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幸せになった私
しおりを挟む「………君は随分と変わったね。でも、前よりもずっと…」
ヴィジエール様は小さく呟くようにそう言った。
それから彼は、深々と頭を下げて、元来た道を歩いて行った。
最後に見た顔は泣きそうな、でもどこかすっきりした顔だったと思う。
私とヴィジエール様の縁はこうして切れた。
いや、もしかしたら又、どこかで繋がるかもしれない。
彼が変わる事が出来たのなら、遠い未来のどこかで。
私も歩き始めた。
気持ちはスッキリしている。
ヴィジエール様には怒っていないと言ったけれど、もしかしたら、本当は怒っていたのかもしれない。
でも、それは私を捨てた事ではなく、私を捨ててまで選んだ道を彼が又捨てようとしていた事にだったのだと思う。
私を切り捨てて選んだ道なのだから、彼が幸せにならなければ釣り合いが取れない。ましてや、その為の努力を全くしていないなど言語道断だろう。
目的の場所が見えてきて、少し早歩きになった。
早く早くと気持ちばかりが先走る。
ヴィジエール様が現れて出鼻を挫かれてしまったけれど、あの再会も又、幸運の一つだったのかもしれない。
微かに残っていたヴィジエール様への複雑な思いは綺麗に昇華された。
今の私に残っているのはたった一つの気持ちだけ。
「レオン!」
「ジョアンナ? どうし…わっ!」
はしたなく飛びつけば、すっかり大人の男性になったレオンがしっかりと抱きとめてくれる。今の私が一番安心できる場所だ。
「いきなりどうしたんだ?」
苦笑しながら私の髪を撫でるレオンに目を細める。
「レオン」
「うん?」
「私、ディンプル男爵なのよ」
「知ってるよ」
「ディンプル男爵領はとっても豊かになったわ」
「そうだな」
「皆が幸せそうなのは嬉しいけれど、そのせいで面倒ごとも増えたわよね」
「ああ」
「つまり私、すっごく面倒臭い女になってしまったわ」
「そうか?」
「そうよ」
「オレは面倒臭くないけど」
レオンが何でもないようにそんな事を言うので、私は少し赤くなってしまった。
こんなカッコいい顔で、そんな事を言うなんてズルい。
「…ねぇ、レオン。耳を貸してくれる」
「うん?」
「あのね、あのね」
私は小さな今にも消え入りそうな声で言った。
「あの日のプロポーズはまだ有効?」
「…っ、有効に決まってるだろう!」
レオンが弾かれた様に私の体を持ち上げて、クルクルと回す。
あの日と同じように、あの日よりもずっと幸せそうに。
「それってOKって事だよな!?」
「う、うん、そうよ! そうだけど、目が回るから降ろして…!」
「ジョアンナ! オレのジョアンナだ!」
「ちょっと、レオンってばぁぁ!」
ブンブン振り回されて、ギュウッと抱きしめられる。苦しいけど、ここは我慢だ。
「…どうしよう、すっげー嬉しい…」
「れ、レオン…」
「ジョアンナ、幸せにする…」
「あ…」
目が合ったレオンが、優しく微笑みながら顔を近づけてくる。
私は又、顔が熱くなったけれど、そっと目を閉じて―――
「お、おおお、お嬢様ぁぁぁぁぁ!! 間違えた! ご領主様ぁぁぁぁぁぁ!!」
ハンスが絶叫を上げながら走ってきたので、慌ててレオンの顔を押しのけた。
「………じいさん、空気読んでくれよ」
「は、ハンス! どうかしたの?」
「大変です! 大変な事が…!」
「一体、何があったんだよ」
レオンが不機嫌そうにそう言えば、ハンスは大声で叫んだ。
「ご領主様の事業が国の経済を活性化させたことが評価され、国王陛下自ら勲章を授けると早馬が来ました――――!!」
「え、えええええええええええ!!?」
私は思わず叫び声を上げた。
★ ★ ★ ★ ★
国王陛下から直々にお褒めの言葉と勲章を頂いた私は、特例的に辺境伯の地位も頂くことになった。
これを機に辺境は益々栄えていく事になる。
一年後、レオンと結婚し、更にその一年後には子供にも恵まれた。
愛する夫と子供、力不足の私をそれでも慕ってくれる領民たち。私の人生はとても幸せなものだったと言える。
私の産んだ子は女の子で、レオンに似てとても綺麗な子だった。
実はこの十数年後、賢く美しく成長した娘を、意気投合して結婚したナタリーとクロードの息子と、少しずつ歩み寄って幸せになったヴィジエール様とレティシア様のご子息と、正真正銘本物の王子様が取り合うなんて事態になるのだけれど、今はまだ、娘は幸せなまどろみの中。
私の幸福な人生は、まだまだ波乱万丈に続いていく。
おしまい。
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