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フィクスとのデートを迎えた正午前。
昨夜はパーティーで就寝が遅くなったため、少しゆっくり目の朝を迎えたセレーナは、いつものように体を動かしてから、自室で軽く身支度を調えていた。
その後、朝食と昼食を兼ねた軽めの食事を運んできてくれたリッチェルに、セレーナはさらりと言ってのけた。
「リッチェル、食事が終わったらフィクス様とデートとやらに行ってくる」
「は、はい……!?」
リッチェルは、手早く食事をテーブルに並べてから、慌てて部屋のクローゼットを開いた。
「デ、デ、デート! そういうことは早めに言ってください、セレーナ様! 急いで食事を摂ってください! おめかしをしなくては!」
「あ、待ってリッチェル」
どのドレスにしようかを思案しているリッチェルに待ったをかけたセレーナは、温かな食事が並べられた食事の席につく。
その後、好みのフレーバーの紅茶で喉を潤し、リッチェルへと視線を移した。
「今日はこの姿のまま行くから大丈夫」
「え!? え!? 今の格好で、でございますか!?」
セレーナは今日、少しだけ刺繍の入ったシンプルなシャツに、ハイウエストの黒色のズボンを履いている。そこに、膝下までの編み上げのブーツだ。
貴族令嬢というよりは、少し洒落た平民の男性が身に着けそうなものばかりである。
だが、舐め回すようにセレーナの全身を見たリッチェルは、うっとりとした笑顔を見せた。
「セレーナのスラリとした体躯と美しい姿勢、中性的で整った顔つき、艶々とした碧い髪に、とっっってもお似合いです……! か、格好良ぃぃ……!」
「本当? 似合ってるなら良かった」
「ハッ! ではなく! そうではなくてですね!」
リッチェルは首をぶんぶんと横に振る。そして、呼吸を整えてからセレーナに進言した。
「僭越ながら、デートならもう少し着飾ったほうが宜しいのではないかと! 殿下とのデートでしたら、貴族御用達の所に行く可能性もあるかと思いまして……」
「ああ、そのことなら心配は無用なの」
「と、言いますと?」
──昨夜、パーティー会場のバルコニーでデートに誘われたセレーナの内心といえば、疑問に埋め尽くされていた。
何故スカーレットという好きな相手が居ながら、私を誘うのだろう? という理由からである。
しかし、それをフィクスに言うわけにも行かず、かと言って仮初の婚約者になりたいと言った自分がデートの誘いを断るわけにも行かず、同意した。
その際、過去に一度もデートをしたことがないセレーナは、フィクスに恥をかかせてはいけないからと、どこに行くのか、どのような装いが適しているかを尋ねていたのである。
「今日は城下町にお忍びで遊びに行くみたい。殿下は身分がバレないよう変装なさると言っていたから、むしろ私は着飾らないほうが良いと思うの」
「左様でしたか……! 出過ぎたことを言って、申し訳ありません……!」
「そんなことない。リッチェル、いつもありがとう」
主のことを慮る気持ちはよく分かる。
セレーナは手早く食事を終えると、第三王子宮の正門にある馬車まで足を運んだのだった。
フィクスと馬車に揺られて一時間ほど、セレーナたちは目的地にたどり着いた。
城下町の中でも一番栄えていると言われている、サンソル地区というところである。ここにはいくつか通りがあり、その全てが商人たちがおりなす露店や、町人たちが構えている店で活気に溢れている。
その近くに馬車を停めてもらったセレーナは、到着のベルの音を聞くとすぐさま外に出て、フィクスへと手を差し出した。
「フィクス様、ここは足元が悪いのでお気を付けください」
「……ありがとうセレーナ。難を言えば、普通エスコートをするのは俺の役目なんだけどね」
「ハッ! 大変失礼いたしました。つい癖が出てしまいました」
時折セレーナは、護衛騎士としてキャロルがお忍びで街に来るのに同行することがある。
その際キャロルのことをエスコートするのはセレーナの仕事だったため、ついフィクス相手にもその時の対応が出てしまったのだ。
「申し訳ございません、フィクス様」
頭を下げるセレーナの頭に、フィクスはぽんと手を置いた。
「良いから、早く行こう。ほら、手を貸して」
「は、はい」
言われたとおりに手を差し出せば、その手はフィクスの大きな手によって包み込まれた。
「デートだから、今日は離さないように」
「え、あ、はい……」
何の変哲もない白いシャツに、ベスト。顔があまり目立たないようにキャスケットを被ったフィクスが、この国の第三王子だとバレる心配はほとんどない。
そのため、わざわざ手を繋いで婚約者であることを周りに知らしめる必要はないというのに、何故手を繋ぐのだろう。
「ねぇ、セレーナ。なんでわざわざ手を繋ぐんだろうとか考えてない?」
「……! フィクス様は人の心が読つ御業をお持ちなのですか?」
「そんなわけないでしょ。不思議そうな顔をしているセレーナを見たらすぐに分かったよ」
「左様でしたか。……では、何故手を繋ぐのか、お聞きしても?」
──買い物を楽しむ民や、快活に商品を宣伝する商い人、セレーナたちと同じでお忍びで来ているのだろう貴族たち。
そんな様子を見ながら歩くセレーナの質問に、フィクスは答えた。
「セレーナとこうして手を繋いでデートをしたいと、俺が思ったから」
「…………? それ、質問の答えになっていますか?」
「はは。細かいことは気にしないで、早く行こう、セレーナ!」
「えっ。は、はい」
少しだけ歩を速めたフィクスに、セレーナは慌ててついて行く。
(さっきのは、どういう意味だろう。……ま、深い意味はないか)
フィクスの言葉に自問自答をしたセレーナは、疑問を頭の端に追いやった。
「セレーナ、まずは剣の手直しに向かおうと思うんだけど、いい?」
「もちろんです。お供いたします」
キャスケットから楽しそうな笑顔を覗かせたフィクスに、セレーナはつられるように微笑んだ。
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