自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ガート帝国編

第72話 商談

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「どうぞ」
「「いただきます」」

 まずは味噌汁に口をつける二人。

「乾燥キノコを使って出汁を取り、他に乾燥野菜を入れているの」
「だし、とは何かしら」
「そうね……味の決め手になるもの、とでも言えばいいのかしら。今回はキノコを使ったけど、他にも海産物でも出汁を取ることができるわ」
「海産物か……。それはこの国だと、少し難しいかもしれません」
「そう……。ただ、海産物の中には乾燥させたものがあるから、それなら取り寄せられるんじゃないかしら」

 名前を出さずに昆布やかつおぶし、煮干しやいりこの話をすると、ディエゴが興味を持ったようだった。

「たとえばどのようなものですかな?」
「昆布やかつおぶしといったものよ。持っているから、あとで現物を見せるわ」
「わかりました」

 食べている途中で見せるようなものじゃないしね。そこはディエゴもサリタもわかっているようだ。
 それから、オークを使った生姜焼きと山賊焼きと肉じゃが、ロック鳥を使った照り焼き、バイソンのローストビーフ、コッコを使った筑前煮など、サラダも含めてどれも美味しそうに食べていた。
 もちろん従魔たちもね。
 そしてご飯となった米に驚いていた。

「それが炊くという調理方法で作った米よ。私の故郷ではご飯と言っていたの」
「ごはん、ですか」
「リゾットと違った食感で、とても美味しいわ」
「他には何ができるのかね?」
「ご飯を使うのであれば、おにぎりやおじやというものもできるわ」
「「おにぎり?」」

 首を傾げておにぎりに反応する二人に、塩むすびを見せる。

「これがおにぎり。本来はおむすびというんだけど、おにぎりでもいいわ」
「「なるほど……」」
「これは持ち歩けるわ。出先で、しかも片手で食べることが可能なの」
「ほう……?」

 お弁当と言わずに説明すると、ディエゴの目がキラン! と光ったような気がした。持ち運べるのなら、いろいろとできるものね。中身を変えることもできるし。
 そう説明すると、明日作ってほしいと言われたので、苦笑しつつも頷く。

「できれば、その〝炊く〟という方法や、今日作っていただいた料理を、我が家の料理人に教えてほしい」
「構わないけど、料理人にはきちんと説明してね」
「もちろんです」

 ニコニコ顔のディエゴとサリタに、これは明日の商談がとんでもないことになりそうだなあ……と、遠い目になったのは言うまでもない。
 ご飯を食べたあとはまったりして、まずは乾物を見せる。見せたのは先ほど名前を出した昆布とかつおぶし、煮干しも見せた。

「乾いているのですな」
「ええ。だから、うまくいけばここまで運んでくれると思う。ただ、運ぶのに日数がかかるから、とんでもない値段にはなりそうね」
「ほう……? どこで手に入れられたのですかな?」
「セガルラ国の港町よ」
「それはさすがに……」

 うん、遠いよね! セガルラからここまで、普通に来たら二ヶ月近くはかかる。直通の街道があればいいんだろうけれど、セガルラからガート帝国まで来るには必ずハンデル自由都市国を経由しないとダメだからね~。
 絶対に倍以上の値段になることは確実だった。

「ガート帝国内に海があればまた別なんでしょうけど」
「ガートの東側に、ミロシュ国があります。こちらは南東部分に海がありますから、もしかしたら取り寄せることができるかもしれませんな」
「そのミロシュの港町まで、ここからどれくらいかかるの?」
「それでも一月ひとつきはかかります」
「そう……。なら、出汁は海産物よりもキノコのほうがいいわね。庶民にも広めることを考えると、海産物は無理」
「そうですな。まあ、貴族でしたら問題ないでしょうが」
「そうね」

 出汁が欲しいとなると、どうしても限られてくる。昆布やかつおぶしのほうがいい出汁になるが、それだと海のないガート帝国は難しい。
 貴族は買おうと思えば買うだろうけれど、そこまでして欲しがるとは思えないんだよね。
 それなら、しいたけに似たキノコ(まんましいたけという名前)があるんだからそれを乾燥させて出汁にしたほうが、はるかに安い。そのキノコもこの国で売っているし、栽培されているんだから。

「昼間も今も使ったキノコの出汁は、これなの」
「ほう……? おや。しいたけですな」
「ええ。これを天日干しにして乾燥させるとこうなるの。使う場合は水かぬるま湯で戻してから使うわ。私の場合は魔法を使ったけれど、もし庶民にも広めるとなると、魔法を使えない人のことも考慮して、天日干しのほうがいいと思うわ」
「そうですな。ふむ……とてもいい香りですな」
「でしょう? 出汁を取ったあとはそのまま食べられるからね」
「なるほど! それで野菜と一緒にしいたけが入っていたんですな」

 今夜の味噌汁の中に入っていたからね。納得の表情をするディエゴとサリタ。
 明日はおにぎりの他に、海産物の出汁で作った味噌汁を飲みたいというので苦笑しつつも頷き、軽く商談をする。といっても、今回は真珠に関してだけだ。

「さて。まずは真珠に関してですが……もし商品があるのであれば、見せていただけますかな?」
「ええ、いいわ」

 耳にしているのはイヤリングのタイプ。その構造を見せるためにもイヤリングとピアス、ネックレスと指輪を見せる。ネックレスは一粒しかついていないものと、全部が真珠になっているものを出した。
 ついでにビーズで作った腕輪を見せると、これにはサリタも食いついた。

「こんなに種類があるの!? 素敵ですわ!」
「この、いろんな色がついているものはなんですかな?」
「ガラスで作ったビーズというものよ。セガルラのとある村の職人にも教えたから、手先が器用な人なら作れると思う」
「ガラスですか……。となると、原料は砂、ですな」
「ええ」

 さすが一等地に店を構えている商人、よくご存じで。

「アリサ、その村ではどのようにして売ったのかしら」
「基本的にビーズだけね。庶民が相手だからこそ、ビーズだけにしたの。もちろん真珠が採れる村だから、村の女性たちはネックレスとイヤリングをつけているし、港町で屋台をした時にも売れたわ」
「値段はどのようにしたのでしょう?」
「はっきり言って、港町ではごみクズ扱いだから、とても安かったわ」

 その時の値段を告げると、二人して驚いた。

「そ、そんな安く……⁉」
「ええ。ただ、このネックレスのように真珠だけで作ったものは売っていないの。一粒だけのものよ。だから、真珠だけで作ったものはもっと値段が上がると思うわ」
「そうですな。……金貨一枚、いや、貴族であれば五枚でも売れるでしょうな」
「そうでしょうね。ついでに聞くけど、この商会で装飾品は扱っているの?」
「扱っておりますが、ネックレスだけです。そもそも、このように耳や指、腕輪としての装飾品の存在を知らなかったのです」

 リュミエールに聞いていた通り、やっぱりネックレスしか知らないみたいだ。

「石は何を使っているの?」
「スライムの魔石ですな」
「剣の装飾に使っている宝石は使わないの?」
「は? あれは剣だけのものでしょう?」
「違うわよ? あれは宝石の種類とカットの仕方によって輝きが変わるから、装飾品としても使えるし、もっと高価になると思う」
「なんと……!」

 おいおい……思い込みってすげえな! なんで剣にしか使っちゃいけないって思うんだ。まさか、金属が鉱山でしか出ないしその場所からしか採掘できないから、とか言わないだろうな……?
 嫌な予感がして恐る恐る聞いてみると、その通りだと頷かれた。マジかーーー!

「宝石の形もひとつしかありませんから、それはしょうがないですわ」
「え……ひとつしか、ない?」
「ええ。こういう形ですわ」

 そう言って席を立ち、何か箱を持ってきたサリタ。その中に入っていたのはネックレスで、宝石の色は赤。ダンジョンで出たスライムの核を加工したものだそうだ。
 その宝石の形はカボションカットと呼ばれるもので、石を丸い山形に整えて研磨し、光の反射ではなく石そのものの光沢や模様や文様を生かすカットの方法だ。確かにスライムの核を加工するにはいい塩梅の輝きだけれど、これを他の宝石で加工しても、輝きが足りないものもあるだろう。
 あと宝石の強度もあるから、このカットじゃ無理なものもあるしね。特にエメラルドは割れやすいから、四角くカットされることが多いんだし。
 石をカットする技術がないから、装飾品が広まらなかったのかと納得した。丸くするだけなら、技術はいらないもの。

「カボションカットだけなのか……。これは確かに難しいかもしれないなあ……」
「その、カボなんとかはよくわかりませんけれど、他にもあるのかしら」
「ええ。見てみる?」
「「是非!」」

 金儲けのチャンスだものね。やっぱ食いつくよね~。
 私としても広めたいところだが、これはレシピを流して職人にやらせるのは無理かもしれない。腕がいいというか錬金術のレベルが高い人なら、あるいは……と思うけれど、どうもこの世界の錬金術のレベルは10から15前後みたいなのよね。
 レベル10もあれば、ある程度のポーションや道具が作れてしまうから。
 内心で頭を抱えつつ、旅をしながらコツコツとカットしまくった宝石を、二人の前に並べた。

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