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みーくん

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漫画大賞受賞式①

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 宝石のように輝くシャンデリア。色彩豊かなフラワーアレンジメント。そして煌びやかな衣装で上品に微笑み談笑する人々。ここは三ツ星ホテルのパーティー会場。

 俺は今、高価な戦闘服を身に纏い会場に溶け込むように潜伏し、ある人物を探している。それが今与えられたミッションだ。

 どうしてそんな事をしてるかって?
 受賞式のパーティー会場で早々に松永さんとはぐれたのだ。

 これはヤバい!だって初めて見る人たちばっかりじゃんか!「僕がついてます。」とか胸を張って言ってたくせに置いて行かれた!!なるべく影を薄く存在を消しながら探しているけど、なんかジロジロ見てくる人いるし。カムバッッッッック松永さん!!

 松永さんってこういう所・・・あるよねっ。


「もしかして、蒼先生ですか?」

 男性に声を掛けられ振り返る。

「あっはい。初めまして、蒼です。」

「初めまして。昨日は会見を拝見いたしました。僕、蒼先生を目標に漫画家になったんです!ご本人にお会いできて光栄です。しかもこんな若いイケメンとは思いませんでした!!」

「あっいやっ、えっと・・・ありがとうございます。イケメンは余計ですが、目標と言って頂きとても嬉しく思います。」

「僕は少年雑誌のホップステップで連載していますSAWAさわです。よろしくお願いします!」

「えっ!?ホップステップのSAWAさん・・・えぇ?もしかして『釣り竿侍天下統一』のですか??僕、大好きなんです!是非あとでサイン下さい!!」

「えぇぇぇぇ!!蒼先生にそんな言って頂けるなんて・・・うぅ。」


 あれ、泣いちゃったけどどうしようか。

 ハンカチを出し涙を拭ってあげ何とか宥めた。泣き始めた時は戸惑ったが、目標ですと言われて悪い気はしないのだ。

 SAWAさんと別れて、その後も沢山の人に声を掛けられ挨拶を交わした。今まで表に出てなかったから同業者の知り合いが一人もいなかったので、同業者意見交換がとても新鮮で楽しい。表に出て自分で人脈を広げていくのも大切な糧になる事を学んだ。


 松永さんとはぐれて約三十分。そろそろ受賞発表が始まる。また探しに行こうした時、入口の方から一生懸命に早歩きでこちらに向かってくる姿が見えた。


「ごめんね!ごめんごめん!蒼先生。トイレに行ったら迷っちゃって。」


 ・・・そういう所あるよね。松永さん。


「初めて沢山の同業の人達と話ができて勉強になったからいいよ。」

「ほぉ。良かったです。・・・そろそろですね。」




 すると会場の電気が消え壇上にスポットライトが当たる。
 いよいよ始まったのだ。

 司会進行役の女性は見た事がある。どこかの局のアナウンサーだ。司会に有名アナウンサーを起用している時点で、この漫画大賞の規模がいかに大きいものなのかが伺える。


「松永さん、あのアナウンサーを司会で起用するなんて、この賞レースは本当に大規模な企画だったんだね!・・・で、あのアナウンサー誰だっけ?」

「えっ?あのアナウンサー知らないんですか??流石です蒼先生!朝のワイドショーを担当してるじゃないですか!」


 あっ!!アレだ。空のスキャンダル報道の時に芸人である男性司会者の隣でヘラヘラしてた!特に自分の意見を言う訳でもなく擁護も否定もしなかった人だ。まぁ、番組内では自分の意見など必要ないから黙ってたんだろう。アナウンサーも大変だな。


 お偉いさん方の長~いご挨拶を聞きながら会場を観察する。


 今年は全体的に若い印象を受ける。もちろん愛斗はその中でも若い方なのだが・・・大御所、巨匠と呼ばれるベテラン漫画家さんたちの姿が見えない。昨今の日本における漫画文化は彼らあってのものなのに、この大きな舞台に参加していないなんてどうしてなのか。


「松永さん。今年の年齢層若くない?」

「あぁ、そう言えば蒼先生は知りませんでしたっけ?大御所の先生方が、若い世代にスポットをと言って今年は皆さま辞退されたのですよ。」

「何それ!かっこいい。・・・でも少し残念。お会いしたい先生も居たのにな。」


 自分も幼い頃から漫画が大好きで沢山集めていた。母親が小説家だというのに小説は買った事が無い。読んだものは国語の教科書くらい。そして、憧れの漫画家さんが何人か居て、いつの日か直接お会いするのを秘かに楽しみにしている。


「あっあっ、蒼先生!発表が始まりましたよ!!」


 襟元を正して気を引き締める。去年までは賞というものに然程興味が無かった。銀賞受賞した時も「あっ銀賞獲れたんだ。」と思った程度で、そこまで感情を揺さぶる事は無かった。

 しかし今年は獲りたい。出来るだけ高みを目指したい。

 そう思えるようになったのは、やはり空の存在があるからだ。彼はもっと有名になって、どんどん上へ行ってしまうだろう。その時に置いて行かれるのは嫌だし、自分の足で並んで歩いていきたい。

 そのためには何か形に残る証が欲しいと思った。連載、単行本売上、人気、様々な証があるが、その中の一つに『受賞』も含まれる。経歴を書く時、売上などは書かれることは無いが受賞経歴は書面で残る。所謂、履歴書の資格や免許と同じだ。



 まずは『特別賞』から発表があり、名前を呼ばれた若き漫画家たちが壇上に上がって行く。SAWAさんの姿もある。審査員特別賞を受賞したようだ。

 いやいや、あの漫画はもっと上の賞を獲れるくらい面白いだろ!釣り竿を担いで天下統一していく話が面白くないはずがないだろ??


『蒼せんせ~い!!』


 壇上から名前を呼ばれ驚く。その犯人はSAWAさんだ。


『蒼先生!!審査員特別賞もらいましたぁぁ!!蒼先生ぃぃぃ大好きです!先生のお陰です!!』


 おいおいおいおい、それはSAWAさんの実力だろ!やめろやめろ!皆がこっちを見てるじゃないか。しかし、SAWAさんの屈託のない笑顔を見てると動画で観ている柴犬に似ているから邪険に出来ない。犬は可愛い、可愛いは正義。

 一応、曖昧な笑顔で手を振っておいた。


「蒼先生。いよいよ本命の発表ですよ!準備しておいてくださいね。」


 松永さんが今までに見た事もないほど緊張しているのが分かる。この大賞を獲る事は、出版社にも名誉なことだし、ましてや自分の担当している作家が受賞となれば、担当編集者としても誇りだという事は充分分かってる。だから受賞は編集社の皆さんや松永さんへの恩返しにもなる。



『それでは、続きまして銅賞の発表です。―――――』


 一瞬にして静まり返る会場。そして皆が祈るように次の言葉を待つ。

『 エントリー作品「いつだって恋愛中」 北野良子先生です!』


 はぁぁ違った。俺じゃない。まだ呼ばれたくない。

 大賞を獲りたい。だからまだ名前を呼ばれる訳にはいかない・・・と思ったが、違う不安が頭を過ぎる。


「ね、ねえ松永さん。俺、何の賞にも選ばれてないのかも・・・不安になってきた。」

「だだだだだだいじょうぶだす!そそそんなこと絶対にない!!」

「うわぁぁ・・・メチャメチャ動揺してるじゃんか・・・噛んだし。」



 そして、銀賞が発表される。


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