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第59話
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徐々に日常が帰ってきていて、母と姉の不在が少しだけ当たり前になり始めた頃。
兄は学園に戻りましたが、私が休みたいと言うと、父は許してくれました。
そんなある日しばらく休みを取っていた父が、王太子殿下に呼ばれて登城されました。
さすがに仕事に戻るようにと仰せだったのでしょうか。
帰宅した父は少し怒っているように見えました。
私は父の執務室に呼ばれました。
「アシュフォード殿下からクラリスに贈られたというドレスを知っているか?」
「……」
「クラリスの部屋を確認させたが、無かった。
お前は知らないか?」
姉の部屋に返すのを忘れていた!
自分の迂闊さを悔いても、もう遅くて。
「皆に聞けば、あれは殿下からお前への秘密の贈り物で、代わりに受け取ったのだとクラリスが言っていたそうだ。
クラリスがお前の気付かぬ内に、お前の部屋に置いたのかも知れん。
間違いなので、返却して欲しい、と王太子殿下が仰せだ」
レニーが呼ばれて、私の部屋からあのドレスを持ってくるように、父が命じて。
このまま、姉が部屋に置いた事になるのなら。
狡い私はそう思いました。
姉の部屋に勝手に入り、持ち出したことを知られずに済むのなら、余計な事は言わない。
黙っていようと決めました。
ですが、私は混乱していました。
使用人の皆には私への贈り物だったと姉が言っていた?
私には、姉はあれは間違いでアローズに返品する、と言っていました。
本当はどちらなの?
殿下に確認してもいいの?
……もう、クラリスはいない。
もしも私が聞いた温室での告白も、ドレスと同じ様に何かの間違いだと、殿下が仰ってくれたら。
あの姉に宛てたカードは、見なかったことにして。
都合の悪い事は全部、全部忘れることにしてしまえばいい……
愚かな私の心は、諦めると諦めないが交互に占められて。
そんな中、アローズの箱を抱えて戻ってくるはずだったレニーは何も手にしていませんでした。
「アグネスお嬢様のお部屋にも、ございませんでした」
私の部屋に無いとはどういう事なのか、わかりませんでした。
ドレスの存在自体を忘れていたので、意識していなかったのです。
いつ箱ごとドレスが消えたのでしょうか?
メイドやその他の使用人達が盗むとは考えられませんでした。
皆、身元が確かな者達で、ドレス1枚で将来を潰すとは思えません。
私は姉の部屋に戻していないし、現に先に探したのに無かったのです。
あの、殿下の瞳の色をしたドレスは、私の部屋から何処にいったのでしょうか……
その時の私には、その行方は想像さえ出来ませんでした。
◇◇◇
その答えは、直ぐに明かされました。
「あれさ、俺の部屋にある」
兄が私に言ったのです。
学園から帰宅して、メイドからその話を聞いた兄が、私の部屋を訪れて、開口一番言ったのです。
もちろん、その前にはレニーに下がるように言って、ふたりきりになってからです。
「お前の所から持ってきたんだけど。
父上は俺の部屋までは探さなかったんだな」
「……どうしてお兄様が?」
「アシュフォード殿下から手紙を貰って、クラリスに間違えて送ったドレスを回収したい、って」
「……」
「無理なら、父上に謝って取りに行かせて貰うけれど、って書いていたけど」
やはり、あれは間違えて送られたものなの?
殿下はプレストンに頼んで、王太子殿下は父に命じた?
「ややこしい感じがしたけど、殿下にはお世話になったしな。
父上に頭下げても、また怒られそうだと思ったら気の毒で。
お前も最近会えてないのに、また出禁にされたらな?」
父を苦手にしている殿下の為に、あの御方を慕う私の為に。
兄は凄く良いことをしたんだという風に得意気にさえ見えました。
「それで姉上の部屋に入って探したけれど、それらしきモノはないし。
悪かったけれど、ついでにお前の部屋を覗いたら、クローゼットにアローズの箱があって、中を見たらドレスだろ」
「ついでにって! 私のクローゼットに、勝手に!」
自分だって、姉のワードローブを物色したくせに、兄を責めました。
だって、姉とは女同士だけど、兄は男性です。
いくら、私が子供でも許せない! 私は拳を振り上げて叩こうとして、軽く躱されました。
「落ち着けよ、俺の部屋に持って行ってたから返さずに済んだんだろう?」
その声に不穏なものを感じて、兄の顔を見ました。
「おかしいと思ったんだ。
レニーに聞いたよ、王城から戻ってきた父上は明らかに怒っていた、って。
直ぐにクラリスの部屋を探させて、次はお前の部屋だ。
そこにも無いなら、どうして他の部屋を全部探さない?」
「それは誰の事も疑っていないから……」
「俺には真剣に探して返すおつもりがない様に思えるけど?」
「王太子殿下がお命じになったのよ、そんなはずはないでしょう」
「王太子殿下がどんな風にお命じになったかは知らないけど、少なくともアシュフォード殿下の方は申し訳なさそうな文面だった。
つまり王家のミスで間違えて送られたのに、呼びつけられて返却しろと言われて、父上は怒ったんだ。
探しましたが見つかりません、そう返事を王家に父上が返しているんなら、当然俺だってそれに従うよ」
「……ありました、と殿下にはお知らせしないつもりなの?」
「スローン侯爵家はひとつだろ?
この家の何処かにあるのはわかってて、これ以上探さないと父上が意思表示をしたからには、お前も殿下には自分からは言うなよ?」
一体どれ程の理由があって、父は王太子殿下に反抗をするのでしょう。
王家なら、臣下である父を呼び出して命じるのは当たり前の事です。
それなのに、どうして父は怒っているの?
そんな事をして、お咎めはないのでしょうか?
そして兄も。
お世話になったと、言いながら。
父がそうするからと、殿下を騙そうとしてる。
父にドレスを持っていると自分からは言わないようですし、多分、殿下に『見つかりません』と、返信するのでしょう。
スローンはひとつ、なら私も。
あのドレスは知らない事にしないといけません。
二人とも、どうしてしまったのかしら?
王家に対して、何か思うところがあるのでしょうか。
「王立騎士団がうちにやってくるかも……」
「それはないね、父上だって、王太子殿下が大きく出られないとわかってて、そうなさっている」
兄は何を言ってるの? お相手は王家よ、王太子殿下なのに。
「おかしいのは殿下って、そのドレスの箱が何色だとか、ドレスもどんなのだとか、わかってないんだよ」
「……」
「何色の箱かわからないけど、アローズのドレスだから、って書いててさ、ご自分で用意したんじゃないなとか、アローズ自体知らなくて、今まで女性に何か贈り物をした事が無いのがわかる、と言うか」
兄が私の目を見ながら、笑って言いきります。
「お前にいつも持ってくる花だとかリボンも、好みを伝えて買いに行かせてるんだろうな。
それは王族だから当たり前だから、怒るなよ?
俺が言いたいのは、お前がずっとしていた組み紐」
兄の言葉に思わず、何も無い左手首を握りました。
「市で買って貰ったって聞いたけど、確かなのは。
あれが唯一の、殿下がご自身で選んで、お前に贈ったものだ、って事だよ。
だから、自信を持て」
何を、どうやって、自信を持てと?
あれは3年も前の事です。
その時は確かに『好きだ』と言われたけれど。
クラリスには『愛してる』と言ったの。
プレストンは殿下がクラリスに、言った言葉を知らない。
ドレスは間違っていたのかも知れないけれど、カードの文言は嘘じゃない。
その後、父は王家に財務大臣の辞職願いを提出致しましたが、王太子殿下により慰留されました。
兄の予想の通り、ドレスを返却しなかった事については不問に付すと決められたようでした。
父と兄が何を思っていたのか、知らされぬまま。
私は兄から返されたあのドレスを、姉のクローゼットに戻しました。
兄は学園に戻りましたが、私が休みたいと言うと、父は許してくれました。
そんなある日しばらく休みを取っていた父が、王太子殿下に呼ばれて登城されました。
さすがに仕事に戻るようにと仰せだったのでしょうか。
帰宅した父は少し怒っているように見えました。
私は父の執務室に呼ばれました。
「アシュフォード殿下からクラリスに贈られたというドレスを知っているか?」
「……」
「クラリスの部屋を確認させたが、無かった。
お前は知らないか?」
姉の部屋に返すのを忘れていた!
自分の迂闊さを悔いても、もう遅くて。
「皆に聞けば、あれは殿下からお前への秘密の贈り物で、代わりに受け取ったのだとクラリスが言っていたそうだ。
クラリスがお前の気付かぬ内に、お前の部屋に置いたのかも知れん。
間違いなので、返却して欲しい、と王太子殿下が仰せだ」
レニーが呼ばれて、私の部屋からあのドレスを持ってくるように、父が命じて。
このまま、姉が部屋に置いた事になるのなら。
狡い私はそう思いました。
姉の部屋に勝手に入り、持ち出したことを知られずに済むのなら、余計な事は言わない。
黙っていようと決めました。
ですが、私は混乱していました。
使用人の皆には私への贈り物だったと姉が言っていた?
私には、姉はあれは間違いでアローズに返品する、と言っていました。
本当はどちらなの?
殿下に確認してもいいの?
……もう、クラリスはいない。
もしも私が聞いた温室での告白も、ドレスと同じ様に何かの間違いだと、殿下が仰ってくれたら。
あの姉に宛てたカードは、見なかったことにして。
都合の悪い事は全部、全部忘れることにしてしまえばいい……
愚かな私の心は、諦めると諦めないが交互に占められて。
そんな中、アローズの箱を抱えて戻ってくるはずだったレニーは何も手にしていませんでした。
「アグネスお嬢様のお部屋にも、ございませんでした」
私の部屋に無いとはどういう事なのか、わかりませんでした。
ドレスの存在自体を忘れていたので、意識していなかったのです。
いつ箱ごとドレスが消えたのでしょうか?
メイドやその他の使用人達が盗むとは考えられませんでした。
皆、身元が確かな者達で、ドレス1枚で将来を潰すとは思えません。
私は姉の部屋に戻していないし、現に先に探したのに無かったのです。
あの、殿下の瞳の色をしたドレスは、私の部屋から何処にいったのでしょうか……
その時の私には、その行方は想像さえ出来ませんでした。
◇◇◇
その答えは、直ぐに明かされました。
「あれさ、俺の部屋にある」
兄が私に言ったのです。
学園から帰宅して、メイドからその話を聞いた兄が、私の部屋を訪れて、開口一番言ったのです。
もちろん、その前にはレニーに下がるように言って、ふたりきりになってからです。
「お前の所から持ってきたんだけど。
父上は俺の部屋までは探さなかったんだな」
「……どうしてお兄様が?」
「アシュフォード殿下から手紙を貰って、クラリスに間違えて送ったドレスを回収したい、って」
「……」
「無理なら、父上に謝って取りに行かせて貰うけれど、って書いていたけど」
やはり、あれは間違えて送られたものなの?
殿下はプレストンに頼んで、王太子殿下は父に命じた?
「ややこしい感じがしたけど、殿下にはお世話になったしな。
父上に頭下げても、また怒られそうだと思ったら気の毒で。
お前も最近会えてないのに、また出禁にされたらな?」
父を苦手にしている殿下の為に、あの御方を慕う私の為に。
兄は凄く良いことをしたんだという風に得意気にさえ見えました。
「それで姉上の部屋に入って探したけれど、それらしきモノはないし。
悪かったけれど、ついでにお前の部屋を覗いたら、クローゼットにアローズの箱があって、中を見たらドレスだろ」
「ついでにって! 私のクローゼットに、勝手に!」
自分だって、姉のワードローブを物色したくせに、兄を責めました。
だって、姉とは女同士だけど、兄は男性です。
いくら、私が子供でも許せない! 私は拳を振り上げて叩こうとして、軽く躱されました。
「落ち着けよ、俺の部屋に持って行ってたから返さずに済んだんだろう?」
その声に不穏なものを感じて、兄の顔を見ました。
「おかしいと思ったんだ。
レニーに聞いたよ、王城から戻ってきた父上は明らかに怒っていた、って。
直ぐにクラリスの部屋を探させて、次はお前の部屋だ。
そこにも無いなら、どうして他の部屋を全部探さない?」
「それは誰の事も疑っていないから……」
「俺には真剣に探して返すおつもりがない様に思えるけど?」
「王太子殿下がお命じになったのよ、そんなはずはないでしょう」
「王太子殿下がどんな風にお命じになったかは知らないけど、少なくともアシュフォード殿下の方は申し訳なさそうな文面だった。
つまり王家のミスで間違えて送られたのに、呼びつけられて返却しろと言われて、父上は怒ったんだ。
探しましたが見つかりません、そう返事を王家に父上が返しているんなら、当然俺だってそれに従うよ」
「……ありました、と殿下にはお知らせしないつもりなの?」
「スローン侯爵家はひとつだろ?
この家の何処かにあるのはわかってて、これ以上探さないと父上が意思表示をしたからには、お前も殿下には自分からは言うなよ?」
一体どれ程の理由があって、父は王太子殿下に反抗をするのでしょう。
王家なら、臣下である父を呼び出して命じるのは当たり前の事です。
それなのに、どうして父は怒っているの?
そんな事をして、お咎めはないのでしょうか?
そして兄も。
お世話になったと、言いながら。
父がそうするからと、殿下を騙そうとしてる。
父にドレスを持っていると自分からは言わないようですし、多分、殿下に『見つかりません』と、返信するのでしょう。
スローンはひとつ、なら私も。
あのドレスは知らない事にしないといけません。
二人とも、どうしてしまったのかしら?
王家に対して、何か思うところがあるのでしょうか。
「王立騎士団がうちにやってくるかも……」
「それはないね、父上だって、王太子殿下が大きく出られないとわかってて、そうなさっている」
兄は何を言ってるの? お相手は王家よ、王太子殿下なのに。
「おかしいのは殿下って、そのドレスの箱が何色だとか、ドレスもどんなのだとか、わかってないんだよ」
「……」
「何色の箱かわからないけど、アローズのドレスだから、って書いててさ、ご自分で用意したんじゃないなとか、アローズ自体知らなくて、今まで女性に何か贈り物をした事が無いのがわかる、と言うか」
兄が私の目を見ながら、笑って言いきります。
「お前にいつも持ってくる花だとかリボンも、好みを伝えて買いに行かせてるんだろうな。
それは王族だから当たり前だから、怒るなよ?
俺が言いたいのは、お前がずっとしていた組み紐」
兄の言葉に思わず、何も無い左手首を握りました。
「市で買って貰ったって聞いたけど、確かなのは。
あれが唯一の、殿下がご自身で選んで、お前に贈ったものだ、って事だよ。
だから、自信を持て」
何を、どうやって、自信を持てと?
あれは3年も前の事です。
その時は確かに『好きだ』と言われたけれど。
クラリスには『愛してる』と言ったの。
プレストンは殿下がクラリスに、言った言葉を知らない。
ドレスは間違っていたのかも知れないけれど、カードの文言は嘘じゃない。
その後、父は王家に財務大臣の辞職願いを提出致しましたが、王太子殿下により慰留されました。
兄の予想の通り、ドレスを返却しなかった事については不問に付すと決められたようでした。
父と兄が何を思っていたのか、知らされぬまま。
私は兄から返されたあのドレスを、姉のクローゼットに戻しました。
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