【R18版】饕餮的短編集 ―ファンタジー・歴史パラレル編―

饕餮

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枯れたオヤジに捧げる愛

千華の場合

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「あ、あ、いや……っ、あ……んっ」

 両脇を二人の男に支えられ、アソコは下にいるモノの口の辺りに固定され、私を支えている二人の男は胸を揉みながら吸い付いて乳首を攻めあげ、その刺激で濡れたアソコはそれを求めるかのように下にいるモノに舌で舐めとられていた。
 最初は固かった舌が徐々に湿り気を帯び、冷たく干からびた感触が厚みを増して熱を帯びて行く。

 私の下にいるモノは、木乃伊ミイラのように枯れたモノだった。

 その木乃伊のように枯れた指先が蠢いて蜜壺を刺激し、更に溢れ出た蜜を舐めとる。たがその指使いがなぜか懐かしく、身体に甘い痺れと快感が走る。
 いつまでこんなことをされ続けるのかわからない。いつ終わるのかも。
 そして、水を求めるようにただひたすらに蜜を舐め続ける枯れたモノ……木乃伊は、舌同様にその蜜を舐めとる度に皮膚は水気を帯び、啜るように舐めとる度に若返って行く。

 その木乃伊が完全に甦り、私に囁いた声は……


 ――私が唯一愛した彼の声、だった。


 ***


 彼との出会いは二十三の時だった。その日は満月の夜で、不気味なほど大きな赤い月が昇り始めた時間だったと思う。
 入荷したばかりの新茶を飲みながらベランダの椅子に座り、久しぶりに肉眼で天体観測をしている時だった。

 赤い大きな月と、それを避けるように輝く星々を眺めていたら、一瞬何かが視界を掠めた。ふわりと吹いた風のほうに目を向ければ、ウェーブのかかった黒い髪と赤い瞳、整った顔立ちの、漆黒の六枚羽を持つ片翼の天使がそこにいた。
 逃げて来たのか、戦ったあとなのかはわからないが、良くみれば羽はあちこち傷ついて血を流しており、その人物自身も腕に怪我をしていた。

「く……っ」
「大丈夫ですか?」

 力つきたように膝をついたその人に思わず声をかけると、その人は弾かれたように私を見た。その顔は驚いていた。

「な、に……? 俺が、見える、のか……?」
「あ、私は千華ちかっていいます。はい、見えますよ。実は私、『見える人』なんです……片翼の天使堕天使だけですけど。あの……中に入ってください。手当てしますから」
「……すまん」

 肩を貸しながら部屋の中に招き入れると、申し訳ないと思いつつ床に座ってもらう。水が欲しいと言うので冷蔵庫からペットボトルを出してそれを渡すと、その人――サタナキアと名乗った――は「ありがとう」と言って一気に水を飲み干した。

「もう一本いりますか?」
「……もらってもいいか?」
「いいですよ」

 そんな短いやりとりをしながらペットボトルをもう一本渡し、救急箱を持って彼の前に置くと、今度は濡れたタオルと乾いたタオルを用意して戻る。
 汚れを落として、傷を消毒して、薬を塗って、包帯を巻いて。羽に包帯を巻くのに苦労したけど、何とか手当てを終えて一息つき、汚れたタオルを洗濯機に放り込んでハタと気付いた。

「あの……サタナキアさんてご飯とか食べますか? 人間のお薬が効くかどうかわからないんですけど、一応痛み止を飲んだほうがいいかと思うんですけど……」
「いや、水をもらったから大丈夫だ」
「ならいいんですけど……」

 短いやりとりで会話も終わり、彼がスッと立ち上がった。

「千華、ありがとう。だいぶ楽になった」
「どういたしまして」

 近寄って来ながらそう言った彼に笑顔でそう言うと、彼も笑顔を浮かべて窓のほうへと歩き出した。

「あの……」
「礼はいずれまたしに来る。それじゃ」
「あ!」

 もう少し休んで行けばと言う暇もなく、彼は傷ついた羽を広げて空へと飛び立ってしまった。大丈夫なのかと思って慌ててベランダに出れば彼の姿はもうなく、空からふわふわと舞い落ちて来たのは彼のものと思しき黒い羽で、何となくそれを受け止め、部屋の中へと戻る。

「夢……だったのかな?」

 現実味がない出来事に遭遇して首を捻る。でも、床に置かれた救急箱と洗濯機の音が、「夢ではないよ」と教えてくれているようだった。

 その日の寝る前、彼の名前で思い出したことがある。サタナキアは見目麗しい男性の姿をしていて、全ての女性を虜にする、と何かで読んだことがあった。
 確かに見目麗しい男性だったけど、私は彼に虜になるには至っていない。

「うーん……読み間違えたかなあ……それとも記憶違いかなあ……」

 明日図書館に行って調べるかー、何て思ってそのまま眠ってしまった。翌日図書館に行っていろいろ読み漁ったし、本によって書かれていることは様々だったけど、その中の一つに『全ての女性を虜にする』という文章を見つけて、ホッとすると同時に首を捻る。

(虜になるほど、私は彼に夢中になってないよね……?)

 昨日の彼のことを思い出す限り、全然そんな風には見えなかった。どこか飄々としているというか、淡白というか。
 彼はお礼に来るとは言ったけど、どっちみち来ることはない――そう思って本を片付けて図書館をあとにした。
 そして日々の忙しさにかまけていつの間にか彼のことを忘れかけた頃、サタナキアはひょっこり顔を出した。

「千華……お礼に来たぞ」
「えっと……あ、サタナキアさん……でしたよね?」
「……何気に酷いな、千華は」
「そうですか? それよりも……何だか顔色が悪くないですか?」
「そうか? まあ、心当たりはなくもないが」

 肩を竦めた彼に呆れつつ、何となく冷蔵庫から水のペットボトルを出して彼に渡すと、彼は驚いた顔をしたもののそれを受け取って飲み始めた。

「で、お礼って?」
「これだ」

 渡されたのは高さが二十センチくらい、直径十五センチ位の大きなスノードームだった。中には天使がいるやつで、以前から買おうかどうしようか迷っていたものだった。

「これ……! 以前から買おうかどうしようか迷ってたの! ありがとう、サタナキアさん!」
「喜んでもらってよかった」

 ホッとしたような顔をしたあとで笑った彼に笑顔を返すと、彼は立ち上がってまた窓のほうへと歩き出した。

「千華……また来てもいいか?」
「いつでもどうぞ」

 笑顔でそう言えば、彼はわかったと言ってまた空へと飛び立って行った。そしてそれを皮切りに彼はよく顔を出すようになり、少し話をしては帰って行くことを繰り返す。
 その頃には彼を好きになっていたし、何度かお風呂上がりや着替えているところにやってきてバッチリ見られたこともあるけど、彼は襲うどころか何の反応も示さなかった。枯れてる人なのかとちょっとガッカリしたけど、会う度に顔色が悪くなって行くことのほうを心配していた。

 そんなある日、彼が「連れて行きたい場所がある」と言って私を抱き締めた。そのためには私を抱かなければならないことも言われた。

 その場所がどこなのかはわからない。でも、彼が片翼の天使である以上、行くのは所謂魔界というやつだと思う。

 両親は去年相次いで病気で亡くなってるし、兄弟は海外に住んでてたまにしか連絡が来ない。だからいいかと思って頷き、彼に抱かれた。
 コトが終わって「明日迎えに来るから」と言った彼に頷いて。


 ――でも結局彼は迎えに来なかった。


 最初は何かあったのかと心配した。でも結局騙されたんじゃないかと落胆した。

 悔しくて、でも哀しくて。

 結局諦めた。――諦めたはずだった。

 そんな時彼の部下だという人に連れて来られたのは石造りの城で、彼だと紹介されたのがベッドに寝かされている木乃伊だった。
 騙されたと思った時には裸にされて腕を拘束されて後ろ手に縛られ、アソコが木乃伊の口に宛てられていた。抵抗しようにも両脇から手と口で胸と乳首を攻められ、アソコが濡れ始めると同時に木乃伊に舐められ、節くれだった指先がお尻の方から回り込んで胎内に指を埋め、出し入れしては胎内を掻き回して蜜を溢れさせる。

 どれくらいそんなことをされていたのか、わからない。

 何度もイかされ、イかされても終わらない行為に、胎内の奥にほしいと感じた時に聞こえたのが彼の声だった。

「千華……? 千華のエナジーを感じる……」
「んっ、ああっ! サタナキア、さん……っ」
「その声は本当に千華か……。二人ともご苦労だった」

 そう言った彼が指を鳴らすと、二人がいきなり消える。支えが無くなった私の身体は、そのまま横に倒れた。

「ああ……千華のおかげで力が戻った」
「んっ、あ……っ、はぁ……、はぁ……」

 何とか終わった行為に荒い息をついていると、彼は私の足の間から顔をどかせた後で起き上がる。「手荒なことをしてすまない」と言いながら縛られた腕をほどかれたけど、長時間その態勢だったからか腕が動かせない。
 それを察したのか、彼は私を抱き上げると別の部屋へと歩き出した。
 連れて行かれた場所はお風呂場で、彼はごく普通に身体を洗ってくれていたけど、先ほどまでの行為で敏感になっている私の身体は、ただ擦られるだけでも身体が震えてしまう。

「千華を抱くのは後だが、愛撫はしよう。それと千華に話をしなければならない」

 泡を流された後はそのままお風呂を出て、水滴を拭かれるとバスローブを着せてくれた。それにホッとしていたらまた抱き上げられ、ベッドに横になりながら話をしてくれた。

 何百年も前は、人間の感情を糧にしていた。特に女性の感情は多彩で、女性を虜にしてはいろいろな感情を引き出し、それを糧にしていた。
 だがここ数年は感情自体が希薄になって濁り、ドロドロとしたものしか得られなくなっていたから女性見ることも話すことも、感情を糧にすることも止めていたらしい。

「そんな時、千華に会った。天使と戦った後で疲れ果て、傷ついた身体に千華の感情がスッと流れ込んで来た。ドロドロしていない、心配という純粋な感情……。あれが、忘れていた俺の琴線に触れた」
「サタナキアさん……」
「嬉しいという感情も、楽しいという感情も……喜怒哀楽の全てが心地よかった。千華にずっと側にいて欲しいと思ったからあの日千華を抱いたし、翌日迎えに行くつもりだった。だが天使に見つかり、何年も牢獄に繋がれてしまった。何年も隙を窺って何とか逃げ出し、自分の城に着いた時にはあの状態に近かった。力を振り絞って千華を連れて来た時にはもう、木乃伊の状態だった」

 そう言った彼は私を抱き締めると「待たせてすまない」と覆い被さって来た。

「千華……」
「あ……んぅ……ん……」

 触れ合うだけのキスが徐々に深くなる。先ほどの行為もあってか身体が疼き、すぐにでも入れてほしくなる。
 そんな感情が伝わっているのか、彼は私のバスローブを脱がせるとアソコの濡れ具合を確かめ、足を広げていきなり胎内に挿入して来た。

「あああっ! んあっ、ああんっ!」
「待ちわびていただろう?」

 足を腕にかけ、押し倒すように身体を曲げられ、そのまま深く、強く、奥のほうまで突かれる。その状態で中に吐き出した彼は、今度は私の身体をひっくり返し、腰を高く持ち上げて後ろから挿入された。

「ひぁっ、やっ、深……っ、ああんっ!」
「ああ……凄い……千華はナカも感情もすごい……」
「いやっ、それ、あああっ!」

 腰を動かしながら粒と乳首を弄られ、甲高い矯声をあげる。何度も体位を変えてイかされ、私が気絶していても満足しなかった彼は、会えなかったぶんを埋めるかのように何度も抱いた、らしい。


 時には空中散歩の途中で抱かれ、時には食事中にも関わらず挿入してくる彼に辟易しつつ、これが虜になるってことなのかなと気付いたのは、彼と暮らし始めて五年もたったあとだった。

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