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2巻
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しおりを挟むキャシーさんからの試練
私の名前はステラ。転生者の三歳児であ~る。
前世の私は今井優希と言い、アラフォーに片足を突っ込んだ、仕事が恋人の女だった。
長年の海外勤務から帰国して、数週間が経ったころ。元日のその日、初詣に行くために、私は庭先に出て家族たちの準備が終わるのを待っていた。
そして、運転席に焦った顔をした高齢者を乗せた、暴走車を見かけたのだ。
車はスピードを落とすことなく狭い通りを突き進んできた。
こりゃいかんと周囲を見回すと、暴走車に気づいていなかった母子を発見。私は二人に声をかけて、こっちに来るように促した。
なんとか庭に招き入れたものの……私だけが突っ込んできた車に撥ねられ、あえなく死亡。
ところが、私が助けた母子は、のちに発生する、人類の半数が死滅する流行り病の特効薬を造る、とてもすごい人たちだったらしい。
そんな母子を救った功績を称えられた私。
エジプト神話の女神バステト様に誘われ、彼女が管理する異世界――神々はガイア、人間たちはメアディスと呼ぶ星に転生することに。
なお、バステト様からは、「ガイアに棲む神獣や彼らの棲み処などに生じた穢れを祓い、世界を浄化して巡ってほしい」との依頼を受けた。
生前、海外出張していたのに仕事で忙殺されていた私は、旅をしながら観光したり、美味しいものでも食べたりしようと考え、依頼を快諾する。
そうして女神様から旅に必要な魔法とスキルを授かり、いざ転生したものの……想定外の場所に下ろされたせいで、とんでもないことに。
私が目覚めたのは、魔素が濃いエリア――魔の森と呼ばれる中でも、もっとも広大でさらに魔素が濃い場所である、正式名称・死の森という、超~危険なところだったのだ!
しかも、十六歳から十八歳ほどに若返らせてもらうはずだった肉体が、バステト様のミスで幼児になっていたもんだから、大混乱!
神様~、聞いてないよ~!
途方に暮れる私を保護してくれたのは、ティーガーという魔物で、見た目は黒虎のバトラーさん。
バステト様の神獣の一人? 一体? で、私を保護するよう、彼女にお願いされたらしい。
この世界の神獣は人化でき、見た目の年齢は変幻自在だ。
人化したバトラーさんに魔法の使い方を教わったり、護衛をしてもらったり、黒虎の姿になった彼と一緒に眠ったり……バステト様の依頼を果たすため、私たちの旅が始まった。
旅の途中でバトラーさんは、私が女神の愛し子としてふさわしいか見極めるため、神獣として試練を課してきた。それをしっかりこなしつつ、私たちは危険な森の中を移動していく。
ちょうど秋の雨季――日本だと秋の長雨――の時期らしく、道中は何度も雨に見舞われた。たびたび足止めをくらったものの、たくさんの学びを得る日々だ。
バトラーさんの他に出会った神獣は、二人。
一人目は、外見は黒い骸骨で、デスサイズを持った死神のテトさん。彼は酷い穢れに侵されていたので、私が光魔法で綺麗さっぱり払拭した。
テトさんの試練は五箇所の穢れを祓うことだったが、こちらも見事に完遂。まあ、穢れが酷すぎて、私は気絶しかけながらの作業だったけれども。
二人目は、女性しか生まれないはずのアラクネでありながら、なぜか男性の体で生まれてしまった特異体――本名スティーブさんこと、自称キャスリンさん……キャシーさん。
彼とは、テトさんが旅の仲間に加わり、北に向かっている途中で出会った。
私は今まさに、キャシーさんから、試練について言い渡されようとしているのだ。
❖ ❖ ❖
ここは、万年雪がかかった山の麓にある洞穴の中。
どんな内容になるんだろう……?
期待を込めてキャシーさんを見つめると、キャシーさんも私を見つめてくる。
神獣モードなのかさっきまでの明るいオネェさんといった雰囲気と違って、キャシーさんは威厳すら感じられる雰囲気になっている。
「ステラちゃんに対する試練は、服飾関連のものにしましょうか」
「服飾、でしゅか?」
「ええ。できれば、アタシの知らない服飾に関する知識を教えてほしいわね」
「おおぅ……」
難題が出たな、オイ。
この世界にどんなものがあるのか、転生して日が浅い私にはわからない。なので、織物や糸の種類、染色も服飾に入るのかといった疑問を、キャシーさんに投げかけてみる。
すると、地球にある素材はほとんどあり、染色も服飾に分類されるとのこと。読んで字のごとく、服を飾るものは、どれも服飾系のスキルになるらしい。
職業に付随して発生することが多い、スキル。服飾系のスキルは、その人の得手不得手に応じて細分化されているそう。
万能型と呼ばれる【裁縫の心得】を持ち、服飾全般が得意な人もいれば、レース編みだけが得意、絨毯を織るのだけが得意、皮を革に加工するのだけが得意、革製品を作るのだけが得意……といった特化型の人もいる。
万能型だろうと特化型だろうと、それぞれに合ったスキルを持つのだとか。逆に言えば、スキルが細分化されているからこそ、万能型や特化型といった概念が生まれたともいう。
ちなみに、皮や革を扱えるのは、服飾、または鍛冶関連のスキルを持っている人だけなんだってさ。
この世界の服飾事情を聞きながら、私はバステト様からのいただきものを思い出す。
転生にあたって渡された猫の顔を模した魔法の鞄に、彼女はときどき品物を追加してくる。
布は裁縫が得意なキャシーさんに渡してしまったから手元にはないけれど、毛糸と編み棒などが残っていたはず。
これを活かして試練を乗り越えなさい、ということなのかもしれない。
バステト様が送ってくる物資の中には、服もある。毛糸のマフラーや手袋など、地球にあるものとほぼ同じじゃん! ってな状態だ。
地球と同じ技術で編まれた衣類を見せてしまうのは簡単だが、キャシーさんの試練では私でもできる技法や応用、デザイン性が求められているのかなぁ? とも思うわけで。
編み方の他に私が教えられそうなこととなると、糸や布を染める技術や染料についての知識。
染色に関して聞いてみると、地球にある染料はほぼ存在しているようだ。なかったのは野菜くずを使ったものくらい。草木染めがあるにもかかわらず、先人たちは思いつかなかったらしい。
地球には野菜くずを使った染色があることを教えると、キャシーさんは意外そうに目を丸くした。
また、ガイアには藍染めがあるのに、キャシーさんはなぜか日本の伝統工芸のひとつである絞り染めを知らなかった。鼻息荒く「教えて!」と乞われたので、こちらも試練の回答として説明する。
しかし、「この二種類だけだとまだ合格は言い渡せないわ」と言われたから、とりあえずバステト様からいただいた棒針やかぎ針、毛糸などの糸類を出してみた。
最後に魔法の鞄を確認したときから、こっそりひっそりと卓上編み機が追加されていたけれど、今はいいかと出さないでおく。
なんでも知っていそうなキャシーさんが食いついたのは、思いもよらぬものだった。
「……ステラちゃん、この長い糸みたいなものがくっついている棒針はなにかしら」
「輪針でしゅ」
「ワバリ……?」
「あい」
久しぶりにハ行で噛んだーー! 恥ずかしいと思いつつ、輪針の役目を話す。
「ぼうち、んと、ぼ、う、し! や手袋を編むのに便利なやつでしゅ」
「あら。帽子なら棒針を四本か五本使えば作れるでしょう?」
「しょ、そうなんでしゅけど、輪針はそれ一本で作るんでしゅ」
「これだけで……?」
疑問符を浮かべているキャシーさんに、私が実践してみせることに。ただ、指編みはともかく、三歳児のちっちゃな紅葉の手で、道具を使って編めるかな……。
私が試練を受けている間は、バトラーさんに晩ご飯……カレーの下拵えを頼んでおこう。
ギャーギャー鳥という魔鳥のもも肉を出し、使う野菜も渡す。
あとで研ぎ方を教えるとして、米を五合……いや、嫌な予感がしたから、一升分(十合)渡しておく。
材料を見たバトラーさんが、不思議そうな顔をして首を傾げる。
「ステラ、これはどんな料理になるんだ?」
「内緒でしゅ。キャシーしゃんのち、し、れ、ん! が終わるまで、待っててくだしゃい」
「そうか。楽しみにしていよう」
あまり表情が動かないバトラーさんの微笑みに、ちょっぴりテンションが上がる。クーデレイケメンの微笑、いただきましたーー!
それから焚火などの準備をして、キャシーさんに編み物を教える……おっと、その前に時間がかかるシプリとパタタの皮剝きを、バトラーさんにお願いしておこう。
余談だが、私はカロートの皮は剝かずに、そのまま入れる派でござる。
ちなみに、テトさんは洞穴内に出したログハウスに籠もって室内を改装しているため、ここにはいない。
それでは、キャシーさんと編み物ですよー!
「お待たせしました! キャシーしゃん、始めましゅよ」
「うふふ♪ 了解よ」
超~ご機嫌なキャシーさんと一緒に焚火の前に座る。
バトラーさんが焚火の上に水を張った鍋を吊るし、カレーとは別の野菜を出して刻み始めた。どうやら明日の朝食用スープみたい。
今から支度をするのには、洞穴内の乾燥対策の意味もあるようだ。外は寒いし、実際に空気が乾いているものね。ありがたや~。
さて、輪針を使った編み物だが、帽子はそんなに難しくない。
私が家庭科の授業で教わったのは二種類。かぎ針でくさり編みを作ってから糸を引っかけて編み始める方法と、輪針の両端を棒針と同じように二本くっつけ、そこから編み始める方法。
噛み噛みで説明しつつ作業したんだが、さすがは糸を扱うのに長けているキャシーさん。私の拙い説明でも、すぐにコツを掴んだ。
「あら、いいわね、これ。いちいち棒針を替えなくていいし、編み目を飛ばす心配がないもの」
「そうなんでしゅ。なので、帽子だけじゃなくて、ミトンや五本指の手袋も簡単に作れましゅし、しぇ、セーターの襟ぐりもお手の物でしゅよ?」
「そうね……そうよね! 数本の棒針だと、子ども用の手袋や襟を編むのが、特に大変なのよねぇ……」
「あ~……」
しみじみと語ったキャシーさんの愚痴り具合は、兄用にと五本指の手袋を編んだ母を思い出す。
手の甲に人気アニメのキャラクターが色鮮やかに編み込まれていて、それを見た弟が兄とお揃いの手袋がいいと駄々を捏ねたのだ。
弟と兄の年齢差は七歳と離れており、当時すでに小学五年生だった兄と保育園児だった弟では、手の大きさがまるで違う。
当然のことながら当時二年生だった私よりも小さくて、私のを作るのにも一苦労だった母は、ブツブツと文句を言いながらも、私を含んだお揃いの手袋を作ってくれた。
ちなみに、手の甲に描かれたキャラクターは、「ゲットだぜ!」と叫ぶ少年の肩に乗って、赤いほっぺから雷を出すモンスターである。
過去を懐かしんでいると、奇妙なことに気がついた。
なぜか、親兄弟の顔がモザイクでもかかっているかのようにぼんやりとしか思い出せないのだ。それに、母たちの名前も思い出せない。
父や祖父母を思い出そうとしてみても、同じように顔はぼんやりとし、名前も出てこない。
……あれか? 転生した弊害か?
転生ものでよくある、前世の自分を含めた周囲の人たちの顔や名前が記憶から薄れ、知識やエピソードだけをしっかり覚えているような感じなんだろう。
そのうち、私自身の前世の名前も思い出せなくなるのかもなぁ。
そんなことを考えつつ、キャシーさんが編んでいる手元を見ているんだけどさぁ……、編むスピードが尋常じゃないんだが! 電動編み機とか、メーカーで使う機械の編み機でダーーー!! って編んでるスピードなんだが!
さすがはアラクネ。パネェな、おい!
「キャシーしゃん、ちょー速いでしゅ!」
「そう? アリガト♡ だけど、母や姉妹はもっと速かったわよぉ?」
「はい?」
「アタシ、編み物はあまり得意じゃないの。だけど、機織りなら母や他の姉妹たちにも負けなかったんだから! 今度、見せてあ・げ・る♪」
「……わ~お! 楽しみにしてましゅ!」
バチーン! と音がしそうな、ガチムチマッチョでスキンヘッドなイケメンのウィンクいただきましたー!
……そうかい、キャシーさんよりも速く編めるお方がいたんかい。
マジでアラクネってすげぇ!
ものの十分ほどで私用の帽子を編んでみせたキャシーさんに拍手を送ったら、耳と頬を赤くして照れていた。
……うん、可愛いかもしれない。
「ねぇ、ステラちゃん。お願いが――」
「輪針だけじゃなく、他の棒針やかぎ棒がほちいなら、キャシーしゃんに全部、ちんてい、じゃなくて、し、ん、て、い! しましゅ」
「え、本当に? いいの!?」
「どうじょー。わたちの手の大きさだと、編むにも一苦労にゃので」
「ぷっ! ふふっ、ありがとう!」
私が噛んだことに失笑したキャシーさんだけれど、喜んでもらえたのはよかった。
「絞り染めも実演してみて」と言われたので、ハンカチかフェイスタオルサイズの白い布が欲しいと説明。
すると、すぐにフェイスタオルサイズのものを出してくれた。
「他に必要なものはあるかしら?」
「糸と針があれば、大丈夫でしゅよ」
「あとは染色用の液体よね?」
「はい」
「染色液は準備が必要だから、あとにしましょう。さあ、やり方を教えてちょうだい!」
「はーい」
ぐいぐい来るキャシーさんに若干引きつつ、キャシーさんに頼んで、針に糸を通してもらう。
次に、布に直径三センチから五センチほどの丸を三つ、チャコペンで描いてもらった。
どんな技法か実演するためなので、今回はこれでいい。
「あとは、模様に沿って縫いましゅ」
「それだけ?」
「とりあえずは」
そう、とりあえずだ。
まずは模様に沿ってできるだけ細かく波縫いし、十センチ以上の糸を残して切ってもらう。
全部縫い終わったところで糸をギュッと絞って、布を立体化させた。
「あら、可愛いわね♪」
「まだ終わりじゃないでしゅ」
「そうなの?」
終わりじゃないですよ~。
絞ったら、立体化した布にできるだけ隙間がないように、あるいはわざと隙間が空くように糸を巻きつけていく。こうすることで、糸がついている部分は布が染まらず、糸が巻かれていない部分のみ色がつくのだ。
布に色をつけたくない場所は、三回くらい糸を巻きつけながら徐々に巻き上げ、最後は下がって縫い目部分でボタンを留めるように三回巻く。糸がほどけないよう輪っかにした中に糸を通すのを二回やり、五センチほど残して糸を切った。
この作業を、模様の数だけ繰り返す。これで染める準備はおしまい。
終わったら一旦水に浸けておくのだと話すと、ここから先の作業に察しがついたようで、キャシーさんはとても喜んだ。
「出来上がりが楽しみだわ~!」
「でしゅね~」
「とりあえずは合格だけれど……染色したあとの模様を見てから、キチンとお話しするわね」
「はいっ!」
キ、キビシー!
私が教えたのって、応用技だからなぁ。自然と評価が厳しくなるんだろう。
とはいえ、知らない技術だと喜んでいたキャシーさんのことだ。きっとよきに計らってくれるはず。
試練は一旦終了。キャシーさんは「染色液の用意をするわ」と言って、ログハウスのほうへ去っていった。
それを見送って腕まくり。さあ、カレーを作るよーーー!!
まずはお米の準備。バトラーさんに研ぎ方を教え、水切りしてもらっている間に、ギャーギャー鳥のもも肉を、私サイズに合わせたものと大人サイズに合わせたもので大きさを変えつつ、一口大に切る。
カロート、皮剝きが終わったシプリとパタタも大小ふたつにカット。シプリとパタタは乱切りだが、カロートだけは縦に四等分したあと、薄くいちょう切りにする。今回は薄切りにしたが、次があったら乱切りにしよう。
次にラトマを湯剝きして種を取り除き、一センチほどの大きさに切っておく。三分の二は私が食べる鍋に入れるのだ。
今の私は幼児の味覚だからね。中辛どころか甘口でさえ辛いだろう。だから、甘口がさらに甘くなるようにするつもりである。
あとはエペルとハチミツ。エペルの半分は私が食べる鍋に入れる。
「他になにかないかな」
魔法の鞄に手を突っ込んで画面を出し、食材のアイコンをタップする。採取だけではなく、バステト様から送られてきた食材もこっちに分類され、なおかつ野菜や肉など、種類ごとに分けてくれるこのアイコン、マジですごい。
その中から野菜をタップして確認し、ククルビタとバターテ、赤色と黄色のパプリカを出す。取り出したククルビタは赤ちゃんの頭くらいはありそうな大きさなので、これはバトラーさんに切ってもらうことに。
だってさ……さすがに幼児の力では切れそうにないからね。ブラッシカは切れたけれど、ククルビタはバトラーさんだけじゃなく、料理が得意なテトさんにも止められた。いくらよく切れる三徳包丁があるとはいえ、幼児の手で支えるにはククルビタが大きすぎるし、怪我をしないかハラハラする調理風景は、見守る側も怖いもの。
私だって怪我なんてしたくもないわ(笑)。
メリザナを入れるか迷ったけれど、焚火があるとはいえ今日は寒いし、今回はやめておこう。寒いうえに体を冷やすのはあかんでしょ。
諸説あるけれども、「秋ナスは(妊娠している)嫁に食わすな」って、そういう事情からなんだぜ~?
どうでもいい蘊蓄は彼方に吹っ飛ばして。
「バトラーしゃん、ククルビタを切ってほしいでしゅ」
「どれ……。ほう、立派なククルビタだな。どうやって切ればいい?」
「んと、まずは半分に」
「できたぞ」
「ありがとでしゅ。次に種を取ってー、さらに半分にち、してー。こっちのふたつは、一口大に切って皮剝き。こっちのふたつは、一セルル幅にスライスちてくだしゃい」
「わかった」
セルルとはガイアにおける長さの単位で、地球で言うセンチメートルのこと。
私がこうしてほしいと言うたびに、バトラーさんはその通りに切ってくれる。
一センチ幅にスライスした分はカレーのトッピングとして焼き、残りはカボチャサラダ、じゃなくてククルビタサラダにするのだ。
それからバターテもバトラーさんに一センチ幅の輪切りにしてもらい、水の中に浸けておく。「これも硬いから」と、私は切らせてもらえなかったんだよね。
その間に私は二色のパプリカを乱切り。
カレーに使う加工食品がないか魔法の鞄を見てみたら、水筒に入っているヨーグルトの他にフルーツチャツネ、チョコレートがあった。
うーん……ラトマを入れるから今回チョコレートはやめて、ヨーグルトとフルーツチャツネを使おう。
大小ふたつの鍋と、大きな土鍋をふたつ出したあと、米と水を土鍋に入れ、火にかけた。片方の土鍋では白米を炊き、もうひとつの土鍋ではバターとサフランを入れた、サフランライスを作るのだ。
「ステラ、ククルビタの皮剝きが終わったぞ」
「ありがとでしゅ! それを、この鍋に入れてくだしゃい」
「茹でるのか?」
「はい。お願いできましゅか?」
「任せろ」
男前なおとんだな~、バトラーさん。
そんなことを思ってくふくふと笑いつつ、ククルビタを茹でるのはお任せする。私は生活魔法でもうひとつ竈を作り、火を熾した。
そして金網を置き、パプリカと水をきったバターテ、スライスしたククルビタを網に載せ、焼き始める。
これらの野菜はカレーのトッピングにするつもりだ。なので、じっくりと火を通しておく。
トッピングの準備が終わったら、大人たちが食べるカレーを作る。網焼きしているもの以外のカレーの具材とエペルを炒める。ある程度火が通ったら水を入れ、沸騰するまで放置。
私が食べる分のカレーの具材も炒め、同じく水を入れたら沸くまで放置。
網焼きの野菜をひっくり返していると、先に小さい鍋が沸騰したので、あくを取る。
それが終わるころに大人用の大きな鍋も沸騰したので、あくを取る。
「ステラ、もうじきククルビタが茹で上がる。次はどうするんだ?」
「お~。お湯をしゅてたら、ククルビタをざっくりと潰してほしいでしゅ」
「わかった」
いつの間にかククルビタが茹で上がる時間になっていたか。これ、私一人だったら大変だったかも。バトラーさんがいてくれて助かった。
バトラーさんにククルビタの潰し作業をお願いしている間に、網焼きが終わった。焼きあがった野菜をお皿によけておく。
パタタが煮えたかどうかの確認をしたあと、鍋にカレールゥを入れた。
バステト様から初めてもらったときは、業務用サイズの袋に入っていたカレールゥ。板状だったそれは、いつの間にか細かく刻まれた状態で瓶に入っていた。
瓶には辛さが書かれたラベルだけが貼ってある。ルゥを刻まなくて済むのは嬉しいが、どのメーカーのブランドなのかさっぱりわからないのは残念。
とはいえ、専用のスプーン付きなので。至れり尽くせりであ~る。
味を複雑にしたいのであれば数種類のルゥを使ったり、スパイスをあれこれ足したりすればいいだけなので、ぶっちゃけメーカーやブランドは問わないのだ。
おっと、話が逸れた。
小さい鍋に甘口のルゥとラトマ、ハチミツとヨーグルト、フルーツチャツネを入れる。ラトマの溶け具合を見ながらルゥを足してとろみをつけ、弱火にして放置。
次に大きな鍋。こっちにはラトマとハチミツとフルーツチャツネを入れ、ルゥは甘口と中辛の二種類を投入。
とろみがついたところで大人たちのカレーをちょろっと舐めてみたけれど、やっぱり幼児には辛かった。ついでに小さな鍋も味見をすると、こっちはそこまで辛くはない。
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