カンパニュラに想いを乗せて。

青花美来

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Chapter5

5-4

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「ーーもう、大丈夫です」


一頻り泣いた和葉は、ようやく落ち着いて顔を上げてからハンカチで目元を抑えた。


「ん。ちょっとは落ち着いた?」


優しく抱きしめながら一定のリズムで背中をポンポンと叩いていた哲平は、名残惜しい気持ちを抱えながらも和葉を離す。


「はい。久し振りに泣いたらスッキリしました。すみません。取り乱してしまって……」

「気にすんなって。ほら、後藤もまだ開けてないんだろ?コレ一緒に飲もう」

「……はい」


缶コーヒーを開け、こくりと一口飲む。

哲平の肩を借りて縋り付くように泣いたのがなんだか恥ずかしくて、和葉は何を言っていいかがわからなくて黙る。

哲平は哲平で考え事をしているのか沈黙が続いた。

辺りは既に真っ暗。

飲んだコーヒーがやけに苦く感じた。


「ほら、これで目冷やして。そのままにしてたら明日腫れるぞ」

「ありがとう、ございます」


スーツのポケットに入っていたハンカチを濡らして持ってきた哲平は、和葉の手にそっとハンカチを置く。

ありがたく受け取った和葉はそのまま目を閉じて目の上に置いて瞼を冷やした。


「……中西さんは、私のどこが好きなんですか?」


ずっと気になっていたことをポツリと呟いて聞く。

哲平はギョッとした顔で和葉の方を振り向くも、和葉は瞼を冷やしていて哲平の方は見れるわけもなく。


「……えぇ……?それ普通聞く?」


苦笑いしながら顔の向きを前に戻した。


「……すみません。ちょっと気になっちゃって。
頑固で人に頼るのも相談するのも苦手で隠し事ばっかりで。悪いところを挙げたらキリが無くて。人に恨まれることはあっても好かれることは無いと思ってたから……」


乾いた笑いを零した和葉をちらりと横目で見て、哲平は一つ息を吐く。




「……悪い風に考えるからキリが無くなるんだよ。考え方一つでそんなのいくらでも変わるだろ」

「考え方?」

「頑固なのは自分の意思がハッキリしてるからだろ?人に迷惑かけたくないって気持ちがあるから相談したり頼ったりできなくなる。つまり自分の事より人の事を考えられる優しさがある。隠し事はまぁ……あれだ。誰でも一つや二つあるから気にすんな」

「……ポジティブですね……」

「ネガティブよりポジティブの方が良いだろ」


ハハっと笑う哲平に、和葉はその笑顔は見えていないのにすぐに脳裏に想像できた。

きっとくしゃっと笑っているんだろう。


「……本当、中西さんはずるいですね」

「え、何ソレ。どっからそんな話になったの」

「ふふっ、褒め言葉ですよ」

「褒めてんの?え、どこら辺が?え?」


和葉は口角を上げて微笑む。


「(……そっか。考え方一つで、いくらでも変わるのか)」


心に掛かっていた靄が少し晴れたような気がした。


「あぁ、肝心な質問に答えてなかった」

「……?」


目元のハンカチを少しズラして哲平を見つめる。


「仕事に真面目で一生懸命なところも優しいところもそうやって溜め込みすぎて泣いちゃう脆さも護ってあげたいと思うしもちろん好きだけど。
……一番好きなのは笑った顔だよ」


前を向いたままそう呟いた哲平の顔は目を伏せてとても穏やかに笑っていて。

何か愛おしいものを思い浮かべているような、慈愛に満ちたその表情に和葉は釘付けになり目を逸らせなかった。

そして何も言わない和葉に疑問に思った哲平が振り向くと、固まって動かなくなっている和葉とばっちり目が合って。

凝視されているとは思っていなかった哲平はわかりやすく頬を染めて慌てた。


「え、ちょ、何でそんな見てんのっ。ちゃんと目冷やしなさい」

「……」

「冷やしなさいっ!」


赤い顔でクイっとハンカチを戻されて視界が真っ暗になった和葉。

それにより正気に戻り、哲平の言葉が頭の中でぐるぐる回る。


「……ありがとう、ございます」


再びハンカチをそっと取った和葉は、哲平にふわりと微笑んだ。

それは哲平の好きな笑顔で。


「あぁーもうっ」


哲平は照れ隠しにポンポンと頭を撫でた。


「中西さん」

「ん?」

「今度、お時間いただけますか?」


和葉の問いに哲平は驚きつつも返事をした。


「いいけど……今度っていつ?」

「……来週の土曜日、空いてますか?」


頭の中でカレンダーを思い浮かべる。


「うん。今のところ予定は無いけど」

「じゃあ一日空けといてもらえますか」

「……わかった」


和葉は決意していた。


「(全部。全部話してみよう。どんな結果になったとしても。ありのままを伝えよう)」


和葉の目には、しっかりと光が宿っていた。

両手を胸に当てる。


「(……自分の気持ちに、正直になってもいいですか……)」


誰かに向けたその問いかけにトクン、トクン、と規則正しく動く心臓が、自分を後押ししてくれているような気がして。


「(……なんて、都合が良すぎるかな)」


また泣きそうになった。

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