希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々

饕餮

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九話目

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「今日からお世話になります、宇喜多うきた 大空だいすけです。よろしくお願いします!」

 元気に挨拶をしたあとで頭を下げたこの青年は、ある意味喫茶店トムトムのつむぎに紹介された青年だった。

『二人に相談なんだけど、ダイスケ君を雇ってくれないかしら?』

 とうてつの裏庭でも藤が咲き始めたある日。紬と黒猫のママである澄と三人でお茶を飲んでいた籐子は、苦笑しながらそんなことを言った紬に、澄と二人揃って首を傾げた。

 紬曰く、バイトを増やしたいと思って現在バイトしてくれている人に紹介してもらったのだが、トムトムのバイトの中には『ダイスケ』が既に二人おり、紹介された人の中にさらに『ダイスケ』が二人いる。なのでトムトムでは多くなり過ぎるから全員雇えないのよ、という話だった。
 喫茶トムトムではバイトの名前を呼ぶ時、名字ではなく名前で呼ぶ。そしてバイトをするにもトムトムで働いていたOBか現役の紹介じゃないとバイトをすることができないシステムになっているらしい。

『今でも二人るんだもの、常連さんも大変よね』
『そうなのよねえ。でも、二人ともいい子なのよ』
 
 だからお願い、と手を合わせて言った紬に、澄と二人で頷いたのがつい先日だった。そして来たのが大空である。

「まずは条件ね」

 バイトをするにあたり、籐子が大空に条件を提示する。

 ランチは十一時からだが忙しくなるのは十二時からなので、それくらいに来て欲しいこと。
 時間に間に合わなかったり学校に行くまでの空き時間で、ボランティア感覚で多少の掃除をしてくれた場合は、時給は出ないが希望すれば賄いが出ること。
 夜は十七時~零時で、二十二時~零時は深夜手当てが出ることと、翌日が平日の場合はランチの簡単な仕込みを手伝って欲しいこと。もちろんランチも夜も賄いが必ずつくと伝えると、大空は「えええっ?!」と驚いた。

「あら、驚くようなことかしら。お金を貯めるんでしょう? 一食分、場合によっては二食分浮くんだもの、そのぶんのお金を食べたつもりで貯金したらいいじゃない。一食千円だとして、十日で最大二万円は大きいわよ?」
「確かに。最低でも月三万、最大で六万ですしね」
「そう。ただ、学業は疎かにしないでね? 学生なんだから学業優先よ? ランチの時間はこれる時で構わないし夜の方が忙しいから、そっちをメインにしてくれると助かるわ。あと、お休みは週休二日なの。日曜日は定休だからその日とそれ以外の日でどうかしら。希望の曜日はある?」
「なら、水曜日か木曜日でお願いします」
「いいわよ。他に条件に付けてほしいことはあるかしら」

 そう聞いた籐子に、大空はしばらく考えたあとでおずおずと口を開く。

「あの、突然休講になった場合、ランチから通しでバイトすることはできますか? その時は十一時から来てもいいです」
「あら、通しでしてくれるの? こちらとしてはとても助かるけれど……」
「構いません」
「本当? なら、通しの時は基本的に八時間、残業二時間でどうかしら。もちろん、ランチが終わって夜の開店までの三時間は休憩時間にしましょう」

 どう? と聞いた籐子に、大空は「ありがとうございます!」と頭を下げ、籐子はそれに微笑みを浮かべて今度は仕事の内容を説明する。

「基本的な仕事は、料理や飲み物を運んだり、空いた器やグラスを下げること、注文を取ったりすること、帰られたお客様の席の片付けとテーブルをふくことかしら。ただ、いきなり全部覚えてというのは難しいと思うから、まずは料理や飲み物を運んだりすることと、テーブルの片付けね。もしお客様から『注文お願いします』と言われたら、私を呼んでね」
「はい」
「で、これがこの店の座席表。徹也さんと嗣治さんに『何番の席にこれを運んで』と言われたら、そこに運んでね。最初は見ながらでいいし、うちは裏庭もあるから覚えるのは大変だろうけど、徐々にでいいから頑張って覚えてね」
「はい」
「身体が慣れて来たら、他にもいろいろとやってもらうことになるから。わからなかった聞いてね」
「わかりました! よろしくお願いします!」

 もう一度頭を下げた大空は、籐子から渡された座席表と店内を見回しながら確認している。それを確認したあとは、当面の仕事となるビアグラスの置場所や瓶ビールの場所を質問していた。

 紬が紹介してくれただけあって非常にイケメンでイケボだ。眼鏡をかけているせいか、真剣な顔をしている大空はとても真面目そうに見える。その真面目そうな表面とは違って内面はとても明るい。
 そんな大空を見ながら、籐子は大空を紹介してくれた紬に感謝するのだった。


 ――のちに大空目当てで来るお客様が増えて困ってしまい、また紬に相談することになるのだが、それはまた別の話である。


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