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Chapter4
4-1
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翌週の月曜日から、和葉の日常は目まぐるしく過ぎていった。企画の打ち合わせが忙しく、それが終わったと思ったらまた次の内容の打ち合わせ。
先輩方の動きを今まで見ていたものの、実際自分が中心になって進めるとわかる。自分がまだまだ未熟だということが。
哲平は哲平で康平との仕事が良いように進んでおり、忙しく過ごしていた。
二人は挨拶以外の会話を殆どしないまま、あっという間に三週間が経過。
哲平は和葉とまともに会話していないのが地味にストレスになっていたらしく、家に帰ると何本も缶ビールを空けてしまう。
「(ああー……最近後藤が笑ってるとこ見てないな……)」
無意識にそんなことを考えてしまうくらいには、和葉不足に陥っていた。
和葉は和葉で自分の仕事が忙しすぎて全く休息を取れない日々が続いていた。
自宅でお風呂上がりにミネラルウォーターを飲みながらカレンダーを眺める。
翌週はお盆休み。それを終えた次の週。その中の一日に和葉は丸印を付けていた。
実はその日とその次の日は、有給休暇を取得している。
「(……この二日休むためにも、頑張んなきゃ)」
自分が中心に進めている仕事中、しかもお盆休み明けなのに有給を取るなんて。自分でもそう思う。
でも、この日は。この日だけは。
「(早く寝よう。それで明日からもう少し早めに出勤しよう)」
そう決めてベッドに横になった和葉は、すぐに眠りに落ちた。
そしてニ週間後。和葉の有給取得日。
哲平は朝出勤すると首を傾げた。
いつも哲平より先にいるはずの和葉がいなかった。
「……あれ?後藤は?」
「今日と明日は有給。何でか知らないけど毎年この時期に有給取るじゃないあの子」
由美の言葉に
「……あ、そっか」
と納得した。
哲平は和葉が有給を取ったことをすっかり忘れていたようだ。
「(そう言えばこの間、そんなこと言ってたような気もする)」
哲平はそのまま他の社員にも軽く挨拶してデスクに腰掛けてパソコンの電源を入れた。
「(……今日と明日は会えないのか……)」
哲平は雲一つない青空が広がる窓の外を眺めて、
「(今頃、何してるんだろう)」
和葉を想っていた。
一方、時を遡ること数時間前。
とある県の、日の出と同時にまだ薄暗い田舎道を一人歩く若い女性の姿。
紛れも無い、それは和葉の姿だった。
前日の仕事終わりに飛行機と電車を乗り継いでやってきた土地。目的地より大分離れた地域のホテルで少し休憩して夜明け前からタクシーで送ってもらった場所は、墓地だった。
とある墓石の前に立ち止まった和葉は、墓石を丁寧に掃除した後に予め買っておいた花束を手向ける。
そして墓石の正面にしゃがみ込み、手を合わせて目を瞑り、ゆっくりと口を開いた。
「……ごめんね。ありがとう」
それだけ呟くと、目を開いて立ち上がる。
季節は夏。早朝のためまだ気温は高くないものの周りは既に明るくなっており、和葉は身を隠すように帽子を目深に被って墓地を離れた。
帰りはもちろんタクシーなど通っていないため、歩いて行く。数十分歩いてやっと大きな通りに出た時には時刻は午前六時になっていた。
その大きな通りにバスの停留所があり、その停留所を通るバスは泊まっているホテル方面に向かうことを和葉はよく知っていた。
スマートフォンで時刻表を調べると後数分で始発の便が来る。
イヤホンで音楽を聞きながら待ち、やって来たバスに下を向きながら乗り込んだ。
ホテルに戻り少し仮眠を取った後、段々薄暗くなってきた頃に和葉は再び外に出た。
タクシーに乗り込んで流れる景色を見つめていると、段々とどこか懐かしい気持ちになってくる。
ーーここは、和葉の故郷。一年に一度だけ戻ってくる町。和葉が生まれ育った町だった。
先輩方の動きを今まで見ていたものの、実際自分が中心になって進めるとわかる。自分がまだまだ未熟だということが。
哲平は哲平で康平との仕事が良いように進んでおり、忙しく過ごしていた。
二人は挨拶以外の会話を殆どしないまま、あっという間に三週間が経過。
哲平は和葉とまともに会話していないのが地味にストレスになっていたらしく、家に帰ると何本も缶ビールを空けてしまう。
「(ああー……最近後藤が笑ってるとこ見てないな……)」
無意識にそんなことを考えてしまうくらいには、和葉不足に陥っていた。
和葉は和葉で自分の仕事が忙しすぎて全く休息を取れない日々が続いていた。
自宅でお風呂上がりにミネラルウォーターを飲みながらカレンダーを眺める。
翌週はお盆休み。それを終えた次の週。その中の一日に和葉は丸印を付けていた。
実はその日とその次の日は、有給休暇を取得している。
「(……この二日休むためにも、頑張んなきゃ)」
自分が中心に進めている仕事中、しかもお盆休み明けなのに有給を取るなんて。自分でもそう思う。
でも、この日は。この日だけは。
「(早く寝よう。それで明日からもう少し早めに出勤しよう)」
そう決めてベッドに横になった和葉は、すぐに眠りに落ちた。
そしてニ週間後。和葉の有給取得日。
哲平は朝出勤すると首を傾げた。
いつも哲平より先にいるはずの和葉がいなかった。
「……あれ?後藤は?」
「今日と明日は有給。何でか知らないけど毎年この時期に有給取るじゃないあの子」
由美の言葉に
「……あ、そっか」
と納得した。
哲平は和葉が有給を取ったことをすっかり忘れていたようだ。
「(そう言えばこの間、そんなこと言ってたような気もする)」
哲平はそのまま他の社員にも軽く挨拶してデスクに腰掛けてパソコンの電源を入れた。
「(……今日と明日は会えないのか……)」
哲平は雲一つない青空が広がる窓の外を眺めて、
「(今頃、何してるんだろう)」
和葉を想っていた。
一方、時を遡ること数時間前。
とある県の、日の出と同時にまだ薄暗い田舎道を一人歩く若い女性の姿。
紛れも無い、それは和葉の姿だった。
前日の仕事終わりに飛行機と電車を乗り継いでやってきた土地。目的地より大分離れた地域のホテルで少し休憩して夜明け前からタクシーで送ってもらった場所は、墓地だった。
とある墓石の前に立ち止まった和葉は、墓石を丁寧に掃除した後に予め買っておいた花束を手向ける。
そして墓石の正面にしゃがみ込み、手を合わせて目を瞑り、ゆっくりと口を開いた。
「……ごめんね。ありがとう」
それだけ呟くと、目を開いて立ち上がる。
季節は夏。早朝のためまだ気温は高くないものの周りは既に明るくなっており、和葉は身を隠すように帽子を目深に被って墓地を離れた。
帰りはもちろんタクシーなど通っていないため、歩いて行く。数十分歩いてやっと大きな通りに出た時には時刻は午前六時になっていた。
その大きな通りにバスの停留所があり、その停留所を通るバスは泊まっているホテル方面に向かうことを和葉はよく知っていた。
スマートフォンで時刻表を調べると後数分で始発の便が来る。
イヤホンで音楽を聞きながら待ち、やって来たバスに下を向きながら乗り込んだ。
ホテルに戻り少し仮眠を取った後、段々薄暗くなってきた頃に和葉は再び外に出た。
タクシーに乗り込んで流れる景色を見つめていると、段々とどこか懐かしい気持ちになってくる。
ーーここは、和葉の故郷。一年に一度だけ戻ってくる町。和葉が生まれ育った町だった。
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