自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ガート帝国編

第71話 カッテリーニ商会

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 帝都にあって広い土地と大きな家。もしかして、かなりやり手の商人なんじゃなかろうか。
 そんなことを考えつつ、店先でリコから降りると、リコを引いて中へと入る。

「旦那様、お帰りなさい! そちらの女性は?」
「彼女はアリサ。襲われているところを助けていただいたんだ。客室を用意してくれ」
「かしこまりました」
「客室?」
「ええ。この時間ですと、宿はほとんど埋まっております。女性一人で安全な宿となりますと、余計にありません」
「あらら……」

 やっぱり時間的にまずかったか。せっかく宿を聞いたけれど、それは明日以降にしよう。
 リコもきちんと世話をしてくれるというので、お願いする。それでもリコには念話で気をつけるように言ってあるし、ピオがついていてくれるというのでお願いした。
 ディエゴとサリタのあとをついていくと、そのまま店内に入る二人。彼らが通るたびに「お帰りなさい」と声がかかる。
 獣人が中心だけれど、エルフや人間もいる。誰もが尊敬や敬愛の目で見ていることから、とてもいい雇い主だというのが窺えた。
 そのまま一階の部屋に通されると、座るように促される。

「商談したいところですが、詳しい話は明日にしましょう。お礼を兼ねて、本日は我が家に泊まっていただきたい」
「ありがとう。そうさせてもらうわ」
「それとですな……こんなお願いをするのは間違っているとは思うのですが、夕飯を作っていただきたいのです。ミショの実を使ったもので」
「それは構わないけど……米を使った料理にも興味ある?」
「米? 米はリゾットだけでしょう?」

 不思議そうな顔をして首を傾げる、ディエゴとサリタ。リゾットが作れるなら、どうしておかゆがないのかと、内心で溜息をつく。
 おっと、今はそれどころじゃない。

「違うわ。〝炊く〟という料理方法があるの」
「なんと!」
「食べてみたいですわ!」
「いいわよ」

 言い出しっぺだからね~。しっかりと料理しますとも。
 この家の料理人にも教えて、しっかりと広めてもらおうではないか。
 そんな話をしていると客室の用意が整ったと使用人ぽい人が伝えに来た。先に荷物を置きたいと話すと案内してくれる。
 部屋の大きさは八畳くらいだろうか。ベッドとテーブル、椅子が二脚あり、暖炉もついている。
 今は夏だから火は点いていなかった。
 斜め掛けの鞄からポーチに貴重品を移すふりをしてアイテムボックスにしまうと、リボンで髪をくくる。それから厨房に案内してもらった。
 ディエゴから話を聞いているみたいで、半信半疑の人と期待したような目で見る人が半々。まあ姿は小娘だからね~。料理ができると思われてないみたい。

「どんな料理がいいかしら」
「肉がいいですな。昼に食べたものも美味しかったし」
「なら……煮物も含めていろいろ作ってみるわ」
「ありがとう!」

 にっこりと笑ったディエゴはとても機嫌がいい。そして料理人は懐疑的。
 彼らは彼らで料理するだろうし、放置しとこう。料理も彼らの邪魔にならないよう、端っこで作ればいいし。
 料理長らしき人が倉庫にあるものならどれを使ってもいいと言ってくれたので、まずは材料選びからかな。
 食材倉庫に案内してもらい、食材を見る。肉はウルフや一角兎はもちろんのこと、オークとボア、バイソンやロック鳥、コッコの肉もある。野菜はキャベツをはじめとしてニンジンやじゃがいも、きゅうりやトマトなど、夏野菜や秋口に出回る野菜もあった。
 揚げ物は油が高価だから却下。焼き物は、バイソンがあるならローストビーフに玉ねぎを使ったグレイビーソース、コッコかロック鳥を使った照り焼き、オークの生姜焼きと山賊焼きあたりかなあ。
 ハンバーグは別の機会にしよう。
 煮物は肉じゃがと筑前煮あたりがいいだろう。丼物だとちょっと重い感じがするから、話をしてみて食べたいと言われたら作ることにした。
 そうと決まれば必要な肉と野菜を持って調理場へと戻り、準備をする。一緒にくっついて来た料理長がなにやらメモを取っていたのを目の端に見えたけれど、放置です、放置。
 とても大きなコンロを導入しているようで、口が三つあるのが二台。これなら同時進行でいろいろと作れるなあ。
 まずは水を吸わせないといけないからと米を洗い、笊にあけておく。次にローストビーフの準備。塩コショウとタイムの乾燥ホール、ハチミツを肉に刷り込ませて味付けをし、フライパンで表面に焼き色をつける。
 それからオーブンに入れ、火加減を気にしつつ放置。日本にいた時はアルミホイルを被せていたけれど、この世界にはない。インゴットにしたアルミはあるが、料理を広めるという意味で全員が使えないとダメだから、ホイルはなしだ。
 住むところが決まったら使うつもりではいるけれど、それだって自宅限定だ。錬金術があるから、何度でも使えるようにするつもりでいる。
 それはともかく。
 時間がかかるローストビーフを放置したあとは野菜を切ったり肉を切ったりして、どんどん下準備をしていく。料理人たちからすれば意外だったんだろう……私の包丁さばきに感心していた。
 土鍋を出して米を炊き始めると、料理人がざわつく。
 煮物に関しては、出汁もみりんもないし、酒はワインだから味付けに苦労したけれど、それでもなんとかなった。というか、なんとかした。この世界にあるもので作らないと意味ないからね。
 照り焼きを作りながら煮物をしつつ生姜焼きや山賊焼きの準備をして、煮物ができたら一回火からおろし、魔法で冷ます。味を染み込ませるために冷やすのだ。あとでもう一度火にかけるから問題ない。
 生姜焼きと山賊焼きを始めると、あたりに醤油と味噌の匂いが漂い始める。そうなると料理人もこっちの料理が気になるようで、ちらちらと視線を向けていた。
 料理長なんて、堂々とこっちを見ていたくらいだしね。気になるなら、あとできちんと教えるから待っておれ。
 絶対にディエゴから厳命されると思うから。
 そんなことを考えつつ、土鍋が噴いたので弱火にし、さっさと生姜焼きと山賊焼きを仕上げ、キャベツの千切りの上に盛り付ける。それから煮物をもう一度火にかけ、温める。
 しまった、味噌汁を作ってない!
 すぐにできるものとなると、何がいいだろう? 豆腐とわかめが一番簡単だけれど、わかめはあっても豆腐がない。それに海産物が手に入るとは限らないので、作れない。
 出汁は乾燥キノコを使って、そのまま乾燥野菜を入れればいいか。沸騰するまでにふやけるしね。根菜類を使った味噌汁や豚汁ならぬオーク汁は別の日にしよう。
 ディエゴのことだから、気に入ればもう一度作ってくれっていうだろうし。
 煮物が温まったので、こっちも器に盛る。ご飯も炊けたから、蒸している間にローストビーフと照り焼きも完成。
 照り焼きは食べやすい大きさに切り、ローストビーフもスライスすると、水にさらした玉ねぎスライスの上に盛り付ける。パパっと玉ねぎのグレイビーソースを作り、ローストビーフにかけた。
 サラダも作り、ドレッシングは余った玉ねぎのすり下ろしを使い、和風玉ねぎドレッシングにしてみた。
 ご飯もいい感じで蒸しあがったのでかき混ぜると、しっかりとおこげができている。味見としておこげを食べたが、とっても美味しかった。
 ご飯の甘みが若干足りないが、おかずが醤油や味噌だからなんとかなるだろう。もちろん、自分が食べる分は品種改良をするつもりでいる。
 全部できたところで、ご飯や味噌汁を器に盛り、おかずと一緒にワゴンに載せる。食べられないとわかった料理人たちががっかりしているけれど、知らんがな。ディエゴから何も言われていない以上、料理を勝手に教えるわけにもいかないし。
 ワゴンを押してさっさと厨房を出ると、近くにいた執事に声をかけ、ディエゴたちがいる部屋に案内してもらう。まあ、食堂だったが。

「こちらでございます」
「ありがとう。ディエゴ、サリタ。これが今日の料理よ」
「おお……!」
「まあ……!」

 湯気の立つご飯と味噌汁に、おかず。カトラリーがスプーンやフォーク、ナイフなのは仕方がない。自宅ができたら箸も作ろう。
 先に二人の前に並べ、どれがどんな料理なのか説明する。そのたびに目をキラキラと輝かせ、料理を見る二人。
 これから実食。さて、二人はどんな反応と判断をするのかな?

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