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圭一郎の回想 出会い、そして
しおりを挟む俺、野田圭一郎は両親のお陰で容姿には恵まれ女子にモテる。
気の合う友達もいるし彼女もいるし、自分なりに充実した高校生活を送る普通の男子高校生だった。
直樹の存在を知ったのは高一の夏ごろ。
普段は他のクラスなんて滅多に行かないけれど、その時は何か用事があって行ったクラスに直樹は居た。
偶然視界に入った直樹は、沢山の友達に囲まれ楽しそうに笑っていた。
暑かったのもあり、シャツのボタンを半分くらい開けパタパタ扇いでいた。綺麗な鎖骨と白い肌がむき出しになり、男にしておくには勿体ない程に可愛らしい顔とその姿のギャップに一瞬ドキッとしたものの、こんなに可愛らしい男も居るんだなとしか思わなかった。
二年になり同じクラスになって、席が近かったこともあり話すようになった。
いつも明るくてニコニコしている直樹と友達になりたいと思い自分から積極的に話しかけたんだ。話すようになってから、こいつと友達になって正解だと思うまで時間は掛からなかった。
ちょっと抜けたところもあるけど、人の悪口を言わないし皆に優しい。何より凄く明るくて一緒にいると自分まで元気になる。本人は能天気なだけと言っているが周りの空気を読むのが上手いから、他の皆も直樹の傍は居心地が良いんだと思う。
皆が自然と周りに集まってくる割には本人は自由奔放で目を離すとフラフラとどこかに行ってしまいそうな猫みたいなやつだ。
直樹は「モテない、モテたい」と常に嘆いているが。俺はモテない理由を知っている。
女子から「自分より可愛い人と付き合うのは無理」と言われているんだ。観賞したいけど横に並ぶのは無理らしい。俺が知ってる殆どの女子が言ってる。直樹は自分の容姿が周りからどう見られているか自覚がない。本人は他の男と比べると女顔。くらいの認識しか持ってない。
お前、女子より可愛いぞ。
そして、これは決して言えないのだけれど・・・。
お前、凄くモテてるんだぞ・・・男に。
俺が知っているだけでも、本気で直樹のことが好きだという男が6・7人は居る。共学なのにそれだけ居るのは驚異的な数だと思う。ここが男子校なら襲われるだろうな。直接危害を加えるようなヤツは居ないから放っておいてるが、もし何かあれば周りの俺たちが守ってやらなければいけないと思い、本人以外の友達には話してある。
そんな直樹だが、中身は俺たちと変わらない男子高校生で下ネタも平気で話すし女も好きだ。だから彼女が出来た時には心から応援したし祝福もした。
二学期に入ってすぐの頃、放課後に忘れ物を取りに教室へ戻ると直樹が一人で泣いていた。
いつも笑顔のやつが一人で泣いている事に驚き急いで駆け寄って理由を聞くと、彼女と友達に裏切られたらしい。許せないよね。俺の大切な友達を傷つけるなんてさ。
「お前が慰めろ」と言って俺に抱きついて静かに泣いてる姿に、守ってやりたいと思った。だって泣く程に傷ついてるんだ。
しばらく泣いて落ち着いたのか、パッと顔を上げて柔らかい笑顔で「ありがとう」と言われた時は心臓が高鳴り、思わず力いっぱい抱きしめそうになった。
女の泣き顔は何度も見た事あるけど、男なのにこれ程に綺麗で儚くて守ってやりたいと思う泣き顔は初めてだったかもしれない。
それ以来、何となく今まで以上に直樹のことを気に掛けるようになっていた。
体育祭の日、朝から体調の悪そうだった直樹が倒れた時は真っ先に保健室へ向かった。
ベッドの横に、直樹を裏切ったヤツが心配そうに座っているのを見て心底腹が立った。
お前は裏切って傷つけたくせに心配する資格なんてないんだよ。そいつに「俺が診るから」と声を掛け保健室から追い出した。
夕方になり目覚めたから、俺が送っていくからと伝えると、あの日みたいな柔らかい笑顔で「ありがとう」と言われ、また心臓がギュッとなった。
おんぶして欲しいと頼まれた時は、子供かよなんて茶化しつつも触れられることが嬉しいと思ってしまった自分が居た。
直樹の体温を背中に感じながら帰る道のりは、あっという間だった。家が自ら近付いてきたんじゃないかと思うくらい本当にあっという間だった。
あいつが耳元で喋るたびにドキドキして、俺の首元に鼻をうずめスンスンする度に堪らない気分になり思わず顔が赤くなると、賺さずからかってくる。
文句を言ってやろうとした瞬間、頬にチュッと唇が触れた。直樹は悪戯が成功した子供のように無邪気に笑っていた。・・・お前は俺の心臓を潰す気か!
今思えば、この時には好きになっていたんだろうな。俺自身も気づいてなかったけど。
自分の気持ちを自覚した時のことは鮮明に覚えている。忘れられない。
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