転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮

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北西の国・ミルヴェーデン篇

しんじゅうむそうでしゅ

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 スタンピードという言葉が聞こえ、大人たちの顔が真剣になる。とりあえずこのまま先に進み、手前まで移動すると馬車が停まった。

「テト、炊き出しの準備。あとは安全のためにも結界を」
「わかってるって。液体薬ポーションはいるか?」
「セレスがいるから大丈夫だ。あとを頼む」
「りょーかい! ステラ、料理を手伝ってね」
「あい!」

 テトさんが返事をすると、テトさん以外の神獣たちが馬車を飛び出してゆく。それを見送ったテトさんは、一回馬車の外に出るとセバスさんから言われた通りに結界を張り、逃げ遅れた人を誘導して結界の中に入れていた。
 たださ……窓から見た限り、結界の中に入れない人がいるのは、ナンデカナー?
 よっぽど私が不思議そうな顔をしていたんだろう。馬車に戻ってきたテトさんは真っ黒い笑みを浮かべ、「犯罪を起こしそうな人は入れないんだ」と宣った。
 ……そうかい、そんな奴らがいるんかい。
 そんな高性能な結界を張ったテトさんにも驚いたが。
 聞かなかったことにしようと思い、テトさんの指示を待つことに。
 まずはテトさんが座席の下から調理器具や簡易コンロを出したあと座席をうしろに倒し、壁際にくっつける。すると広い空間になった。そこに魔道具のコンロを出して魔石をセットしたテトさんは、何かに気づいたようで「食材が……」と呟いた。
 炊き出しだもんな。そりゃあ食材が必要だわ。

「テトしゃん、ばしゅてとしゃまからいたらいた、わたちのてもちをほうしゅつしましゅ。しょれならわたちたちに、えいきょうはにゃいでしゅよね?」
「あ、ああ! そうだね。肉はまた狩ればいいし。ステラ、お願いしてもいいか?」
「あい!」

 テトさんのお願いに、快く返事をする。最近はずっとこの世界の食材を使って料理していたから、黒猫の鞄に入っている食材が全く使われていなかったのだ。
 死の森を出たから今後はどうなるかわからないけれど、自動で補充される鞄だ。本当に森を出ても補充されるのか、その実験も兼ねて放出することに。
 あとは、いくら時間が停止しているとはいえ、食材を死蔵したくないというのもある。
 大人たちが持っている食材などは、旅や長期間滞在するために貯蔵しているので、こういった場合に備えていない。その点、私の鞄に入っている食材は、一部を除きそのほとんどがバステト様がくださったもの。
 なので、さっきも言った通り実験も兼ねて放出することにした。

「テトしゃん、にゃにをちゅくりましゅか?」
「スープとパンは確定。あとはメインの肉があればいいかな」
「じゃあ、おやしゃいとキノコたっぷりのシチューとパン、ギャーギャーどりかウルフのおにくにしましゅか?」
「そうしようか」

 てなわけでメニューも決まり、テトさんに言われるがまま、作業台に食材を載せていく。全部で何人が戦っているのかわからないが、避難してきている人の分も含めると、少なくとも四十人以上はないときついかもしれん。
 それを考えると、メインはちょっと余り気味なウルフ肉にして、ギャーギャー鳥はシチューにしてしまおう。そんな話をテトさんとしつつ、二人してどんどん準備していく。
 パン種はテトさんがパパっと作って成形し、オーブンで焼き始める。私はきのこを小房に分けたり野菜を切ったりと、下拵え。
 野菜は定番の三種類にきのこが五種類、ブロッコリーととうもろこしを入れて彩りよくしている。他にもベーコンを入れたんだが……これ、具材がたっぷりだから、メインになるウルフ肉はいらないのでは? と思ったり。
 とはいえ、逃げ遅れて避難してきている人はともかく、戦っているのは大人たちを含めた冒険者だと思うんだよね。きっと腹ペコで戻ってくるに決まってる。
 そうすると、絶対にシチューとパンだけでは足りない。それを考えると、メインは必要だよねー(棒)

 下拵えを終え、さっさとシチュー作りに取り掛かる。とはいえ材料の量が半端ないからと、炒めるのはテトさんが変わってくれた。

「ステラ、ミルクと飲み物を用意してくれる? そうだな……疲れているだろうから、飲み物は甘い紅茶がいいかな」
「あい。ミルクティーでいいでしゅか?」
「うん」

 テトさんに指示を仰ぎつつ、ミルクは例の壊れ性能な水筒を渡し、ミルクティーはテトさんが用意したポットに注いでゆく。十人前くらいはありそうな大きなポットが十個あるんだけどさ……水筒の大きさからして、ポットひとつ分でなくなりそうなのに、全部注ぎきったのはナンデカナ―!?
 バステト様……嬉しいけど、さすがにこれは表に出せんよ!
 ブツブツと文句を言いつつもやりきったのでテトさんに指示を仰ぐと、あとはやってくれるというのでお任せし、どんな状況なのかと窓の外を見てみたんだが。

 ――回復及び魔法担当らしいセレスさん以外、魔物相手に無双してた……!

「ほあーーっ!?」

 森の奥から次々に出てくる魔物の種類が多いし、数もおかしいくらい多い。小さい種族だとスライムや角の生えたウサギであるホーンラビット、同じく角の生えたネズミだ。
 大きいのだと青みがかった毛並みの狼と茶色と黒、赤の三種類の熊。立派な角がある鹿や立派な牙があるイノシシ、豚の顔をした人型の奴とか、緑色の体をした、子どもサイズの奴までいる。
 話には聞いていたが、豚の顔はオーク、緑色の子どもはゴブリンだろうか。
 それらが団子状になって、津波のように押し寄せてきているのだ。それをものともせず、神獣様たちは真剣ながらも平気な顔をして、武器を揮っている。

 セバスさんは槍で斬りつけつつ、風の魔法を放ち。
 キャシーさんは大剣で斬りつけ、時々糸を出しているのか右腕がグイっと引っ張るような動きをしている。
 スーお兄様は小柄な体格を生かして双剣で切りつけ、ゴブリンぽい者に囲まれている若い冒険者らしき人を救出したあと、炎を放ち。
 バトラーさんは剣で斬りつけ、時々雷を落としていた。
 セレスさんは一緒に戦っている人に回復魔法らしきものを放ち、その合間に土魔法なのか下から出したもので串刺しにしている。
 しかも全員、綺麗に首ばかりを狙ってるんだぜ……! えげつねぇ!
 作業が落ち着いたのか、テトさんが私の横にきた。

「どんな状況?」
「むそうしてましゅ」
「確かに。というか、あの子たち邪魔だなあ」
「しょうでしゅね」

 外の状況を確認し、明らかに大人たちの邪魔をしている、若い子たちがいるのだ。さっきスーお兄様に助けられた子たちとは別の子たちだ。
 助けられた子たちは足手まといになると思ったのか、既にこっちに避難してきているし、戦い方を勉強しているのか、大人たちが戦っている姿を真剣に見ている。
 だが、テトさんが指摘した子たちは違う。
 恐らくバトラーさんたちがどんな冒険者かわかっていて、いいところを見せたくて張り切っているんだろうが、自分たちを認識してほしいのかバトラーさんやセバスさん、キャシーさんの近くや前に出て戦い、かえって邪魔している状態だった。
 しかも、他にもバトラーさんたち同様にとても強い冒険者らしきグループが三組ほどいて、その近くにも別の若い子たちがちょろちょろするものだから、ベテラン組はしなくてもいい怪我を負っていた。
 見ていてとても危なっかしいし、イラつく。テトさんもそう思っているのか、盛大な溜息をついた。
 そんな時だった。

「チィッ! お前ら、下がれ! 邪魔だ!」
「あ、バトラーがキレた」
「うわあ……」

 とうとうバトラーさんがキレた。しかも、若い子たちをスライムやホーンラビット、ネズミが密集しているほうにぶん投げている。
 ぶん投げられた子たちは目を丸くし驚いた顔をして固まっていたが、ネズミに囲まれ、慌てて武器を構え、倒し始める。それでも彼らの実力が伴っていないのか、ホーンラビットと同等のレベルだというのに、ネズミに攻撃されては怪我が増えていっていると、テトさんが溜息をつきながらぼやいている。
 怪我をするたびに動きが鈍っていくことがおかしいと思ってテトさんに聞いてみると。

「あれはポイズンラットだね。鑑定してごらん」
「あい」

 そう言われてネズミを鑑定すると、テトさんのいう通りポイズンラットと出た。しかも爪に毒があり、攻撃されて傷が付くと、そこから毒が入り込む。毒が体中に回ると麻痺して、最終的には餌として齧られるんだとか。
 ……そんな物騒な魔物の群れに放り込んだんかいっ!
 それだけキレてたってことなんだろうなあ。だって、バトラーさんだけじゃなく、キャシーさんやスーお兄様、セバスさんや他のベテラン冒険者たちも同じように、何事か怒鳴ってからスライムやホーンラビットの群れのほうに投げ飛ばしてるし。

「んー……あの様子だと、戦闘はまだ続きそうだ。こっちには流れてこなくなったから、先にここにいる人たちに食べてもらって、町へ戻ってもらうか」

 状況を見極めたテトさんが、溜息をつきつつ亜空間にコンロとシチュー、パンをしまうと、馬車の外に出る。

「ステラ、馬車から出るなよ」
「あい」

 私に声をかけたテトさんは、扉を閉めたあと、念のためなのか鍵をかけていった。
 犯罪者予備軍がいるらしいもんね。おとなしく馬車の中にいるさ~。

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