ワールド エクスプローラー!

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2.冒険者デビュー

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 ふわり、と飛んでいた速度から比べると驚くほどゆったりとした動作で、俺は街の入り口近くにある石碑のような場所に舞い降りた。
 「へぇー・・・、結構大きい街だなぁ。ここがスタート地点か」
 「こちらがノルヴェジアン王国首都ノーテです」
 首都ノーテ・・・。初めて見る異国情緒あふれる街並みに心奪われながら、キョロキョロと辺りを見回す。すでに映像は現実世界で見ているのと同様の感覚、視界で確認できる。現実と違うのは左上にある3本のゲージと、右上にあるマップだろう。
 3本のゲージにはそれぞれLP、MP、SP、と書かれている。アインのチュートリアル説明によるとライフポイント、マジックポイント、スタミナポイント、の略のようだ。
 なぜ一般的なHP-ヒットポイントではなく、LP-ライフポイントなのか少し気になったが、名称が違うだけで意味は同一との事。
 マップは自分を中心とした矢印カーソルの他に、非敵対キャラを示す緑の丸、現在地の地形などが表示されている。こちらも説明によれば、赤が敵対キャラ、青は友好的なキャラを示し、点滅している赤丸は敵対行動を取っているキャラ、逆に青や緑の点滅は救助を求めているキャラと言う意味だそうだ。まあ、現在は緑の丸しか見えてないので確認のしようがないのだけど。
 仕組みとしては、自分の移動した分地形が解放されるオートマッピングシステムのようで、ランドマークの名称などはソコを調べるか、どこかから情報を入手した場合に自動で表記される。もちろん自分でマーキングしたり、名称を設定する事も可能だそうだ。
 それからLVとステータス。LVに関しては一般的なRPGと同様に、経験値が貯まる事で上がるようだ。だがステータス、こちらがかなり特殊だった。
 LP、MP、SP、はLVアップと同時に総量が増加するそうだが、ステータスはスキルに組み込まれていてそれらしい数値的な表示は無いと判明。アイン曰く、スキルは色々あるそうだが、全てのスキルに対し、対応したステータスが影響を与えるので、スキルを上昇させるだけでステータス面の強化に繋がると。
 ・・・ちょっとややこしい。もう少し具体例のある説明を頼もう。
 「なあアインー」
 と、言いかけ俺は思わずハッとなる。よく考えれば、周りにはNPCだかプレイヤーだか解らない人達が大勢ひしめいている。こんなところで独り言みたいなのは流石に恥ずかしい。さっきまではアインが話す内容を聞いていただけだったので、気付くのが遅れてしまった。
 ・・・脳波トラッキングシステムって言うくらいだし、頭の中で呼びかけたら応答してくれるんじゃないか?
 俺はそう考え、一拍間を置いて脳内でアインに呼びかけてみる。
 [アイン、聞こえるか?聞こえてたら返事をしてくれ]
 [なんでしょうか?マスター]
 あっさり呼び出せた。予想通りそう言うシステムになっていたようだ。ちょっと安心した。
 [アイン、ステータスの説明を具体例で教えてくれ]
 気を取りなおして俺はアインへ質問を投げかける。
 [具体例ですね。例を挙げるならば鍛冶職人は武器を作る事が可能です。その技術はステータス分類としてはSTRやDEXなどが該当するでしょう。ですが、同じステータス値を持っていても、戦闘職と同じようにモンスターと戦える訳ではありません。それは鍛冶職人は戦闘職のスキルを持たない為です。これは逆の場合でも該当すると言えるでしょう]
 なるほど解りやすい。確かに数値の上で同一だとしても、技術が伴わなければただの素人。ステータスの割り振り以前に、技術ースキルの熟練度を上げなければ意味がないというのは納得がいく。
 [という事は、身体能力的な部分でも熟練度が低ければ思うままには動けないという事か?]
 [はい。脳波トラッキングシステムにより思い描いた通りの行動を行う事は可能ですが、それを実行した場合の結果は熟練度に左右されます]
 デスヨネー。熟練度が1の魔法使いが、いきなり漫画やアニメで見かけるような大魔法使えたらバランスおかしくなるからなぁ・・・・。まあでも、熟練度を上げれば可能になるという見方も出来るな。この手のゲームじゃLV上げスキル上げは当たり前の事だし、ドンドン鍛えていこう。
 ・・・あれそう言えばジョブとかクラスってどうなってるんだ?
 俺は一通り目を通したメニューやスキル画面などを思い起こし、ソレがどこにも表記されてない事に気付いた。
 [アイン、ジョブやクラスの表記がないんだけどどういう事だ?]
 [はい、ジョブ及びクラスと呼ばれるカテゴリー分けはありません]
 無いって。んじゃ俺は今何なんだ?無職?・・・そういや武器も防具も持ってないな。
 [すまん、どういう事か説明してくれ]
 先ほどまでと同じようにアインに説明を求める。
 アインによると、プレイヤーはどのスキルも手に入れる事が出来る。故にプレイヤーの望む形へと自身をビルドしていく事が可能である。つまり、自由な発想の元にオリジナルのキャラクターを 生み出してプレイ出来るという事だった。
正直、魂が震えた。ジョブやクラスと言った物に縛られない、フリースタイルなキャラクタービルド。それはかつて夢みたゲームシステム。発想がある限り限界のない幅広い遊び方を秘めている。
 浮かんでくる使いたい武器や技のイメージを一旦切り上げて、俺は改めてアインに訊ねる。
 [さて、次はどうすればいいんだ?やっぱりお馴染みの冒険者ギルドへ向かう感じかな?]
 [はい、まずは冒険者ギルドへの登録を推奨します]
 期待を裏切らない答えが返って来た事に、俺は心の中でガッツポーズを取った。
 やはりMMORPGと言ったら冒険者、冒険者と言ったら冒険者ギルドですよ。お金を稼ぐ意味でも、情報を手に入れる意味でも欠かせない組織、数々のクエストの始点、冒険者ギルド。
 俺ははやる気持ちを抑えつつ、アインに案内に従って冒険者ギルドのある区画へと向かう事に決め、ふと思い立ち、両手両足を軽く動かしてみる。
 [へぇ、現実と同じ様に違和感なく動かせるんだな]
 身体の操作を脳波によって行うのは理解していたが、手足を動かす度に指令を出さなければいけないのではないかとちょっと不安だったのだ。だが実際は現実と変わらない、無意識の領域でちゃんと動かせると解った。レスポンスも良くラグなども感じない。
 俺はその操作感に満足し、アインの案内するルートを歩き始めた。
 道中、左右に建ち並ぶ建物や点在する人々を眺めながら歩を進める。
 視点は完全な一人称。すれ違う人々の種族はヒューマン、エルフ、獣人、ドワーフっぽい人や小人など様々だが、そこかしこから聞こえてくる話声や駆け回る子供達の笑い声。頬を撫でる風の感触と、屋台から香ってくる食欲をそそる匂い。思わずゲームである事を忘れるくらい、そこには圧倒的なリアルを感じた。
 [マスター、冒険者ギルドに到着しました]
 アインの呼びかけで、道の反対側で上がる客引き声から視線を戻し、目の前の建物を見る。
 そこには砦と見紛うような堅牢な建物が鎮座していた。
 3階建て、高さは10メートルはありそうだ。都市を囲む壁を背にし、3階から城壁へと移れるように設計されている。おそらくはモンスターの急襲などが起きた場合に、冒険者が城壁から矢や魔法を射掛ける為だろう。
 建物の左横には訓練所と思われる場所が屋根のみの広場が作られており、何人もの人達が思い思いに訓練を行っているのが見うけられる。
 建物の壁かけ看板には交差する剣と槍、そして見た事のない文字が書かれている。
 [・・・ん?あれこの文字読めるな]
 確かに見た事の無い表記の文字であったが、不思議と読むことが出来、そこには【冒険者ギルド、ノーテ本部】と書かれていた。
 今ので看板を調べた認識になったらしく、マップに冒険者ギルド、ノーテ本部と表記される。
 [オリジナル文字は開発者のこだわりかな?実際はアバターを通して見てるから、ICリーダーみたいに文字情報を読み込んでるのかもしれないな]
 アインに確認するでもなく一人納得する。
 ギルドの周辺を一通り観察し終え、俺はそのまま建物の中へと向かった。
 建物の中は中々の熱気であふれていた。いかにもな装備を纏った冒険者然とした人達の声や笑いがそこかしこで上がり、独特な空間を作り出していた。
 肌にぶつかってくるようなざわめきと熱気、その非日常感に思わずテンションが上がっていく。
 [いやぁ凄い臨場感だな!画面越しじゃなくその中にいるとやっぱ迫力があるな!それで今度はどうすればいいんだ?]
 弾む心を抑えきれんとばかりに、俺は上機嫌でアインに尋ねる。
 [こちらです]
 と、アインの声と共に目の前にナビシステムのような矢印が表示される。その矢印にそって移動すると一つの窓口に到着した。
 「いらっしゃーい!冒険者ギルド、ノーテ本部へようこそ!」
 窓口に立つや否や、周りの喧騒に負けないくらいの元気な声が飛び出してくる。
「えーっと冒険者の登録をお願いしたいんだけど、ここでいいのかな?」
俺は窓口に立つ、オレンジ色の髪の少女に訊ねる。
 「はい!こちらでお受けしてますよー!お客さん冒険者ギルドは初めてですね。冒険者認定証を発行しますのでこちらに記入をお願いします!」
 そう言うとオレンジ色の髪の少女はその髪と同じオレンジの瞳を笑顔に変え、一枚の羊皮紙を差し出してきた。
 [うーんと、記入事項は名前と出身地、種族だけか。まあ生年月日とか聞かれても解らないけど。出身地はどうしよう]
 [この都市の名前が首都ノーテとなっています。なのでノーテ出身で問題ないと思います]
 アインさんナイスアシスト。
 心の中で軽くアインに礼を言いつつ、俺はささっと書類に記入していった。
 何となくそんな気がしてたけど、予想通り羊皮紙に書かれた文字も看板と同一のものだった。
 そして読めるなら書けるだろうと書いてみると、これが見事に的中。自分では日本語を書いてるのだが、アバターはゲーム内の文字でサラサラと記入して行ったのだ。
 「これでいいかな?」
 そう言ってオレンジ色の髪の少女に羊皮紙を返す。
 「・・・はい!大丈夫です!では少々お待ちくださいね!」
 言うが早いかオレンジ色の髪の少女は、窓口の奥、事務室のようなところへ引っ込む。
 ・・・待つ事30分。
 「お待たせしました!それではこちらが冒険者認定証になります!」
 そう言って差し出された金属プレートのようなものには、先ほど記入した情報ーウォルフ・タウンゼントの名前と出身地、種族が刻印されていた。
 「最後にその認定証を持った状態でこちらに触れてください」
 見ると窓口のカウンターには、紫色の水晶玉のような物が置いてあった。どうやらそれに触れろという事らしい。これはあれかな?魔力で本人確認みたいなやつかな?
 俺は言われるままに認定証を持ち、紫色の水晶玉に触れる。
 すると認定証と水晶玉が一瞬同じ色で光る。
 認定証の方の光りはすぐに消えたが、水晶玉はそのまま淡く発光を続ける。
 「はい、これでギルド認証は完了です!お疲れ様でした!」
 「ずいぶん簡単だけど、罪科とかそう言った部分は確認しなくてもいいのか?」
 先ほどの羊皮紙ー記入用紙にも簡単な記入事項しかなかったのでちょっと気になった。
 「はい、先ほどこちらの魔水晶オーブにお客様の魔力を登録して貰いましたので、前科などがある場合すぐに解るようになってます」
 軽く説明をして貰うとこういう事らしい。魔水晶オーブは各国の各種ギルドのみならず、衛兵などの警備機構ともリンクしており、刑罰を受けた者は警備機構によって留置時に登録済みなのだそうだ。つまり罪科を持った者が偽って登録しようとしても、個人の持つ魔力の波長ですぐに解る仕組みと。個人認証が魔力の波長ってところが実にファンタジーである。
 ややあって、オレンジ色の髪の少女は輝くような笑顔で一礼してきた。
 「ではウォルフさん、続けてギルドの設備や階級の説明をさせて貰ってもよろしいですか?」
 アインがいるとは言え、解らない事だらけの俺にとってこの言葉は救いだ。
 俺はオレンジ色の髪の少女の言葉に一も二もなく承諾した。
 「では改めまして、冒険者ギルド、ノーテ本部職員の私、セレンが担当させて貰いますね」
 オレンジ色の髪の少女-セレンは、そのまま窓口脇のドアから出て来て、ギルド内を案内してくれる事になった。
 まずは施設から、冒険者ギルド内の設備としては討伐、採取、護衛、配送などの各種依頼掲示板とそれに対応した受付窓口、新人冒険者の講習会場、図書室、食堂など。その他にギルド職員の実務スペースや休憩室、ギルドマスターの応接室があるようだ。
 ギルド外部には、やはり思った通りの訓練所がある。
 また、冒険者ギルドのある区画はギルド区画と呼ばれているらしく、区画内には魔導ギルド、レンジャーギルド、錬金術ギルド、料理ギルド、裁縫ギルド、ちょっと離れて鍛冶ギルド、商業ギルドがあるそうだ。冒険者達が使う低額の宿屋もこの区画に存在する。
 「それからこちら、冒険者認定証についてです」
 セレンはギルド内入り口脇にかけられた看板を指し示しながら説明を開始する。
 冒険者認定証には段階が存在し、最低の鉄札から始まり 銅札、銀札、金札、魔銀ミスリル札、白金プラチナ札、蒼晶アダマンタイト札、洸晶オリハルコン札、の8段階、つまりFからSSまで存在するようだ。
 もちろん新規冒険者は鉄札から始まる。認定証の素材がそのランクを表しているそうで、先ほどの登録作業も、魔水晶オーブと認定証の両方に、個人の魔力をリンクさせる為のものだと解った。
 ギルド内部を一周し、説明を終えると丁度元の窓口に戻ってくるルートになってるらしく、セレンは窓口脇のドアに入るとカウンター越しに武器防具を差し出してきた。
 「こちらは新規冒険者の方にギルドが配布している装備になります。ギルドの説明を聞くという依頼を達成した報酬にもなっているので遠慮なくどうぞ!」
 なんとまあ親切な設計である。基本的な知識を学ばせながら、それ自体をクエストにしてあったとは。
 導入チュートリアルとして良く出来ている事に思わず関心する。
 「ありがとう。頑張ってみるよ」
 俺はセレンに軽くお礼を述べ、差し出された武器防具を受け取る。
 受け取った装備は、実に序盤らしい鉄のロングソードと皮の胸当てだ。装着の仕方もセレンが説明してくれた。
 「解らない事があったらいつでも聞いて下さい!あ、あと、最初は採取系の依頼がオススメですよ!」
 「うん、解った。ひとまず訓練所で腕を磨いてから採取系の依頼を受けてみるよ」
 う~んいい子だ。ファンクラブとかあってもおかしくないなこれは。
 輝くような笑顔で色々とアドバイスしてくれたセレンに別れを告げ、さっそく訓練所へ向かってみる。
 訓練所からは威勢の良い掛け声や、金属のぶつかる音、風切り音などが響いてくる。
 「おーやってる。やってる」
 冒険者ギルドに向かう途中でも見えてはいたが、こうしてまじかで見るとまた迫力がある。
 左手前では剣と盾を持った2人組が打ち合いをしている。その奥は格闘だろうか、流れるような体捌きで藁束を巻いた板に連撃を繰り出している。右端には弓を撃つ人影もあった。
 「よう!ノーテ本部訓練所へいらっしゃい!俺はここの管理をしてるガリオンだ!」
 突如左側から大声を浴びせかけられ、俺は思わず身構えながら振り向いた。
 でかい。声もでかいが、その外見もまた負けてなかった。身長は180を超えるだろうか、その上、引き締まっていながらもはっきりと形作る筋肉に覆われた身体。そして赤い髪と赤い瞳の男ーガリオンがそこに立っていた。
 「初めまして。俺はウォルフって言います」
 軽く会釈をし、差し出された手を取り握手を交わす。
 「おう!よろしく!その恰好からすると新規冒険者ってところか。むやみに外に飛び出さないで自分の技量を磨きにくるのはいい心がけだ!」
 腕を組みウンウンと頷いている。動作が派手なのか無駄に迫力がある。おそらく見た目通りの実力者なのだろう。
 俺はそっとアインに確認を取る。
 [アイン、アナライズスキルって使えるか?]
 [はい、使用可能です。対象、ガリオンに使用しますか?]
 [ああ、頼む]
 [了解しました。アナライズスキルを取得しました。次回からはターゲットした対象に対しキーワードのみで使用可能です]
 どうやらアナライズスキルを使えるようになったみたいだ。
 さっそくガリオンを調べてみると、LV50ランクゴールドと表示されている。
 うん、予想以上に強かった。もっとも訓練所の管理人が弱かったらそれはそれで問題か。
 「えっと、一通りの武器の使い方を習いたいのだけど」
 「ほう、腰に帯びてる剣だけじゃなく色々な武器を試すか。よかろう!ではこっちに来るといい!」
 そう言ってガリオンは俺を訓練所の右端の方へ連れて行く。
 ここでやる事は2つ、1つは訓練所にある武器のスキルを全部取得しておく事。熟練度はその時に応じて鍛えるとして、まずは片っ端からスキルを有効にしておきたい。
 もう一つは思い描いた通りの動きを実現できるかどうかの確認。現実世界の方で今まで見てきた技を、実際に使う事が出来るかどうかを試してみたかった。持ってるのは日本刀じゃないけど。
 結論から言えば可能だと判明した。問題としてはスタミナも、スキルの熟練度も、全然足りないものだから速度も威力もまるで無いという点だ。3方向からほぼ同時に切りつけるという、ある意味ファンタジックな技なのだから当然と言えば当然だが・・・。
 「ほぅ・・・。中々面白い事を考えるな君は!」
 ガリオンが関心したようにこちらに近づいてくる。そして。
 「ハァッ!」
 気合い一閃、今俺がやって見せた技を見様見真似で繰り出した。見様見真似なんて言ってるが、もちろん速度も威力も比較にならないくらいガリオンの方が上だ。
 「うーむ。これを実戦の中で使いこなすには相当の熟練を要するだろうな・・・」
 本人はいたって表には出さないが、アナライズで見たガリオンのスタミナが一気に半分を切ってるのが見て取れた。つまりガリオンほどの冒険者でもおいそれとは扱えない技という事だろう。
 まあ、基礎の集大成ともいえる技だ。武器を整え、熟練度やLVが上がればいつか使えるようになるだろうから焦る必要はない。
 続けて、槍、メイス、斧、格闘、弓、盾、両手剣、ナイフ、杖、ハンマー、投擲武器など、訓練所においてある武器を手当たり次第訓練していく。その度にアインからスキル取得のアナウンスが流れてくるのはご愛敬。
 最後にもう一度剣に持ち替えてガリオンに向き直る。
 「ガリオンさん、手合わせお願いできますか?」
 「よかろう!遠慮なくかかってきたまえ!」
 ガリオンは二つ返事で引き受けてくれる。
 お互いに持っている剣は刃を潰してある訓練用の剣だ。とはいえ鉄製であるのは変わらないので、当たり所が悪ければ怪我では済まない。
 ガリオンはオーソドックスな構え。切っ先を相手に向けるようにして、顔の脇に持ち上げる形。
 対する俺は正眼の構え、胴の縦軸中心に沿って剣を握る。 
 「行きます」
 「いつでも来い!」
 掛け声とともに動き出す。まずはガリオンの構える剣と逆の方に袈裟懸けに打ち込む。
 が、ガキンッ!と言う音と共にいとも容易く受け止められる。
 ならばと続けて逆袈裟からの胴薙ぎへと連続で繰り出す。が、やはりあっさりと止められる。
 「太刀筋は中々だが、まだまだだな!」
 流石に強い。もっともLVも技量も熟練度も何もかも遥か上の存在なのだから当たり前だ。
 「今度はこっちから行くぞ!」
 一旦飛びのき、構えなおしたところでガリオンからの宣言。・・・実はこれを待っていた。 
 この手合わせは最初から勝つ事が目的じゃない。上位者の太刀筋を受ける事で、見切りのスキルを取得するのが目的だった。そして。
 ガリオンは力強い打ち下ろしを袈裟懸けに放ってくる。手加減してくれているのだろう。その太刀筋は俺でもギリギリ目で追える速度で迫ってくる。
 構えを正眼から八双に変え、迫る剣をギリギリでかわす。そして続けてくるであろう切り上げに合わせるように剣を下段に構える。 
 ギャリリッ!
 ガリオンの放った切り上げが俺の剣の腹を滑っていく。つば元まで迫ったガリオンの刃を、俺は剣を回転させ、いなすように弾く。
 「参りました」
 俺はそう言うと床に膝をついた。改めて見ると、視界にあるスタミナゲージがほとんどゼロになっている。
 「中々いい動きだったぞ!」
 そう言いつつ手を差し伸べ俺を立たせてくれるガリオンのスタミナはほとんど減っていない。
 流石にLV50は伊達じゃない。
 豪快に笑うガリオンと握手を交わしながらスキル一覧に目を通す。うん、予定通り見切りスキルを取得できた。しかも受け流しスキルまで付いてきたのは嬉しい誤算だった。
 例え体験が無くとも、自分の知識内にある動きであれば再現できる。これは予想以上に素晴らしい物だと改めて感じた。
 現実世界であれば、何百回もの反復練習の果てに身に付くような技術も、ここでなら知ってさえいれば実行可能なのだから。
 「ありがとうございました。また手合わせお願いします」
 俺はガリオンにお礼を言い、来た道を戻るようにギルドへと向かう。
 装備を貰えたとはいえ、絶賛無一文なのは変わらないので、簡単そうな採取系の依頼を受けてみようと考えたのだ。
 「えーっと採取の鉄札だと・・・。アルカ草の採取。10束で銅貨100枚。採取地、ナディーンの森」
 ・・・割りがいいのか悪いのか解らん。しかもアルカ草自体解らんぞ。
 [セレンさんなら教えてくれるかもしれないな。あとアイン、ドゥニアの貨幣価値について教えてくれ]
 [はいマスター。銅貨はドゥニアにおいてもっとも価値の低い貨幣になります。銅貨1000枚で銀貨1枚の換金レートになります]
 ふーむ、物価が解らないといまいちはっきりしないな。・・・まてよ。
 俺は自分の持っているロングソードを鑑定してみる事にした。
 [アナライズ]
 ターゲットされたロングソードから情報が読み取れる。

【ロングソード・素材・鉄・ノーマル・買値銅貨10枚・売値銅貨3枚】

 ふむふむ、少なくともこの依頼をこなせば、ロングソード10本分の銅貨が手に入るわけか。
駆け出し用と考えても悪くないかもしれないな。
 さっそく依頼書をはぎ取るとセレンの元へと向かう。
 先ほどと打って変わって、セレンの窓口には数人の列が出来ていた。
 「セレンさん、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
 おとなしく列に並び、自分の番が回ってきたと同時にセレンに依頼書を見せ、アルカ草の見本が無いか訊ねる。
 「はーい!あ、ウォルフさん、どうしましたか?」
 「この依頼なんだけど、アルカ草の見本みたいなのって無いかな?」
 「あ、はい!ちょっと待ってくださいねー」
 そう言うと奥の事務室に引っ込んでいく。・・・ややあって、紙のような物に包まれた物を持って戻ってくる。
 「はい、お待たせしました!これがアルカ草です」
 そう言ってセレンは包みを解き、中にある植物を見せてくれる。
 [これは・・・。色は違うけどほうれん草に似てる。取り敢えずアナライズっと]
 つつみの中にあった植物は、黄色い事を除けばほうれん草ととてもよく似ていた。

【アルカ草・素材・植物・ノーマル・ローポーションの材料・森林などに棲息・買値銅貨15枚・売値銅貨8枚】

 [へぇ、この植物からポーションが作れるのか。ロングソードより高いのは回復薬の素材だからなのかな]
 アナライズでアルカ草を調べ、入手した情報と形状を図鑑メニューに登録する。

 「ありがとう、助かったよ。それじゃ探しに行ってくるね」
 「はい!あ、ナディーンの森は東門をでて、街道沿いに進むとありますよ!気を付けていってらっしゃい」
 アルカ草の実物を見た事が無かったからか、セレンはついでに採取地の場所も教えてくれる。
 そこまで気が回ってなかった俺は振り返り一言お礼を言うとその場を後にした。
 [さて、まずは東門を探さないとか。アイン]
 [はいマスター。東門でしたら最初に到着した場所の隣にあります]
 あら意外と近かった。やっぱり冒険者が利用する率が高いんだろうかな。
 アインに案内されながら来た道を引き返し、石碑そばの入り口へと向かう。
 東門はそこそこ人通りが多く、馬車に混じって冒険者と言った格好の人達が行き来している。
 観察してみると、東門の作りは頑強そのものであり、通常時の門扉の他に、緊急時の落下式の門扉が設置されている。おそらく落下式で時間を稼いでいる間に内側にある通常時の門扉を閉じる仕組みなのだろう。
 東門を守る衛兵も見える範囲に4人、おそらく内部にもいるだろう事が推測された。
 [アナライズ]
 熟練度上げを兼ねて試しに衛兵にアナライズをかけてみる。

【ノーテ東門守備隊・LV30】

 今立哨している4人はノーテ東門守備隊という部署の所属のようだ。街を守るために日夜鍛えているのだろう、4人ともLVは30を超えている。
 俺はそんな彼らに心の中で敬礼をし、東門を出てナディーンの森方面へ向かう事にした。
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