルに、書き置きを残す。


"酔い潰れちゃってたから、家まで運びました。すぐに寝ちゃったから起こさないでおくね。鍵は郵便受けに入れておくから。じゃあね"


いかにも、変なことは何もありませんでしたよ、という内容に自分で笑った。

夢を見させてもらったから、お金の請求はやめてあげる。


「……ありがとう」


でも、一夜の過ちと言うには私にとってはあまりにも残酷だった。

私は、再び滲んだ涙をこぼさないようにそっと部屋を出る。

音を立てないように靴を履いて、借りた鍵で扉を施錠する。

郵便受けにそっと鍵を放り込んで、私は街灯の光を頼りにその場を後にした。
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