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Chapter4
4-3
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「おはようございます。お休みいただいてすみませんでした」
翌日、出勤した和葉は先に来ていた先輩社員に朝から謝罪とお礼を言って回る。
その間に出勤してきた社員にも、もちろん由美と哲平にも同様に頭を下げた。
和葉は休んでいた二日分を取り戻す勢いで仕事に取り組んだ。
昼食はいつもお弁当を持って来てデスクでゆっくり食べているが、今日はその時間も惜しいのか小さなおにぎりをつまみながらパソコンと向き合っていた。
その姿は一件仕事熱心にも見えるが、由美や哲平には仕事に打ち込むことで何かを忘れようと必死になっているようにも見えた。
「(この2日で、何かあったんだろうか)」
哲平はそう疑問に思ったものの忙しなく動く本人に聞けるはずもなく、その様子を見守ることしかできなかった。
それから数日間、和葉は仕事にのめり込んだ。
そのためか和葉主導の企画は順調に進んでいた。後は生産の部署と連携して上からOKが出れば、というところ。
キーボードを叩く手にも力が入る。
そんなある日。
和葉が給湯室で淹れたコーヒーを持ってデスクに向かって歩いていると、丁度会議室のドアが開いて最終の打ち合わせを終えた康平が哲平に促されて会議室から出て来た。
向こうも和葉に気が付き、視線が交わったところでお互い足を止める。
哲平はタイミングの悪さに頭を抱えたくなった。
二人は何も喋らず、ただ無表情で互いを見つめていて。
「……後藤」
自分のデスクに戻れ、という意味を込めて名前を呼ぶと和葉はピクリと反応して康平から視線を外し「……すみません」と足を踏み出した。
康平の視線は和葉を追うことなく、そのまま前を見据える。
すれ違う時に康平は口を開く。
「毎年、俺が行くと花束がある。……あれは、お前か?」
康平の問いに、和葉も前を見据えたままゆっくりと口を開いた。
「……さぁ。存じ上げませんが」
「……今のは忘れてくれ」
康平は余計なことを聞いてしまったとでも言うように眉間に皺を寄せて言い、そのまま歩き出そうとした。
その時に再び和葉が口を開く。
「……ただ、そうですね。カンパニュラの花言葉は【感謝、誠実、節操】。"あの子"にピッタリのお花ですよね」
何の花があったのか。それは花を手向けた人しか知らないことで。
思わず和葉の方を向いた康平は、そのどこか哀愁漂う横顔を見て息を飲んだ。
「お前……やっぱりっ」
カンパニュラは、紛れも無くあの日、和葉が手向けたものだった。
「……でも、あの花には別の花言葉もあります」
「別の……?」
康平が目の奥を揺らしながら呟く。
和葉は一度も康平の方を見ることは無く。
「……そろそろ仕事に戻らないといけないので。……失礼します」
「あっ、おい!……クソっ」
和葉が立ち去った後、康平の胸の中にはモヤモヤとした何かが渦巻いていて。
一部始終を目の当たりにした哲平は気まずさと二人が自分にはわからない会話をしていることへの少しの嫉妬で、こちらもまたモヤモヤとした気持ちを抱えていた。
和葉がデスクに戻った頃には手の中のコーヒーはすっかり温くなっており、それを飲むこともせずに見つめながら誰かを想い視線を落とした。
翌日、出勤した和葉は先に来ていた先輩社員に朝から謝罪とお礼を言って回る。
その間に出勤してきた社員にも、もちろん由美と哲平にも同様に頭を下げた。
和葉は休んでいた二日分を取り戻す勢いで仕事に取り組んだ。
昼食はいつもお弁当を持って来てデスクでゆっくり食べているが、今日はその時間も惜しいのか小さなおにぎりをつまみながらパソコンと向き合っていた。
その姿は一件仕事熱心にも見えるが、由美や哲平には仕事に打ち込むことで何かを忘れようと必死になっているようにも見えた。
「(この2日で、何かあったんだろうか)」
哲平はそう疑問に思ったものの忙しなく動く本人に聞けるはずもなく、その様子を見守ることしかできなかった。
それから数日間、和葉は仕事にのめり込んだ。
そのためか和葉主導の企画は順調に進んでいた。後は生産の部署と連携して上からOKが出れば、というところ。
キーボードを叩く手にも力が入る。
そんなある日。
和葉が給湯室で淹れたコーヒーを持ってデスクに向かって歩いていると、丁度会議室のドアが開いて最終の打ち合わせを終えた康平が哲平に促されて会議室から出て来た。
向こうも和葉に気が付き、視線が交わったところでお互い足を止める。
哲平はタイミングの悪さに頭を抱えたくなった。
二人は何も喋らず、ただ無表情で互いを見つめていて。
「……後藤」
自分のデスクに戻れ、という意味を込めて名前を呼ぶと和葉はピクリと反応して康平から視線を外し「……すみません」と足を踏み出した。
康平の視線は和葉を追うことなく、そのまま前を見据える。
すれ違う時に康平は口を開く。
「毎年、俺が行くと花束がある。……あれは、お前か?」
康平の問いに、和葉も前を見据えたままゆっくりと口を開いた。
「……さぁ。存じ上げませんが」
「……今のは忘れてくれ」
康平は余計なことを聞いてしまったとでも言うように眉間に皺を寄せて言い、そのまま歩き出そうとした。
その時に再び和葉が口を開く。
「……ただ、そうですね。カンパニュラの花言葉は【感謝、誠実、節操】。"あの子"にピッタリのお花ですよね」
何の花があったのか。それは花を手向けた人しか知らないことで。
思わず和葉の方を向いた康平は、そのどこか哀愁漂う横顔を見て息を飲んだ。
「お前……やっぱりっ」
カンパニュラは、紛れも無くあの日、和葉が手向けたものだった。
「……でも、あの花には別の花言葉もあります」
「別の……?」
康平が目の奥を揺らしながら呟く。
和葉は一度も康平の方を見ることは無く。
「……そろそろ仕事に戻らないといけないので。……失礼します」
「あっ、おい!……クソっ」
和葉が立ち去った後、康平の胸の中にはモヤモヤとした何かが渦巻いていて。
一部始終を目の当たりにした哲平は気まずさと二人が自分にはわからない会話をしていることへの少しの嫉妬で、こちらもまたモヤモヤとした気持ちを抱えていた。
和葉がデスクに戻った頃には手の中のコーヒーはすっかり温くなっており、それを飲むこともせずに見つめながら誰かを想い視線を落とした。
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