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お買い物
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午後の休憩や掃除、食器洗いの仕事が終わり、六時になったらしく乙幡さんが変わってくれたので挨拶をする。本当に時間が過ぎるのは早い。エプロンや手袋を外していると、金本さんが近寄ってきた。
「紫音さん、これが新しいシフト表だよ。突然だったのに、了承してくれてありがとう。助かるよ」
「いいえ。シフト表、ありがとうございます」
なんて話をしてからロッカールームに戻る。先にシフト表を鞄にしまい、汗を拭いたりして着替え、Tシャツを畳んでからトートバッグに入れると、外に出た。今日も寒いなあ……なんて歩いていたら、スマホが鳴った。それは父からのメールで、七時に昨日と同じ場所で待っているいという。
「おー、助かる。駅前の量販店に行くのかな」
そんなことを呟きながら【わかった】とメールをし、ゲートに向かう。今日は夜間訓練があるみたいで、まだチヌークなどが飛んでいた。
「おー……夜間訓練もあるのかぁ。大変だなあ……」
お疲れ様です! と小さな声で呟き、ゲートをくぐった。そのまま帰ると着ていたTシャツや、引っ越してきてから片付けていないダンボールから長袖のTシャツなどを出して放り込んで洗濯をし、ご飯を食べる時間もないしと昨日同様に帰ってきてから干すことにした。
「ヤバい、遅れる!」
スマホの時間を見て慌てて化粧を直してコートやマフラーを掴み、長袖のTシャツも何枚か買わなきゃ……と考えながら駅へと急ぐ。
「お父さん、ごめん!」
「大丈夫だよ、今来たところだから」
苦笑しながら父に促され、まずは近くの量販店へと向かう。昨日同様、父は私服だった。
「最初はそこのに行こうか」
「最初は……って量販店ってここだけじゃないの?」
「実はみっつあるんだ。だけど、そのうちのひとつがモノレールに乗っていかないと行けない場所にあるから今日は時間的に無理だし、ここと向こうにあるビックカメラに行ってみて、値段をチェックしてから決めようか。それでいいかい?」
「うん」
先日は気づかなかったけど、ビックカメラもあるのかーと先に目の前にあるヤマダ電機に入る。ここは去年あたりにオープンしたばかりらしく、七階までは家電などを売っていて、それ以上の階は分譲マンションになっているそうだ。
父のそんな言葉に、「ほえ~」と言いながら見上げた。何階まであるんだろう?
「先にエアコン、次に電気ストーブか炬燵、電気毛布にホットカーペットだっだか?」
「うん。最悪、電気ストーブとホットカーペットか電気毛布でもいいよ? みっつもあったら、電気代がすごいことになりそうだし」
「まさか、紫音……お金が全くないとか?」
「いやいや、ちゃんとあるからね? 養育費はそのまんま残ってるし、倒産した時に給料の倍程度だったけどお金ももらったから、一年くらいなら働かなくてもいいくらいの貯金はあるけど、働かないのもなあ……っていうので、越してきてからずっとハローワークに行ってた。で、結局受かったのは、食堂のバイトだったの」
「なるほど……」
私の言葉に父は何か考えていたようだったけど、暖房器具を扱っている階に着いたので、まずはエアコンが展示してある場所まで行く。
「何がいいかわかんないから、お父さんが決めてくれてもいいよ?」
「そうだなあ……」
予算を聞かれたりどんな機能がいいか聞かれながら、一応の目安を見て目星をつける。そして次に電気ストーブ、炬燵、ホットカーペット、電気毛布と見て行く。最後にファンヒーターを見ようと言われた。
「ファンヒーターかあ……。本当は昔ながらの石油ストーブみたいなのがいいんだけど、灯油って高いから全く考えてなかったんだよね。都市ガスならよかったんだけど、うちのアパートってプロパンなんだよ」
「ああ、なるほど。なら今回は見送るかい?」
「うん」
そんな話をしてからビックカメラに行くのかと思ったら、ドンキホーテもあるというので先にそっちを見に行くという。そういえば、高島屋があるところから看板が見えたような……。
父に何があるのか説明されながら街を歩くとビックカメラを通りすぎ、地域密着型のデパートっぽいフロム中武っていうのも通り過ぎ、信号を渡ってドンキホーテまで行く。
家電製品を扱っている階に行って電機ストーブと炬燵、ホットカーペットと電気毛布を見ると、ヤマダ電機とそんなに変わらなかったし「これ!」っていうのがなかったのでここでは買わないことにして、ビックカメラに移動する。
「おー、セールをやってる!」
「本当だ。あっちより安いな。見てみようか」
「うん」
ここでもいろいろ見て回り、セールをしているのとしていないのがあった。何が違うのか父に聞いてみると、多分型落ち品――去年以前に発売されたものじゃないかと言っていた。そのセール品の中に気に入ったのがあって、値段もお手ごろだったのでそれに決め、次に炬燵を見に行った。こっちは先に見たのとあまり変わらなかったし、テーブルがあるからと買うのをやめ、結局ストーブと電気毛布、ホットカーペットを買うことにした。
「紫音、どうせなら、布団を羽毛にしたらどうだ? そうすれば電気毛布はいらないだろう?」
「うーん……そうしたいのはやまやまなんだけど、できれば貯金を切り崩したくないよ」
「そんなことを言わず、使いなさい。今はもう養育費を払ってはいないが、あれは紫音のための資金なんだから」
「……うん。じゃあ、そうする」
父と話し合って羽毛布団を買うことに決め、資金が足りないからと先にATMでお金を下ろそうとしたら、帰りに返してくれればいいからと父に言われて、お金を借りることにした。
先に店員さんに声をかけてエアコンの在庫を調べてもらっている間に電気ストーブとホットカーペットを選ぶ。そうこうするうちに在庫があるというのでお願いし、取り付け日などを決めた。一番早くて金曜日の午前中で、ちょうど私もお休みの日なのでその日にお願いした。
現金一括だと少しお安くなるというので、支払いは現金一括で買いましたとも。ついでにポイントカードも作ってもらい、今回の買い物でポイントがつくから使うことができると説明されたけど、使わずに貯め込んでもらった。そのぶんは羽毛布団に回すことにしたのだ。
電気ストーブとホットカーペットは持ち帰ることにしたので包んでもらい、布団がある階に行く。そこで布団と毛布の値段で父とちょっと揉めたけど、結局一番高くてあったかいものを買ってしまった。しかも「ポイントは次回に何か買う時に使いなさい」と父に言われ、そのポイントも貯めてもらった。
「うー、今日だけで二か月分近くの家賃を使ってしまった……。あ、帰りにATMに寄ってね? お布団のお金を返すから」
「布団のお金くらい、俺に払わせてくれよ、紫音」
「え、でも……」
「休みがあっても使わないから、貯まっていく一方なんだ。それに、紫音とはずっと一緒にいられなくて、父親らしいことなんかほとんどしてないしな」
そんなことを言われてしまったら、頷くしかない。だけど、成人式の時の着物だって、かなりの金額がかかっているはずなのだ。それを聞いたら、それは四人で出し合ったと言っていたし、就職祝いもしていないからその代わりだよと押し切られてしまった。
「うー……」
「ほらほら、唸るんじゃない。父から娘へのプレゼントなんだから」
「……うん」
私にストーブだけを持たせ、父は布団とホットカーペットを持ってくれた。布団は嵩張るからホットカーペットも持つと言ったんだけど、「これくらい装備に比べたら軽いよ」と言って持たせてくれなかった。
ああ、やっぱり父と一緒に暮らしたかった……。
そう思ったものの、今更言ったところで過去には戻れない。それに、これからこうやって話をしたり、買い物に行ったり、親孝行すればいいのだと思うことにした。
話をしながら歩き、父は家まで荷物を持って来てくれた。
「ここだよ。あがって」
「ああ」
ワンルームの部屋だからかなり狭いし、ベッドもそのままだ。だけど父は眉間に皺を寄せて何か考えこんでいるのか、促してもうんともすんとも言わない。
「お父さん? どうしたの?」
「……なあ、紫音」
「なあに?」
「どうせなら、お父さんと一緒に暮らさないか?」
「え……?」
父の言葉に驚いて顔を上げて見上げると、真剣な顔をして私を見ていた。
「紫音さん、これが新しいシフト表だよ。突然だったのに、了承してくれてありがとう。助かるよ」
「いいえ。シフト表、ありがとうございます」
なんて話をしてからロッカールームに戻る。先にシフト表を鞄にしまい、汗を拭いたりして着替え、Tシャツを畳んでからトートバッグに入れると、外に出た。今日も寒いなあ……なんて歩いていたら、スマホが鳴った。それは父からのメールで、七時に昨日と同じ場所で待っているいという。
「おー、助かる。駅前の量販店に行くのかな」
そんなことを呟きながら【わかった】とメールをし、ゲートに向かう。今日は夜間訓練があるみたいで、まだチヌークなどが飛んでいた。
「おー……夜間訓練もあるのかぁ。大変だなあ……」
お疲れ様です! と小さな声で呟き、ゲートをくぐった。そのまま帰ると着ていたTシャツや、引っ越してきてから片付けていないダンボールから長袖のTシャツなどを出して放り込んで洗濯をし、ご飯を食べる時間もないしと昨日同様に帰ってきてから干すことにした。
「ヤバい、遅れる!」
スマホの時間を見て慌てて化粧を直してコートやマフラーを掴み、長袖のTシャツも何枚か買わなきゃ……と考えながら駅へと急ぐ。
「お父さん、ごめん!」
「大丈夫だよ、今来たところだから」
苦笑しながら父に促され、まずは近くの量販店へと向かう。昨日同様、父は私服だった。
「最初はそこのに行こうか」
「最初は……って量販店ってここだけじゃないの?」
「実はみっつあるんだ。だけど、そのうちのひとつがモノレールに乗っていかないと行けない場所にあるから今日は時間的に無理だし、ここと向こうにあるビックカメラに行ってみて、値段をチェックしてから決めようか。それでいいかい?」
「うん」
先日は気づかなかったけど、ビックカメラもあるのかーと先に目の前にあるヤマダ電機に入る。ここは去年あたりにオープンしたばかりらしく、七階までは家電などを売っていて、それ以上の階は分譲マンションになっているそうだ。
父のそんな言葉に、「ほえ~」と言いながら見上げた。何階まであるんだろう?
「先にエアコン、次に電気ストーブか炬燵、電気毛布にホットカーペットだっだか?」
「うん。最悪、電気ストーブとホットカーペットか電気毛布でもいいよ? みっつもあったら、電気代がすごいことになりそうだし」
「まさか、紫音……お金が全くないとか?」
「いやいや、ちゃんとあるからね? 養育費はそのまんま残ってるし、倒産した時に給料の倍程度だったけどお金ももらったから、一年くらいなら働かなくてもいいくらいの貯金はあるけど、働かないのもなあ……っていうので、越してきてからずっとハローワークに行ってた。で、結局受かったのは、食堂のバイトだったの」
「なるほど……」
私の言葉に父は何か考えていたようだったけど、暖房器具を扱っている階に着いたので、まずはエアコンが展示してある場所まで行く。
「何がいいかわかんないから、お父さんが決めてくれてもいいよ?」
「そうだなあ……」
予算を聞かれたりどんな機能がいいか聞かれながら、一応の目安を見て目星をつける。そして次に電気ストーブ、炬燵、ホットカーペット、電気毛布と見て行く。最後にファンヒーターを見ようと言われた。
「ファンヒーターかあ……。本当は昔ながらの石油ストーブみたいなのがいいんだけど、灯油って高いから全く考えてなかったんだよね。都市ガスならよかったんだけど、うちのアパートってプロパンなんだよ」
「ああ、なるほど。なら今回は見送るかい?」
「うん」
そんな話をしてからビックカメラに行くのかと思ったら、ドンキホーテもあるというので先にそっちを見に行くという。そういえば、高島屋があるところから看板が見えたような……。
父に何があるのか説明されながら街を歩くとビックカメラを通りすぎ、地域密着型のデパートっぽいフロム中武っていうのも通り過ぎ、信号を渡ってドンキホーテまで行く。
家電製品を扱っている階に行って電機ストーブと炬燵、ホットカーペットと電気毛布を見ると、ヤマダ電機とそんなに変わらなかったし「これ!」っていうのがなかったのでここでは買わないことにして、ビックカメラに移動する。
「おー、セールをやってる!」
「本当だ。あっちより安いな。見てみようか」
「うん」
ここでもいろいろ見て回り、セールをしているのとしていないのがあった。何が違うのか父に聞いてみると、多分型落ち品――去年以前に発売されたものじゃないかと言っていた。そのセール品の中に気に入ったのがあって、値段もお手ごろだったのでそれに決め、次に炬燵を見に行った。こっちは先に見たのとあまり変わらなかったし、テーブルがあるからと買うのをやめ、結局ストーブと電気毛布、ホットカーペットを買うことにした。
「紫音、どうせなら、布団を羽毛にしたらどうだ? そうすれば電気毛布はいらないだろう?」
「うーん……そうしたいのはやまやまなんだけど、できれば貯金を切り崩したくないよ」
「そんなことを言わず、使いなさい。今はもう養育費を払ってはいないが、あれは紫音のための資金なんだから」
「……うん。じゃあ、そうする」
父と話し合って羽毛布団を買うことに決め、資金が足りないからと先にATMでお金を下ろそうとしたら、帰りに返してくれればいいからと父に言われて、お金を借りることにした。
先に店員さんに声をかけてエアコンの在庫を調べてもらっている間に電気ストーブとホットカーペットを選ぶ。そうこうするうちに在庫があるというのでお願いし、取り付け日などを決めた。一番早くて金曜日の午前中で、ちょうど私もお休みの日なのでその日にお願いした。
現金一括だと少しお安くなるというので、支払いは現金一括で買いましたとも。ついでにポイントカードも作ってもらい、今回の買い物でポイントがつくから使うことができると説明されたけど、使わずに貯め込んでもらった。そのぶんは羽毛布団に回すことにしたのだ。
電気ストーブとホットカーペットは持ち帰ることにしたので包んでもらい、布団がある階に行く。そこで布団と毛布の値段で父とちょっと揉めたけど、結局一番高くてあったかいものを買ってしまった。しかも「ポイントは次回に何か買う時に使いなさい」と父に言われ、そのポイントも貯めてもらった。
「うー、今日だけで二か月分近くの家賃を使ってしまった……。あ、帰りにATMに寄ってね? お布団のお金を返すから」
「布団のお金くらい、俺に払わせてくれよ、紫音」
「え、でも……」
「休みがあっても使わないから、貯まっていく一方なんだ。それに、紫音とはずっと一緒にいられなくて、父親らしいことなんかほとんどしてないしな」
そんなことを言われてしまったら、頷くしかない。だけど、成人式の時の着物だって、かなりの金額がかかっているはずなのだ。それを聞いたら、それは四人で出し合ったと言っていたし、就職祝いもしていないからその代わりだよと押し切られてしまった。
「うー……」
「ほらほら、唸るんじゃない。父から娘へのプレゼントなんだから」
「……うん」
私にストーブだけを持たせ、父は布団とホットカーペットを持ってくれた。布団は嵩張るからホットカーペットも持つと言ったんだけど、「これくらい装備に比べたら軽いよ」と言って持たせてくれなかった。
ああ、やっぱり父と一緒に暮らしたかった……。
そう思ったものの、今更言ったところで過去には戻れない。それに、これからこうやって話をしたり、買い物に行ったり、親孝行すればいいのだと思うことにした。
話をしながら歩き、父は家まで荷物を持って来てくれた。
「ここだよ。あがって」
「ああ」
ワンルームの部屋だからかなり狭いし、ベッドもそのままだ。だけど父は眉間に皺を寄せて何か考えこんでいるのか、促してもうんともすんとも言わない。
「お父さん? どうしたの?」
「……なあ、紫音」
「なあに?」
「どうせなら、お父さんと一緒に暮らさないか?」
「え……?」
父の言葉に驚いて顔を上げて見上げると、真剣な顔をして私を見ていた。
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