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Chapter4
4-2
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「ここでいいかい?」
「……はい。ありがとうございます」
タクシーの運転手のおじさんにお礼を言ってお金を払い、記憶よりすっかり古くなってしまった外観の大きな建物の前で降りる。
その建物の上部には大きく【中ノ島総合病院】と記されていた。
和葉は病院を一度見上げたものの入ることはなく、そのまま病院の玄関とは反対側に足を踏み出した。周りの景色を見渡しながらゆっくりと歩く。
「(ここも、大分変わったな……)」
和葉の記憶上のものとは随分と変化した街並み。毎年、この道を歩くのが和葉の中では恒例となっていた。
秋には銀杏の葉が綺麗に舞い落ちるこの道。今は夏だから見ることができないのが残念で仕方ない。
そんな銀杏の木を横目に、ある交差点の前で足を止める。
歩道の角にある電柱にそっと手を当て、下を見る。そこには同じように誰か来たのだろう、花束や飲み物がいくつか置かれていた。
和葉もそれに倣うように鞄の中からお墓に手向けた物とそっくりな花束を出し、置いた。
そこに長居する事はなく、病院とは反対側へと再び歩き始めた。数回角を曲がってしばらく歩くともう病院は見えなくなっており、代わりに住宅街へと入った。
和葉の足取りは、急激に重くなる。
新築の一戸建てが増えていたり、アパートが出来ていたり、逆に以前見た時は新築でピカピカだったのが今は少し年季が入ったように見える家があったり、公園の遊具が錆びてボロボロになっていたり。
こういうのを目の当たりにすると、この土地から離れてどれくらい経ったのかを思い知らされている気がして何とも言えぬ気持ちになった。
そして数分後。
和葉は一軒の家の前に佇んでいた。
既に空は暗く、腕時計で時間を確認すると午後八時。
見上げた家には明かりが灯り、誰か人がいることは一目瞭然。ただ花壇はあるのに花が咲いていないからだろうか、どこか暗い雰囲気を感じる外観だった。
和葉はその家の中に入るわけでもなく、ただ見上げて佇んでいた。
その姿は誰がどう見ても怪しいのだが、元々閑静な住宅街。
この時間はほぼ通行人もおらず、誰にも出会うことは無かった。
視線の先には二階の角。電気は付いておらず、窓の形しか見えない。
五分程そうしていただろうか。和葉はインターホンを鳴らすことすらないまま来た道をまた一歩ずつ、今度は足早に戻って行った。
その翌日、今度はしっかりと日が昇ってから行動を開始し、寄りたかった場所数カ所に行って夕方の便で現住所の土地に帰って来た。
自宅に戻った和葉は、身体的な疲れよりも精神的な疲れを感じて倒れるようにベッドに身体を沈め、そのまま深い眠りに落ちるのだった。
「……はい。ありがとうございます」
タクシーの運転手のおじさんにお礼を言ってお金を払い、記憶よりすっかり古くなってしまった外観の大きな建物の前で降りる。
その建物の上部には大きく【中ノ島総合病院】と記されていた。
和葉は病院を一度見上げたものの入ることはなく、そのまま病院の玄関とは反対側に足を踏み出した。周りの景色を見渡しながらゆっくりと歩く。
「(ここも、大分変わったな……)」
和葉の記憶上のものとは随分と変化した街並み。毎年、この道を歩くのが和葉の中では恒例となっていた。
秋には銀杏の葉が綺麗に舞い落ちるこの道。今は夏だから見ることができないのが残念で仕方ない。
そんな銀杏の木を横目に、ある交差点の前で足を止める。
歩道の角にある電柱にそっと手を当て、下を見る。そこには同じように誰か来たのだろう、花束や飲み物がいくつか置かれていた。
和葉もそれに倣うように鞄の中からお墓に手向けた物とそっくりな花束を出し、置いた。
そこに長居する事はなく、病院とは反対側へと再び歩き始めた。数回角を曲がってしばらく歩くともう病院は見えなくなっており、代わりに住宅街へと入った。
和葉の足取りは、急激に重くなる。
新築の一戸建てが増えていたり、アパートが出来ていたり、逆に以前見た時は新築でピカピカだったのが今は少し年季が入ったように見える家があったり、公園の遊具が錆びてボロボロになっていたり。
こういうのを目の当たりにすると、この土地から離れてどれくらい経ったのかを思い知らされている気がして何とも言えぬ気持ちになった。
そして数分後。
和葉は一軒の家の前に佇んでいた。
既に空は暗く、腕時計で時間を確認すると午後八時。
見上げた家には明かりが灯り、誰か人がいることは一目瞭然。ただ花壇はあるのに花が咲いていないからだろうか、どこか暗い雰囲気を感じる外観だった。
和葉はその家の中に入るわけでもなく、ただ見上げて佇んでいた。
その姿は誰がどう見ても怪しいのだが、元々閑静な住宅街。
この時間はほぼ通行人もおらず、誰にも出会うことは無かった。
視線の先には二階の角。電気は付いておらず、窓の形しか見えない。
五分程そうしていただろうか。和葉はインターホンを鳴らすことすらないまま来た道をまた一歩ずつ、今度は足早に戻って行った。
その翌日、今度はしっかりと日が昇ってから行動を開始し、寄りたかった場所数カ所に行って夕方の便で現住所の土地に帰って来た。
自宅に戻った和葉は、身体的な疲れよりも精神的な疲れを感じて倒れるようにベッドに身体を沈め、そのまま深い眠りに落ちるのだった。
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