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16 リデル
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当初の予定よりも2日早く、父デイヴが騎士団の軍事演習から戻ってきた。
今年の冬季演習は雪も積もらず好天に恵まれて、怪我人も少なくて、無事に済んで助かった、と笑う。
俺の留守中に何かあったか、と尋ねられたので。
市場で会ったシェリーに頼まれて、彼女の結婚式にやはり出席する事にした、とリデルが伝えると。
デイヴは、またしても微妙な顔をした。
それからしばらく、間が空いて。
「その子はあれか……部の仲間か」
「そうボランティア部のね、花婿もそう」
「……じゃあ、あれか、あの……クラークだったか。
あれも来るのか」
「うん、クラークも来るって、聞いてるけど」
「……」
いつもは良く回るデイヴの口が随分重めで、『あれ』を繰り返すのがおかしくて。
リデルは笑みがこぼれるのを、デイヴに気付かれないように明後日の方に向いた。
デイヴには、クラークにふられた事をちゃんと話していないが、職場が一緒のエラに聞いていたのだろう。
しかし、そんな風に気を遣ってくれている父には申し訳ないくらい、リデルはクラークを気にしていない。
あの日、シェリーに会うまでは、そこまでクラークに対して冷めてはいなかった。
だが、彼女から
「あのふたりを見返そう」だの、「また付き合うつもりみたい」だのを、聞いて。
どうしてか、自分でも分からないが。
今は本当にどうでもよくなってしまった。
また結婚式に出席する気になったのも、クラークとシーナを見返すためじゃなくて、出席者の数合わせでもいいから、少しでもシェリーの助けになれたら、と思ったからだった。
しかし、そうは言ってもリデルは、決して清廉高潔な聖人様ではない。
綺麗にお化粧をして、いつもより華やかな服を着て。
見事に変わった自分を、あのふたりが見て。
シェリーが言うように、
『クラークがもう遅いと思い知り、シーナが敗北の涙を流す』事が、本当に起こったら面白いな、くらいは思っている。
◇◇◇
翌日の騎士団の休暇初日、久しぶりにエラがお昼前に訪ねてきた。
エラが到着する前に、デイヴが湖に釣りに行くと言うので、リデルは引き留めた。
「せっかくの休暇なんだから、ゆっくり身体を休めてよ。
一緒にお昼、食べましょう?」
「せっかくの休暇なんだから、同僚の顔を見るのは遠慮したいね。
エラには、ゆっくりしてくれ、と伝えておいてくれ」
デイヴが出掛けるのは、娘と友人が自分に気兼ねなく過ごせるように、と気遣ってくれているからだ。
リデルはそんな気遣いをありがたく思い、素直に受け取ることにして、父の背中を見送った。
エラに会えるのは、2ヶ月ぶりだ。
リデルは週末休めるが、エラは平日が休みなので、ふたりの休日はなかなか合わない。
彼女の好物はクリームシチューで、加えてリデルは朝から平たくて堅めのパンを焼いて、昼食を用意した。
パンも普段は、柔らかいものを作るのだが、エラはこの堅いパンをシチューに浸けて食べるのが好きだ。
トマトサラダは、ふたり並んでおしゃべりしつつ作り。
出来上がった昼食を取りながら、お互いの近況などを聞かせ合った。
その後リデルが、クラークとシーナが別れた話、
シェリーからふたりを見返そうと持ちかけられた話、
明日のシェリーの結婚式に行くと決めた話、
彼女が貸すと言ったドレスの代金を支払った話などを話すと、それを最後まで黙って聞いていたエラは大きく溜め息をついた。
「リデルが行くと決めたんだから、それは止めないけど。
シェリーが縫ったドレスを買った、って……
そんなの、あっちが着てって頼んでるんだから、その日着て、御礼だけ言って返せば良かったんじゃないかなぁ」
「無料で借りるなんて出来ないでしょう?
シェリーはドレス代なんていらないって言ってくれたけど、わたしから買いたいってお願いしたの。
材料費だってかかってるし、何より時間と労力とシェリーの想いがこもってる。
次のレジーナ達の結婚式でも着られるし、無駄な買い物じゃないよ」
エラから買った事については叱られそうだなと予想はしていたが、覚悟していたより怒る感じではなく、リデルの事を残念そうに言われてしまうと。
自分の主張も、我ながら言い訳じみてるなと思う。
「今回のドレスは冬生地だよね?
春夏のお式には、着れないよ?
それにさ、リデルの方がシェリーより身長もあって、痩せてる。
その辺は当日に早く式場入りさせて、調整するんでしょうけど。
で、何色のドレスなの?」
「……薄めのラベンダー、形は、えー……」
「実物はまだ見てないんだね……」
「……」
エラのもっともな意見に、リデルには返す言葉もない。
色は薄いラベンダーだとシェリーが言っていたが、具体的なデザインまでは聞いていない。
リデルは黒髪で茶色の瞳の持ち主だ。
エラの指摘通り、金髪碧眼のシェリーが自分のために選んだ色とデザインが、持っている色も体型も違う自分に似合うとは思えなくなってきた。
そんな不安にかられたリデルの様子に、エラは気付いていないのか、急に帰ると言い出した。
まだ、デザートだって出してない。
久しぶりに会えたのに。
こんなに早く帰るなんて、思ってなかった。
似合うかどうかもわからないドレスを買うようなリデルに呆れて、話に付き合うのが馬鹿馬鹿しくなって、エラは帰るのだろうか。
「ごめんね、急に用事を思い出したの。
結婚式は午後からだったよね?
明日の朝リデルが出掛ける前に、絶対に顔を出すから。
わたしが来るまで、待ってて」
呆然としながらも、見送ろうとしたリデルを抱き締めて、エラが謝った。
エラが急に言い出したその用事が、まずシェリーの店に行き、リデルに着せる予定のドレスを預かって。
それからジェレマイアに会う事だとは、リデルは知らなかった。
今年の冬季演習は雪も積もらず好天に恵まれて、怪我人も少なくて、無事に済んで助かった、と笑う。
俺の留守中に何かあったか、と尋ねられたので。
市場で会ったシェリーに頼まれて、彼女の結婚式にやはり出席する事にした、とリデルが伝えると。
デイヴは、またしても微妙な顔をした。
それからしばらく、間が空いて。
「その子はあれか……部の仲間か」
「そうボランティア部のね、花婿もそう」
「……じゃあ、あれか、あの……クラークだったか。
あれも来るのか」
「うん、クラークも来るって、聞いてるけど」
「……」
いつもは良く回るデイヴの口が随分重めで、『あれ』を繰り返すのがおかしくて。
リデルは笑みがこぼれるのを、デイヴに気付かれないように明後日の方に向いた。
デイヴには、クラークにふられた事をちゃんと話していないが、職場が一緒のエラに聞いていたのだろう。
しかし、そんな風に気を遣ってくれている父には申し訳ないくらい、リデルはクラークを気にしていない。
あの日、シェリーに会うまでは、そこまでクラークに対して冷めてはいなかった。
だが、彼女から
「あのふたりを見返そう」だの、「また付き合うつもりみたい」だのを、聞いて。
どうしてか、自分でも分からないが。
今は本当にどうでもよくなってしまった。
また結婚式に出席する気になったのも、クラークとシーナを見返すためじゃなくて、出席者の数合わせでもいいから、少しでもシェリーの助けになれたら、と思ったからだった。
しかし、そうは言ってもリデルは、決して清廉高潔な聖人様ではない。
綺麗にお化粧をして、いつもより華やかな服を着て。
見事に変わった自分を、あのふたりが見て。
シェリーが言うように、
『クラークがもう遅いと思い知り、シーナが敗北の涙を流す』事が、本当に起こったら面白いな、くらいは思っている。
◇◇◇
翌日の騎士団の休暇初日、久しぶりにエラがお昼前に訪ねてきた。
エラが到着する前に、デイヴが湖に釣りに行くと言うので、リデルは引き留めた。
「せっかくの休暇なんだから、ゆっくり身体を休めてよ。
一緒にお昼、食べましょう?」
「せっかくの休暇なんだから、同僚の顔を見るのは遠慮したいね。
エラには、ゆっくりしてくれ、と伝えておいてくれ」
デイヴが出掛けるのは、娘と友人が自分に気兼ねなく過ごせるように、と気遣ってくれているからだ。
リデルはそんな気遣いをありがたく思い、素直に受け取ることにして、父の背中を見送った。
エラに会えるのは、2ヶ月ぶりだ。
リデルは週末休めるが、エラは平日が休みなので、ふたりの休日はなかなか合わない。
彼女の好物はクリームシチューで、加えてリデルは朝から平たくて堅めのパンを焼いて、昼食を用意した。
パンも普段は、柔らかいものを作るのだが、エラはこの堅いパンをシチューに浸けて食べるのが好きだ。
トマトサラダは、ふたり並んでおしゃべりしつつ作り。
出来上がった昼食を取りながら、お互いの近況などを聞かせ合った。
その後リデルが、クラークとシーナが別れた話、
シェリーからふたりを見返そうと持ちかけられた話、
明日のシェリーの結婚式に行くと決めた話、
彼女が貸すと言ったドレスの代金を支払った話などを話すと、それを最後まで黙って聞いていたエラは大きく溜め息をついた。
「リデルが行くと決めたんだから、それは止めないけど。
シェリーが縫ったドレスを買った、って……
そんなの、あっちが着てって頼んでるんだから、その日着て、御礼だけ言って返せば良かったんじゃないかなぁ」
「無料で借りるなんて出来ないでしょう?
シェリーはドレス代なんていらないって言ってくれたけど、わたしから買いたいってお願いしたの。
材料費だってかかってるし、何より時間と労力とシェリーの想いがこもってる。
次のレジーナ達の結婚式でも着られるし、無駄な買い物じゃないよ」
エラから買った事については叱られそうだなと予想はしていたが、覚悟していたより怒る感じではなく、リデルの事を残念そうに言われてしまうと。
自分の主張も、我ながら言い訳じみてるなと思う。
「今回のドレスは冬生地だよね?
春夏のお式には、着れないよ?
それにさ、リデルの方がシェリーより身長もあって、痩せてる。
その辺は当日に早く式場入りさせて、調整するんでしょうけど。
で、何色のドレスなの?」
「……薄めのラベンダー、形は、えー……」
「実物はまだ見てないんだね……」
「……」
エラのもっともな意見に、リデルには返す言葉もない。
色は薄いラベンダーだとシェリーが言っていたが、具体的なデザインまでは聞いていない。
リデルは黒髪で茶色の瞳の持ち主だ。
エラの指摘通り、金髪碧眼のシェリーが自分のために選んだ色とデザインが、持っている色も体型も違う自分に似合うとは思えなくなってきた。
そんな不安にかられたリデルの様子に、エラは気付いていないのか、急に帰ると言い出した。
まだ、デザートだって出してない。
久しぶりに会えたのに。
こんなに早く帰るなんて、思ってなかった。
似合うかどうかもわからないドレスを買うようなリデルに呆れて、話に付き合うのが馬鹿馬鹿しくなって、エラは帰るのだろうか。
「ごめんね、急に用事を思い出したの。
結婚式は午後からだったよね?
明日の朝リデルが出掛ける前に、絶対に顔を出すから。
わたしが来るまで、待ってて」
呆然としながらも、見送ろうとしたリデルを抱き締めて、エラが謝った。
エラが急に言い出したその用事が、まずシェリーの店に行き、リデルに着せる予定のドレスを預かって。
それからジェレマイアに会う事だとは、リデルは知らなかった。
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